クリティカル・シンキングとは? ビジネスにおける有用性は?

2020.04.20

「論理的に考える力が重要だ。」企業の人材育成部門のトップや担当者がよく口にする言葉です。論理思考の重要性は以前から論じられていますが、その意味を正しく理解し、個人・組織で活用できている企業は少ないと感じます。本コラムでは論理思考(クリティカル・シンキング)の必要性と、活用することのメリットをご紹介します。

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クリティカル・シンキングとは? ロジカル・シンキングとの違いは?

お客様から、「ロジカル・シンキングとクリティカル・シンキングは何が違うのか」という質問をよくいただきます。たしかにグロービスではロジカル・シンキングではなく、クリティカル・シンキングという言葉を用いています。まずはこの疑問点からお答えしていきましょう。

ロジカル・シンキングは、筋道だった合理的な思考様式のことを指し、論理性の強さや合理性を重視します。ロジカル・シンキングで重要な6つの構成要素は、以下の通りです。この要素を押さえておくと、より効果的な問題解決や、説得力のある主張・コミュニケーションが可能になります。

  • ・主張と根拠に筋道が通っている
  • ・バイアスにとらわれていない
  • ・合理的である
  • ・物事を適切に分解できる
  • ・因果関係を正しく把握できる
  • ・言葉や数字を適切に扱える

 

一方、クリティカル・シンキングは直訳すると、「批判的な思考」です。多くの書籍では、健全な批判精神を持った客観的な思考、という意味合いで用いられています。ここで大切なことは、批判の対象を自分にすることです。つまりクリティカル・シンキングは、「健全な批判精神をもって、自身の考え方・常識・前提条件を客観視する思考法」なのです。

さらにグロービスでは、この意味合いを維持しながら、仕事を進めていくうえで役立つという観点にフォーカスしています。すなわち、正しく考える姿勢や自分を客観視できるスキルをより重視しています。考える姿勢とは、1:今考えるべき目的(イシュー)は何かを意識する 2:答えを出すにあたって置いている前提や思い込み(自分の思考の癖)を疑う 3:問い続け、考え抜くことで論理を固めることを意味します(図1)。

 

図1:クリティカル・シンキングの基本姿勢

図1:クリティカル・シンキングの基本姿勢

 

クリティカル・シンキングの有用性とは?

クリティカル・シンキングの有用性として「ビジネスチャンスが広がる」「コミュニケーションに役立つ」の2点をご紹介しましょう。

 

ビジネスチャンスが広がる
ビジネスを取り巻く環境の変化は激しく、過去の成功体験が通用しなくなりつつあります。テクノロジーをビジネスに取り入れる企業も増え、今までとは違うアプローチで価値提供を行う競合が現れやすくなりました。前例に従うだけの型にはまった考え方では、競争に取り残されかねません。

このような環境下において、クリティカル・シンキングの必要性は高まっています。変化の激しい時代には、当たり前を疑う意識(なぜ、そうなのか?)や、頭のなかで問いを持って考え続けること(それはつまり、どういう意味を持つのか?)が必要不可欠だからです。

前提を疑って生まれた新たな事業や大ヒット商品は数多くあります。たとえばフリーペーパー。情報誌は有料が当たり前という前提を打ち破り、広告収入を元に無料で配布することを実現しました。たとえばノンアルコールビール。ビールはアルコールが入っているのが当たり前という前提を疑った結果、ビールの味がする飲料が大ヒットしました。前提を疑い考え抜くことで、ビジネスチャンスを広げることができます。

 

コミュニケーションに役立つ
今まで日本企業の多くは、終身雇用を前提としていました。人材の流動性が低いため、同じような価値観を持った社員で構成されていたのです。そのため明確に言葉にせずとも、コミュニケーションが成立する場面は多かったのでしょう。

昨今では人材の流動が激しくなり、中途入社の方や海外の人材と一緒に業務をする機会が格段に増えました。同じ会社の社員でも仕事に対する考え方や常識などが異なるため、自分の当たり前が通用しなくなります。

それゆえ相手の前提を意識・確認し、言葉にして伝え、考えをすり合わせながらビジネスを進めることが不可欠です。自分の当たり前を疑い、客観的に考えるクリティカル・シンキングは、多様化の進んだ社会において効果的といえます。

 

 

クリティカル・シンキング活用による具体的なメリットとは?

クリティカル・シンキング活用による具体的なメリットは、以下の通りです。

  1. (1)相手の言いたいことやその前提を的確に理解できる
  2. (2)効果的な説得や交渉、部下のコーチングができる
  3. (3)会議や議論を効果的に進め、集団としてよりよい意思決定を下せる
  4. (4)今までできなかった斬新な発想が可能になる
  5. (5)それまで見落とされていた機会や脅威に気づく
  6. (6)問題解決や意思決定の効率・効果が高まる

上記のメリットを具体的にイメージしていただくため、1:個人のメリット 2:組織のメリットについて、事例を交えてご紹介します。

 

1:個人のメリット
上記のメリットのうち「(2) 効果的な説得や交渉、部下のコーチングができる」に焦点を当て、管理職と若手社員のコミュニケーションでありがちな事例をご紹介します。

 

管理職の立場から
このコラムを読んでいるあなたが、部下育成を担う立場だったとしましょう。若手社員が作成した資料に対して、「読みにくい」「何を言いたいのか分からない」「もうちょっと工夫してみて」。こんな言葉で突き返した経験はないでしょうか。

若手社員からすれば「どこがダメなのだろう」、「どうしたら良いのだろう」と思うはずです。場合によっては「否定された」という意識から、心に壁を作ってしまうかもしれません。そうなると、部下指導やコーチングは難しくなるでしょう。

このような場面で、クリティカル・シンキングは有効です。「どこがおかしいのか」「なぜおかしいのか」を具体的に説明しながら、改善点をアドバイスできるようになるからです。

 

若手の立場から
一方、若手社員が作成した文章はどうだったのでしょうか。「抽象的な言葉を使う」、「文章がまわりくどい」、「自分の思考プロセスを説明しているだけ」の報告書では、上司は納得できません。例えば思考プロセスを箇条書きにしただけの報告書(図2左)は、理解しづらく説得力もありません。

クリティカル・シンキングを使うと、相手の立場を考慮しつつ具体的な言葉で簡潔に、主張と根拠を説明できるようになります。論理が構造化された報告書は読みやすく、説得力も増します(図2右)。クリティカル・シンキングは相手を説得する場面でも大きな効果を発揮するスキルです。

図2:事実が箇条書きの報告書(左)と、論理が構造化された報告書(右)

図2:事実が箇条書きの報告書(左)と、論理が構造化された報告書(右)

 

2:組織のメリット
クリティカル・シンキングを組織の共通言語にしようと取り組んだ、具体的な企業の事例をご紹介しましょう。

 

トップの強いオーナーシップで成長してきたA社。事業拡大やグローバル化に伴い、意思決定のスピードアップが求められるようになったため、経営陣はボトムアップ経営に舵を切ろうと考えました。現場に権限を委譲することで、現場が考え意思決定できる体制を構築しようとしたのです。

しかし、今までの強いトップダウンによる弊害が生じました。現場は権限を委譲されても、何を基準に物事を考え判断し、行動していけば良いのかわからない状態だったのです。そこで、現場がスピード感を持って適切に意思決定できるようにすべく、クリティカル・シンキング研修を全社員に実施しました。

研修実施後は、管理職はもちろん現場リーダーが中心となり、クリティカル・シンキングを組織の共通言語とするための浸透を行いました。具体的には、日々のコミュニケーションや会議で学びの活用を徹底し、目標管理制度にも研修での学びの実践を取り入れたのです。

 

こういった取り組みにより、物事を考える際や問題に直面した際、どのようなプロセスを踏みながら答えを出すべきかという思考の型が、全社員で揃っていきました。今では現場の一人ひとりが、適切に考え判断し、意思決定できるレベルになっています。組織へ浸透させることで、前述したクリティカル・シンキング活用のメリット全てを享受できるでしょう。

 

 

最後に

本コラムでは、クリティカル・シンキングの有用性と、活用によるメリットを取り上げました。VUCAの時代を生き抜くためには、クリティカル・シンキングは必須のスキルです。個人として磨くことはもちろん、組織の共通言語として浸透させることもポイントとなるでしょう。

グロービスでは、法人企業様向けにさまざまな形式のクリティカル・シンキング研修を揃えています。興味のある方は、ぜひ資料請求もしくはお問い合わせください。

 

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執筆者プロフィール
岡崎 聡志 | Okazaki Satoshi
岡崎 聡志
大学卒業後、株式会社船井総合研究所(現株式会社船井総研ホールディングス)にて、環境・エネルギー領域の新規事業開発や海外進出支援、資金調達等のコンサルティングに従事。その後、財務会計の教員を経てグロービスに入社。現在は、法人向けの人材育成・組織開発の営業およびコンサルティングを行うとともに、カネ系領域(アカウンティング・ファイナンス)のコンテンツや教材開発に加え、論理思考の講師としても活動する。
グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。