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経営戦略はあるのになぜ勝てないのか?

2021.10.21

かつて、日本企業の課題は経営戦略がないことだ、と言われてきましたが、私はそのようには思いません。実際、多くの企業が中長期経営計画などを策定し、戦略を打ち出しています。問題は、経営戦略は描けていても、実行できていないことにあると考えています。

なぜ戦略を計画通りに実行できないのか。それは、トップが描いた戦略を実行できる状態に組織が整っていないからです。戦略は大きく転換していても、組織が従来のままではうまくいくことはありません。新たな戦略を実行しうる組織への変革、つまり、戦略実行を担う人たちの意識や行動を変えることが必要です。

経営に直結する視点で、人や組織をどう変革していくか

従来、その先導役を務めるのは経営者でした。しかし、時代が急激なスピードで変わっていく中で、経営トップのみで、描いた戦略を推し進めることは難しくなっています。

昨今、CHRO(最高人事責任者)やHRBP(HRビジネスパートナー)を配置する企業も増えてきました。これまで採用や労務管理などのオペレーショナルな仕事が中心であった人事も、経営トップと同じ視点で考え、戦略実行の支援ができる人事へと変革が求められています。また、経営企画の役割も、経営トップと戦略を描くのみならず、組織や人をどう変えていくかのイメージを持つことが必要になります。ただし、経営に直結する視点で、人や組織をどう変革していくかを考えられる人材は社内にそう多くいないのが現状です。

私たちグロービスは、戦略を実行する人・組織を育てる支援を行っています。単に策を授けるのではなく、思い描いている方向に組織が変わっていけるように寄り添う伴走者のような役割です。これらを組織開発と呼んでいますが、組織開発こそ経営そのものだと思っています。

以前、「ハードからソフトへの事業転換」という戦略を打ち出すIT企業を支援したことがあります。ここでもやはり組織を変えること、そのためには組織を構成する人を強くすることが大前提でした。そこで全社員3,000人のうち1,500人に研修を実施しました。特に、リーダー層300人の意識改革、行動改革に力を注ぎました。経営視点で考えられる人を育成、選抜し、配置して、もう一度育成する、ということを3年ぐらいかけて取り組みました。 3年という期間は、組織開発を行ううえで、決して長いわけではありません。

10年後、今とは全く違う会社になっている

私はこれまで一貫して組織変革やリーダー育成に携わってきました。関わった企業は業種を問わず、300社ほどになります。

私たちは数年間にわたり、企業の変革に関与します。戦略を描くのには1年もかかりませんが、戦略を実現する組織を創るには少なくとも数年を要するためです。1つのプロジェクトはおおむね3年ほどで完結しますが、10年、20年のお付き合いになる企業も珍しくありません。

私たちが関わるわずかな期間で組織が劇的に変わるということはありません。言ってみれば、その会社にとって私たちとの関わりは漢方薬のようなもので、じわじわと効果が出てくるものです。「会社が変わった」と実感していただくには7~8年はかかることもあります。しかし間違いなく言えるのは、10年くらい経過して振り返ったとき、以前とは全く違う会社になっているということです。

取り組みの中で難しいのは、「変わらない」と思った瞬間に、組織は元の状態に戻ってしまうことです。だからこそ、人・組織のわずかな変化も見落とさず、タイミングを逃さず、経営トップに対し、着実に変わっていることをしっかり伝えます。なぜなら、見てくれている人、応援してくれる人がいると、人は頑張れるものだからです。私たちにはそんな役割もあると思っています。

グロービス・コーポレート・エデュケーションフェロー 西 恵一郎

グロービス・コーポレート・エデュケーション
フェロー

西 恵一郎 / Keiichiro NISHI

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築や商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。その後、グロービスの企業研修部門にて組織開発、リーダー育成を通じた多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を経て、コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクターとして事業責任者を務める。
現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーションのフェローとして、グローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングの講師を担当する。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。また、富士通株式会社のCEO室Co-Headとして、全社経営戦略を担う。

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