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“新規事業アイデアが出てこない!”を乗り越えるには?

2022.08.01

歴史ある大企業でも、既存事業の成長が鈍ってきたために新規事業の開発が急務になっています。

ところが、事業のアイデアが出てこないという悩みを多くの企業が抱えているようです。既存事業で実績を上げてきた企業が、新規事業のアイデアを出すとなると苦悩するのはなぜでしょうか。
大企業が新しいアイデアを産み出し、新規事業のテーマへと昇華させるにはどうすればよいのか、人・組織の側面から探っていきます。

なぜ、良いアイデアが出ないのか

「我が社の将来を担う、新規事業のアイデアを募集!奮ってご応募ください!」

新規事業を開発する際は、このような告知をして社内でビジネスプランコンテストを開いたり、社内のエース級人材を集めて新規事業開発プロジェクトを組んだりすることが多くあります。

ところが、いつまで経ってもアイデアの応募がない。出てきたとしても、既存事業の周辺にあるアイデアや、サブスクリプションなど流行りのビジネスモデルばかり……。大企業が新規事業に取り組むと、最初につまずくのは「良いアイデアが出てこない」ことなのです。

既存事業の改善に注力してきた社員にとっては、突然違う筋肉を使うことを求められているのですから、今までと同じ考え方やプロセスで取り組んでも、新規事業のアイデアが出せないのは当たり前です。この悩みに直面する企業は、自動車や製薬など単一事業で収益をあげてきた業界で特に多く見られます。

その背景には、既存事業で成長してきたがゆえに「社外の世界を知らない」ことがあるのではないでしょうか。特に大企業は組織が大きいために社内で完結する仕事も多く、社外の人と協業する経験が意外と乏しいものです。

あるいは、メディアの情報に触れていても、実際に体験していないため世の中の変化に実感を持っていない人も少なくありません。研修で受講生の方へ「最近使い始めた新しい商品やサービス、アプリはありますか?」と伺うと、答えが返ってこないことも珍しくないのです。

このように、既存事業によって自ずと培われた考え方や習慣が、新規事業の開発では障壁になってしまうのです。

アジャイルなアイデア開発のすすめ

では、どうすれば大企業が良い新規事業のアイデアを産み出せるのでしょうか。
おすすめしたいのは、「アジャイル」にアイデアを考えることです。アジャイルとは「すばやい」「俊敏な」という意味を持ち、システム開発においては、小さな単位で開発してテストを繰り返す手法を言います。

新規事業でも同じように、アイデアを仮説と捉えてアジャイルに仮説検証を繰り返した方が、結果的によいアイデアに辿り着けます。ただし無尽蔵に考えるのではなく、「ヘルスケア分野」「MaaS分野」といったように、ある程度の方向性を決めてから考えるとよいでしょう。

「アジャイルなアイデア開発」を行うには、新規事業に関わる組織と人が、意識や行動を変える必要があります。

組織は、以前のコラム「イノベーションの旅は、風土づくりから」でもご紹介したように風土が重要です。多くの大企業の組織風土は、皆がルールに則って認識をすり合わせながら業務をするという、既存事業に最適化されたものになっています。その一方、アジャイルなアイデア開発においては「新しい意見を否定しない」姿勢が組織全体に求められます。上司の鶴の一声で物事が決まるような組織では、新規事業は産まれにくいでしょう。上位下達の組織でアイデアを考え始めると、担当者は上司に承認を取ろうとする意識が強くなってしまい、市場規模や未来予測などのデータを集めてばかりいたり、社内の過去事例を分析してしまったりしがちです。

新規事業開発を担当する皆さんには、机上でアイデアを考えてばかりいるのではなく、まずは社外の人と積極的に交流してみてください。既存事業で成長してきた社内にいるだけでは、思考が広がりにくいものです。スタートアップのピッチに出かけるのもよいと思います。社内とは全く違う雰囲気かもしれませんが、それこそが外を知ることなのです。そして、日常生活でも新しい商品やサービスにどんどん触れてみてください。

こうして新しい情報に触れ続けていると、異なる分野の情報からアイデアが産まれることもあるのです。歴史を振り返っても、T型フォードの量産化は食肉工場のベルトコンベアにヒントを得て実現したと言われています。食品という異分野から、現在の自動車の量産技術が生まれたのです。書籍『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』の著者である西山圭太さんは、「イノベーションは、過去の発見の積み重ねである」と述べています。世の中のものに触れながら、面白そうだと思ったものを組み合わせるのも、アイデアの考え方のひとつです。

新しい環境に身を置いてこそ、新規事業への扉は開きます。成功の反対は失敗ではなく、「何もしないこと」なのです。会社としてではなく個人でも外に出て、好奇心を育んでいくことをおすすめします。

アイデアの見極めでも、既存事業の壁が立ちはだかる

さて、良いアイデアが出たら、次に新規事業のテーマとして可能性がありそうかの見極めを行うことになります。この見極めの段階でも、「既存事業の壁」が邪魔をしがちです。その壁とは、意識の壁、思考の壁、そして仕組みの壁の3つがあると考えます。

意識の壁は、アイデアを考える際と同様、社内に閉じこもって考えてしまうことです。「まだアイデアの段階なのに、社外の人に持って行って失礼ではないのか?」、あるいは「当社が新規事業をやろうとしている情報が漏れてしまう」といった思いから、アイデアを社内で温め続けてしまうことが散見されます。アイデアは仮説検証が必要ですから、顧客となりうる人や協業先となりうる会社へアイデアをぶつけて、どんどん意見をもらって構わないのです。

思考の壁は、市場規模やトレンドからアイデアを検証してしまうことです。確実な市場を狙おうとすると、そこは既に競合がひしめく世界。慌てて後発で参入しても、先行する競合を凌駕し、市場シェアを十分に獲得できるだけの競争優位を構築できず、競合に負けてしまうのです。

そして、仕組みの壁とは既存事業に最適化された社内プロセスです。社外の人にアイデアをぶつけて意見を聞きに行こうとすると、社内ルールでNDA(秘密保持契約)を組むことや社内稟議を通すことを求められてしまうのです。承認をもらう”ハンコリレー”をしている間に時間は過ぎていき、社外の人に会うまでに1か月以上かかることも……。また、トップの指示に従う形で新規事業のテーマを作ろうとしても、担当者のやらされ感は拭えず、スピードや精度が落ちてしまいがちです。

新規事業テーマを探索するには、組織も人も、意識や思考を変えなければなりません。市場規模から考えるのではなく、自分や身近な人の原体験をもとに「課題の深さ」と「経済性」を見極めることがポイントになります。課題の深さとは「それがあったら誰かの困りごとが解決できるのか」、経済性は「この事業によって、どのくらいの経済的なインパクトが生まれるのか」の試算です。この2つが揃うと、事業の独自性とスケーラビリティが期待できます。

新規事業を産み出す際には、人も組織も無意識のうちに染み付いている習慣を一度捨てて、考え方や行動を変えていく必要があります。フットワークを軽くして世の中の新しいサービスに触れ、アジャイルにアイデアを考え、社外の人の意見を積極的に求めることが、良い新規事業創出に繋がります。

グロービス・コーポレート・エデュケーションビジネス・パートナー 大牧 信介

グロービス・コーポレート・エデュケーション
ビジネス・パートナー

大牧 信介 / Shinsuke OMAKI

大学卒業後、大手リース会社にて法人営業、企画部を経て、2001年よりグロービス。企業研修部門にて、大手企業の経営人材育成、事業課題解決、新規事業開発、製品マーケティング戦略などの支援を行う数多くのプログラムを実施。ディレクターとして部門マネジメント、事業開発を推進した。
現在は、株式会社松尾研究所にてAI教育事業をリード。AI領域から産業界のDXを推進するビジネスパーソンの育成に取り組んでいる。
また、グロービス・コーポレート・エデュケーションのビジネスパートナーとして企業研修講師を中心に、経営人材育成、新規事業開発に関するアドバイザリー業務に携わっている。
立命館大学経済学部卒業。東京理科大学大学院イノベーション研究科修了(技術経営修士)

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