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新規事業開発におけるアジャイルの重要性(前編)

2023.10.10

従来システム開発の1つの手法として扱われてきたアジャイル開発ですが、この手法は新規事業開発を進める上でも重要な要素を含んでいます。そこで、アジャイル(開発)とは何か、またそれが新規事業開発にとってどのような良いことがあるのかをご紹介します。

ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い

アジャイル開発は元々システム開発のための手法であり、それまで主流とされてきたウォーターフォール開発との対比で使われることがよくあります。まずはシステム開発のプロセス(要件定義→設計→製造→テスト→リリース)を例に取り、それぞれの開発手法の特徴を説明します。

ウォーターフォール型 アジャイル型
プロセス 実装する機能や性能などを、開発前にすべて定める。それに基づき、設計、製造、テストなどの行程を進める 開発するシステム、プロダクトを構成する分野を分割し、分割した単位ごとにチームを組み、要件定義・設計・開発・テスト・リリースを行う
タスクの進め方 前工程が終了後、次の工程に移る 分割されたチームごとに、日々または週ごとにアウトプットを作り、顧客などユーザーに当て、検証を行う(前工程を待たずに、できるところから進めていく)
完成の状態 すべての工程が終了後、完成とみなす システムやプロダクトは都度、最小限の単位で創られていく(最小限の単位のものは、日々、または週単位で完成していく)
完了までの期間 長期間かかる 比較的短期間で終えられる
メリット 完成品の品質担保に向いている。また工程設計が初期段階からできるため、予算を見積もりやすい システムやプロダクトを都度創り検証することができる。工程設計が柔軟であり、変更しやすい
フィットする場面 工数が初期から見積もれている場合 完成品が不透明な場合

以上のように、アジャイル開発とは、不透明なテーマに対して最小単位で設計・開発し、検証(テスト)や修正を迅速(アジャイル)に行っていく手法になります。

新規事業開発におけるアジャイル型の手法とは?

これまで私が多くの大企業を支援させていただいた経験から、新規事業開発にこそ、このアジャイル型の手法を取り入れることが大切だと実感しています。先ほどのシステム開発のプロセスを新規事業開発のプロセスに置き換えて「これまでの手法」と「アジャイル型開発の手法」の違いを説明すると、以下のようになります。

これまでの新規事業開発 アジャイル型新規事業開発
テーマ設定 数カ月~数年の検討期間を経て、開発するテーマを決める。調査会社なども使い、二次情報を中心に調査・検証し、重要な事業開発テーマを決める ユーザーへの調査、インタビューなどを行い、一次情報を中心に素早く開発テーマを決める
提案へのフィードバック 決めたテーマを経営陣に答申する。様々な指摘をふまえて修正し、提案のレベルを高める 決めたテーマを実現するために最小限の性能を満たすプロダクトを創り、ユーザーに当てる。インタビューなどを通じてフィードバックを得て、改善に繋げる
開発・設計プロセスへの移行 長期間かけ承認を取った提案内容で、実際の設計、開発を開始する ユーザーの求めるニーズを満たす最小限のプロダクト単位で設計・開発する
市場へのローンチ 完成品ができ上がり次第、市場にローンチする ユーザーの求めるニーズを満たす最小限のプロダクト単位でローンチする。フィードバックを得て修正する

これまでの手法の欠点は、テーマの決定、または市場へのローンチまで時間が相当かかることから、着想したタイミングでのニーズがローンチ時点では既に無くなっている、または、空想に過ぎなかったことが後になって分かり、そこまでにかけたリソースが無駄になる場合がある、ということです。

一方アジャイル型の開発では、着想から設計・開発・ミニマムでのローンチまでの期間が短く、当初想定されたニーズが実は異なっていたということが分かった場合は早期に改善・修正ができるため、最終的な成功に繋がりやすいというメリットがあります。

その他の重要なアジャイル型開発のエッセンス

ここまで、アジャイル型開発のメリットは、着想から設計・開発をミニマムで行い、ローンチし、素早く改善・修正のサイクルを回すことであることを述べてきました。
さらにアジャイル型開発における重要なエッセンスを述べると、以下のようなポイントがあります。

少人数の混合チームで行う

開発チームには、「新事業全体を統括するオーナー(主には経営陣)」、「プロダクト全体に責任を持つプロダクトオーナー」、「(プロダクトを構成するいくつかのチームに分割した)各チームの責任者」、その下に「実行者数名」を配置します。1チーム当たりの人数は概ね6,7名になります。
また、チーム内の実行者は、設計・開発・テストマーケティングを行いますので、メーカーであれば開発・製造・マーケティング・営業など異なる職種を混合にしたチームで行うことが望ましいです。

以上のように、6,7名程度の少人数かつ混合チームで行うこと、プロダクトオーナーの全体統括の下、各チームで自律的に動き意思決定をしていくことが原則になります。

タスクを可視化する

基本的に週単位、または日々取り組むタスクを可視化、共有し、どれだけタスクが完了したか、また増えたとしたらどのように改善していくかを話し合っていきます。

スピード感をもってサイクルを回す

アジャイル開発では最小単位で創るものを決め、設計・開発・ローンチし、修正のフィードバックを迅速に得ることが基本ですが、どの程度の単位でこのサイクルを回すことが望ましいのでしょうか。アジャイル開発の様々な手法にもよりますが、通常は長くても2週間で1つのものを創り、ユーザーに当てフィードバックを得ていくことになります。
また、その最小限のモノを創るために細かく分解されたタスクは、日々(デイリーで)進捗報告を行い、想定タスクが完了しているか、また遅れているとするならばどのようにしていくかをチーム単位で見直していくこととなります。

以上のように、取り組むべき組織を新しく作り、タスクを可視化し、スピード感をもって(ユーザーからのフィードバックを軸に)日々、または週ごとに改善・修正を行っていくことで、アジャイル(迅速)により良い新規事業開発を行っていくことができます。
「1年かかって構想した新事業も、ローンチした頃にはニーズが無くなっていた」ということをこれまで多くの企業で聞くことがありましたが、少なくともアジャイル型開発の手法で新規事業開発を行っていれば、そのような事象は防げていたでしょう。
また、ユーザーの生の声をフィードバックとして受け、改善していきますので、日々・週ごとにより良い状態に近づいていくこととなります。その結果、質の高いシステムやプロダクトに繋がっていくのです。

アジャイル型新規事業開発の事例

世界的にも有名なscrum.incが行う、scrumアジャイル方式での新規事業開発の事例を紹介します。
https://scruminc.jp/scrum-consulting-and-coaching/casestudies/kddi/

この事例を見ていただくとイメージが湧くと思いますが、少人数のチームで日々創り、ユーザーなどへ当てフィードバックを貰い修正していく。結果、従来の開発手法だと8カ月かかった新事業(アプリ)の開発が半分の4カ月で終えられたということです。

次回のコラムでは、実際に大企業においてアジャイル型の新規事業開発を行っていく際に留意すべき点がどこにあるか、一歩踏み込んで説明します。

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー(事業開発担当) 池田 章人

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー(事業開発担当)

池田 章人 / Akito IKEDA

2006年よりグロービスに参画。コーポレート・ソリューション部門において、様々な企業に対して人・組織のコンサルティングに従事。
・全社サクセッションプランの企画と実行支援
・経営トップ直轄の組織開発の企画と実行支援
・研究所/営業部門などの機能別組織の強化
・新規事業開発のための制度設計と事業提案へのアドバイスなどに携わる。
新規事業開発分野ではこれまで、素材メーカーや重工メーカー、食品メーカー、不動産・建築など幅広い業界のサポートを行っている。また自組織においても事業開発担当として、他社とのアライアンスや新プログラムの開発に従事している。
横浜市立大学商学部経営学科卒業。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了

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