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「第二の創業期」に挑む日立建機の人財戦略 ~Kenkijinスピリットと一貫したリーダー育成

日立建機株式会社 2025.06.30


建設機械の開発・製造・販売を通じて、社会の発展と人々の暮らしを支え続けてきた日立建機株式会社様。グローバル、そして日本を代表する建設機械メーカーとして、現在は24カ国以上で事業を展開し、存在感を高めています(2025年6月現在)。

経営環境が大きく変化する中、同社は人的資本への取り組みを加速させる必要性を感じ、「人・企業力の強化」を経営戦略の柱の一つとして明確に位置づけました。

本記事では、その経営戦略に連動した人財育成の取り組みについて、人財開発統括部 教育企画部グループの陳 偉玲氏にお話を伺いました。

はじめに:本プログラムの概要

企業が持続的に成長し、価値を高めていくためには、社員一人ひとりの成長と、それを支える戦略的な人財育成がこれまで以上に重要となっています。

従業員の65%以上が海外拠点に所属し、売上高の80%以上を海外市場で占めるなど、グローバルに事業を展開する日立建機。「人・企業力の強化」の方針のもと、国や地域を越えたグローバルな協働、そして変革を牽引できる人財の育成を目的に、経営層・中間管理職・中堅〜シニア層といった各階層に実施するリーダーシップ開発プログラムを、グロービスと共に構築しています。

本プログラムは、海外拠点のメンバーも含めたグローバル全体で実施しました。単なる人財の能力開発にとどまらず、日立建機グループ全体のマネジメント力を底上げし、グローバル組織としての方向性を一体化する役割も担っています。

インタビュー:プログラム実施の経緯

2022年、日立建機は親会社である日立製作所から分離独立。新たな株主構成のもと独立企業としての基盤を整えていく、「第二の創業期」と呼ぶべき変革のフェーズに入りました。

グローバル市場で持続的な成長及び価値向上を実現するためには、社員一人ひとりの成長が欠かせません。多様なバックグラウンドを持つ社会価値・市場価値の高い人財が、自らリーダーシップを発揮する「Lead the Self」のマインドを持って活き活きと活躍し、新たな価値を生み出す企業文化を醸成すべく、人的資本への取り組みを加速する必要性を感じていました。

そこで、同社はグローバル成長のための重要な取り組みとして、リーダーシップ開発プログラムの実施を決定。「Kenkijinスピリット」を軸として、国や地域を越えた協働の促進、そして変革を牽引できる人財の育成をめざしています。

グローバルに組織をつなぐ「Kenkijin スピリット」の浸透

陳さん:

グローバルに事業を展開する中、共通の価値観を世界中の拠点で共有することは、多様な人財を一つに結び付けるうえで欠かせない要素となっています。日立建機におけるKenkijinスピリットは、単なる理念にとどまらず、リーダーシップや企業文化の根幹をなす存在です。
「Kenkijin」とは「建機(Kenki)」と「人(Jin)」を組み合わせた言葉で、日立建機グループで働く仲間を表します。Challenge、Customer、Communicationという3つのCを基盤とした「Kenkijinスピリット」は、私たちがどのように働き、どのように共に成長していくかを定める行動指針になっています。

Kenkijinスピリットの浸透は、人事戦略の中核を担う重要な取り組みです。プログラムを通じて、世界中の社員が事業戦略だけでなく、企業の中核をなす価値観を共有し、共に未来を創っていくことを目指しています。

プログラムの主な内容

経営層から中堅層まで、3階層に一貫したリーダー育成体系

日立建機はグロービスと協働し、グローバルに活躍するリーダー人財の育成を目的に、3つの階層(経営層・シニアマネジメント層・中間管理職層)への育成プログラムを設計・実施しました。これらのプログラムは、それぞれの階層に応じて、地域を越えて協働し成長をけん引するためのスキル、マインドセット、グローバルネットワークを身につけられるように構成しています。

陳さん:

本プログラムでは、体系的な学びの場を設計することを意識しました。単なるリーダー研修にとどまらず、参加者が国や地域を越えてネットワークを築きながら対話し、真の意味でKenkijinスピリットを体現できる存在になってほしいと考えています。

GALT(Global Advanced Leadership Training):経営層を対象に、トップマネジメントに求められる戦略的思考や意思決定力を強化するためのプログラム。

GALT(Global Advanced Leadership Training)


KLDS(Kenkijin Leadership Development Session):シニアマネジメント層を対象とし、Kenkijinスピリットに根ざしたリーダーシップの原則を軸に、部門を越えたコラボレーションを促進することを重点に置いたプログラム。

KLDS(Kenkijin Leadership Development Session)


BSEP(Business Skill Enhancement Program):中間管理職層を対象に、将来より大きな責任を担うために必要となる、ビジネスおよびリーダーシップスキルを身につけることを目的としたプログラム。

BSEP(Business Skill Enhancement Program)


プログラムの設計及び実行において、目的と成果に対する期待値を明確にしておくことは非常に重要です。事務局を担う人財部門とグロービスは緻密に連携し、プログラム参加者、経営陣、そして各地域拠点が、プログラムに対して共通の理解と方向性を持てるよう調整しました。

陳さん:

私たちは、参加者一人ひとりが自らの成長に主体的に取り組むことを目指しています。リーダーシップの理論を学ぶだけでなく、実際のビジネスの中でどう活かすかを考え、経営層との対話を通じて学び、異なる地域の仲間とのつながりを築くことが大切なのです。

共通のビジネス言語を築き、実践に移すリーダーシッププログラム

プログラム期間中、参加者はリーダーシップに関する課題に取り組み、経営陣へ学びをプレゼンテーションし、他地域の参加者との議論にも積極的に参加することが奨励されます。プログラムの最後には取り組みの集大成として、これまでの学びをどのように実践に移したのか、そして自らの成長について振り返りを発表します。

また、KLDS、BSEPプログラムでは、グロービスのオンライン動画学習ツール「GLOBIS Unlimited」を活用しています。参加者は、プログラムの事前学習や振り返りに活用できるほか、自身のペースや学習ニーズに応じて自由かつ柔軟に新たな学びを得られます。最近では、アメリカ、インド、ザンビアのグループ会社でも導入が進められています。

陳さん:

GLOBIS Unlimitedは単なる学習ツールではなく、日立建機グローバル全体で共通のビジネス言語を築くための基盤と位置づけています。

経営陣の巻き込みが、企業のビジョンと育成施策を結び付ける

陳さん:

本プログラムの成功には、経営陣の理解と積極的な関与が不可欠でした。GALTやKLDSの企画段階から社長を巻き込み、ご自身の経験を共有していただくとともに、参加者との重要な対話にも積極的に入っていただいています。プログラム最終日には、参加者が日立建機の将来戦略とその実現に向けた自身のリーダーシップアプローチについてプレゼンテーションし、社長をはじめとした経営陣との意見交換を行います。

このような経営層による直接的なプログラムへの参加は、次世代リーダー育成に対する日立建機の強いコミットメントを示すものであり、企業の戦略ビジョンと育成施策との一貫性を保つ上でも重要な役割を果たしています。



プログラム実施における難所

グローバル全体で一律のリーダー育成プログラムを実施するにはさまざまな課題が伴います。地域ごとの事情を踏まえつつ、全体としての整合性を保つこと、文化的・言語的な違いを乗り越えること、そして経営層の協力を得ること、すべてが育成プログラムを実施する上で乗り越えなければならない重要な課題でした。

陳さん:

最大の課題のひとつは、グローバル各拠点でプログラムの意義を適切に伝えることでした。地域ごとにビジネス上の異なる優先事項がある中で、リーダー育成を「本社主導の施策」としてではなく、「未来への投資」として捉えていただく必要があります。

また、プログラムの長期的な効果を測定することも、継続的な検討課題です。参加者の意識やスキル、行動にどのような変化があったのかを見極めることは、最も難しい部分の一つです。グロービスと連携してセッション後にアンケートを実施していますが、本当の変化は現場での実践を通じて表れてくるものです。ですから、グローバル全体で価値ある学びを届け続けるべく、プログラムの改善・アップデートや、フィードバックへの対応を継続的に行っています。グロービスと協議し、より多くの参加者が学びを最大限に得られるよう改善を重ねているのです。

日立建機から見た、人財育成パートナーとしてのグロービス

課題に即した研修プログラム設計と、進化を止めない育成施策

日立建機とグロービスとの協業は2013~2015年に実施した「KMDS(Kenkijin & Upper-Management Development Session)」プログラムに端を発します。世界各地から優秀なリーダーが一堂に会し、多様なグローバル環境に適応し、変化を起こせるイノベーティブなマインドを持つリーダー「Innovating Kenkijin」の育成を目的とした取り組みでした。この協業をきっかけに、グロービスは日立建機のリーダー育成における重要なパートナーとして、現在に至るまで、プログラム設計・運営の中核を担っています。

陳さん:

グロービスは企画段階から当社と緻密に連携し、日立建機における実際のビジネスニーズに基づいて、課題に即した研修プログラムを検討し、一緒に磨き上げてくれました。また育成プログラムを立ち上げた際には、その価値を各国の拠点に丁寧に伝える役割も支援してくださったり、コロナ禍におけるオペレーションの急な変更にもスムーズに対応いただけました。このような柔軟性とスピード感のある対応には、とても助けられています。

プログラムは初年度から継続的に参加者の声を反映しながら改善を重ねており、グロービスの進化を止めない姿勢が体現されています。グロービスは、戦略的なコンテンツの改善、専門性の高いファシリテーション、そして柔軟な対応力によって、これらのプログラムをしっかり支えてくれています。

世界各地でスムーズな連携を可能にする、海外拠点の存在

陳さん:

加えて、グロービスがグローバルに複数の拠点を展開している点もとても助かっています。これにより、当社の各国拠点が、グロービスの現地のコンサルタントやファシリテーターと直接連携できています。私たちのように海外グループ会社を複数持つ企業にとって、どこにいてもスムーズに連携できる体制があるというのは、非常に大きなメリットです。その結果、グローバル全体でリーダー育成プログラムの一貫性を保ちながらも、各地域の事業実態に即したアプローチを取ることができています。

また、グロービスの発案により始まったKLDS Alumni network (同窓ネットワーク)は、プログラム参加者同士が修了後もつながり続けられる仕組みとして、社内ネットワークの強化にとても役立っています。過去の参加者と現在の参加者が定期的に交流しながら、リーダーシップの実践や学びを継続できる仕組みとなっています。

グロービスは単に研修を提供するだけではなく、私たちと一緒に考え、時には思考に挑戦を与え、常に価値ある示唆をもたらしてくれる存在です。まさに双方が貢献し合う「真のパートナー」だと思います。もしグロービスを3つの言葉で表すとすれば――プロフェッショナル、カスタマイズ、イノベーティブですね。

今後の展望

陳さん:

日立建機は、新たなフェーズを迎える中で、リーダーシップ開発への取り組みをさらに強化していく方針です。中長期的な成長を見据えたとき、グループのグローバル人財への投資は引き続き極めて重要テーマです。今後は、研修の機会の拡大、デジタル人財育成の取り組み、地域別プログラムの強化といった施策にも取り組んでいく予定です。グロービスのグローバルネットワークを活かしながら、各地域のニーズに寄り添った学びを提供しつつ、グローバルで一貫したリーダー育成方針に基づき取り組みを進めていきます。

現在展開しているリーダーシップ研修についても継続的に見直し、さらなる強化が必要な領域を明確にしていきたいと考えています。将来的には、社内グループの枠を超えて育成の場を広げ、リーダーたちがより多様な視点を得られるようにしたいと考えています。今後も、日立建機の次世代を担うリーダーたちが持続的に成長していける、確かな土台を築き上げてきたいと思います。



集合写真
担当コンサルタントの声
小林 綾 小林 綾
小林 綾

「第二の創業期」という大きな変革にある中、これからの日立建機グループをけん引していく人財の育成に携わる機会を大変光栄に感じています。このような転換期だからこそ、地域や事業の垣根を越えて未来をともに描き、そのビジョンを着実な事業成長につなげていくための対話と学びの場が、ますます重要になると感じます。
陳様をはじめ事務局の皆さまとは、多くの対話を重ねながら、互いの想いや立場を尊重し合いつつ、プログラムの設計に取り組んでいます。プログラムを通じて参加者の皆さまが、未来の経営を担うリーダーとしての覚悟や熱意をもって学びに臨まれている姿に触れ、私自身も大きな刺激と学びをいただきました。
今後も、日立建機グループの未来を切り拓き、新たな価値を創出するための歩みを支援できるよう、チーム一丸となって尽力していきます。

中島 淑雄 中島 淑雄
中島 淑雄

日立建機様を10年以上担当させて頂いておりますが、同社の素晴らしい特徴を3点お伝えします。一つ目は、経営陣のグローバル人財育成へのコミットです。人財育成を経営戦略の重要な柱と位置付けられている同社では、経営陣が必ずプログラムに参加し、本社の経営状況や方針を直接伝える、受講者からの経営に対する提言を聞いて議論する、受講者のリーダーシップ宣言を直接聞く、といった機会を設けています。二つ目は、本社人財部門と各国のグループ企業の人事が密に連携をしていることです。毎年行われるグローバルHR会議を通じて、本社の経営・人財戦略を各地域に浸透すると同時に、各地域の組織・人財に関する課題やニーズを本社が把握し、意見交換します。海外のグループ企業を含め、グローバル全体で組織を良くしていきたい、という日立建機様の想いを感じます。最後に、人財部門の皆様の情熱と行動力です。経営陣や各国のグループ企業と丁寧にコミュニケーションし、3階層のリーダー育成プログラムを常に進化させ続けていることは、本当に素晴らしいと思います。
同社の大切な経営変革に、人・組織の観点から貢献できることを心から光栄に思います。そして、私たち自身も伴走を通じて、共に進化し続けていきたいと思います。

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