- HRBP
オペレーション重視の視座から脱却し、経営の参謀役としての役割を担うビジネスパートナーへ
事業部門の人事担当者一人ひとりが、人事上の手続きを単に処理するだけのオペレーターとしてではなく、組織経営を意識し、そこに介在する人事課題の解決に向けて能動的に働きかけていく、組織経営者の「参謀役」として活躍する自律人財となるためにーー。HRBPへの第一歩として取り組んだ人事担当者向けプログラム(以下、本プログラム)について、その導入の背景や成果、今後の取り組みなどを、KDDI株式会社 ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 EX推進部2グループリーダー 石井旭様と、同部 3グループリーダー 須田祐一郎様に伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)
背景と課題
研修前に抱えていた課題感
石井さん:弊社には本社コーポレート部門と各事業部門の双方に人事担当が配置されています。人事課題の解決に向けて全社最適を実現するべく、双方が連携しながら対応を進める体制、関係性が構築されています。コーポレート部門人事からの業務依頼・指示に対し、我々事業部門人事は期日通りに、求められるアウトプットを返すことに注力していました。我々はオペレーションをする立場であり、依頼された仕事を正確に着実にこなすことがとにかく大切。150点を目指す必要は無く、良くても悪くても100点を取り続けることが求められているのだと。
コーポレート部門であれ事業部門であれ、人事担当者の本来の役割とは、担うべき組織範囲における経営の参謀役として、採用・配置・評価・育成といった人事領域課題を戦略的に構築・解決・運営することです。ただ、人事オペレーションに専念し、その環境下に長きにわたり慣れ親しんだために、本来の役割(機能)を見失っていたように思います。
このような状況に違和感を抱くようになったのは、「自律人財」の育成強化が全社方針として言われるようになった数年前からでしょうか。社内外で活躍する自律人財とは何か、どのように課題を把握し、どのように解決し、どのような成果をもたらしているのかについて、考えていく機会が全社的に、全従業員に向けて提供されたわけです。
これが、人事担当者の本来の役割について見つめなおす契機となりました。コーポレート人事の指示や依頼を円滑に遂行しているだけの事業部門人事担当を、「自律人財」であると言えるのか、それが本来あるべき役割なのか、と。さらには、そもそも人事担当者に対して、本来の役割とは何かを考える機会を提供してこなかったのではないか、そのためにどう行動すべきか分からず、オペレーション業務に専念することを是としていたのではないか、と。
須田さん:確かに、我々人事担当は、事業部門メンバーに対して各種研修を用意し、社内外の状況や他社・他者との比較、新たな知識などを学ぶ機会を用意していますが、同じように体系だったインプットの機会を、我々人事担当者向けには用意していませんでした。そこで今回、現状は本来の姿ではない、このままではいけないんだと気付いてもらうために、事業部門人事担当者向けプログラムを立ち上げたのです。
研修前に考えていたゴール(参加者の目標像)
石井さん:最終的なゴールは、人事担当者がHRBPとして組織における人事課題の解決に向けた戦略的役割(参謀役)を担うこと。今回はその第一歩として、戦略人事の意義を理解し、その役割を担おうと意識を変えること、人事としてどのような行動をすべきかを理解したうえで、自分自身を振り返ることとしました。
戦略人事をテーマにした研修を通して、部門人事はオペレーションをする役割だけではないことに気付いてほしいと考えました。会社の戦略に則って、人事関連業務の観点から組織運営をどのように支えていくかを考えるフレームワークを理解することで、新たな視点を持ってほしかったのです。
須田さん:そのために重視していたことは、豊富な社外事例から導き出された示唆と研修プログラムの高い完成度。今まで社内に閉じた環境下で、経営戦略観点からの人事業務を経験していない事業部門の人事担当者が新たな気づきを得るためには、質の高いインプットをする必要がありました。そのため、本テーマを扱う複数社に打診をし、度重なる協議を経た結果、今回の導入部分についてはグロービスへお願いすることとしました。
決め手となったのは、我々の意図を精度高く汲み取り、適切な提案をしてくださったことですね。どこに重きを置くのかを明確にし、体系立てて企画してくださいました。豊富な社外事例から弊社の現状課題の解決に適したテーマをご用意いただけたこと、経験・実績のある講師陣をアサインいただいたこと、結果、魅力的な(面白そうな)研修になりそうと感じられたことも大きな要因ですね。
研修企画にあたり、こだわった点
須田さん:こだわった点は、経営と密接に関係しながら人事施策の企画・実施に取り組んでいる他社の取り組み事例に触れ、刺激を受ける機会を作ったことです。各回にそれぞれテーマを設け、他社事例を用いたケーススタディを通して深堀をし、弊社との相違を明らかにしながら本来あるべき人事担当としての役割とは何かを紐解いていきました。さらには、他社で戦略人事に取り組まれている方として、グロービスのご紹介で東京海上日動火災保険の菊地さんにご登壇いただき、想いや実体験を直接語っていただきました。
(編集者注:菊地さんは「地方創生プロジェクト」もご担当されています。菊池さんのインタビュー記事はこちらからご確認いただけます)
実際に菊地さんのお話を伺ってまず思ったのは、そこまで経営に関与しているのかという驚きでした。我々も人事関連業務上、必要に応じて事業部門の経営層に判断を仰ぐことはありますが、菊池さんは、常に人事課題がないかを注視し、何か疑念があればその解決にむけて適宜、本部長や事業本部長への能動的な働きかけを日常的に取り組まれていました。
菊地さんのお話に大いに賛同し、共感した受講者が多く見受けられました。大規模な会社であそこまで熱量を持って人事業務に取り組めるものなのかと、刺激を受けたようです。一方、その熱さになじめなかった受講者もいました。確かにそうあるべきだとは思うが、「うちとは違う」「そこまで求められていない」と一歩引いて捉えたようです。ただ、マイナスに捉える受講者がいることも、当然ながら想定の範囲内。菊地さんのお話を通じて、考える/議論するきっかけ、新たな視点、刺激を提供できたと考えています。
検討プロセスと実施内容
研修プログラム導入にあたり、感じていた心配ごと・懸念点
石井さん:2月末から3月にかけて、年度末の繁忙期に研修を開催するのはどうなのか。本業への影響を考慮して業務時間終了後の講義としたものの、18時から21時まで3時間に及ぶ長丁場で本当にいいのか、さらには事前課題もあるため研修時間以外にも負荷をかけてしまっていいのか、いろいろと心配をしていました。「なんでこんな時期に、こんな負荷をかけてまでやるんだ」と思われたらどうしようかと。
ですが結果として、皆さん楽しんで参加していただきました。新年度を迎える前に人事担当としての考え方を見直すことに賛同いただけたこと、またいわゆる「お勉強」をして頭でっかちで終わるのではなく、アウトプットの場もあって面白い研修として受け止めてもらえたことが、奏功したようです。
私は以前、グロービスの「クリティカル・シンキング」を受講したことがあります。事前に課題と向き合って自分の考えを言語化して、そのうえでディスカッションをする授業です。
アウトプットがあると、後から見返すこともできますよね。だからこそ気付きが多く、得られるものが多くあったと感じています。この独特の手法はとても効果的で、今回のプログラムも、グロービスのノウハウが多く詰まった内容だったと思っています。
それと、研修を企画した我々にとっても忙しい時期ではありましたが、研修管理システムを用いた受講管理や当日のグループ分けなど、運営面をグロービスに管理いただくことで、運営側の負荷が大幅に軽減されたことも、大変助かりました。
成果と今後の展望
研修後の受講者の変化
須田さん:今回の研修は最終的なゴールに向けた導入にすぎません。今回の研修だけで、人事担当者が本来あるべき役割を発揮できるわけではありませんし、オペレーション業務から脱却できるわけでもありません。それに、昨年度から今年度にかけ、社内人事制度が根本から見直される大転換期を迎えており、その対応オペレーションにかかりきりになっているのも正直なところです。
ただ、日々の業務における疑義がそのまま放置されず、人事担当者間で協議・共有される機会が格段に増えたように思います。これまで業務上のやりとりしかしていなかった関係性でしたが、今回、長い時間をかけて深い議論を重ね、お互いの人となりを理解することができた。結果、事業本部横断での研修を行ったことで、各本部の人事担当者同士の横連携が強化された。これはとても素晴らしい副産物を得たと感謝しています。
石井さん:戦略人事の考え方を知り、自分たちの今までの業務を振り返る、という目的は達成できました。受講者は皆、オペレーターのままではいけないのだと痛感したようです。
特によかったのが、講師のファシリテート。どうしても受講中に他責になってしまう我々に対して、「これをやるのは部門人事のあなた達、戦略を実現していくのはあなた達ですよ」と、自責のための投げかけをしてくださいました。その一言が心にグサッと刺さり、「自分の立場でできることって何だろう」「自分から情報を取りにいかなきゃいけないんだ」と深く気付けました。
皆が真剣に考える正のスパイラルが、高速で回っていましたね。たとえば、私はある受講者の感想が印象に残っています。その方はテクニカルスキル研修を企画・実行している人事担当者ですが、「研修は、採用・配置・育成・評価の人事サイクルと密接に関係している、そのサイクルの中で検討するべきだと分かった」と言っていました。そもそも研修は、経営目標を達成するため、戦略を実現するために必要な人財を育成することを目的と考えがちですが、その先にある評価やこれからのキャリア設計にも密接にリンクし、「自律人財」の育成につながっていることを改めて認識したようです。
菊地さんの事例も「こんなにうまくいくはずがない」とマイナスに捉える人がいたとしても、「うちがやるにはどうしたらいいのだろう」などと考えること自体に意味があるのです。考えないと、結局オペレーションをする担当者として言われたものを右から左に流すだけになってしまう。何の課題も感じないのが、一番の問題ですから。
受講者のマインドが変わった兆候としては、人事制度が変わるにあたって事業部の人事担当者同士で課題を共有する場を作れないかと相談が来たことでしょうか。今までは悩みを相談するにも至らず、決められているからやるという雰囲気でしたから、これは大きな変化です。他本部がどうなっているのか知りたいという声が出てきたのは、あの研修で横のつながりができて「もしかすると同じ人事担当として同じ課題意識があるのでは」ということが分かったからだと思います。
まずは人事担当者同士が仲間として悩みを共感することから始め、ここからHRBP(人事ビジネスパートナー:企業戦略・事業戦略に基づいた人事戦略の構築と実行を担う役割)になるために、どう一歩踏み出すかを考えるアクションにつながることを期待しています。
今後の取り組み
須田さん:第一弾として、人事担当者向けの導入研修を終えました。まだまだきっかけを提供できたにすぎません。今後は、評価や異動、育成などを切り口にテーマ別に深堀するのか、はたまたあらためて人事関連業務全体を俯瞰してその関連付けを強化するのか、いろいろな考え方がありますね。
それに、我々EX推進部が取り組むべき育成課題は、この他にも若手リーダー育成、女性リーダー育成、シニア層活躍支援、グローバル人財育成と山積しています。
石井さん:どのような課題であっても、それを解決しようと切に想うなら、実現するために必要なノウハウをインプットしようとするはずです。一連の学習フローを事業部門のメンバーに対して効果的かつ効率的に提供・導入するために、自分たちで考えなければいけない部分(内製)と外部の力をお借りする部分とを明確に棲み分けることが必要です。社内で有していない知見が必要なときは外部のお力を大いに借りながら、視野をどんどん広げていきたいと考えています。
本プログラム事業部門の人事担当の方々に、『戦略人事』=『経営の参謀役となって戦略的役割を担う』目線を養っていただくプログラムです。そのためには、いかに人事の業務を他責でなく自責でとらえていただけるかが、大きなポイントでした。
プログラムが進むにつれ、受講者の皆さまの発言の質が変わっていったことを、よく覚えています。DAY1では「経営が」「本体人事が」「そうはいっても上手く行かない場合は…」といった声も聞かれましたが、DAY3あたりから、「人事として不満ばかりではいけない」「状況に甘えているのかも」というコメントが出るようになってきました。最終日には、皆さんから「私は…したい」「私は…する」と、ご自身を主語にした意見を聞くことができ、非常に頼もしく感じました。
今後もKDDI様の自律人財の育成や、事業部門の人事担当の皆さんがOne Teamとなって組織運営にあたることを目指す営みに、伴走させていきたいと考えております。たとえば組織文化づくりという観点では、講師との読書会を企画し、皆さまからはご好評をいただきました。研修の企画に閉じず、さまざまな支援の提案をし、KDDI様の成長を横で見守れるパートナーとして認めていただけるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。