GLOBIS(グロービス)の人材育成・企業・社員研修サービス

連載/コラム
  • 新規事業創造

新規事業開発におけるアジャイルの重要性(後編)

2023.10.17

前回のコラムでは、新規事業開発をアジャイル型で進める上でのポイントやメリットを見てきました。今回は、これまで私が新規事業開発を支援してきた経験から、大企業で新規事業開発を行う際に配慮したい点についてご説明したいと思います。

取り組むテーマ設定は慎重に行う

大企業の場合、特に重要となるのがテーマ設定です。前回のコラムでご紹介したKDDI様の事例のように、既に電力事業に参入することが決まり、その中でサービスやソリューションを開発するとなればアジャイル開発は効果を発揮します。一方で、その前段となるテーマ設定の際には、大企業ではステークホルダーとの関係や投資対効果、自社のパーパスや戦略方針と合致しているか等、様々な観点を考慮する必要があります。

テーマセットをアジャイルで行おうとして、迅速さや多様性を優先しすぎると、企業として本来取り組むべきことではない範囲をテーマとして設定してしまうことになります。
特にアジャイルの性質上一般的にはユーザー起点でテーマを検討することが多いため、規制緩和や技術の進化、国家単位での経済環境の勃興など大きな変化を見逃しがちになります。また、ユーザーが現段階ではニーズとして認識できない、中長期先の潜在的なテーマへのアプローチにおいても限界が出てきます。
大企業であれば中長期の成長を考え、それらの大きな変化や潜在的なニーズを踏まえつつテーマを設定することが求められるため、直近のユーザーの声のみならず、社会、法制度、技術トレンド、業界構造の変化などを幅広く見据え、検討する必要があります。

過去に私が支援した企業でも、戦略方針と合致しないテーマでの新規事業をスタートしてしまい、ローンチは早かったものの、後になって経営陣の意図とそぐわないということが分かり、ストップがかかった事業もありました。

これまでのように1年など長期間をかけてテーマセットをする必要があるかというと、より短いことに越したことはありません。ですが、これらの観点を踏まえつつ、自社の戦略方針に沿ったテーマをきちんと設定することが重要です。

アジャイルは組織改革であるという覚悟を持つ

これまで見てきたように、アジャイル型で新規事業を進めようとすると、既存事業の組織体や経営システムと真逆の組織、システムにすることが求められます。具体的には、最小限の機能横断組織を作り、PDCAサイクルが2週間単位で回るような経営システムへと変更することになります。

大企業の既存の組織では、開発・製造・マーケティング・営業などがそれぞれ機能ごとに分解されており、かつ、長いと1年に1回、短くても3カ月に1回しかPDCAサイクルが回らないような設計になっていることが多いでしょう。アジャイル型にする場合そこから大きく変えていく必要があるため、それ相応の権限を持った方が、覚悟を持って進める必要があります。

優秀なプロダクトオーナーを登用する

前回のコラムでも述べたように、アジャイル開発は小規模チームに分かれ、アジャイル(迅速)に開発・製造・テストし、改善していくことが基本です。ただしそれは、ともすると小規模のチームが分散して改善した結果、全体として作りたいプロダクトのコンセプトや元々の狙いとかけ離れていくリスクがあるといえます。そのため、分化した複数のチームの動向をウォッチし、自律性を担保しながらも、最終的な狙いを達成するように調整できるプロダクトオーナーがいるかどうかも重要なポイントとなります。

例えばあるチームから上がってきたAという変更要件と別のチームから上がってきたBという変更要件がそれぞれ矛盾する場合、何を優先するか、大局観に立ち返りながらも柔軟に判断する必要があります。その大局観と柔軟性を備えたプロダクトオーナーの存在が重要になります。

以上のように、重要なテーマを決め、かつ組織やシステムも変え、これまでにない人材も登用していくためには、どうしてもその分野へ権限を与えることのできる経営メンバー(少なくとも組織横断で意思決定できる経営メンバー)のコミットが重要となります。
自社において新規事業開発が芳しくない、いまいち育たないという企業においては、一度、経営メンバーの皆さんから(経営メンバーを巻き込んで)このアジャイル型の開発手法での新規事業開発を検討してみてはいかがでしょうか。

グロービスでは新規事業開発を推進するために、以上のようなアジャイル型の組織やシステムへの移行、またはその組織やシステムを活用した新規事業開発のアドバイスをscrum.inc japanと連携して行っています。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

※参考:scrum.inc japanについて
Scrum Inc. Japanは、日本のビジネスカルチャーの変革を目的に、KDDI・Scrum Inc.・永和システムマネジメントの3社の合弁会社として設立されました。設立以来、日本の製造業の働き方に由来するスクラムを、再び日本に広める活動をしています。トヨタやKDDIを始めとする大企業から、行政府組織、スタートアップまでありとあらゆる組織に対し、スクラムの研修や組織変革のコンサルティング・コーチングを通じ、働く人々の幸せと継続的なイノベーションの実現を支援しています。
https://scruminc.jp/

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー(事業開発担当) 池田 章人

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー(事業開発担当)

池田 章人 / Akito IKEDA

2006年よりグロービスに参画。コーポレート・ソリューション部門において、様々な企業に対して人・組織のコンサルティングに従事。
・全社サクセッションプランの企画と実行支援
・経営トップ直轄の組織開発の企画と実行支援
・研究所/営業部門などの機能別組織の強化
・新規事業開発のための制度設計と事業提案へのアドバイスなどに携わる。
新規事業開発分野ではこれまで、素材メーカーや重工メーカー、食品メーカー、不動産・建築など幅広い業界のサポートを行っている。また自組織においても事業開発担当として、他社とのアライアンスや新プログラムの開発に従事している。
横浜市立大学商学部経営学科卒業。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了

関連記事

連載/コラム
2023.10.10
新規事業開発におけるアジャイルの重要性(前編)
  • 新規事業創造