- 新規事業創造
実は失敗も多い大企業とスタートアップの連携、その乗り越え方とは
大企業における新規事業の立ち上げ方のひとつに、スタートアップとの連携があります。近年はCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げる大企業も増えており、スタートアップへの投資が盛んになりつつあります。
しかしながら、連携がうまくいかない場合も珍しくありません。今回は、大企業とスタートアップの連携パターンや陥りがちな失敗、大企業とスタートアップとの目指したい関係性について考察します。
日本のスタートアップ市場は発展途上中
日本では近年スタートアップへの投資が増えつつあり、2021年のベンチャーキャピタル投資額は、前年の1.5倍に急増しました(※1)。中でも大企業が設立するCVCファンドによる投資が伸びており、国内のスタートアップ投資額のおよそ半分を占めるまでになっています(※2)。
しかしながら投資額の規模はまだまだ小さく、アメリカは日本の157倍にあたる36.2兆円ものスタートアップ投資がなされています(※1)。大企業によるスタートアップの買収例を見ても、アメリカでは1,000億円〜10兆円規模の大型M&Aの事例がいくつもありますが、日本では2017年にKDDI社がソラコム社を200億円で買収した事例が近年の最大取引となっています。
データを見ると、アメリカと比べて見劣りを感じてしまうのが日本のスタートアップの現状です。しかしながら、ここに来て成長の追い風となる動きが見られています。
国をあげたスタートアップ育成が始動
2021年に始まった、日本政府による「新しい資本主義実現会議」。「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現すべく、具体策の検討が進んでいます(※3)。
2022年4月、第5回新しい資本主義実現会議を終えた岸田総理は、コロナ後に向けた経済システムの再構築の一環としてスタートアップの育成を進めると述べました。資金面での支援、SBIR制度(中小企業技術革新制度)におけるスタートアップへの拡充、スタートアップが集積するキャンパス作り、人材流動化やオープンイノベーションの促進といった具体策も挙げられたのです(※4)。
国のバックアップ施策も活かしながら、今後、日本のスタートアップから多くのイノベーションが生まれ、大きく成長することが期待されます。大企業の既存メンバーは事業をゼロから立ち上げる経験に乏しく、新規事業をつくることに苦戦しがちです。今後ますます力をつけていくであろうスタートアップと連携することは、大企業が新規事業を立ち上げる手段のひとつとして有効だと考えます。
大企業とスタートアップの連携パターンと失敗例
具体的な連携のパターンは、スタートアップの投資ラウンドによって大きく2段階あります。
ひとつ目が、スタートアップのシード〜シリーズAの段階で、PoC(Proof of Concept:ビジネスの構想段階にある概念や方法論、技術などについて、意図した通りの有効性を発揮できるかを簡易的な実験で検証すること)を行うにあたって協業する連携です。
もうひとつは、シリーズB以降で連携するパターンです。顧客拡大、ハードウェアを製造する場合は量産化など、事業のスケールアップを狙った連携となります。
前者は良質なビジネスアイデアを得ることができ、後者は大企業のリソースを規模化に活かせる良い連携のように思えますが、うまくいかず頓挫してしまうケースも少なくありません。
PoCを行う協業では、
- 実証段階にもかかわらず、既存事業とのシナジーを経営陣から問われすぎる
- 仮説を立てずにPoCを実施してしまい、次の段階へ進むかの意思決定ができない
- 事業化の覚悟が足らず、十分な予算を投入できない
といった事象が散見されます。
スケールアップを狙った協業では、
- 既存事業との整合を考えるあまり、先に進めなくなる
- スタートアップをうまく巻き込めず、スタートアップの経営陣から連携を止められてしまう
といった事例が挙げられます。
期待通りの成果が出ないことも珍しくありません。プロダクトや技術が未熟だった場合もありますし、大企業とスタートアップとの「時間軸の違い」が原因であることは意外と多いものです。スタートアップは仮説検証を素早く回したい一方、大企業はより計画的に、確実に物事を進めようとするギャップがあるのです。このように、大企業とスタートアップの連携は必ずしも順調に進むとは限りません。
ベンチャーキャピタル的思想のススメ
前述した失敗例に陥らないために、大企業はスタートアップとの連携において、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
まずは、連携前の見極めが重要だと考えます。AIを使っているから、SaaSビジネスをやろうとしているから、評判がいいから……といった理由で安易に連携を進めないようにしたいものです。見ておきたいポイントは、起業家本人やビジネスモデル、技術面における自社との親和性です。中でも技術に対する見立ては重要です。近年はAIを用いたビジネスを手がけるスタートアップが多くありますが、当該領域のAIがどこまで優れているのか、実装できるレベルになっているのかを評価し、その評価を踏まえてどう連携するかの意思決定をすることが大企業には求められます。スタートアップと連携する担当部門や経営層が、当該領域における技術の進歩や課題に関する判断軸を持ち、入念なリサーチをしてから連携すべきです。
連携による成果創出を目指すにあたっては、大企業は「ベンチャーキャピタル的なスタートアップとの関係づくり」を取り入れるとよいでしょう。それは、ビジネスモデルや技術をしっかり見極めつつも、最終的には「起業家本人に賭ける」という価値観に基づいた関係構築です。起業家本人がどのような人なのか、信頼できそうか、ビジョンを共有できるか、といった観点を重視するのです。その上で、起業家が進みたい方向性に賭けて共創します。メンタリティとしては、法人契約というより、人と人との連携と言ってもいいかもしれません。
そして長期的な視点では、大企業の定期異動をふまえた連携のあり方も念頭に置いておく必要があります。大企業側の担当者は数年で入れ替わるので、担当者が交代しても、共通の価値観を持ってスタートアップと関係を深めていくための設計が必要でしょう。
大企業にとっては、これまでとは異なる価値観やビジネスの進め方、スピード感を持つことが、スタートアップとの連携を成功に導くカギであると考えます。