- 経営チームの変革
成長し続ける経営チームへの変革を実現した 「経営会議支援プロジェクト」
企業経営において、経営陣全員が同じ目的意識をもち、中長期的な視点で会社の舵取りができる経営チームを形成することは極めて難しいものです。株式会社セガ フェイブ Toysカンパニー様(旧セガトイズ社)では、こうした問題意識のもと、経営チーム変革を目的とした経営会議支援(以下、本プロジェクト)を2018年よりグロービスと共に実施しています。
本プロジェクトの背景にある課題意識やプロジェクト内容、その後の経営チームの変化などについて、プロジェクト当時、同社の代表取締役社長を務めていた宮崎 奈緒子様(現:株式会社セガ フェイブ Toysカンパニー 取締役 常務執行役員Toysカンパニープレジデント)、取締役を務めていた矢島 源一郎様(現:同社 上席執行役員 コーポレート本部 本部長)にお話を伺いました。
はじめに:本プロジェクトの概要
株式会社セガ フェイブ Toysカンパニー様は、知育玩具や電子玩具、リアル型ペットロボットなど多数の商品ラインナップを開発、製造、販売しています。また、「横浜アンパンマンこどもミュージアム」内での店舗事業も手がける企業です
同社では多くのヒット商品を生み出してきたがゆえに、目の前の売上を重視してしまう短期的な視点に偏っていました。中長期での成長を見据えた経営戦略が明確になっていないこと、そのための経営チームの体制が整っていないことに課題感があり、本プロジェクトを立ち上げることになりました。
グロービスは本プロジェクトにおいて経営チームを変革するミッションのもと、役員合宿や経営会議におけるファシリテーターをグロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクターの内田が担っています。
インタビュー:プロジェクト実施の経緯
経営が短期視点に陥っており、持続的に成長できない危機感があった
矢島さん:我々とグロービスさんとの接点は、セガサミーグループで実施している役員層向けの経営塾「里見塾」に私が参加したことから始まります。里見塾はこれまでに受けたことのない学びの場であり刺激的だったため、当時のセガトイズ社内でも行いたいと思い、まず部長層向けの研修について相談しました。当時の当社には全社戦略が無いことが問題意識にあり、それを解決するための研修という位置づけだったのですが、実際に部長層に対して実施してみたところ、このスキルは役員こそ持つべきではないかという話に発展したのです。
当時の役員は決して仲が悪いわけではありませんでしたが、担当部門の役割に閉じてしまいがちで、全社として何をするべきか本音で話す関係性が築けていませんでした。商品を数多く発売し、その中からヒット商品が生まれていたものの、比例して多くの在庫を抱えてしまい、処分することで回復ということを繰り返していたのです。根本的な課題を改善しない限り、当社は持続的に成長できないという危機感がありました。
宮崎さん:今思うと、当時の役員陣は各自が部分最適かつ短期目線になりがちで、全社視点で経営を考える状態になかったように思います。役員ですら、ヒット商品を作り続けなければ会社を存続できないと思い込んでしまっていましたから。
矢島さん:まずは商品数を3分の1ほどに減らす大きな決断をし、財務的な課題を乗り越えたところで、本気で経営の立て直しに着手することになりました。
プロジェクトの主な内容
経営合宿で役員陣が一枚岩になり、ミッション・ビジョンを定義
矢島さん:本プロジェクトでは、内田さんにセガトイズの経営会議に入っていただくことになりました。1泊2日での役員合宿です。
宮崎さん:当時の経営チームは合宿での議論は行っておらず、オフサイトで役員合宿を行うのは初めてのことでした。その役員合宿の前にグロービスさんから連絡があり、内田さんと役員一人ひとりが個人面談をすることになったのです。これは衝撃的でしたね。面談では何を話すのだろう、合宿はどのような場になるのだろう……と、期待と不安が入り混じっていました。
この個人面談では、会社に対する課題意識とともに、他の役員に対してどう思っているのかを率直に答えてほしい、と問いかけられました。今思えば、合宿に入る前に個々人の本音を内田さんが把握した上で、合宿で解決する意図があったのだとわかります。後になって内田さんが考えていた合宿の目的を尋ねたところ、「経営陣が一枚岩になること」だったと聞いて腑に落ちました。
役員合宿では、1日目に役員同士お互いに抱いている感情や、会社への課題意識をじっくり話し合った後、2日目にはミッション“Create Wow! And Smile!”を再定義し、ビジョン「これまでにないモノとサービスで『楽しい時間』と『絆』を提供する会社」を策定しました。
矢島さん:ミッションやビジョンを策定する経験をすると、その重要性が腹落ちするものですね。さらに合宿では、経営に向き合う姿勢を見つめ直す読書会や、全社アンケートの結果を見ながら経営課題を議論できたことも有益でした。
宮崎さん:事前にグロービスさんが当社の社員に実施していただいたアンケートは無記名回答だったので、社員の本音がつまびらかになっていました。「会社の戦略がわからない」「何を目指しているのかが定まっていない」という厳しい声や、経営に対する不満を突きつけられたのです。
こうした事実と真正面から向き合うことで、経営チームとしての危機感が高まったことを覚えています。
役員合宿後には行動規範も定義し、経営会議の改革が続く
矢島さん:セガトイズ(現Toysカンパニー)のターニングポイントともいえる役員合宿を終えた後、ミッションとビジョンに沿ったWay(行動規範)も必要だという話になり、役員からのトップダウンではなく、部長層までが参加するワークショップにて策定しました。この取り組みもグロービスさんにサポートいただいたものです。
その後も数か月に一度の経営会議と、年一回の役員合宿には内田さんにファシリテーターとして入っていただいています。一回目の役員合宿を終えた直後はすべての経営会議と合宿に同席いただいていたのですが、今は経営会議に関しては徐々に我々だけで行う割合を増やしているところです。
宮崎さん:内田さんはいつも当社の役員の一人であるかのように当事者意識を持って真剣に提案してくださいますし、何よりも最初に我々の意識を変えてくれた人として、絶大な信頼を置いています。そのような方であるからこそ、経営の議論をする場に入っていただく意義があると思います。
また、我々内部の人間だけですと、経営チームとして本音で議論できる関係性にはなったものの、意見を出しただけで満足してしまい、結論に至らないことも起こりえます。そのような時、第三者の立場として内田さんに入っていただくことで規律が保たれますし、議論が横道に逸れても軌道修正していただけることのありがたさも感じています。
そして年一回の役員合宿では、一年間を振り返る問いを内田さんからいただき、定期的に経営者としての自分の成長と課題を見つめる、貴重な機会になっています。
プロジェクトを経て得られた変化
役員合宿によって、全員の意識がひとつになった
宮崎さん:初めての役員合宿では、オフィスを離れたオフサイトの場で役員全員が自分の思いを包み隠さず話すプロセスを経たからこそ、会社の課題は何であり、どの方向を目指すのかといった認識が統一できたように思います。また、当時のセガトイズでは定義されていなかったミッションとビジョンを策定できたという収穫もありました。
さらに、社員アンケートを通して厳しい現実を全員で直視したことによって、役員陣がお互いを深く理解し、ひとつになれたように感じています。
本音で議論できる真の「経営チーム」へと進化
矢島さん:役員同士が本音で意見をぶつけ合える関係性は、今も続いています。この状態を維持するために、本プロジェクトの開始後に登用された役員は、合宿で本音を語り合う場から必ず参加しています。我々の経営チームのあり方に馴染んでもらう意味合いです。
そして本プロジェクトによる経営チームの変化として、まだまだ足りない部分はあるものの、経営をするための視座は確実に上がったと感じています。
6年間にわたって伴走いただいている内田さんからも、「まったく違う次元の経営チームになった」という言葉をかけられました。ここまで本音で、かつ濃密に議論できている経営チームは他に類を見ないと言っていただいたことは、我々の自信に繋がっています。
宮崎さん:内田さんからは、かつては自分のポジションを守る発言も見られたものの、役員全員が全社視点で経営を考える状態になった、というフィードバックもいただきました。全社のために何を課題とし、どう判断し、どのような方向で施策を打つべきかといった論点の設計も高い精度でできるようになった、と。
私自身も、本プロジェクトが進むにつれ、経営チームとしての一体感が強固なものになっていると感じます。役員全員が違う方向を向いていた時代を経て、今は真の意味での「チーム」になれました。
(右)上席執行役員 コーポレート本部 本部長 矢島 源一郎様
今後の展望
役員と現場組織の認識を合わせることが必要
宮崎さん:“Create Wow! And Smile!”というミッションやビジョン、Way(行動規範)、そして戦略を全社員に浸透させることとともに、次世代のリーダーを育成することは今後の課題です。中でも、会社の方針を現場に落とし込む要となる部長層と役員の間に認識のズレがあることは、早期に解決しなければなりません。
矢島さん:業績が芳しくない時期、なぜこのような状態に陥ったのかを振り返ると、やはりミッションやビジョン、そしてWayに沿った行動ができていなかったのだと思い知らされました。
現場も含めて全社員が一枚岩になるために、ミッションやビジョン、Way、そして戦略を腹落ちしてもらうための施策が必要です。これらはすべての行動の原点になりますから、内容を理解するだけでなく、腹落ちしないと行動に繋がりません。部長層が役員と同じ熱量を持って戦略実現に向き合えるようにすることが当面の目標です。
宮崎さん:役員を含めた経営チーム全員もミッションや戦略の伝え方を磨き、全社が一丸となって、“Wow! And Smile!”を生み出していく組織にしていきたいですね。
そこでまずは、役員と部長層が一緒に戦略を議論する場をグロービスさんと一緒に開催しています。ここで議論する内容は、経営会議で策定された戦略と連動しているので、部長クラスに全社視点が養われますし、経営の共通言語ができることで階層間での認識が統一されつつあると感じています。
矢島さん:この施策によって、部長層が自ら考えたことが気づけば全社戦略と紐づいていたという状態が作られており、戦略の理解が進むとともに、組織のレベルが一段階上がったように思います。だからこそ、役員陣もさらにスキルや視座を上げなければならないという健全な危機感を抱くようになりました。
全社方針に沿って、計画を実行できる組織へ
矢島さん:経営会議や次世代リーダー育成などの仕組みは整ってきたので、今後は、策定した目標や行動計画を着実に実行することに注力していきたいと考えています。
新たな戦略のもとで企画を検討したり、バリューチェーンを改善したりするといった通常業務とは異なる新しいことを実行するのは、誰もが腰が重くなってしまうものです。目標を立てて満足するのではなく、進捗を追う仕組みも整えたうえで成果を目指したいと思います。
計画が実行に繋がらないという課題の背景には、ヒット商品を生み出すことに注力してきた思考の癖があり、つい多くのことに手を出してしまう傾向があるのだと自覚しました。経営チームで挙げた課題が多すぎたという反省点もあります。これからは課題に優先順位をつけ、着実に解決していくようにしたいですね。
そして、経営チームだけでなく、現場にも同じような思考が根付いていると思うので、“Wow! And Smile!”を創出するための行動規範に沿って、各現場で掲げた行動計画もしっかり実行できる仕組みを作りたいと考えています。
矢島さん:グロービスさんには、Toysカンパニーの複数の階層、そしてセガサミーグループ全体の社員育成にも関わっていただいています。だからこそ当社の経営を最も客観的に分析し、熟知している存在だと感じています。
宮崎さん:そうですね。私は役員に登用されたタイミングと同時に本プロジェクトが始まったので、自分を経営者に育てていただいたのは内田さんだと思っています。本プロジェクトでは、経営会議などとは別に、私から必要に応じて相談できるスキームもご用意いただいており、メンターとして全幅の信頼を寄せています。今後も、当社の経営を厳しい視点で支援していただくことを期待しています。
私は「経営会議とは、経営の縮図である」と考えています。というのは、経営会議の在り方そのものが日々の経営の実態を映しており、その場の意思決定が各現場に大きな影響を及ぼしていくものだからです。
本プロジェクトで、私は、経営陣が一枚岩となり、皆さんのエネルギーのすべてがビジョンの実現へと向かうように、という一心で携わらせていただいています。一般的に、役員といえども多くの場合は、自身が責任を担う範囲が決まっているため、どうしてもその管掌範囲に留まる発言やその利益代表としての考えに留まりがちです。また、役員も一人の人間としての感情を持ち合わせているため、互いに反りが合わなかったり、忖度が発生する関係性の中では、議論すべきことが健全に議論されないことも起こりえます。経営会議のファシリテーターとしては、「組織の中ではどうしてもこうした部分最適の集合体に陥る慣性が働くこと」や、「常に会議の議論には合理だけでなく情理が影響してくるものである」という認識を持って、経営会議に臨むことが必要だと考えています。
私は、セガトイズ(現・セガ フェイブ)様の経営会議に6年間携わらせていただいていますが、着実に経営陣としての相互信頼に基づく凝集性が高まっていっていることを感じています。同時に、お一人おひとりが経営者としての次元を高めるべく自らをプッシュされていらっしゃることが感じられるため、私も毎回多くの刺激をいただいています。これからも、セガ フェイブ様のビジョン実現のため、気持ちは同社の経営陣の一人のつもりで、一方で第三者だからこそ見える客観的視点と忖度の無い切り口で、全力で経営支援をさせていただければと思っています。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。