次世代リーダー育成はどの階層・年齢層から始めるべきか
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人事部長に呼ばれて「経営会議で、“次世代リーダー育成”に取り組もうという話になった。素案を出して欲しい。」と指示されたとき、あなたなら何から取り組みますか? ゼロから次世代リーダー育成に取り組むことになった人事部の方から「次世代リーダー育成は、どの階層・年齢層から始めるべきでしょうか・・・」というご相談をよくいただきます。本コラムでは、次世代リーダー育成に取り組む前に考えておきたいポイントを解説していきます。
第1章
次世代リーダー育成の順番に正解はあるのか
次世代リーダー育成は社会や組織が誕生した時から現在まで議論が続いている、古くて新しいテーマです。いまだに議論が決着しない理由は、テーマそのものが持つ構造にあります。次世代リーダー育成が目指すのは組織の存続や成長であり、前提となる経営環境や育成対象となる人間の捉え方によって、出てくる答えが大きく異なります。他社で成功した事例をそのまま取り入れてもうまくいきません。
次世代リーダー育成を考え始める際の思考の流れを図1にまとめました。「我々は何を目指すのか」という抽象的な問いから具体的な方法論へ(図1の左から右へ)順番に考察を進めていくことで、自社に必要な次世代リーダー育成を設計できるようになります。
冒頭に出た「次世代リーダー育成はどの階層・年齢層から始めるべきか」という質問は、図1の右下にあります。具体的かつ小さな問いであり、ここから考え始めても答えは出ません。図1の思考の流れに沿って正しく考え、「我々の納得解」を見つける必要があるのです。
複雑なテーマに道筋をつけて「我々の納得解」を導くには、企画担当者が次世代リーダー育成の前提から正しく考えていく姿勢が重要です。正しく考えるためのポイントは「個別性」「具体性」「考える順番」の3つです。
- 個別性
時代や企業によって置かれている状況は違います。「今の我が社にとって」という視点を大事にします。 - 具体性
「次世代リーダーは具体的にどのような人か」といったように、一つずつ具体的に考えます。 - 考える順番
図1の順番に沿って「我々は何を目指すのか」」「次世代リーダー育成はなぜ必要なのか」「次世代リーダーが備えるべき要件は何か」「次世代リーダーはいつまでにどのくらい必要か」を順番に考えます。
次項より、図1の大きな問いの中から「次世代リーダー育成はなぜ必要なのか」「次世代リーダーが備えるべき要件は何か」「次世代リーダーはいつまでにどのくらい必要か」の3つを解説していきます。個別性・具体性を意識しながらこれらの項目について考えていけば、「次世代リーダー育成はどの階層・年齢層から始めるべきか」という問いの納得解に到達できるでしょう。
第2章
次世代リーダー育成はなぜ必要なのか
冒頭で述べたとおり、次世代リーダー育成は組織の存続と成長のために行われますが、組織によって経営環境が異なるので適切な方法も異なります。「我が社にとってはどうなのか」という個別性の視点を持ち、具体的に自社の次世代リーダーについて考えていきます。企画担当者が自分の言葉で語れるようになるまで、次の6つの問いを考え抜くことが大切です。
- 自社の外部環境は今後どう変化するのか
- その中で自社はどうありたいのか
- そのためにどんな戦略を採るべきか
- 戦略遂行上の課題は何か
- 戦略遂行上の課題を解決するために、組織はどうあるべきか
- 組織がありたい姿になる上での課題は何か
これらの問いは経営を考える際の問いと同じです。つまり次世代リーダー育成について考えるということは、経営を考えることと等しいのです。
したがって企画担当者は、自社の事業・組織・人材について深く理解し、将来を見通す力が求められます。こうした能力を身につけるために、積極的に外に出て情報を集めたり、ビジネススクールに通ったりしている方もいます。自力で考えるのが難しい場合には、専門的な知識を持つ社外のパートナーに相談するのも有効な手段です。
第3章
自社の次世代リーダーが備えるべき要件とは何か
自社の次世代リーダーが備えるべき要件を考えるためには、3つのポイントを押さえる必要があります。「どんなポジションで」「どんな成果を出す人なのか」「どんな能力が必要なのか」です。具体的には、以下の問いについて考えます。
- 自社が抱える課題を乗り越えるためのキーポジションはどこか
- キーポジションのリーダーにはどんな活躍が求められるのか
- その活躍のためには、どんな能力が必要なのか
実際のところ、次世代リーダーという言葉は、次期経営トップからCXOといった専門上級職、或いは支店長・支社長といった中間管理職まで、さまざまなポジションを指す言葉として使われています(図2)。故に、自社にとって重要なキーポジションを定め、「我が社の次世代リーダー」のターゲットを明確にし、彼らに期待したい成果や行動についても明らかにしておく必要があります。
「次世代リーダー育成はなぜ必要なのか」「自社の次世代リーダーが備えるべき要件とは何か」を実際に考えてみると、今は変化の時代なので将来の見通しが立てづらいことに気づくでしょう。そのため実務的には、自社の経営計画や業界レポート、現場や顧客の声を元に、洞察・推察を重ねて仮説を立てることになります。
なお次世代リーダーの要件を具体化していくと、出てくる答えが一般的な要件に近くなることがありますが、それは一向に構いません。なぜなら部分的に似ていたとしても、数が絞られて優先順位がつき、細かい表現も異なっているはずだからです。一般論とは似て非なるものです。深い思考と意思をもって、多くの情報の中から自社に必要なものを選び取る姿勢を大事にしてください。
第4章
次世代リーダーはいつまでにどのくらい必要か
企業における人材育成は企業成長のための先行投資なので、当然成果が求められます。しかし人材育成は、他の事業活動より成果を定量化しにくいという特徴があります。その中で「期限」と「規模」は数少ない定量的な指標です。企画段階でこれらの指標を目標に用いることで、育成施策の期間や内容、対象層などの要件を具体的に決められるようになります。「期限」や「規模」を決めるには、たとえば以下の論点について考えたうえで総合的に判断します。
1:競争環境はどんな早さでどのくらい変わるのか
競合他社の動向はもちろん、産業構造や競争環境に大きな影響を及す潮流も掴んでおく必要があります。例えば最近だと「デジタルトランスフォーメーション」や「グローバリゼーション」などは多くの産業にとって重要な外部環境変化でしょう。自社も否応なく巻き込まれるので「この潮流の中で生き残るためには、どんな人材がいつまでにどのくらい必要か」という見立ては重要です。
2:長期的な経営の方向性はどのようなものか
自社の理念やビジョン、経営トップが強調する言葉は、経営を長期的に見通す際の道標となります。一方で抽象度が高いため、具体要件に落としにくいのが難点です。
3:中期経営計画の戦略や目標はどうなっているか
中期経営計画は戦略も目標も明確ですし、ここに沿った育成計画は合意も得やすいでしょう。注意すべき点は時間軸です。次世代リーダー育成の営みは成果が出るまでに5~10年を要する場合もあり、中期経営計画の時間軸と合わないことがあります。
4:現任者の残存在任期間はどのくらいあるか
特定ポジションの承継を目的としたプロジェクトの場合は重要です。たとえば次期社長候補を育てるようなプロジェクトの場合、現社長の年齢や残存在任期間などが期限を規定します。
「次世代リーダー育成はなぜ必要なのか」「次世代リーダーが備えるべき要件は何か」「次世代リーダーはいつまでにどのくらい必要か」を考えたら、育成全体像の設計に落とし込んでいきます。図3に目標の置き方と段階的な育成のイメージを示します。
これまでの問いから導いた目指したい姿と現在の育成対象者の姿を比較し、成長に必要な課題(知識や経験)と、課題を克服するために必要な期間を見積もります。図3のように、育成には何段階かのステップが必要な場合もあります。すると、育成だけで間に合わないケースも出てくるでしょう。その場合は、中途採用やM&Aなどの別の手段が必要になります。そうして考えていった末に、育成が担うべき部分が明確になり、「次世代リーダー育成はどの階層・年齢層から始めるべきか」という問いに対する納得解が導かれるでしょう。
第5章
最後に
本コラムでは「次世代リーダー育成はどの階層・年齢層から始めるべきか」という問いを考えるにあたり、次世代リーダー育成の前提から考えることの重要性をお伝えしました。具体的には、「次世代リーダー育成はなぜ必要なのか」「次世代リーダーが備えるべき要件は何か」「次世代リーダーはいつまでにどのくらい必要か」の3つの問いについて、個別性・具体性を持って考えました。
近年では階層や年齢という概念を廃した新たな組織の概念も提唱されていますが、ここで考えた思考のプロセスは原理原則として応用できることでしょう。本コラムが、皆様の会社で行う次世代リーダー育成の一助になれば幸甚です。
引用/参考情報
1) 引用:経済産業省、企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン、2018年3月、P.4
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。