- パーパス経営
- 組織風土改革
経営戦略と人財戦略をつなぐ、パーパス浸透へのチャレンジ
岡山県岡山市に本社を置き、140年を超える歴史を持つ株式会社林原様。2024年4月1日付で社名を「ナガセヴィータ株式会社」に変更し、新たなパーパス「生命に寄り添い、人と地球の幸せを支える」を掲げています。これを機に同社は、「2030年のありたい姿」の実現に向け、どのような人財戦略をとるべきか検討する「HCプロジェクト」(以下、本プロジェクト)を実施しました。
今回は、本プロジェクトのオーナーである同社のサステナビリティ経営部門長 竹本 圭佑様より、企画のお立場からお話しいただきました。また後半では、管理部門 人事総務部長 加藤 耕二様、サステナビリティ経営部門 経営デザイン部 経営企画課 長友 大樹様より、本プロジェクトに参加されたお立場からお話しいただきました。(部署・役職はインタビュー当時)
はじめに:本プログラムの概要
ナガセヴィータ株式会社様は、創業140年以上の長い歴史をもつバイオメーカーです。食品原料、医薬品原料、化粧品原料等の開発・製造・販売を展開しています。
同社では以前から、経営陣と従業員の対話を行いながら自社の存在意義と社会への提供価値を表明するパーパスの検討を進めており、2024年4月に「ナガセヴィータ株式会社」へ社名を変更し、新たなパーパスを掲げていくことを決定しました。この大きな節目となるタイミングを間近に控えた2023年、経営企画を担うサステナビリティ経営部門が中心となり、2030年のありたい姿を実現するための人財戦略の策定に着手。部門長の竹本様をプロジェクトオーナーとし、管理部門のリーダー陣を加えた計5名がプロジェクトメンバーとなりました。
本プロジェクトは約9か月間、チーム内ディスカッションを軸とし、社内のステークホルダーとの意見交換などを行いながら人財戦略を策定するものです。その中でグロービスは半年間の伴走とディスカッションをベースに「プロジェクトの企画」「議論のファシリテーター」「期間中のコンサルティング」を担う立場として参画しました。
インタビュー:プログラム実施の経緯
ありたい姿を実現するために、人財戦略を策定する
竹本さん:当社が掲げる「2030年のありたい姿」を実現するためには、人財戦略を策定しなければならないという問題意識を持っていました。
我々は「人」「事業」「環境」の3つの軸で2030年のありたい姿を描き、これまでさまざまな施策を行ってきました。その中で、「事業」および「環境」はありたい姿に向け着実に進んでいる一方、「人」については、求める人財像や制度、各施策を2030年からバックキャストして検討しきれていなかったのです。
こうした問題意識を抱えていた時期に、2024年度から社名をナガセヴィータに変更することが決まり、パーパスを新たに策定。そこで私たちは、パーパスやありたい姿の実現に向けて当社が変わるということを力強く発信し、社員も含めたステークホルダーの期待を盛り上げていくことが肝要だと考えました。だからこそ、パーパスを実現するための人財戦略を議論すべく、採用・育成・評価・登用のロードマップ策定に取り組むことにしたのです。
竹本さん:
人財戦略というと人事部が担うものだと考えがちですが、日々の業務と並行して戦略策定も担うとなると負担が大きくなります。そこで、経営企画を担うサステナビリティ経営部門も加わってプロジェクトの形で進め、スピード感をもって検討することにしました。
グロービスとは以前から複数のプロジェクトでご一緒し、当社のカルチャーを深く理解いただいていると感じていました。特にファシリテーターをお願いした大矢さんとは3年ほどの付き合いになりますが、とても安心してご協力をお願いできるパートナーだと、全幅の信頼を置いています。そのため、本プロジェクトは内容がほとんど決まっていない段階からラフに相談し、プロジェクト発足前に行った課題感を議論するための合宿から大矢さんにご参加いただくなど、カスタムメイドの対応をしていただきました。
グロービスの特長は、あくまでも答えを出すのは私たちであり、私たちが答えを出すための壁打ち相手としてお付き合いいただけるところにあると思います。あらゆる意見を受け入れながら鋭い問いかけをしてくれる大矢さんのスタイルは、当社にフィットしていると改めて感じました。だからこそ、当社の人財の未来像を考えるにあたって力を借りたいと思ったのです。
春先より数回の議論を経てプロジェクトが正式に発足。プロジェクト名は「HCプロジェクト」と付けました。人財を資本と考える「Human Capital」の頭文字を取ったことと、旧社名である林原の略称「HB」から次に進むことを表現したく、アルファベットを「B」から「C」へ一文字進める意味も込めました。
サステナビリティ経営部門長 竹本 圭佑様
プロジェクトの主な内容
パーパスと整合している人財戦略にすることを意識
竹本さん:2023年6月から12月まで、月1回のペースでディスカッションを重ねました。意識していたのは、新社名やパーパスと整合性のある人財戦略を策定することです。
ただ、プロジェクト開始時点で、すべての回のディスカッションテーマを決めていたわけではありませんでした。そのため、グロービスには、議論の進捗に応じて柔軟にその後のプロセスを軌道修正いただきました。また、議論の場だけでなくメールなどでも頻繁にご相談し、人財戦略の策定にあたり参考になる書籍(ビジョナリーカンパニーZERO)等も紹介いただいたことに感謝しています。
そして、私自身の役割として意識していたのは、プロジェクトの体制やゴールを決めた後は、メンバーが中心となってアウトプットを出してもらうことでした。メンバーには本プロジェクトで人財戦略を策定する経験をしたうえで、翌年度から経営における重要な役職に就いてもらう想定をしていたためです。
こうした考えのもと、プロジェクトを開始してからは私は伴走役に回り、主に進捗管理や社内関係者との合意形成に動いていました。社内の重要なステークホルダーとなる役員陣とは、近年、サステナビリティ経営を進めるにあたって対話を重ねていたこともあり、本プロジェクトでも意見交換の時間を割いてくれたことはありがたかったです。
試行錯誤して壁を乗り越えたからこそ、経営視点を養うことができた
竹本さん:プロジェクトが始まって3か月ほどが経った頃には、議論が思うように進まず苦労していた時期もありました。振り返ると、その原因は「戦略」という言葉に囚われすぎていた点にあったと思います。メンバー全員が人事と経営との紐付けが弱いという課題意識をもっていた一方、現場の視点で経営戦略や人財戦略を捉えており、1段上の経営視点に立って人財戦略を考えるという点が不足していました。そのため、戦略の細かい議論に入り込んでしまうことを何度も繰り返していたのです。
ただ、これも私たちには必要なプロセスだったと思います。試行錯誤しながら抽象度の高い議論と具体的な議論を往復させたことで、結果として視座が上がり、経営視点で人財戦略を描くという貴重な経験が得られました。
そして、この壁を乗り越えるには、グロービスの大矢さんのファシリテートが欠かせなかったと思います。毎回、議論をスタートする前に、HCプロジェクトの目的に立ち戻る時間を設けていただいたおかげで、最後までゴールを見失わずにいられました。また、議論に行き詰まった際など、折に触れて事例の紹介や参考書籍を通じた知識などをインプットしていただいたり、メンバーの意識を揃えてくれたりしたのです。ファシリテーターの存在はHCプロジェクトの羅針盤であり、メンバーの視座を高める源になりました。
今後の展望
ありたい姿実現の一歩を踏み出すために、バリューブックを作成
竹本さん:本プロジェクトのアウトプットとして、人財戦略および当社の価値観であるバリュー案を策定することができました。その後、経営陣の後押しを受けてブラッシュアップし、ナガセヴィータの羅針盤となる「バリューブック」を作成しました。
そして、2024年3月にはマネージャー以上の社員約130名を集めてキックオフミーティングを開催。次年度の行動計画やバリューの説明を行い、対話をする時間も設けました。
こうしてプロジェクトを終えた後も、ありたい姿の実現に向けてプロジェクトメンバーが行動しており、確実に前進していることを感じています。
これからの1年で、小さくとも確実な変化を起こしたい
竹本さん:2024年度は、バリューの浸透に向けた対話が重要になると考えています。サステナビリティ経営部門 経営デザイン部の中に新たに立ち上げた人財・組織開発課が中心となり、活動を進めていく予定です。まずは経営層からの発信や対話活動を通じた、バリュー浸透の意識を高めることに注力します。
現時点ですでにバリューに共感する声も多く聞こえてきており、よい機運が高まっていると感じますので、今後1年の間に小さくとも確実な変化を生み出すことで、その後の浸透スピードは変わってくると思います。その意味においても、今年度が勝負だと考えています。
バリューの浸透においては、バリューブックそのものだけでなく、本プロジェクトで行われた議論の過程もストーリーとして伝えたいと思っています。バリューブックは美しい言葉でまとめられていますが、背景には様々な関係者の思いや、試行錯誤のプロセスがありました。ストーリーを含めて伝えることで、バリューの「理解」から「共感」「行動」へと進めたいのです。
そして、グロービスとは今後もご一緒していきたいと思っています。昨年はG1経営者会議にも参加させていただき、日本を良くしていこうと本気で考えるリーダーが集まる場から大きな刺激を受けました。そこでお会いした方とは交流が続いており、グロービスがもつ知見や人的ネットワークは素晴らしいものがあると実感します。
私自身としては、自社を成長させることはもちろん、他社の皆さんとも一緒に日本全体を元気にするためにこれからも尽力したいと思っています。
サステナビリティ経営部門長 竹本 圭佑様
プロジェクト参加者へのインタビュー
戦略から考え始めるのではなく、パーパスから落とし込む重要性に気づいた
加藤さん:プロジェクトの序盤では、人財戦略そのものの議論を中心に進めていたものの、人事の仕組みを作り、それを実行して会社をどうしたいのかが見えず行き詰まっていました。具体的な戦略を考える前に、人財のあるべき姿をしっかり描くことが重要だと気づいたのは、数回の議論を終えた頃だったと記憶しています。この点に全員が腹落ちしてから、議論が一気に前に進んだのです。
長友さん:戦略を考える前に、理念や行動指針、価値観など、もっと大切なものがあるのではないかと気づき始めた瞬間がありましたよね。パーパスは抽象度が高いので、実現のために社員がどう行動すればいいのか、具体的にイメージできるものが必要ではないか、という話になりました。それまでは戦略ありきの議論になっていたのです。
加藤さん:人財戦略を考えるプロセスとして、経営戦略を実現するための要件という考え方だけではなく、パーパスに向かって行動するとはどういうことかを具体化していったほうが、社員一人ひとりが自発的に動くための指針になるだろうという話になりました。
この考え方に辿り着くまでに時間はかかりましたが、議論し尽くしたうえでの方向転換だったので納得感がありました。それに、ここまでに役員や部長層と意見交換していたこともよい影響を与えてくれたと思います。会社をけん引しているリーダー層から多くの意見をもらったことで視界が開け、プロジェクトメンバーだけで話が小さくまとまってしまうのを避けられました。
またこのようなプロセスの中で、役員や部長層にとっても「人」が大切だという思いを抱いていることは同じであると強く感じました。思いは一緒なのだから、パーパスの実現に向けて人財戦略をしっかり描いていこうという意識を、改めて持つことができたように思います。
管理部門 人事総務部長 加藤 耕二様
加藤さん:
こういった試行錯誤のプロセスも含め、本プロジェクトは答えが決まっていないことに対して議論を重ねるものなので、グロービスには柔軟に対応していただいたことに感謝しています。大矢さんのファシリテートのおかげで、自由闊達に発言できる雰囲気が醸成され、自分の考えを臆せず話せる安心感の中でプロジェクトを完走できました。
また、会社の成長にとって極めて重要な人財にまつわる議論をするにあたり、書籍等でインプットしながら、重要な観点をプロジェクトメンバーで認識合わせできたことも貴重でした。
バリューを各社員の業務と紐づけ、共感を生み出していきたい
長友さん:本プロジェクトを終えてから、自分自身、大きく変化したと感じています。バリューをつくるにあたり、さまざまな考えをもつ役員陣やリーダー層から意見を伺い、集約していくというプロセスはかなり骨が折れましたが、多様な価値観をバリューに落とし込めたことは、貴重な経験でしたし、大きな成果です。
こうしてバリューが可視化され、バリューブックという冊子にまとめる過程を通して理解がさらに深まりましたし、体現していきたいという気持ちがより一層高まりました。
今後は、策定したバリューを日常業務に取り入れる仕掛けをしていくとともに、評価に加点していく制度設計もしていきたいと考えています。パーパスやバリューは、社員へ一方的に「共感しましょう」と言って腹落ちするものではありません。普段の仕事や過去の経験、そして自分自身の志と紐づけることが重要です。こうしたことを様々な視点で一緒に考える場をつくり、対話をしながら、納得感をもって共感する組織文化をつくっていくことが、今後の私の重要なミッションです。
サステナビリティ経営部門 経営デザイン部 経営企画課 長友 大樹様
長友さん:
特に、現場のリーダーとなるミドル層がバリューを体現する意識をもつことが浸透のカギを握ると考えています。メンバーにとって「こういう立ち居振る舞いができるようになりたい」と思える行動をしてもらうことで、共感が生まれていくと思うのです。こうして全社員がバリューに共感し、体現するようになるまで浸透活動は続きます。
加藤さん:私はもともと生産部門の出身で、2021年から人事の仕事に携わっています。現場を長く見てきた立場として、あらゆる社員がやりがいをもって楽しく仕事ができるようにしたいと常々考えていました。また、人事施策を経営戦略と紐付けて考えるべきだと感じ始めていたものの、会社の統合などもあり十分に考えきれていなかったのです。そのため、社名が変わるこのタイミングでHCプロジェクトが立ち上がり、経営陣と人財にまつわる対話をできたことは貴重な経験でした。
この春からは経営デザイン部に異動し、ありたい姿の実現に向けた活動が本格的に始まります。社名やパーパスが新たにできただけで終わりにならないよう、長く続くバリューの浸透活動に向けて、今は気持ちを改めて引き締めているところです。
(左) 管理部門 人事総務部長 加藤 耕二様
(右) サステナビリティ経営部門 経営デザイン部 経営企画課 長友 大樹様
加藤さん:
バリューを体現するような小さな変化を起こし、そこから変化を加速させるための仕組みづくりや風土醸成は今後に向けた課題です。そのためには、バリューを体現した社員をしっかり称賛し、その姿を見た他の社員が後に続いていく好循環を生み出すことが大切だと考えています。自社のあらゆるリソースを活用しながら、バリューの浸透を粘り強く進めていきたいと思います。
HCプロジェクトメンバーの皆様と講師及び弊社コンサルタントにて
本プロジェクトのお話をいただいた時、ナガセヴィータの社員の皆さまお一人お一人の働きがいや能力開花にも繋がってくる非常に重要なプロジェクトであると感じ、伴走させていただく立場だからこそ、私に貢献出来ることは何かを真剣に考えながら携わらせていただきました。
人財戦略を考え抜く過程で、プロジェクトメンバーの皆さま自身の視野の広がりや当事者意識の高まりを感じ、同社のありたい姿の実現に向け、大きく前進されるご様子を間近で感じました。このような局面をご一緒させていただいたことを、大変光栄に思っています。
今後も引き続き、ナガセヴィータ様のバリューの浸透、そしてこれからの新しいチャレンジをご一緒できるよう、自分自身もアップデートを重ね、全力で伴走させていただきます。
私たちがこうした実プロジェクトに伴走をさせていただく際には、プロジェクトとしての成果創出だけでなく、プロジェクトに関わるメンバーの皆さんの見識・力量や組織の力(再現性)を高めていただくことへの寄与もミッションであると認識して臨んでいます。
本プロジェクトのファシリテートにおいても、それらのミッションを念頭に、何をどんな順番で議論すべきか、限られた期間内でどのような進め方をするのが最善なのか、事例のご紹介や私自身の考えをお伝えするタイミング等について、常に思考し続けながら関わらせていただきました。こうした議論やアウトプットのプロセスは常に流動的で変化があるものですし、絶対的な正解はありません。私自身にとってもチャレンジを伴う場面もありましたが、“より良い組織を創りたい”という真っすぐな想いを抱くプロジェクトメンバーの皆さんと、同じ目的に向かって共創した道のりは、やりがいと高揚感に満ち溢れたものでした。
本プロジェクト中、メンバーの皆さんの活動やリーダーシップ、そしてこれを機に自己成長を遂げられていく姿から、私自身も大いに学び、刺激をいただきました。
そして、「人や組織文化を強み(競争優位)にした経営を実現していきたい」という当社が大切にされている考え方に一層共感するとともに、実現に向けて、さらに貢献できるよう尽力したいと思います。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。