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サステナビリティは企業の生存戦略である

2022.11.22

SDGsの達成期限である2030年まであと8年となり、カーボンニュートラルやビジネスと人権など企業に求められる対応もより高度化しています。本コラムでは、企業がなぜサステナビリティに取り組まなければならないのか、そして何をすべきなのかについて、お伝えできればと思います。

経営者が理解しておくべきサステナビリティを巡る時代認識

最初に、様々な用語の定義から確認していきましょう。SDGsとは2030年時点で実現したい世界共通のゴールであり、企業に置き換えればビジョンと表現できます。CSRは企業が果たすべき社会的責任なので矢印は一方向、CSVは社会との共有価値なので矢印の向きは双方向です。
ESGは狭義には投資家との共通言語ですが、最近はESG経営を掲げる企業も増えてきました。聴き馴染みがないかもしれませんが、持続可能な社会の実現に向けた投資家の行動原則としてPRI(Principles for Responsible Investment)があります。(図1参照)

図1各用語の可能性
出所:『SDGs思考』(田瀬和夫・SDGパートナーズ/インプレス)を元に作成

認識を合わせておきたいのが、サステナビリティの指す主語についてです。持続可能性とは、誰にとって持続可能な状態を指すのでしょうか。勘違いされがちなのは、企業が持続的に儲けることと、サステナビリティに配慮した経営を行うことは、決して別物ではありません。社会の不確実性の高まりにより、「企業がサステナビリティに配慮した経営を行うこと=企業が持続的に成長すること」になってきています。こうした中、企業のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が求められています。(図2参照)

図2企業と社会のサステナビリティの
同義化
出所:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会
中間とりまとめ」(2020年8月)を元に作成

従来、経済的な価値と環境・社会的な価値はまったく別物、相反するものとして捉えられてきました。企業は、環境に負荷をかけつつ、儲けた利益の一部をCSRとして寄付する、ということをやってきたのが第一世代です。第二世代では、各要素の重なりが認識されるようになりました。ここでは、環境や社会に配慮することはコストだけれど、仕方なしに対応しなければいけないという認識でした。

しかし、人間の経済活動は地球の自浄作用の範囲(プラネタリー・バウンダリー)を大きく超えてしまいました。こうしたツケは今、自然災害となってすべて我々に却ってきています。結果、企業活動に影響を及ぼすような災害も多発しています。外部不経済を無視して短期的な利益だけを追求する、ということが許されなくなっているのが第三世代の認識です。(図3参照)

図3サステナビリティに対する時代認識
の変遷
出所: 『SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営』
(坂野俊哉・磯貝友紀 PwC Japanグループ/日経BP)を元に作成

ここまで環境面の話をしてきましたが、企業がサステナビリティに取り組むべき理由はそれ以外にもあります。一言でいえば、すべてのステークホルダーから選ばれ続けるためです。顧客、取引先、投資家、そして従業員、あらゆるステークホルダーが企業の行動を注視しています。サステナビリティに配慮した経営を行うことは企業にとっての生存戦略であり、対応できない企業は競争の土台にも上がれない時代になってきています。

サステナビリティを経営に実装する三つの意義

対応しなければならないということだけでなく、ポジティブな側面もあります。企業がサステナビリティを経営に実装する意義は、大きく三つに集約されます。

 

一つ目は、大きな成長の機会であるということです。SDGsは世界共通の目標であり、今後10年間に市場から求められるトレンドであるといえます。たとえば、SDGsの169のターゲットを見てみると、
『1日1.25ドル未満で生活する極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる』
『全ての人々の、安全で安価な飲料水へのアクセスを達成する』
といった項目が掲げられています。
現在の延長線上では達成が困難かもしれませんが、こうした壮大な目標、いわゆるムーンショットは新しいイノベーションを生み出すヒントになります。

2017年のダボス会議では、SDGsの達成に向けて、持続可能なビジネスモデルが大きな経済機会を生み出すことが報告されました。具体的には、食料と農業、エネルギー、健康と福祉といった分野で、2030年までに約1,340兆円の市場が創出され、およそ3億8000万人の雇用を生み出す可能性があるといわれています(※1)。こうしたレポートを元に、経済界の取り組みが一気に加速しました。

二つ目は、企業価値の向上につながるということです。ESGへの取り組みと株価の関係については、様々な検証データから一定の相関関係は認められる、というところが現段階です。因果関係の証明にはさらに長期の検証が必要ではありますが、では、因果関係が証明されるまで何も取り組まなくていいのでしょうか。正しい意思決定ができ、環境・社会にもしっかり配慮できる企業が、長期的に利益を上げていけること、これは明らかです。

サステナビリティへの配慮を求めているのは機関投資家だけではありません。顧客や取引先、消費者などのステークホルダーから、環境・人権への配慮がより一層求められるようになっています。たとえば、博報堂が2019年に実施した調査では、モノを買うときに「長く使えるものを買う」生活者は9割以上という結果が出ました。今後の購買意向に関する質問でも「環境・社会に悪影響を与える商品は買わない」という回答が8割を超えており、サステナビリティが新たな購買決定の軸として確立してきています(※2)。

こうした流れはB to Bビジネスにおいても同様です。サプライチェーンの下流にある企業が厳格な調達方針を定めることにより、サプライヤーは、自社の方針に関わらず、環境負荷の削減や人権問題の把握などに取り組まなければなりません。調達基準を満たせなければ、取引機会を逃してしまうわけですから、ビジネス上の死活問題といえます。

三つ目は、サステナビリティへの取り組みが組織と人を強くするということです。インクルーシブで公平な組織の方がイノベーションを生み出しやすいということがいわれています。たとえば、2018年に公表されたレポートでは、より多くの女性が労働市場に参画し、労働時間が増え、女性がリーダーシップを発揮するようになれば、2025年の日本のGDPは現状維持の場合に比べて6%、3,250億ドル(約35兆円)増加すると分析されています(※3)。

こうした取り組みはビジネスの基盤を支える人的資源の獲得にもつながります。Z世代の若者は、企業のサステナビリティに対する取り組みに強い関心を持ち、これまでの世代とは違う観点で企業を見定める人が多いと考えられます。就職活動を行う大学生向けの雑誌では、企業を選ぶキーワードとしてSDGsが特集され、優良企業を見定めるモノサシとしてESG、ダイバーシティ経営を行う企業のランキングが取り上げられています。

就職支援サイトが、大学4年生を対象に実施した調査でも、社会貢献を重視する学生の傾向が明らかとなりました。就職先企業に決めた理由を選んでもらう質問では、「社会貢献度が高い」という項目が最もポイントを集めており、多くの学生が選択基準の一つとして、仕事を通じた社会貢献を重視しています(※4)。

このようにサステナビリティへの取り組みはプラスアルファで行うもの、経営状況が悪化したからやめる、という着脱可能なオプションではなく、取り外しができない経営のコアであり、歯車になってきました。 次回は、ESG投資の動向についてお伝えしたいと思います。

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー 本田 龍輔

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー

本田 龍輔 / Ryusuke HONDA

日本福祉大学大学院国際社会開発研究科卒業(開発学修士)
大学卒業後、地域活性に取り組むNPO法人での活動を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)の実施する青年海外協力隊事業に参画し、パプアニューギニア独立国へ派遣。農村地域において生活改善や植林を中心とした環境保全活動に取り組む。帰国後はJICA東京にて、行政や教育機関、NPO/NGOとの協働を通じた国際協力の裾野拡大や人材育成に携わる。グロービス入社後は、法人営業部門にて、顧客企業の人材育成・組織開発に関わる設計・提案活動に従事。SDGパートナーズでは、企業のサステナビリティ方針策定・実施、ESG情報開示、価値創造モデルの設計プロセス等を支援している。

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