GLOBIS(グロービス)の人材育成・企業・社員研修サービス

連載/コラム
  • DXの実現
  • 経営チームの変革

デジタルを活かした人事の在り方とは

2022.06.10

これからは、未来の人事の在り方を考えていきたいと思います。
経営においてDXが重要なキーワードになっている今、人事の領域でもデジタル化が進んでいます。各企業で人・組織に関するさまざまなデータが集められ可視化されると、採用・配置・評価・育成といった人材マネジメントにおいてもデータを活用した施策を考えることになるでしょう。

そこで、今回はデジタルを活かした人事について考察します。

能力開発のカスタマイゼーションが進んでいる

データを活かした変化が既に起きている分野が、能力開発のパーソナライゼーション(個別最適化)です。デジタル系の学習コンテンツやサービスが充実してきたことによって、各人が必要なスキルを必要なタイミングで、必要な量だけ学べるようになっています。これまでの企業内人材育成では、決められた日程に決められた場所へ集まり、同じ内容を学ぶ集合研修が主な手法であったことを考えると大きな変化です。

能力開発のパーソナライゼーションは、語学やIT系スキルの教育では既に進んでおり、経営スキルの教育でも近年追いついてきたように思います。デジタル化の進展により、パーソナライズされたコンテンツを学べる領域が広がってきています。

デジタルを活かした人事における課題と解決策

能力開発以外にも、人・組織のあらゆる情報がデータ化され、目に見えるようになっています。360度評価や組織サーベイ、エンゲージメントやモチベーションまでも可視化されるようになりました。

ところが、人事データを蓄積して分析できるHRシステムは多くあるにもかかわらず、企業の経営改善や価値向上につながっている例は残念ながらまだ多くありません。人事データによって経営が良くなった実感を持てている企業は稀ではないでしょうか。その理由は大きく2つあると考えています。

まず、どのような人事データを使い、どのように経営を変えるのかという思想や目的が曖昧なままHRシステムを導入してしまっていることです。経営としての目指す姿である目的がクリアではない段階で、HRシステムを入れても宝の持ち腐れになってしまいます。システムはあくまで手段です。最初に目的を定め、集めるデータを決め、可視化し、それを構造化してシステム運用に乗せていくステップを踏むことが重要です。

2つ目の理由は、「事業経営のスピードと質を高める仕組みを構築する」のコラムでも触れたようにデータ化されていない社員情報が多く、特に経験に関する情報がほとんどないことです。例えば、社員1人ひとりがどのような経験値があるかを本人と直属上司しか知らない状態では、タレントマネジメントは思うように進みません。

社員の経験をデータ化するのは全社員に履歴書を書いてもらう取り組みに近い大掛かりなイメージを持たれるかもしれません。ただ全社員に履歴書を書いてもらってもタレントマネジメントとしては運用に落とせません。より抽象度を上げ、かつ経営が活用できるレベルにならないと人事データは活用できるレベルにならないです。例えば、経験の可視化において、自己回答してもらう方法であれば大きな負担なく実現が可能です。また、大企業においては全社員分を一気にデータ化するのは負荷が高いので、まずは管理職以上など、上位層のデータ化から着手すると良いでしょう。

データを集める方法として、図のように「職務経験モデル評価」を行います。職務経験の切り口をいくつか設定し、それぞれの切り口においてどのレベルの経験があるかを社員に自己回答してもらいます。下図では、グローバル・変革・創造・オペレーション・リーダーシップスタイルの5つの切り口を示していますが、企業によって重視する職務経験を設定します。

職務経験モデル評価
(図:グロービス作成)

こうして経験がデータによって可視化されると、配置や能力開発、キャリアプランなどさまざまな人事施策に活かせます。実際これまで複数の大企業で活用いただいています。最適な配置を行うには、社員1人ひとりがどのような経験をしてきたかの情報は欠かせません。実績のデータしかなく、登用しようとしているポジションと関連性の薄い領域で営業実績をあげた社員を抜擢したために、結果が出せずミスマッチになってしまった……という失敗事例も減らせるのではないかと思います。

経験のデータは、上司と部下との人事面談にも活用すると双方の納得度合いが高まります。例えば、「5年後までにAさんがB課長のような経験を積み、パフォーマンスを出せることを目指すには、まず来年はこのような経験を積もう。そのためにこの業務をアサインしよう」というように、根拠を持った1on1での対話と業務アサインができるようにもなります。さらに、HRシステムを活用すれば、システムの分析によってキャリアプランがレコメンデーションされるようにもなっていくでしょう。

最適な配置を考えるためには、各社員のポテンシャルもデータ化しておく必要があります。ポテンシャルとは潜在スキルや潜在マインドであり、経験や知識がなくとも成果を出せる力だと捉えています。状況を正しく把握する力、求められていることと自分の能力のギャップを理解して対策を取れる力、努力しながら改善していける力、といったことがポテンシャルの具体的な要素です。ポテンシャルを測るには、Hogan、SHL等のアセスメントで計測出来ますが、アセスメント結果から上記のように必要な要素を抜き出して情報を蓄積していくということも有効な手段です。
このように、デジタルを活かした人事は、目的を定めてから仕組みを構築し、そのために必要なデータセットを作ってこそ価値を発揮するものと考えます。ただやみくもにデータを集めただけでは経営は改善されません。目指す組織像に対して、デジタルを活かし、どう実現を加速させるかの道筋を描くことが大切です。

グロービス・コーポレート・エデュケーションフェロー 西 恵一郎

グロービス・コーポレート・エデュケーション
フェロー

西 恵一郎 / Keiichiro NISHI

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築や商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。その後、グロービスの企業研修部門にて組織開発、リーダー育成を通じた多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を経て、コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクターとして事業責任者を務める。
現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーションのフェローとして、グローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングの講師を担当する。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。また、富士通株式会社のCEO室Co-Headとして、全社経営戦略を担う。

関連記事

連載/コラム
2022.04.11
事業経営のスピードと質を高める仕組みを構築する
  • 経営チームの変革
  • 経営人材