- 経営人材
変革の原動力となる経営人材を持続的に輩出する取り組み
住友重機械グループ様は、1888年の創業以来、各種産業機械や建設機械など多数の事業をグローバルに展開している、日本を代表する総合機械メーカーです。同社は、中長期視点で事業創造や変革を起こせる経営人材育成を目的とした「住友重機械グループ・ビジネス・スクール(SBS)」を長年にわたり実施しています。
今回は、住友重機械工業株式会社の人事本部 主管 森田 光浩様、人事本部 人材開発グループリーダー 中島 聡様、人事本部人材開発グループ 主査 西平 彩子様に、本プログラムを企画・運営するお立場からお話を伺いました。また後半では、本プログラムに参加された斎藤 亜弥子様、滝 和也様より、受講生としてのお立場から得られた学びについてお聞きしています。(部署・役職はインタビュー当時)
はじめに:本プログラムの概要
住友重機械グループ様は、経営人材育成の重要な仕組みとして位置付けている「住友重機械グループ・ビジネス・スクール(SBS)」(以下、本プログラム)を、20年以上にわたり実施し続けています。
近年、本プログラムは2年間かけて行う構成となっており、1年目は経営スキルの習得とともに自身が取り組む事業テーマを決め、戦略を描く構想フェーズ、2年目を実践フェーズとし、その事業テーマを実現させる取り組みを進めます。
グロービスは本プログラムへ2015年より参画し、住友重機械グループ様とともにプログラム企画やセッション開催、コーチングを担当しています。
インタビュー:プログラム実施の経緯
経営課題を解決に導く人材を育てたい
森田さん:本プログラムが始まったのは1999年です。きっかけは、当社グループの中で経営人材が十分に育成できていないという危機意識を当時の経営トップが抱いたことでした。日常業務の延長線上では経営を学ぶことは難しいと考え、経営に携わるための学びの場が必要だという思いがあったようです。
それから20年以上継続して、本プログラムを実施しています。経営人材の育成という大目的は変わりないものの、その時々の課題に応じて重要視するテーマを設けています。その中でも常にマーケティングの観点を重要視しており、本プログラムでは、当社グループの事業は誰にどのような価値を届けるものであるかを徹底的に考えてきました。
そのおかげで、開発の審議会や予算会議など、日常業務のあらゆる場で「我々はどの市場で勝負し、誰にどんな価値を提供するのか」を問う風土が根付いています。
中島さん:私は開発設計を担う技術職で入社しました。振り返ると、以前の当社グループは、お客様の要望に応える「ものづくり」に集中するあまり、マーケティングの観点が少し希薄であったように思えます。これでは、経営人材としては不十分です。本プログラムを継続することで、開発設計製造を含む技術部門においても、当社グループがどのように価値を差別化していくかポジショニングを考える習慣がついてきたと思います。
森田さん:本プログラムのパートナーとしてグロービスを選んだのは、他の施策でご一緒する中で、我々のよき相談相手になっていただける期待を感じたからです。お力添えいただくようになって10年弱が経ちますが、一緒に議論を重ね、ブラッシュアップし続けられていることに感謝しています。
プログラムで目指していたゴール
森田さん:経営人材を輩出すること、それは発足当初から変わらない本プログラムのゴールです。
加えて、近年はその時々の経営課題に応じたテーマを取り入れるとともに、期間を2年間に設定しています。1年目を構想フェーズ、2年目は実践フェーズと位置付けることで、事業戦略を立てるだけでなく周りを巻き込んで推進することにも取り組んでいます。
プログラムにおいて大事にした点
志を持ち、自らの言葉で人を巻き込む
中島さん:経営人材育成という目的を達成するために、本プログラムのプロセスにおいては、自分の志をもち、自らの言葉で考えを伝えることを大切にしています。経営人材にはお客様のニーズに応えたり、特定の事業課題を解決したりするだけではなく、周囲を巻き込み、組織を動かすことも求められるからです。
西平さん:本プログラムでは、受講生へのコーチングを定期的に取り入れています。その際、受講生本人が成し遂げたいことにじっくり向き合い、言語化してもらっています。自分の思いを掘り下げることで、それを実現するために何を見て、考え、行動するべきかがクリアになり、且つ、視野が広がっていく効果があると感じています。
森田さん:コーチングを入れ始めてから、全体の場ではなかなか吐露できない、受講生の心の奥にある思いにまでケアできるようになりました。
既存の型のようなものに当てはめることなく、一人ひとりにじっくり向き合っているからこそ、受講生は自らの意思で決めたテーマを実現させるために、自分の言葉で周囲を巻き込めるようになります。これは、本プログラムの大きな特徴になっています。
自分の思いを持つことは、簡単ではありません。求められることに対して結果を出すのが得意な人材であっても、自律的に考えるとなると苦慮するケースがあります。
中島さん:講師、コンサルタント、事務局、受講生の上長の四者が、バランスを取りながら受講生に関与することも意識しています。たとえば、上長が本人のためを思って意見を出しすぎてしまうと、無意識に影響を受けてしまい、テーマ設定が所属部門の課題にフォーカスしすぎる恐れがありますので。
受講生本人の思いを尊重することを念頭に置きながら、本プログラムの関係者と丁寧にコミュニケーションを取っています。
森田さん:社内関係者同士のバランスを保つために、受講生とその上長、我々事務局で三者面談を定期的に開いていることも、運営上の工夫のひとつですね。
そして、経営トップが深く関与していることも特徴です。現社長の下村は人材育成への思いが強く、特に経営人材の育成へは自ら関与すべきという考えをもっています。下村自身が本プログラムの卒業生であり、この場を通じて多くを学び、経営者として歩む出発点になったという実感を持っているので、経営人材育成へ強い思いを抱いているのだと感じます。
実施してのご感想、受講者の変化
切磋琢磨できる好循環が、風土醸成の土台になっている
西平さん:受講生同士の議論や相互フィードバックを通じて自己理解が深まり、深い関係性が築かれていくことを感じています。プログラムの序盤は発言が少なかった受講生も、人間関係や絆ができてくることで、意見を出す意欲が湧いてくるのでしょう。それぞれが自分らしさを出しながら相互に刺激を与えあっています。
森田さん:歴代の受講生を見ていると、この場を自分の成長に繋げようという意識を持つことが重要なのだと実感させられます。グロービスの講師やコンサルタントだけでなく、受講生同士でお互いに学び取ろうという姿勢があることで、どんどん成長を遂げていきます。このような前向きな受講生がいると周囲は影響され、受講生全体で学べるものが増え、好循環が生まれますね。
当社グループにおける本プログラムの位置付けは、単なる育成施策に留まるものではありません。ビジネスにおける基本的な考え方や共通言語づくり、さらには風土醸成の土台になる取り組みです。本プログラムで取り組んだ事業が花を開き、この会社を変えていく原動力になればこれほど嬉しいことはありません。我々事務局としても、やりがいに溢れた楽しい仕事です。
中島さん:そうですね。実際、社長の下村をはじめ、事業部門長の多くは本プログラムの卒業生です。20年以上続けてきたプログラムだからこその実績だと感じます。
西平さん:グロービスの講師とコンサルタントは、当社グループの各事業部門のビジネスを深く理解いただいたうえで本プログラムに向き合っていただいています。さらには、各回のセッションの内容をきめ細かく記憶したうえで、一般論にとどまらないフィードバックをされていることに驚かされます。密にご準備いただき、受講生一人ひとりへ接していただいていることに感謝しています。
今後の展望
受講生一人ひとりに寄り添い、多様性を当たり前にする
中島さん:長くプログラムを続けてきてもなお、受講生が悩むポイントや成長するタイミングは十人十色です。唯一の正解はないと思うので、我々事務局が伴走するにあたって、受講生一人ひとりに寄り添う姿勢はこれからも大切にしていきたいと考えています。
西平さん:今後は、受講生にさらなる多様性をもたせていくことも大切と考えています。すでに部門や職種については多様化できていますが、男女比では男性の参加が多いので、今後は女性の参加も増やしていきたいと思っています。
中島さん:受講生の地域も多様にしていかなければなりません。今は国内グループ各社の社員のみ参加している状況ですが、当社グループの海外社員比率は50%を超えています。グローバルでの経営人材育成は、今後取り組むべき課題です。
今後は海外拠点からの受講生を増やし、本プログラムで培ってきた共通言語や風土を海外にも広げていかなければなりませんね。
グロービスにはこれからも、数十の事業を経営している歴史ある製造業である当社グループの事業特性や課題をご理解いただきながら、引き続き本プログラムをご一緒したいと思っています。
受講生へのインタビュー
本プログラムを受講中で、現在2年目に取り組まれている日本スピンドル製造株式会社 企画・経理部 企画管理グループ グループリーダー 斎藤 亜弥子様、すでに本プログラムを終え、現在実務に活かしている住友重機械工業株式会社 産業機器事業部 医療・先端機器統括部 滝 和也様に、本プログラムを通した気づき・変化等について伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)
本プログラムで得られた学びや苦労した点
斎藤さん:私は本プログラムに2022年9月から参加しており、現在は2年目の実践フェーズに取り組んでいます。プログラム開始後に、現在の役職になり業務内容が変わったため、今もなお、やり切れるかという不安と常に戦っています。セッションやコーチングの場などで細やかにグロービスへ相談させていただきながら、プログラムを進めている状況です。
ここまでの過程で得られている学びをひとつ挙げるとすると、設定したテーマを実行する難しさです。私は経営企画や事業管理に興味を持っており、入社以来企画管理系の業務に携わり、予算や中期経営計画策定の経験を積んできました。
その一方、自分の意思で当社のありたい姿を描き、不確実な未来に対して行動を起こすことへ大きな心理的ハードルがありました。自身が設定した「新市場参入」というテーマを実行するにあたり、このハードルが周りを巻き込んで動くスピードを遅らせることに繋がっていました。
本プログラムの経験者でもある上司にこの悩みをぶつけたところ、「メンバーへのミッションの提示とあなたの情熱の示し方が足りていないのではないか」と言われ、まずは行動してみよう、と背中を押してくれました。また、ドイツの関係会社に私の構想を伝え、協力を求めるプレゼンテーションをすることになった際には、資料準備や事前練習において、現地駐在員からアドバイスをもらいました。多くの先輩や同僚が本プログラムの意義を感じ、惜しみなく協力してくれるおかげで、壁を一つずつ乗り越えられています。
私は2021年から本プログラムに参加し、2023年夏に終了しましたが、その後も事業化を目指して実践を続けています。
プログラムへの参加当初は、他の受講生の鋭い発言を目の当たりにして気後れしていましたが、自部門の事業へ漠然とした問題意識を抱いていたことが意欲に繋がっていきました。当時の自事業部では、製品を何のために作り、どれだけの売上が見込めるのかが技術者に明確に示されていなかったのです。技術者全員が納得し、モチベートされる方針が必要だと考えていたことを覚えています。
ただ、経営スキルの習得と実践にはかなり苦労しました。知識は理解できても、それを現実に当てはめ、当社の現状を定量的に分析することが大変でしたね。そこからさらに、ありたい姿を描くには想像力も求められます。このプロセスは、技術者だった私にとって骨の折れる作業でした。
しかし、当社が解決すべき社会課題を見つけ、そこに自身のテーマを設定できたことが、私のターニングポイントになりました。そしてテーマの検討を進める中で、当該分野の研究者やメーカーともコミュニケーションしていくことで、関係者の期待に応えたいという意欲も高まっていきました。
私の設定したテーマも、新市場への参入になるため、周りを巻き込むことが大変でしたが、社内外の協力者を増やしていく際には本プログラムで作成した資料が財産になっています。アカデミアの研究者から製造現場まで、あらゆる人にこの資料で私の構想を理解していただき、対話を重ねることで賛同者を増やすことができました。
本プログラムを通して感じる自身の変化
斎藤さん:自分の意見を熟考したうえで、周囲に臆さず伝えられるようになった点です。これまでは全社方針に沿って事業計画を立てる業務をしてきましたが、そこに自分の思いを乗せて、周りを巻き込んで物事を進める経験を積めていると感じています。
滝さん:私は、高い視座で物事を見ることができているか、常に意識するようになった点です。毎回のセッションとコーチングによって、全体を俯瞰し、未来を見据える力を養うことができました。
視座の高さを意識するようになったことで、商品開発の業務に向き合う姿勢も変わりました。開発においては、ある機能を搭載すると、別の機能がパフォーマンスしないことが往々にして起こります。そのような時、以前であればコストや作りやすさで判断していましたが、戦略に回帰する考えを持てるようになったのです。開発者も戦略を理解することで議論の質が上がり、技術面の意思決定が最適化されるようになりました。本プログラムが始まった頃に抱いていた、方針が不明瞭であることへの問題意識が解決されていると実感しています。
人を巻き込み、実現へと導くために
斎藤さん:あと半年ほどで、本プログラムの最終報告会を迎えます。残された時間を有効に使い、自分が決めたテーマを実践し切ることが当面の目標です。関係部署やお客様のところへも足を運び、さまざまな意見を聞くことを積み重ねていきたいと思います。
今の課題は、さまざまな意見が出てくる中で、自分の考えをぶらさずに実行し続けることです。また、設定したテーマが所属部門の担当分野ではないため、業界に対する知見もまだまだ増やす必要がありますし、他部署とのコミュニケーションに時間がかかりがちです。だからこそ、ラストの半年間はスピード感を意識していきたいと考えています。
仮説をもとに行動することを恐れていた私でしたが、この過程を楽しむことを意識しつつ、成功するまで粘り強く実践し続けていきたいと思います。
滝さん:私は、本プログラムを終えてからも設定したテーマの事業化に向けて取り組みを続けています。私も周囲も新規事業の立ち上げ経験に乏しく、必要なリソースを把握するために、社内外の経験者にヒアリングし続けているところです。最近の自分は、さながらスタートアップの経営者のようだと感じますね。
これまで数々の人に事業構想を伝え、コミュニケーションを重ねてきたことで、「滝といえば、この事業立ち上げをやっている人だ」という認識が社内で浸透してきたように思います。さらに多くの人を巻き込み、組織を作っていくことが今後のチャレンジです。
現在、そして来年度以降に本プログラムに参加する後輩の皆さんにも、この機会に大いに成長してほしいと思いますし、私も負けないように切磋琢磨していきたいと思います。
私は長年本プログラム(SBS)に伴走し、多くの受講者の変容を見てきました。なぜ変われるのか?その核は「健全な葛藤を、思考と行動で乗り越える体験」にあると実感しています。
SBSは、①課題を特定する、②解決策を構想する、③解決策具体化/実行に向けて活動する、というフェーズに分けられます。受講生は通常の事業活動で活躍されている方ばかりですが、それでも事業課題を高い視座から考え、解決策を構想する経験をお持ちの方は決して多くありません。その意味で、求められるレベルとその時点の自分とのギャップ、目指す姿と現実の事業・組織とのギャップ、構想段階と実行段階の課題の解像度や複雑性のギャップなど、理想があるからこそ生まれる健全な葛藤に各フェーズで向き合われます。このような経験を経て、「理想と現実の差を埋めるのは、他でもない自分自身である」という認識に至り、自ら考え周囲を巻き込む行動を通じて、経営リーダーとして、そしてご自身にとって意味のある成長を遂げられていくのだと実感しています。
プログラム期間中に感じられる受講生の変容はもちろんですが、その方たちのその後のご活躍を聞けることは、私自身がこの仕事に向き合う原動力や活力になっています。今後も、住友重機械グループ様のパートナーとして価値貢献するべく、自身をアップデートしながら尽力していきます。
20年以上継続して実施している本プログラムでは、受講者が経営の基本となる「型」を身につけ、ご自身が所属する事業の外部環境を徹底的に分析し、その変化を読み解くための「軸」を持てるようにすることで、未来の経営人材を育成しています。
プログラム中、受講者の皆さまが難しい課題にチャレンジし、苦労しながらも乗り越えた時の喜びと充実感に満ちた様子は、私にも大きな達成感をもたらしてくれます。伴走者としての私にできることは限られているかもしれませんが、一人ひとりに向き合って学びの環境を整え、共に成長や達成感を実感できる過程は、何物にも代えがたい喜びです。
変化の激しい時代ですが、本プログラムは住友重機械グループ様が直面する課題に的確に応え、変革を通じて事業成長を推進し、社会に新たな価値を提供できる人材を輩出しうるものと信じています。このような時代において、唯一不変の「正解」は存在しません。だからこそ私はこれからも、お客様と共に新しい挑戦に積極的に取り組み、共に持続可能な成長を実現するための戦略を考え、創造的な解決策へと導く組織能力開発パートナーとして伴走し続けたいと思います。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。