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難局を乗り越える「軸」を育み、自社の持続的成長へ導く ~グローバルリーダーを輩出した経営人財育成とは~

日本特殊陶業株式会社 2025.05.20


積極的に海外進出している日本企業が直面する課題のひとつに、グローバルで活躍できるリーダーを日本人・外国人問わず育成していくことがあります。事業のグローバル化が進む一方、経営体制はグローバル化せず、悩む企業も多く見られます。

グローバル各地に拠点を置き、海外売上比率が85%にのぼる日本特殊陶業株式会社(Niterra)様では、将来の経営を担う志と使命感、自らの「軸」を持ったグローバル経営人財を輩出する育成プロジェクトを、2017年からグロービスと共同で実施しています。

本プロジェクトの背景にある課題意識や実施内容、その後の組織の変化などについて、同社の上席執行役員 グローバル戦略本部 人事戦略室管掌 HRコミュニケーションカンパニープレジデント 山口 智弘様、同カンパニー 人財開発部 人財育成課 主管 関 友美様にお話を伺いました。(役職はインタビュー当時)

はじめに:本プロジェクトの概要

日本特殊陶業株式会社(Niterra)様は、世界トップシェアを誇るスパークプラグをはじめとする自動車部品事業や半導体関連部品事業、医療機器事業などを展開する企業です。

同社では、自動車産業をはじめ外部環境が激しく変化する中で持続的成長を遂げることを見据え、次世代のグローバル経営人財を計画的に育成するプロジェクト「HAGIプログラム」を実施しています。

本プロジェクトは、世界各地から選抜された経営人財候補者が1年ほどをかけて自らの志や使命感と向き合い、リーダーとして成し遂げていきたいことを考え抜き、発表するものです。2017年に始まったこの取り組みはこれまでに第4期までを終え、計52名が参加。うち半分程度は役員に昇格しています。

インタビュー:プロジェクト実施の経緯

リーダー不足に直面し、グローバル経営人財の計画的育成に着手

山口さん:

当社は海外売上比率が80%を超える中、海外の現地法人でも日本人がマネジメントを担う組織体制でした。しかし、日本から駐在員を送るだけではグローバル化にはなりません。機械や設備は送り込むことができても、人と人との信頼関係を築き、現地でリーダーシップを発揮できるようになるには、やはり時間がかかるものです。

さらに、昨今の激しい環境変化をふまえると、主力である自動車関連以外のビジネスも成長させていくべきとの考えを持っていました。これを実現するには、新たな戦略を立案し、実行を導くリーダーが必要になりますが、当時の人財育成はそうしたグローバルリーダーを育成するものではなかったのです。ここで人財育成のあり方を変えなければ、近い将来、リーダーが不足してしまうという危機感を持っていました。

そこで、当社の持続的成長に向け、国籍やジェンダーなど関係なく全員が同じステージに乗って、グローバル経営人財育成に取り組んでいきたいと考えたのです。

山口 智弘様
上席執行役員 グローバル戦略本部 人事戦略室管掌 HRコミュニケーションカンパニープレジデント 山口 智弘様

グローバルリーダーとしての志と使命感、そして「JIKU(軸)」を持つ

山口さん:

グローバル経営人財育成プロジェクトは、「HAGI」プログラムと名付けました。“Human Asset Global Institute”の頭文字をとったことと、日本を変革するリーダーを多数輩出した松下村塾がある山口県萩市がプロジェクト名の由来です。当社の未来を担うメンバーが、皆で学び合う場にしたい、という思いを込めました。

本プロジェクトの目的は、将来のNiterraグループを担う志と使命感を持った経営人財を輩出することです。自分が思い描く理想のリーダー像と現実のギャップに気付き、そのギャップを埋めるための行動計画を立てることをゴールとしました。

この目的とゴールをふまえ、「全社視点の実践を重視した、相互に学び合う塾」というコンセプトを立ててプログラムを設計しています。経営陣と議論を重ねた結果、リーダーの意志が会社を動かしていくものであるとの考えに至り、本プロジェクトはスキルよりマインド面にフォーカスすることにしました。

その中で大切にしているのが、「JIKU(軸)」です。リーダーは、ビジネス上の厳しい経営判断を求められます。ですから、これだけは譲れないという、自らのぶれない軸を持つことが肝要です。軸は重要な意思決定をする際の拠り所になると考え、多くの時間をかけて「あなたのJIKU(軸)は何ですか」と問い、徹底的に自分の軸に向き合うプログラムにすることを目指しました。

<HAGIの全体像>
<HAGIの全体像>


プロジェクトの主な内容

1年間をかけて、自らの「JIKU(軸)」に徹底的に向き合う

山口さん:

本プロジェクトは、Niterraグループの経営リーダーに求められる13のコンピテンシーをもとに、ケースディスカッションや当社の会長・社長・社外取締役との対話、社外のリーダーによる講話などを通して、自らの「JIKU(軸)」を考えるものです。グロービスのファシリテーターからの問いかけを受けながらリーダーとしてのあり方を考え抜き、最後に自らのコミットメントをプレゼンテーションします。

約1年という長い時間をかけて集合セッションとインターバル期間のグループセッションを交互に行う構成です。外国人の参加者もいるため、「軸」は“JIKU”と表現し、プログラムは英語で実施しています。

<HAGIプログラムの取り組み>
グローバル経営人材育成の仕組みは、目指すべき「人材像」を中核に、「(1)選抜」から
「(5)モニタリング・メンタリング」までのサイクル
と、それらを支える(6)運営体制によって構成される。
<HAGIプログラムの取り組み>


本プロジェクトで大切にしている「JIKU(軸)」ですが、実は明確に定義していません。日本語なので外国人視点では捉えにくいところがあるかもしれませんが、我々から正解のようなものを示してしまうと、考える必要がなくなってしまうと思うからです。もちろん、ファシリテーターが自らの考えを伝えることはありますが、あえて公式な定義をしないことで、JIKU(軸)とは何か、なぜ自分に必要なのかも含めて受講者に考えてもらっています。

自社ならではの目的にフィットしたオリジナルプログラムを設計

山口さん:

プログラム設計でこだわったのは、当社の経営人財育成に適したオリジナルの内容にすることです。目的やゴールをしっかり定めたからこそ、それにフィットしたプログラムを作り上げたいという強い思いがありました。

当社がこのようなマインド重視のプログラムを立ち上げるのは、初めての試みでした。どのようなプログラムであれば目的を達成できるのか想像しきれない部分もあったため、当時、別の場でお世話になった板倉さんにご相談し、パートナーとしてグロービスに参画いただくことにしたのです。

グロービスの皆さんは我々の思いを存分に引き出し、壁打ち相手として対話を重ねてくれました。本プロジェクトで何を成し遂げたいか、そのために何が必要かといった問いかけを幾度となく重ねられたことで、我々自身の考えも深まったように思います。コンセプト固めから始まり、その後にプログラムを設計するという一連の支援がありがたかったです。

2017年に始まった本プロジェクトは、第4期まで実施してきましたが、プログラム構成は毎期見直しています。当社を取り巻く環境が大きく変化しているので、その時その時のビジネス環境に対応するためということもありますが、その期のHAGIプログラムに選抜された受講生の状況を踏まえてチューニングしているのです。ですから、受講生は1期あたり12~15人に絞っています。効率だけであれば、30~40人一緒に実施することを考えがちですが、それでは全員に目が届かない。1人1人の状態が把握できる人数にしています。このように、最新の外部環境と選抜人財をふまえたプログラムを設計していることも、本プロジェクトの特徴のひとつです。

関さん:

環境が変わるにつれ、当社の経営陣が期待するリーダー像も変化し続けています。企画者としては、それを理解したうえでプログラムを設計する難しさがありますが、伴走してくださる担当コンサルタントの田所さんのおかげで、第4期まで続けられていると思っています。

改めて、当社は事業や地域が多様であるからこそ、Niterraグループとして共有すべき価値観を持ちながら、組織の一体感を醸成することも大切だと思うようになりました。世界各拠点のリーダーが、自らの言葉で組織の方向性を語り、その思いをNiterraグループ全体で共有する環境づくりを大切にしながら、第5期以降もプログラム設計をしていきたいと考えています。

関 友美様
HRコミュニケーションカンパニー 人財開発部 人財育成課 主管 関 友美様

変革には、大胆に考え方を変えられるリーダーが必要

山口さん:

次世代経営人財育成という重要プロジェクトなので、会長や社長も高いコミットメントをしています。集合セッションのうち、初回と最終回は必ず出席しています。また、中間のセッションでも対話の機会を設けています。

経営陣も本気だからこそ、我々企画者が会長から厳しいフィードバックを受けたこともありました。「会社が大きく変革するための経営リーダーを輩出する場なのに、プレゼンテーションが綺麗に収まりすぎている。大胆に考え方を変えられる人財を育成できているのか」と。

このフィードバックがきっかけで、最終プレゼンテーションではユニークさも重視するようになりました。現状の延長戦が正しいと思っていたら、変革は起こらない。それは改善でしかありません。ですから、既存の価値観とは違う視点があるか、会社の新たな変化につながるか、といった観点でも見るようにしたのです。

また、プログラムの由来の地である山口県萩市に訪れたこともあります。外国人はもちろん、日本人も初めて訪れる人が多いので、この地を実際に訪れることで日本の変革を率いたリーダーに思いを馳せ、プログラムの原点に立ち返り、何のために学んでいるのかを改めて考えてもらうきっかけになればと考えました。

人事のPMOにて「萩」を訪問
人事のPMOにて「萩」を訪問

当社は強い既存事業に支えられて成長してきた会社であるため、新たなアイデアを生み出すことに弱い側面があります。さまざまな事業部門や拠点、そして外国人やキャリア採用者など異なるバックグラウンドを持つメンバーと共に学び、現状の延長線上にはないアイデアをお互いから得ることで、既存の考え方に囚われずに変革を導く経営リーダー育成をしています。

プロジェクトの成果

自らのJIKU(軸)を持ったグローバルリーダーとして活躍

山口さん:

本プロジェクトはこれまで52名が参加し、グローバルリーダーとして活躍しています。例えば、当社のRHQ(地域統括本部)体制においては、各拠点の長をHAGIの卒業生が務めています。また、新規事業のリーダーも外国籍の卒業生が担うなど、HAGI卒業生がリーダーとして活躍する事例が増えています。

自動車の電動化や半導体需要の拡大といった激しい変化が起きる中、当社の経営リーダーには課題そのものを見つけ、利益創出と社会貢献を両立することが求められます。本プロジェクトの卒業者がこれらの変化を認識し、組織を活性化する様子が見られつつあります。

こうした成果が出ているのは、グロービスのファシリテーターが、自らの殻を破ることに苦戦する受講者を深掘りし、内面を引き出す問いかけを続けてくれたことが大きいと思っています。経営者育成の豊富な知見に基づいた支援をしていただいていることに感謝しています。

山口 智弘様
上席執行役員 グローバル戦略本部 人事戦略室管掌 HRコミュニケーションカンパニープレジデント 山口 智弘様
関さん:

受講者同士の事業部門や地域を超えた繋がりも生まれています。その一例として、新規事業のリーダーが、本プロジェクトで一緒に学んだ製造部門のリーダーにコンタクトし、実務での連携に発展しました。これまでは、事業間、あるいは地域間の横の連携は十分ではなかったので、大きな変化です。

第4期の終了後、過去の受講者が一堂に会するアルムナイを開催しました。一人ひとりのJIKU(軸)を改めて共有するとともに、会長・社長・副社長を交えたパネルディスカッションを行ったのです。期を超えてメンバーが交流し、その後も関わりを持っている様子を耳にすると、企画者としては嬉しいものですね。アルムナイメンバーにとっては自らのJIKU(軸)を改めて考える場になりましたし、世代を越えて共通言語で語り合えることを思うと、本プロジェクトの意義を改めて感じている次第です。

関 友美様
HRコミュニケーションカンパニー 人財開発部 人財育成課 主管 関 友美様
山口さん:

加えて、HAGIプログラムを修了したメンバーには内面の変化を感じています。自分自身が部門を率いて、ミッションへコミットするのだという気持ちが高まっているのではないでしょうか。

今後の展望

Niterraにとって、変えるもの/変えないものを見極める

山口さん:

今後取り組んでいきたいのは、本プロジェクト修了後のフォローアップです。受講者が希望するキャリアもふまえながら、選抜・プログラム実施・フォローアップまでのサクセッションプランを一気通貫で設計し、修了後もストレッチできる業務アサインや継続学習の機会提供、定期的なパフォーマンス評価などを取り入れていきたいと考えています。

関さん:

人財育成全体の観点では、本プロジェクトを含めた各施策の整合性を図っていきたいと考えています。社員がどのようなキャリアを歩むのかが明確になるよう、育成体系を整理することに来期から取り組む予定です。

山口さん:

組織規模が大きく、歴史も長い当社が変革をするにあたって大切なのは、変えるもの/変えないものを見極めることです。唯一絶対の正解がない世の中になり、当社も事業や人財の多様性が増しています。その中で、Niterraにとっての多様性は何か、守るべき倫理観は何かといった、当社としての基準を明確にすることが求められていると考えています。

グロービスには、個別の育成施策の観点を超えて、Niterraという会社の人財育成全般を支援いただくことを期待しています。組織全体や、社員のキャリアを見据えた課題や解決策を第三者視点で提言いただき、本プロジェクトのようにゼロベースで議論しながらプログラムを立案していきたいと思っています。

集合写真
担当コンサルタントの声
板倉 義彦 板倉 義彦
板倉 義彦

自動車産業の大変革の中でも持続的成長を実現するために、いかにしてNiterraグループの経営を担う志と使命感を持つグローバル経営人財を育成することはできるのだろうか──。Niterra様が見出した解は、世界中から集まったグローバル経営人材候補者たちに、「あなたのJIKU(軸)は何ですか」という答えのない問いに向き合い、自身のリーダーとしてのあり方に徹底的に考え尽くす場を創ることでした。
世界各拠点から、選抜された人財が集うプログラムに、松下村塾に由来する「HAGI」という名称を冠し、敢えて「JIKU(軸)」という日本語をそのまま使うなど、そこには日本発のグローバル企業としての拘りと想いが込められています。そのようなプログラムを我々グロービスに任せていただけたことは大変光栄に存じます。
これからも人材・組織能力開発の側面から、Niterraグループの変革に資するプロジェクトへの伴走ができたら幸いです。

田所 祐輝 田所 祐輝
田所 祐輝

本プログラムは、連結1.5万人を超えるNiterraグループを代表するリーダー層の方々にご参加いただいています。自らの「JIKU(軸)」を見つめ直し、「志」を深める場を作るべく、直近の第4期では“気”の扱い方次第で発揮できる力が大きく変わることを体感いただけるよう、合気道の体験機会を取り入れるなど、内面からの変革にこだわりました。
リーダーとして、各自が日々どのような心構えやビジョンを持ってマネジメントに取り組むかは、Niterraグループが描く未来の実現に大きく影響します。そのような場を共に築く機会をいただけることを大変光栄に思いますし、今後もNiterraグループの変革と成長に向けて、リーダーの皆さまの挑戦を支えられるよう、私自身も成長を重ねて貢献し続ける所存です。

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