管理職・マネジメント研修

部長の役割と育成のポイント:部長研修企画の際に必要な役割範囲の広がり

日経225企業
取引実績

88 %
2024年4月グロービス調べ

企業内研修
有益度

4.6 5段階
評価
2024年3月「テーラーメイド型プログラム」を除く平均値

導入
企業数

3,300 社/年

受講
者数

43.8 万名/年

管理職研修の中でも、課長研修に比べて「部長研修」は企画が難しい、企画のイメージが湧きにくい―

このように感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

課長は現場に近い分、役割要件や研修のゴールイメージが見えやすいですが、「部長」となると担う役割や備えるべきスキルも見えにくい側面があります。部長は、事業部門あるいは機能部門の領域を統括する重要な階層です。管理職の中でも課長とは異なる役割や能力要件が求められます。

本コラムでは、グロービスにおける年間3,300社の企業様へのサポートをもとに部長と課長の違いを紐解きながら、部長をどのように育成していくべきかを明らかにします。

部長(上級管理職)の人材・能力要件を立案する際、または階層別研修における企画のヒントとしてご活用頂けますと幸いです。

「部長研修」企画の際に押さえたい課長と部長との違いと育成のポイント

 

第1章 
部長の役割と課長の役割の違いは
経営直轄のテーマを間接的に落とし込むこと

部長の役割と課長の役割には以下の2つの違いがあります。

まず前提として、部長はどの程度の組織を管理しているのか見ていきたいと思います。

それを紐解くにあたり、組織論における有名な理論でスパンオブコントロール(管理権限範囲)があります。これは、ギュリック (Gurick,1937)とアーウィック(Urwick,1956)などの先行研究にあるように、「1人の上司がマネジメントできる人数には限界がある」とする考え方です。研究により多少の差はあるものの、企画・営業などの業務では概ね1人がマネジメントできる範囲は7~10人までと言われています。

この考え方に基づき組織構造が出来ており、課長は7~10人の部下を持ち管理する、また部長は7~10人(の課長)を部下に持ち管理する構造が理論上出来上がっています。すなわち部長は約50人~100人の部下が存在します。

これを前提に、部長の役割と課長の役割には以下の2つの違いがあります。

1-1.部長は「間接的に」組織をマネジメントしていくことが求められる

ここから、部長はその人数に対して影響力を持たなければならないものの、1対1で直接管理すること・関与することが難しくなります。
結果、「間接的に」組織をマネジメントしていくことが求められます。

1-2.経営方針(ビジョンや戦略)を「間接的に」部門に落とし込む

また、もう1つ重要なポイントとして、経営層との距離や職掌範囲が挙げられます。まず経営層との距離として、多く企業で部長階層は、取締役(経営層)の 1,2 階層下の役割に位置づけられることが多く、経営層が立てた方針を経営層から直接聞く立場になります。また、職掌範囲では部門長であるため、経営方針を自部門の方針へ落とし込んでいく主体者であることが求められます。

以上の観点から、経営層から直接聞いた経営方針(ビジョンや戦略)を部門に落とし込んでいく、間接的に落とし込んでいくことが部長の役割となるのです。
課長との違いに触れると、課長は7~10人の組織に対して、部門方針(部のビジョンや戦略)を、「直接的に」落とし込んでいくことが役割になります。

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第2章 
部長ならではの難しさ・課題4点

では経営方針を「間接的に」部門に落とし込んでいくのは何が難しいのでしょうか?以下4点が考えられます。

2-1.視座の高さ・視野の幅の違い

1つ目は視座の高さと視野の幅が、課長時代に比べ圧倒的に拡大することです。
それを具体的に考えるために指針となるフレームワークとして、マッキンゼーの7Sをベースに考えたいと思います。

図1:7S
図1:7S

このフレームワークを参考にすると、経営方針を間接的に浸透させるために求められる7つのポイントが見えてきます。
すなわち(経営方針を踏まえ)

  • 自部門の戦略の立案と発信
  • 戦略実現のための組織体制構築
  • 経営システムの最適化や改善
  • 人の採用の加速
  • 組織能力の拡充
  • 組織文化の適切な管理
  • 共通となる大切な価値観の発信

この7つのポイントに働きかけることが重要となります。

課長までは1対1でコミュニケーションし方針を伝えたり、育成をしたりすることが出来ました。部長になると、人の行動を規定する仕組みなど、間接的な要因に適切に働きかけ多くの社員の行動を方向付けていくことが求められます。部長になると管理範囲が広がるため、目配せする範囲が(上述の7Sの範囲など)相当広くなることが難しいポイントです。何に目配せをしていくべきなのかを知ること、また具体的にどのように働きかけていくのかを知ることが重要になります。

ここまでが「これまでの部長に求められる役割と難しさ」でした。

追加でこの数年更に頭を悩ませる難しいポイントが出てきており、いくつか触れておきたいと思います。

2-2.最新テーマへのキャッチアップと具体化

2つ目はDX戦略の実現やESG経営の推進など、最新のテーマに関することです。
全社のビジョンや戦略を部門に落とし込んでいく際に、最近では DX 戦略(攻めの DX や守りの DX)や ESG 経営の推進(脱炭素、循環経済、自然資本、人権、人的資本)などが謳われています。取り組むテーマが幅広く、かつ深くなっており、具体化する難易度が高まっているということです。

またそれらのテーマを正しく理解するために、前提として絶え間ない学習が必要になっています。日本企業が海外のエクセレントな企業と比較して出遅れないようにするためにも、部長(部門長)がこれらのテーマを深く理解し、自部門へ具体的に落とし込んでいくことが求められています。

筆者はこれらのテーマを扱い、企業内で具体化するためのコンサルティングを進めることも多くあります。その多くの場合、経営陣(取締役レベル)では理解できているものの、いざ事業部門や部門に落とし込んでいった際に、部門長のリーダーシップのつまずきによって前に進まないケースに多く出会います。部門長、部長がこれらの必要となる知識をキャッチアップすることや、それらを具体化する必要がある事例です。

2-3.これまでの価値観からの脱却

更に、部長の内面に目を向けると「自分が直接関与したい」という状態から脱却できるかも難しいポイントであると考えます。

多くの部長はこれまで直接のマネジメントで出してきた成果を買われて昇格しているケースが多いです。その為、「直接関与し何かを成し遂げよう」という意思や意欲が強くあり、相手に任せることや間接的なことへの働きかけがもどかしく感じることも多いのではないでしょうか。

そこをぐっと我慢し、権限委譲を進めることや間接的なことへの働きかけを充実できるのかも、乗り越えるべき難しいポイントとなります。

2-4.公的な存在・立場であることへの自覚の深化

更に内面的なことを掘り下げると、「より公的な立場・役割として存在していることへの自覚を深めることが出来るか」も難しいポイントです。

これまで課長までの立場では7~10人の組織の長だったため、言動の影響範囲は狭い範囲でした。また、1対1のコミュニケーションが頻繁にできるので、何か言動によって誤解を与えてしまっても、相手との関係を感じ取り直接関係改善のためのコミュニケーションをすることも可能でした。

一方で、部長になってからは管理範囲が広がるため、自身の言動の結果・反応がどう影響を及ぼしているのか、確認することは難しくなります。更に影響範囲が大きいため、部長自身の不用意な言動(例えばハラスメントなど)は、組織の構成員のモラル形成などに大きく影響を及ぼします。

よって、より公的な立場であることを意識し、

  • 影響範囲の広さを自覚しながら、自身の言動がどうあるべきか
  • 特に組織内メンバーが相互に信頼を醸成しつつ前向きに行動するためにはどうあるべきか

自省し言動に落とし込む必要があります。

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第3章 
部長に求められる知識・能力・特性

ではここまで紐解いてきた部長にとって求められる行動や役割を果たすには、どのようなスキルや能力、そして特性が必要になるのでしょうか。

3-1. 知識・ナレッジ

ベースの知識として、経営戦略や組織行動学などの経営知識から、デジタルスキルの概要や、ESGに関する知識など最新知識も押さえる必要があります。

3-2. 能力

部長は企業全体のビジョンや戦略を部門のビジョンや戦略立案力に落とし込み発信をすることが求められます。その為、ビジョン・戦略の構想力が求められます。またそれらを組織に浸透させるため(前述の7Sに)落とし込むことが求められます。その為、

  • 組織の設計力
  • 経営システムの活用力・改善力
  • 採用力
  • 組織能力の構築力
  • 組織文化形成力

などが求められます。

3-3. 特性

また特性としては、より公的な立場として信頼を得られるように誠実性や忠誠心、開放性など、多くのメンバーから信頼を獲得するために必要な特性も必要となります。
更に、上記の知識や能力、特性などを絶えずアップデートするためにも、学習力や成長力が求められます。

3-4. 特に求められる能力

昇格したばかりの部長の多くは「従順に組織の命題を実現する」マインドとなります。そのような知性、すなわち組織の命題に120%努力し結果を出す知性を「環境順応型知性(※1)」と呼びます。

ここから、一階層上に上がった部長としては(まだ上に経営層がいるとは言え)より自身の目で見て環境を認識し、幅広い範囲に対して自身が主体的に方向性を打ち出していかなければなりません。すなわち「自己主導型知性(※2)」を獲得していく必要があります。

更に上の立場に行けば行くほど、「あちら立てればこちら立たず」という矛盾が多く生じます。その際に、その矛盾を踏まえより良い方向性へ導いて行く(昇華させていく)ための知性が必要となります。この知性を「自己変容型知性(※3)」と呼び、この知性に近づいていく努力も必要になります。

このように、部長以上にはこれまでにはないスキルや能力、特性などが求められます。このようなことが「自然に身についている人」を探すのは困難ですし、更に「実業の中で、自分で身につけること」も困難を極めます。よってこれらのポイントを、計画的に実業を越えた場で活用し身に着けていくことが求められます。

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第4章 
部長を育成するために必要なのは「幅広く、
不確実なことに意図をもつトレーニング」

前章で述べたように、(昇格したばかりの)部長の多くは環境順応型で成果を出して来た層になります。ただし、部長に昇格後は(上記の通り)管理範囲、働きかける範囲が相当広がりますし、そこに向けて自身の頭で考え行動する必要性も高まります。まさに上からの命令に従うだけでは不十分ですし、対応スピードが相当遅れることとなります。そのため根本的に、自己主導型知性や自己変容型知性へのアップデートが必要となります。
そのうえで、

  • 自らの組織の置かれている外部環境や内部環境を分析し、自組織のビジョンや戦略を考える
  • 7Sのフレームワークを使い組織の中へどう落とし込んでいくかを考える
  • 見る範囲を適切に見るための経営知識や最新知のインプットやアップデート

も必要となります。

備えるべき知識・能力・特性が多岐に渡るからこそ、自社の部長層にはどの部分から育成施策を着手すべきかを考える必要があります。

通常は、知識の幅を広げ、ベースとしての考える力を養った後に、自組織への働きかけを具体的に考える取り組みが出来ると良いです。ただし就任してある程度時間がたち、自己のスタイルが確立している場合であればあるほど、根本的な能力(知性)や特性へ働きかける必要があります。

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第5章 
部長研修を実施する際のプログラム例

A社事例:経営視点でスキルとマインドを高める他流試合型プログラム

事例の1つ目は、他社の受講者と共に経営視点でスキルとマインドを高めるプログラムです。

図2:A社事例 エグゼクティブ・マネジメント・プログラム
図2:A社事例 エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

A社の部長層は新任でもあり、まずはベースの知識としての経営知識を押さえる必要がありました。同時に普段の業務では得られない新たな視点の獲得や視野の広がりを期待されていました。
これを満たすプログラムとして、スクール型研修の「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」を選択されました。多種多様な業界から集まった参加者同士で下記のような学びを得ました。

  • 日頃の業務から一段視点を上げ、経営者の立場から、企業が果たすべき役割やリーダーに求められる資質を考察する
  • 困難なビジネスシーンにおける意思決定力や組織マネジメント力を養う
  • 厳しい決断を下す際の判断軸となる価値観や信念について考察・コミットメントする

これにより、部長としての意思決定のポイントを総合的に学習することが出来ました。

図3:エグゼクティブ・マネジメント・プログラム受講生の声(受講生アンケートより抜粋)
図3:エグゼクティブ・マネジメント・プログラム受講生の声(受講生アンケートより抜粋)

B社事例:全社ビジョン・戦略を自部門へ幅広く落とし込む実践型プログラム

事例の2つ目は全社ビジョン・戦略を自部門へ幅広く落とし込む実践型プログラムです。

図4:B社事例 ビジョン・戦略を間接的に働きかけ浸透させるプログラム例
図4:B社事例 ビジョン・戦略を間接的に働きかけ浸透させるプログラム例

B 社の事例では、

  • 全社ビジョン・戦略を自部門のビジョン戦略への落とし込みと具体化
  • 特に 7S の視点で分解して間接的にどう働きかけるのかの構想と実践
  • 結果を振り返り、また実践をする

という取り組みを行いました。
結果、構想したビジョンや戦略の働きかける範囲の広さを体感し、役割認識のアップデートにつなげることが出来ています。

C社事例:自己変容型知性への変化を促しつつ、部長としての構想力を高めるプログラム

事例の3つ目は、知性の向上とビジョン・戦略の構想力を高める取り組みです。

図5:C社事例 知性を高め、ビジョン・戦略構想力を磨くプログラム例
図5:C社事例 知性を高め、ビジョン・戦略構想力を磨くプログラム例

C社の事例では、部長になってから数年たった既任の部長が対象となります。
部長として、

  • 自己変容型知性へのアップデートをベースの狙いとする
  • 経営知識も押さえる
  • 著名な経営者の講演なども受ける
  • 長年読み継がれてきた経営の名著にも触れる
  • 自組織のビジョン・戦略の構想を検討し高める

という取り組みになります。
この取り組みを通じて、「環境順応知性」から自ら考える「自己主導型知性」、更には様々な矛盾を受け入れ高い次元へ昇華させる「自己主導型知性」へのアップデートを行いました。

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第6章 
まとめ

部長の役割と課長の役割には以下の2つの違いがあります。

特に部長ならではの難しさは下記4点になります。

このような難しさを抱える部長には、下記が必要になります。

  • 自らの組織の置かれている外部環境や内部環境を分析し、自組織のビジョンや戦略を考える
  • 7Sのフレームワークを使い組織の中へどう落とし込んでいくかを考える
  • 見る範囲を適切に見るための経営知識や最新知のインプットやアップデート

備えるべき知識・能力・特性が多岐に渡るからこそ、自社の部長層にはどの部分から育成施策を着手すべきかを考えましょう。

通常は、知識の幅を広げ、ベースとしての考える力を養った後に、自組織への働きかけを具体的に考える取り組みが出来ると良いです。ただし就任してある程度時間がたち、自己のスタイルが確立している場合であればあるほど、根本的な能力(知性)や特性へ働きかける必要があります。
内面(特性)からスキル・能力まで幅広く働きかけつつも、座学で学ぶだけではなく実践と連動させることが肝となります。

本事例以外にも様々な取り組みがありますので、お気軽にグロービスまでご相談ください。

「部長研修」企画の際に押さえたい課長と部長との違いと育成のポイント
引用/参考情報
※1、2、3:(ロバート・キーガン(著), リサ・ラスコウ・レイヒー(著), 池村千秋(翻訳)、”なぜ人と組織は変われないのか ―― ハーバード流 自己変革の理論と実践”、英治出版、2013年、P.31)

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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