社内研修と他流試合型研修の効果的な使い分け
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育成体系構築や研修施策の選定の際、様々な育成手法が候補に挙がるかと思います。多くの方が悩まれるポイントの中で、今回は「社内研修と他流試合型研修の違いは何か」「どのように使い分ければいいのか」という内容について、取り扱いたいと思います。
本コラムでは社内研修と他流試合型研修のそれぞれの特徴や違いを明確にしたうえで、どのように使い分けると効果的な育成の場を作り出せるかを、紐解いていきます。
第1章
社内研修と他流試合型研修の特徴の違い
社内研修と他流試合型研修を、本コラムでは以下のように定義します。違いは「同じ会社の人と学ぶか」「他社の人と学ぶか」です。
社内研修
社内・外部講師を用い、同じ会社の社員と学ぶ研修
他流試合型研修
外部スクールなどへ通い、他社人材と学ぶ研修
1-1. 社内研修
メリット
- 自社ならではの目的・課題に合わせた研修設計が可能
- 社内人材の交流や共通言語作りが可能
- 一度にまとまった人数が研修受講できるため、他流試合型研修と比べ、受講者一人当たりの費用を抑えやすい
デメリット
- 社内がゆえに同じ思考、行動様式、価値観を持つ人材が集まりやすい
- 社員一人ひとりの個別性に合わせた研修の実施が難しい
- 他流試合型研修と比べ、人材育成担当者の皆様への負担がかかりやすい
- 企画や研修案内などの前準備が必要
- 受講者の上司・受講者の業務調整など社内調整が必要
- 当日の会場運営など立ち合いが必要
1-2. 他流試合型研修
メリット
- 受講生の課題や期待に応じて、個別に派遣可能
- 業界・職種・年齢・性別などが異なる他社人材との議論や交流が可能
- 一人から受講可能であり、予算や日程などの調整がしやすい
- 派遣先にもよるが、一般的には手離れがよく、人材育成担当者(事務局)で対応することは少ない
デメリット
- テーマ、開催時期、時間帯、会場場所、講師など、自社でコントロールできない
- 他社受講者の人数、属性などの詳細は、参加するまでわからない
上記の特徴の違いがあるため、それぞれの研修で得られる効果や事務局負担も異なってきます。次項では、得られる効果に着目して確認をしていきましょう。
第2章
社内研修と他流試合型研修で得やすい効果の違い
2-1. 社内研修で得られる効果
社内研修の最も大きなメリットは、自社でコントロールを効かせやすいことです。どの経営課題を解決するか、そのためにだれを集め、どのようなテーマを扱うか、など自社の意図を反映させた設計が可能です。社内の集合研修という特性のため、以下のような効果が得やすくなっています。
- 意図した学習効果を、対象層へ一度に創出できる
- 組織内に共通の思考の型・価値観・課題意識を共有できる
- 部門横断の人的ネットワークを意図的に構築できる
2-2. 他流試合型研修で得られる効果
他流試合型の大きなメリットはもちろん、他社人材との交流です。他者人材との交流により、以下のような効果が得られやすいです。
- 業界・自社・自分特有の思考の癖の自覚や客観視の機会が多い
- 他社人材との議論を通じ、異なる視点を得ることで、視野が広がる
- 社外の人間との人的ネットワークを構築でき、新たな仲間ができる
このような効果の違いを意識しておくことで、社内研修と他流試合型研修の使い分けの際に、迷うことが少なくなります。それでは次項にて、使い分ける際のポイントを解説します。
第3章
社内研修と他流試合型研修の使い分け
本項では、より効果的な研修を選択していただくためのポイントである、研修の目的・ゴールについて解説します。前項で説明した各特徴と、研修の目的・ゴールとを照らし合わせることで、より有効な選択が可能です。
3-1. 目的・ゴール
研修手法の使い分けの大前提として、研修の目的・ゴールを押さえることが何よりも大切です。研修のゴールとはすなわち、本研修を通じて、受講者をあるべき人材像へ「どこまでの程度」近づけるのか、ということ(図1)です。
図1のように「研修のゴール」を設定するには、「事業・組織の課題」と「あるべき人材像」を具体的に言語化する必要があります。そのうえで関係者と協議しながら、「この研修でどこまで行くべきなのか、行けそうなのか」を決めていきます。その結果、研修のゴールを設定でき、具体的な研修プログラムの企画に進むことができるのです。
ゴールの程度や狙いによっても研修手法は変わっていきます。
3-2. 使い分け
前述の通り、ゴールの内容や意図する狙いによっても変わるため、あくまでも一例となりますが、筆者が担当してきた案件ですと、社内研修は実施目的に合わせて必要な研修を扱える、社内の共通言語を作ることができる、という意味合いで、(階層別・選抜・公募等の多様な用途がありますが)主に階層別・選抜にてご利用いただくことが多いです。
また他流試合型研修であれば、個々の受講生の持つ課題や期待役割に合わせたスクール・科目への派遣が叶うため、主に選抜研修や公募型研修に用いられることが多い印象です。
3-3. 到達度合い
その他の観点として、目的・ゴールの設定では、到達度合いを考慮することも重要です。ドナルド・マケインは著書で、学習の到達度合いを以下の4つに分類しました1)。
- 知る:学習内容(知識・スキル)を認識・知っている状態
- 覚える:学習内容を理解し、覚えている状態
- 試す:学習内容を現場で実行した状態
- できる:再現性のある形で実践できている状態
例えば研修のゴールを「覚える:学習内容を理解し、覚えている状態」に設定したとしましょう。その場合は、研修でなく、動画学習サービスやeラーニングサービスの方が適した手法かもしれません。理由としては動画学習やeラーニングは学ぶ内容や時間・場所の自由度が高く、個人のペースに合わせて、知識を理解しやすいという特徴を持っているからです。
一方で「できる:再現性の有る形で実践できている状態」をゴールに設定した場合、「知る」「覚える」というゴールに適した動画学習だけでは役者不足であり、「できる」への移行が叶う期間及び、学びを実務で活用し、再現性を高めるような設計をした社内研修や他流試合型研修が適していると言えるでしょう。
第4章
最後に
本コラムでは社内研修と他流試合型研修の2つに焦点を当て、特徴・得やすい効果・使い分けについて解説しました。
研修はあくまでも、経営戦略を実現できる人・組織を作るための手段の一つです。そのため、研修で解決できることもあれば、制度や配置・報酬などを用いた解決策ではないと解決できないことは勿論あります。何を解決したいのか、どのような社員が必要なのか、そのためにはどんな育成手法が適切なのか、を考えるうえで、本コラムをご参考としていただけますと幸いです。
以下の事例もご参考になるかと思います。お時間の有る際に、ぜひご覧ください。
社内研修:ブラザー工業株式会社「会社のDNAである”チャレンジ”を浸透させる、経営陣も巻き込んだ風土醸成の取り組み」
他流試合型研修:三菱地所リアルエステートサービス株式会社「役員層はエグゼクティブ・スクールへ通学。上位層からの組織変革に本気で取り組む」
引用/参考情報 |
1) 参考:ドナルド・マケイン、研修効果測定の基本~エバリュエーションの詳細マニュアル~(ASTDグローバルベーシックシリーズ)、ヒューマンバリュー、2013年を基に一部編集 |