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原理原則を言語化し“行動”を変える――味の素が貫く内省と実践のリーダー育成

味の素株式会社 2026.03.25
味の素グループ様


次世代リーダー育成に取り組む一方で、「研修後、現場での行動が変わらない」「サクセッションプランと育成施策が分断されている」といった課題を抱えている企業は少なくありません。味の素グループ様もまた、こうした課題に向き合いながら、「味の素グループリーダーシップセミナー(AGLS)」(以下、本プログラム)を通じ、18年間にわたりリーダー育成を進化させてきました。2008年から350名以上のリーダーを輩出してきたこのプログラムは、単なるビジネススキル習得に留まらず、リーダーとしての「原理原則」を確立し、組織変革へと繋げる場として、同社における次世代リーダー育成の中核を担っています。

グロービスは、本プログラムの立ち上げ当初から伴走を続けてきました。長年続くプログラムをどのように磨き上げ、時代の変化に合わせて進化させてきたのか。前半では、コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ 兼 キャリア開発グループ シニアマネージャー 目黒 淳様、マネージャー 伊藤 有加様、山田 明菜様よりプログラムを企画・運営しているお立場からお話を伺いました。そして後半では、2016年に本プログラムへ参加し、現在は人事部次長 兼 グローバル企画グループ グループ長を務める砂田 和伸様に、受講前後で「自身のリーダーとしての在り方を見つめ直す契機になった」というリアルな体験談と、現在の人事責任者としてのお立場から本プログラムに対する想いを語っていただきました。(ご所属・お役職はインタビュー当時)

はじめに:本プログラムの概要

味の素グループ様では、同社を牽引する経営人財、それに資する基幹人財を安定的・継続的に育成する体系として、2016年に「Ajinomoto Group Academy(味の素グループアカデミー)」を開講。「味の素グループリーダーシップセミナー(AGLS)」は2008年からスタートしており、今は「Ajinomoto Group Academy」の中核プログラムの1つに位置付けられています。

本プログラムは次世代経営リーダー候補者を対象に、単なるビジネススキル習得に留まらず、徹底した内省と実践を通じて人間力・リーダーシップを強化する取り組みです。ビジネスパーソンとしての「原理原則」を言語化するとともに、味の素グループ様ならではの価値観を備え、周囲によい影響を与えるリーダーになることを目指します。

グロービスは味の素グループ様と共に本プログラムの立ち上げを担い、以後18年にわたり、企画・運営に携わっています。環境変化やその時々の課題意識に応じて内容をブラッシュアップし続けており、現在は、原理原則の磨き込みから自身の行動変容に至るまでを徹底した約1年間の伴走型プログラムとなっています 。

<プログラム全体像>
<プログラム全体像>

インタビュー:プログラムの主な内容

原理原則を“実践”に昇華させるプログラム設計

伊藤さん:

本プログラムの目的は、「自身の内省と、自職場への働きかけを通じてリーダーシップの土壌を作ること」です。手法は時代とともにアップデートし続けていますが、この根幹は18年前から変わらず守り抜いてきました。

プログラムでは、経営の良書および第一線で活躍する社内外のリーダーの講演から刺激を受けながら、自分は何にこだわり、どのような原理原則を持つべきかを徹底的に内省します。

味の素グループでは、会社全体で社員一人ひとりが「My Purpose」を紡ぎ、会社としての「Our Purpose」との重なりを言語化するという取り組みを行っています。

加えて、本プログラムに参加する次世代経営リーダー候補には、自組織や周囲に対して影響力を及ぼし、変革を起こしうる人財になるための実行力が必要です。ですからプログラムには、自分が磨き上げた原理原則を職場で実践し、周囲を巻込み組織を動かしていく「共感活動」までを盛り込んでいます。

目黒さん:

大切なのは、原理原則を踏まえてどのように行動変容を起こし、変革していくかです。私たちはこの実践を「共感活動」と呼んでいます。しかし実践していくと、「人がなかなか動かない」「組織は簡単に変わらない」という壁に必ずぶち当たります。よって、2024年度からは、プログラム最終日までのインターバルを5か月設け、共感活動の振り返りを行う設計へと変更しました。最終回には、インターバル期間の実践において生じた葛藤を分かち合い、自身の行動様式を徹底的に振り返る。このように実践と内省を行き来しながら約1年という長い時間をかけ、揺るぎないリーダーシップを定着させています。

山田さん:

最終回では共感活動でできたこと・できなかったことを振り返るだけでなく、「免疫マップ(※)」などのセオリーも取り入れて整理します。自分で行動を掲げたのにも関わらず、その実践を阻害する要因は何なのか。新しい観点も付与しながら、なぜ踏み出すことができなかったのか真因を徹底的に探っていきます。そうすることで改めて原理原則への学びも深まり、またリーダーとして走り出せるようになるのです。

伊藤さん:

また、原理原則を磨くといっても、全員が同じスピードでできるわけではありません。一人ひとりの進み具合はもちろん、深さも異なり、参加者はそれぞれにモヤモヤを抱えています。そんな中でもグロービスは常に参加者の状態を見極め、柔軟に対応してくださっています。Day1よりもDay2、Day2よりもDay3と、参加者それぞれが自分自身に向き合える形へと仕立てていただけることが、本当にありがたいです。まさにライブな感じですね。

コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ 兼 キャリア開発グループ シニアマネージャー 目黒 淳様
コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ 兼 キャリア開発グループ
シニアマネージャー 目黒 淳様

育成を“完成形”にしない―タレントマネジメントと繋がる人財開発

本プログラムの特徴は、特定の企業文化に依存した取り組みではなく、 「原理原則の言語化」「実践と内省の往復」「タレントマネジメントとの接続」という、 多くの企業に共通する課題に向き合っている点にあります。

伊藤さん:

18年という歴史を通じてプログラムとしての完成度は高まっていますが、私たちはこれを完成形とは考えていません。時代や経営環境の変化、そして参加者のレベルに合わせて、常にブラッシュアップし続けています。

近年では大きな3つのアップデートを行いました。1つ目はサクセッションプラン(後継者育成計画)との連動を強化させたことです。現在は次世代リーダー候補者から選抜し、育成から配置へと繋げるタレントマネジメントの一環として、本プログラムを再定義しました。

2つ目は、実行力へのフォーカスです。先ほど述べたとおり最終回までのインターバル期間を5か月間設け、現場で実際に組織を動かしながら原理原則を磨き続ける共感活動までをプログラムに組み込み、自分自身の行動様式として定着させていく設計にしました。2025年2月に社長に就任した中村は構想力と実行力を高める重要性を発信しており、プログラムを企画する立場としても、これら2つの力を改めて重視したいと考えています。

そして3つ目が、ビジネスリテラシーの強化です。組織での実行力を高めていくには、リーダーとして備えておくべき最低限のビジネスリテラシーが不可欠です。もちろん今までにもあったのですが、本人任せではなく、職場でしっかり実践できるまで定着させることを目標に、ビジネスリテラシーの強化プログラムを組んでいます。具体的にはまず、グロービスのアセスメント・テスト「GMAP」を活用して自身の現在地を客観的に把握します。そのうえで上司と対話を行い、組織を動かすために自身で強化したいスキルを明確化。これをもとに各々の学習プランを立て、グロービス学び放題にて学習を開始します。知識を現場で使える知恵へと昇華させる狙いです。

2025年度AGLSの様子
2025年度AGLSの様子

プログラムの成果

一人ひとりの変容が積み重なり、組織の文化になる

伊藤さん:

企画者として本プログラムに携わる中で印象深いのは、1年間における参加者の変化です。序盤は戸惑いがあった参加者も、社内外のリーダーの講演や対話を通じて「原理原則とはこういうことか」と、自身の言葉として腹落ちした瞬間の目の輝きは、何度見ても感動します。人が変わっていく瞬間に立ち会い、その後の行動変容まで伴走し続けられることは、事務局として何にも代えがたい喜びであり、本プログラムを運営する原動力になっています。

山田さん:

私には、変化が非常に印象的だった参加者がいます。初日から活発に発言する参加者が多い中、どちらかと言うと、静かで他の人の発言や動きを尊重される方でした。しかし、本プログラムで自身の内面を深掘りし、職場で共感活動を実践していくうちに、最終日には誰よりも頼もしい発言をされるようになっていたのです。もちろん他の要因もあったと思いますが、「自分は何者か」という内省が人の立ち振る舞いを変え、元来持っていた「芯の強さ」を引き出し、それが周囲に伝わっていく。その過程に立ち会えたことを、本当に嬉しく思いました。

目黒さん:

本プログラムでは、グループ5社から集まった参加者が、会社や組織の垣根を超えて一体となる姿も見られます。ほとんどが初対面のメンバーということもあって最初は遠慮がちな雰囲気ですが、原理原則を磨き合う対話を通じて「将来の味の素グループを背負う仲間」としての絆を強めていく。その後の共感活動でも互いを刺激し、応援し合い、横の繋がりが強固になっていくことを実感しています。

さらに、18年間にわたり継続していると、同期の横の繋がりだけでなく、世代を超えた縦のネットワークも構築されていくという強みがあります。これまでの修了生は350名を超えており、職場の上司や同僚が本プログラムの修了生であるケースも珍しくありません。リーダーとしての原理原則を紡いだ仲間が味の素グループ内のあらゆる組織にいて、それぞれが小さな変革を起こすためにリーダーシップを発揮している。この積み重ねこそが味の素の文化となり、やがて大きな変革に繋がると考えています。

コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ 山田 明菜様
コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ 山田 明菜様

今後の展望

“なんとなく”は続けない―戦略を実現する組織づくりへの挑戦

山田さん:

まずは3つのアップデート(サクセッションプランとの連動、実行力へのフォーカス、ビジネスリテラシーの強化)が、参加者にどうフィットするかをしっかりと見極めたいと考えています。それらを検証し、さらにアップデートをかけていく。それが直近のチャレンジです。

目黒さん:

1年走らせてみると、毎回新しい課題が見えてきます。ですから、“なんとなく”続けていくのではなく、やる意義があるのか検証し続けること。そのうえで、小さくても良いからアップデートを積み重ねていくことが大切だと考えています。

伊藤さん:

中長期的には、プログラムをより有機的なタレントマネジメントシステムとして機能させたいと考えています。本プログラムでの成長を、その後の配置や育成プラン、タレントレビューへと繋げ、味の素グループ全体の人財パイプラインをより充実させていきたいです。

味の素は「2030年ありたい姿」として、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という志のもと、食品事業とバイオ&ファインケミカル事業の事業利益を1対1の比率に成長させるという目標を掲げています。そのためにはサイロ化を打破し、目標実現を加速させるリーダーの育成が必要です。キャリア採用や女性リーダーなど参加者の多様性が高まる中、それぞれの強みを生かしながら、組織に働きかけていけるようなリーダーをいかに創出し続けられるか。グロービスには今後も率直な意見をもらいながら、その実現に向けて伴走いただきたいです。

コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ マネージャー 伊藤 有加様
コーポレート本部 人事部 グローバル企画グループ マネージャー 伊藤 有加様

受講を振り返って ~人事責任者が語る、リーダーシップの転換点~

リーダーとしてのあり方を問い直せた

砂田さん:

私は10年前、本プログラムに参加しました。当時はインドネシアに駐在しており、営業部門の支店長として650名の部下を率いる立場でした。駐在5年目に入り、現地語も覚え、自分なりにリーダーシップを発揮しているつもりでしたが、本プログラムで自身のマネジメントの浅さを突きつけられたことを鮮明に覚えています。できていると思い込んでいたのはマネジメントの“真似事”であって、自分には視座も視野も足りていなかった。自分は本当にメンバーから共感を得てリードできていたのか、自分自身に問い直す機会になりました。

その後、私のマネジメントスタイルは大きく変わりました。インドネシア拠点は海外法人の中でも売上を牽引するような会社だったのですが、私が赴任していた頃にはその業績に陰りが見えていたこともあり、売上を拡大させるために、どうしても短期志向で指示することが増えていたのです。本プログラム参加後は、中長期的なビジョンをメンバーと共有し、「一緒に成し遂げたい」という想いをベースにしたリーダーシップスタイルへと変わりました。部下と正対するのではなく、隣に座って、「同じ方向(景色)を見ようとする」意識を持つようになったのです。メンバーにとっても「そうだよね」と思ってもらえることならば、共感が生まれます。共感を得た組織による活動は推進力を生み出し、やがて加速していきます。私はこれを自分のスタイルにしようと、軸を決めたのです。

次に赴任したベトナム拠点は、業績の低迷にコロナ禍も重なり、厳しい状況にありました。しかし、私には本プログラムで磨いた原理原則という財産があります。自分の中でやるべきことはこれだというぶれない軸があったことで、部下に対しても、短期目標と中長期的な視野を紐付けながら自信を持って語り続けられました。結果として、私の離任後に数字はV字回復し、ナショナルスタッフから「これは、あの時一緒に取り組んだ成果です」とメッセージをもらったときは本当に嬉しかったですね。共感が生まれた組織は強い推進力を持ち、より成長できるのだと実感しました。

コーポレート本部 人事部 次長 兼 グローバル企画グループ グループ長 砂田 和伸様
コーポレート本部 人事部 次長 兼 グローバル企画グループ グループ長 砂田 和伸様

経験を積んだリーダーこそ、「自分を見つめ直す時間」が財産になる

砂田さん:

プログラム期間中、お互いの本音をぶつけ合い、熱く語り合った仲間は、10年経った今でも特別な存在です。当時の仲間と同じ部署で仕事をすることになったり、それぞれ要職に就いていたりしますが、共通の体験があるからこそ深い信頼関係で仕事ができており、互いの視座を高め続ける「戦友」のような関係が続いています。

AGLSに参加するリーダーは、すでに実力がついているため、多くのことを独力で成し遂げられる存在であると同時に、周囲からも頼られる存在でしょう。だからこそ、更なるブレイクスルーを目指した時に、思うような成果が得られないと、原因を環境や他者に求めてしまいがちです。その時一度立ち止まり、「自分に至らなかった点はなかったか?」と徹底的に内省する機会が必要だと思います。

私自身、「このままでは浅い」と気付かされた10年前の本プログラムでの経験が、今でもあらゆる行動の原点になっています。私は、トップランナーこそ、こうした一度「自分を見つめ直す」経験が必要なのだと痛感しました。本プログラムは、この先10年、20年のリーダーとしてのキャリアを支える「軸」を得られる機会になっているのだと思います。

原理原則を磨き抜く時間は、味の素グループのアイデンティティそのものです。いかに鎧を脱ぎ捨て、自分をさらけ出すことができるか。その成果は想像している以上に長く自身の「軸」として支え続けてくれるものになるでしょう。今後も1人でも多くの参加者に同じ感覚を持ってもらえることを期待します。

コーポレート本部 人事部の皆様とグロービスの講師及びコンサルタント
コーポレート本部 人事部の皆様とグロービスの講師及びコンサルタント


※免疫マップ:ハーバード大学のロバート・キーガン教授が提唱した、変化を阻害する「心の裏の目的」を可視化し、自己変革を促すための思考フレームワークのこと。改善目標を明文化し、それを阻害している行動を率直に書き出し、裏の目標をあぶりだす。そこに隠れる“強力な固定観念”を見つけ、検証していくというプロセスです。
担当ファシリテーターの声
板倉 義彦 板倉 義彦
板倉 義彦

ファシリテーターとして私が大切にしているのは、味の素グループのリーダーの皆さんが「自分は何者か」「何のためのリーダーであるのか」を真正面から問い直し、自らの言葉で“原理原則”を打ち立てることです。
経験を重ねたリーダーほど、自分なりの成功パターンを持っています。しかし、本当の変革は、その前提を一度疑い、「自分は本当に周囲を動かせているのか」と向き合うことから始まります。そのために、私たちは本気の対話の場を設計しています。
大切にしているのは次の3点です。
1つ目は、質の高い刺激。良書や社内外のリーダーの言葉に触れ、思考の枠を広げます。
2つ目は、本音の対話。立場を超えて率直にフィードバックし合い、互いの原理原則を磨き合います。
3つ目は、徹底した言語化と内省。何を大切にし、それをどのような行動として示すのか。自らの言葉で語れるまで向き合います。
AGLSは単なる育成プログラムではありません。18年にわたり受け継がれてきた味の素グループの想いの結晶です。350名を超える修了生が、それぞれの持ち場で原理原則を実践し続けている。その積み重ねが文化をつくっています。
私たちはこれからも、原理原則を“行動”へと変える伴走者として、味の素グループ様のさらなる進化に向けご支援してまいります。

担当コンサルタントの声
岩清水 章吾 岩清水 章吾
岩清水 章吾

本プログラムでは、書籍を通じた対話や社内外のビジネスリーダーの講演から得た刺激を起点に、内省を重ね、自らの原理原則を言語化し、現場での実践へとつなげていきます。そのプロセスを、インターバルも含めて約1年半にわたり伴走しています。
その中で、受講者の皆さんが葛藤しながらも自身の在り方に真摯に向き合い続け、軸を明確にしながらリーダーとしての魅力をさらに高めていく姿を目の当たりにしました。その変化の瞬間に立ち会えることが、私の大きなやりがいです。
また、事務局の皆様とは、サクセッションや経営方針との接続も見据えながら議論を重ね、毎年アップデートを行っています。この積み重ねこそが18年の歴史につながっているのだと実感するとともに、その一端を担う責任の大きさも感じています。
今後もAGLSが味の素グループ様の未来を担うリーダーを育む場であり続けられるよう、引き続き全力で伴走させていただきます。

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