- DXの実現
- 経営チームの変革
人事のDXによる人・組織の見える化は、どのような変化を作り出すか
人事のDXによって、人・組織にまつわる「人的資本データ」の蓄積が進んでいます。例えば、社員のスキルやマインド、ポテンシャル、経験レベル、あるいは組織のエンゲージメントやウェルビーイングに関するデータです。
これらのデータがさまざまな角度から分析される世界が訪れると、企業経営や日本社会全体、そして私たちビジネスパーソンにどのような変化をもたらすのでしょうか。
今回は、人的資本データによって作り出される未来の姿を考えます。
人的資本データから、経営の投資対効果が見えるようになる
これまで、人事の活動は投資対効果が見えにくいものでした。人材マネジメントの各施策や組織カルチャー、ダイバーシティへの対応などが企業経営にどれほど貢献できているのかを数値化することは難しいゆえに人事部門の業務成果も測りにくい、という問題も長年にわたり解決されていません。
最近になりESG経営が注目され、財務目標のみならず非財務目標も掲げることが求められるようになってきました。エンゲージメント、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)といった人・組織にまつわる非財務目標が経営にどのようなインパクトをもたらしているかの説明責任が問われます。
そこで私たちは数社の日本企業との議論を通して、人的資本データと企業価値の関連性を探ってきました。その結果、「企業価値と関連性があるデータ」と「企業価値との関連性が不明瞭なデータ」があることが見えてきました。
企業価値と関連性がある人的資本データは、
- 人材ポートフォリオ(戦略に応じてポジションが埋められているか)
- 360度評価(マネジメントが正しい行動を取れているか)
- 能力向上(ポジションについている人材の能力がどの程度上がったか)
といったものです。これらの項目は戦略と紐づいている指標である一方、データ化されていない企業も多いことが課題です。
逆に、企業価値との関連性が不明瞭なデータは、
- エンゲージメント
- D&I
であると考えています。これらは各数値が高いほうが良いという前提で計測しているので、経営との相関性を見る目的ではデータを収集していないことが多く、企業価値とのつながりが見出しにくかったのです。
人的資本が経営にどのように貢献をしているかを明らかにするためには、まずは企業価値との繋がりが強いデータから収集し、業績とどの程度の相関関係があるのかを見ていくことが良いと考えます。さらに因果関係までが見えると、人的資本への投資に対するリターンが明らかになるので、企業にとっては、根拠に基づいて人的資本へ積極投資できるようにもなります。
これらの取り組みをリードするのは、CHROであると考えます。経営が実現したい方向性を人・組織の観点でどう実現するかを考え、推進する役割を担うのです。私たちも、人材が価値を生み出していることをデータによって可視化し、各企業が安心して人材へ投資できる環境を日本全体で推進していきたいと思います。
人事のDXが進むと、社会全体で人材の流動化も進む
これまで述べたような人事のDXが実現されると、社会全体で人材の流動化が活発になるだろうと考えています。各人のできることが可視化されると市場価値も自ずと明らかになり、今の企業で適正な評価をされているかも把握できるため、妥当な評価をされていなければ、転職を選択する人が増えると思います。こうしてビジネスパーソン1人ひとりが最適化されたポジションや報酬を得られるようになり、社会全体での“適所適材”が進むと思われます。
社会全体で人材の流動化が進めば、人材に対してフェアな評価ができている企業と、できていない企業とで人材のリテンションに差が出てきます。企業は社員の市場価値に合わせて適正な評価や報酬を決めやすくなりますので、逆に、社員を正しく評価せず報いることもしない企業からは人が離れていきます。これからの企業には、人を惹きつけて人的資本へ投資し、人材価値を上げていくサイクルを作ることが求められているといえます。