役職別に求められるリーダーシップの違いと伸ばし方

2020.09.18

企業にお勤めの方であれば、「一つ上の役職の視点で考えましょう」「昇格したのだから、今までとは違ったリーダーシップを期待しています」といわれた経験はないでしょうか。

 

関連付けて語られることの多い「役職」と「リーダーシップ」。両者はどのような関係性にあるのでしょうか? そして、役職に相応しいリーダーシップはどうやって伸ばせばよいのでしょうか? 人材開発担当者の立場から、この疑問を紐解いていきます。

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役職とリーダーシップの関係

そもそもリーダーシップとは何でしょうか。この問いについては半世紀以上多くの研究と議論が重ねられてきましたが、今でも答えが出ていません。しかし「他者のモチベーション・思考・能力に変化を与える力である」という点では多くの研究者の意見が一致していますので、本コラムでもその意味で用います。

では、役職とは何でしょうか。役職にもさまざまな種類があります。日本企業になじみ深い「代表取締役社長ー部長ー課長」といった役職もあれば、最近では「CEOーVice PresidentーManager」のような横文字の役職も聞くようになりました。

 

いずれにしろ、役職はその人の「責任の範囲」や「序列の中の位置づけ」を示しています。役職があることによって、我々はその人物の社会的な位置付けを推量できるのです。本人にとっても、やるべき仕事や責任を自覚したり、将来のキャリアをイメージしたりしやすい、といったメリットがあります。

役職をどう刻むかは組織次第ですが、一般的に上位役職者は責任や権限の範囲が大きく、影響を及ぼす人の数も多くなります(図1)。

図1:ヒエラルキー型組織の役職による違いの傾向(概念図)

図1:ヒエラルキー型組織の役職による違いの傾向(概念図)

これらの違いは、各役職に求められるリーダーシップにも影響します。影響を及ぼす相手の種類や人数が変わり、相手に影響を及ぼすために使える資源(公式の権限・時間・チャネルなど)も変わりますから、リーダーシップのありかたも当然変わってきます。

役職別に求められるリーダーシップの違いとは何か

一般論として、役職ごとに求められるリーダーシップの傾向を挙げることは可能です。たとえば上位の役職は「多くの関係者に対して、ビジョンや戦略といった抽象度の高いレベルで、進むべき方向を指し示す」というリーダーシップが求められる傾向があります。一方で下の役職は「限られた関係者に対して、具体的な指示やサポートを行うことで、個々の問題を解決する」といったリーダーシップが求められるでしょう。

しかし、役職だけをもって「部長ならこう」「課長ならこう」と決めてしまうのは早計です。なぜなら同じ役職であっても、状況が異なれば求められるリーダーシップも異なるからです。たとえばIT企業の新規事業開発部のマネージャーと、金融機関の監査部の課長では、同じミドルの役職であっても求められるリーダーシップは大きく異なるでしょう。

 

リーダーシップは状況に依存します。特定の状況で効果的だったリーダーシップが、別の状況では逆に作用してしまうことも珍しくありません。従って「今の」「我々の会社(組織)の」という視点で、個別性を意識して考える必要があります。自社の理念、ビジョンといった上位概念から自社の事業の特徴や事業戦略などを踏まえて、それぞれの役職に求められるリーダーシップを考えることが重要です(図2)。

図2:役職に求められるリーダーシップを考える流れ

図2:役職に求められるリーダーシップを考える流れ

大きな傾向を踏まえつつ、自社の状況を加味して考えることで、自社の各役職に求められるリーダーシップが明確になっていきます。

リーダーシップ開発の難所と乗りこえ方

自社の各役職の理想的なリーダーシップが定義できたとしても、役職に就いた本人が伸び悩む、ということはよくあります。たとえば圧倒的な成績を上げたスタープレーヤーが、マネジメントのポジションに移った途端に苦しむ、といったケースです。数々の研究によって、役職の変化に伴うリーダーシップ開発の難所が多数挙げられてきました(図3)。

図3:昇格時の難所例(ラム・チャラン著、”リーダーを育てる会社 つぶす会社"、英治出版、2004年 を基にグロービス作成)

図3:昇格時の難所例(ラム・チャラン著、”リーダーを育てる会社 つぶす会社”、英治出版、2004年 を基にグロービス作成)

ここではこれらの様々な難所の根っこにある、2つの大きな原因について述べます。それは、1:求められるリーダーシップの質的な違い、2:成功体験の存在、の2つです。

 

リーダーシップ開発の難所1:求められるリーダーシップの質的な違い

役職が変わるということは、本人にとっては環境が大きく変化するということであり、大きな環境の変化は人間の思考や行動に質的な変化を求めます。

例えば、昇格すると、責任や権限の大きさ、影響を及ぼす人の範囲が大きく広がります。一方で、自分が思い通りに使える資源は自分自身だけのままです。

この環境の中で、求められている成果をあげようとすると、自分を「てこ」にして他の人に成果をあげてもらわなければなりません。そのためには、自分の時間や体力の使い方を変える必要があります。これまで自分でやっていた仕事を部下に任せる必要も出てくるでしょう。これは自分のリーダーシップを質的に変えることだと言えます。

しかし、この状況に「これまでのやり方のまま、更にがんばる」というアプローチで向き合おうとして破綻してしまう、というケースはよく見られます。これは自分の考え方や行動を質的に変えなければならないのに、従来の慣れ親しんだ方法で量的に解決しようとして失敗した例です。

この例に限らず、役職が変われば従来の自分の思考・行動のあり方を抜本的に変えなければならない場面がたくさんありますが、これができずに苦労するリーダーが多いのです。

 

リーダーシップ開発の難所2:成功体験の存在

これまでの経験で培った「成功体験」や「仕事の流儀」を脇に置いて、新しいリーダーシップを習得することは簡単ではありません。特に、自分の中に大きな成功体験がある人ほど、それを手放すのに苦労します。

経験を積んで昇格を重ねてきた上位役職者ほど、成功体験からの脱却が難しい傾向もみられます。経験の中で染みついた思考様式や行動規範は、本人の意識にすら上らない無意識の領域からも、認識や思考のあり方に影響を及ぼすからです。

 

では、どうすればこの難所を突破できるのでしょうか? ポイントは1:状況に合ったリーダーシップを学ぶことと2:深い内省と対話です。

 

成功体験からの脱却1:状況に合ったリーダーシップを学ぶ

まずは、今の自分が置かれている状況で求められているリーダーシップを学ぶことが大切です。

世の中にはリーダーシップに関する情報が溢れているので、その中から自分の価値観や信条に合うものを何となく選んでいる方は多いものです。例えば、自分が尊敬する上司や先輩の影響を受けたり、歴史上の有名な人物のリーダーシップを参考にしたり、ということはよく見られるケースです。しかし、その前提になっている環境や組織構造が自分の状況と大きく異なっていると、理想に置いたリーダー像がズレてしまう危険性があります。例えば、平時と火事場、同質性の高い組織と多様性ある組織では求められるリーダーシップは大きく異なります。時代が違えば人の価値観そのものが変わっている、ということもあるでしょう。

従って、特定のリーダーシップを盲信するのではなく、いくつかのリーダーシップスタイルを学んだ上で選択できるようにしておくことが有効です。そして、それぞれのリーダーシップが機能し易い状況や構造といったものに目を向けて、今の自分の状況に照らし合わせながら、適切なものを選択しましょう。

 

成功体験からの脱却2:深い内省と対話

しかし、「知ればできる」というものでもありません。先に挙げたように、自分の成功体験や得意な型が新たなリーダーシップの獲得を妨げることは多いので、「深い内省と対話」によって自分の内面を見つめなおし、今の自分の思考や行動に影響を及ぼしている存在に気付くことも有効です。

内省と対話を繰り返すことで自分を深く掘り下げ、無意識下にある「認知の歪み」や「思考の偏り」を認知し、手放すべきものと持ち続けるもの、そして新たに獲得するべきものを選択します。これにより、「わかってはいるけど変われない」状況からの脱却を試みます。グロービスでも企業の上位役職者である役員向けプログラムではこのようなアプローチを採っています(図4)。

図4:深い内省と対話のプロセス例

図4:深い内省と対話のプロセス例

 

こうした営みは、業務から離れたオフサイトで実施することが望ましいでしょう。業務の真っただ中で忙しく稼働している状況では、どうしても自分の「型」で対処してしまう慣性が働いてしまうものです。日常から切り離された状況を作り出すには、研修の活用がおすすめです。実際に、新たな役職に昇格した人・これから昇格が見込まれる人を対象にした階層研修に、内省と対話を組み込む企業は増えています。

 

リーダーシップを取り巻く潮流

ここまで役職別に求められるリーダーシップの違いと伸ばし方について、重要な論点を中心に述べてきました。最後に、リーダーシップを取り巻く今日的な論点について3つ触れておきます。

 

今後も、従来のようなヒエラルキー型の組織構造と上下関係の役職は、主流であり続けるのか?

本コラムでは馴染みのある従来型の組織構造を前提に考えましたが、近年ではさまざまな組織形態が提唱されています。

たとえば「ホラクラシー組織」はその一例です。ホラクラシー組織の形態は「(社内上)社長や役員、部長などの役職自体を持たずに、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことが出来るような独自の仕組みや工夫が溢れている」ことが特徴に挙げられます。役職という概念を無くしてしまうコンセプトは画期的です。

 

望ましいリーダーシップのあり方はどうなるのか?

従来は「貢献(労働)と対価(報酬)の交換」「引っ張る(指示する)者と付き従う者」という従属的・垂直的な関係性を前提にリーダーシップが考えられてきました。最近では「ビジョンの共有と啓蒙」「全員がリーダー」という共創的・水平的なリーダーシップの有効性が注目を浴びています。この流れは、コロナウィルスの流行によって組織と個人の関係性が大きく変化した環境下においてはさらに加速すると、筆者は考えています。

 

我々はいつまで役職と紐づけて社員や自分のあり方を考えるべきなのか?

これらの潮流を踏まえて「我々はいつまで役職と紐づけて社員や自分のあり方を考えるべきなのか?」という問いを掲げてコラムを締めたいと思います。

歴史と伝統がある企業において、あまりにもドラスティックな変革は、混乱や破綻を招くので現実的な手段ではないでしょう。しかし、外部環境は日々変化しており、変化の規模も速度も増しています。この激変の時代において、我々はどこまで旧来の枠組みを前提において考え、行動するべきなのでしょうか。

 

リーダーシップ開発の鍵は「状況に合ったリーダーシップを学ぶ」ことと「過去の成功体験から脱却する」ことだと述べました。「わかってはいるけど変えられない」という難所を乗り越える一助として、本コラムが参考になれば幸いです。

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執筆者プロフィール
栗盛 謙 | Kurimori Ken
栗盛 謙

筑波大学体育専門学群卒業、グロービス経営大学院経営研究科経営専攻(MBA)修了。
大学卒業後、三菱東京UFJ銀行で、法人向け営業、経営課題解決支援業務に携わった後に、グロービスに参画。
グロービス入社後は法人コンサルティング部門にて、企業が抱える組織開発・人材開発課題の解決に取り組み、人材育成体系構築の支援や次世代リーダー人材育成の企画・設計・デリバリを行っている。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。