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なぜグローバルタレントマネジメントは機能しないのか?鍵を握る「人事部門の共通認識」
グローバルに事業を展開する企業にとって、人材を可視化し、戦略的な人材の採用・育成・配置・登用などの人事戦略に活用していく「タレントマネジメント」は欠かせない取組みです。 しかし、その実行にあたって多くの企業が見落としがちなのが、「人事部門における認識合わせ」の重要性です。制度やシステムの導入といった具体的な施策に注力する前に、 本社やリージョン、各拠点人事などの間で共通認識をもてているか。これこそが、グローバルタレントマネジメントの成否を分ける鍵となります。 (本コラムは、「企業と人材」2026年1月号の連載記事を一部編集のうえ、掲載しています)
なぜ「認識合わせ」が不可欠か
タレントマネジメントは単なる人材管理ではなく、自社の人材を最大限活かして企業戦略を実現するための手段にほかなりません。そのためには、多国籍・多拠点にまたがる人事組織が、同じ方針のもとで動く必要があります。
しかしながら、法制度や文化の違い、物理的距離などから、各拠点の人事の目線がズレてしまったり、同じ方向を向けていないことも多いものです。こうした状況では、いかに優れた制度や仕組みを整備しても、機能しなくなってしまうでしょう。
だからこそ、すべてのスタート地点である「人事部門における認識合わせ」が重要なのです。
人事が共有すべき3つの視点
では、何について「認識合わせ」を行うべきなのでしょうか。特に重要な3つの視点をご紹介します。
視点1:グローバル競争戦略の方針理解
自社がどのような事業展開を目指しているのか、その実現にはどのような組織体制・人材戦略が必要か。こうしたグローバル競争戦略の方向性理解がすべての出発点となります。これは一国内においても重要ですが、グローバルの場合、事業展開方針に応じて目指す体制やタレントマネジメントの力点が大きく異なります。そのため、事業戦略の理解がより一層重要になるのです。
自社のグローバル競争戦略がどのようなものかは、①各国市場に適応する戦略なのか(マルチドメスティック)、②地域単位で戦略を考えているのか(リジョナル)、③グローバル全体を1つの市場として競争戦略を検討しているのか(グローバル・コスト・リーダーシップ) の3つに分けて考えることができます。①であれば各国単位でタレントマネジメントを最適化していくことが求められる一方、③の場合は、国を超えた機能軸や製品軸で組織を分けていくことが一般的です。こうした組織の区切りに準じて、グローバル全体のポジションにおける人材還流を、本社が影響力をもって進めるのか、あるいは、各国・各地域単位である程度独立性をもたせて進めることが望ましいのかが変わってくるのです。
なお、実態としては上記①~③は綺麗に分かれるものではありませんが、自社が目指している方向性を本社人事が経営と議論して認識を合わせ、それを各拠点人事と共有していくことが、最初のステップとして非常に重要です。
グローバル競争戦略に応じた組織体制・タレントマネジメント
| ① マルチドメスティック | ② リジョナル | ③ グローバル・コスト・リーダーシップ |
|
|---|---|---|---|
| 競争戦略 |
各国市場単位で競争戦略を検討する。 国・地域によって求められる基準、嗜好、ニーズが異なることを考慮し、それぞれに差別化された製品・サービスを提供する。 |
地域単位で競争戦略を検討する。 グローバルで統一することによる効率性と、 各国適応との最適なバランスを求める。多くの多国籍企業では、 EUやNAFTAといった貿易圏と連携することが多い。 |
グローバル全体を1つの市場として競争戦略を検討する。 世界各地での活動を統合することで、各国間の連携や相乗効果を最大化し、 競争優位性を獲得する。 |
| 組織体制・権限 |
国・地域単位の統括。 各国の文化や市場特殊性を重視するため、現地子会社で独立経営する傾向が強い。 各国マネジメント層には実質的な裁量権が与えられている。 |
地域本部による統括。 地域本部を置くことでグローバルでの効率性を追求する本社と、現地のオペレーション側との緊張を克服することを意図している。 |
グローバルでの製品別組織。 現地の違いが軽微な場合、すべての組織機能の活動を製品単位で管理する。 グローバルで一貫した経営のため、主要な権限は本社または駐在員(本社人材)が持つ傾向にある。 |
| タレントマネジメントの方向性 |
ポリセントリック(現地主義) 各国・各地域の独自性を重視し、現地の優秀人材を中心にプール管理を行う。 |
レジオセントリック(地域中心主義) 地域本部が中心となり、特定の地域内から優秀人材を探し、候補者プールを拡張しながら組織運営を行う。 |
エスノセントリック(自民族中心主義) 各国・各地域に対する本社のグリップが強く、特に上位層のプール管理には本社が影響力を持つ。 |
南 知宏. (2024). グローバル企業のための新日本型人材マネジメントのすすめ―日本型経営をアップデートして海外現地法人に活かせ (BOW BOOKS 028). 中央経済グループパブリッシング.
Vance, C. M., Paik, Y., Froese, F. J., & Andersen, T. (2023). Managing a Global Workforce: Challenges and Opportunities in International Human Resource Management (4th ed.). Routledge.
視点2:人事ポリシーと判断基準の共有
グローバルタレントマネジメントは「キーポジションの設定」「データ統合」「人事制度改定」などに及ぶ、構想から実走まで息の長い取組みです。だからこそ、途中での方針ブレや、責任者・担当者変更による頓挫が起こらないよう、大前提となる人事ポリシーや判断基準の共有が欠かせません。
人事ポリシーとは、経営理念・経営ビジョンの実現・経営戦略の実行にあたり、人材に対する基本方針や大事にしたい価値観を明文化・図式化したものです。これらは戦略と人事施策をつなぐ指針であり、個々の人事施策に通底する「自社の人や組織はどうあるべきか、ありたいか」を示すものです。
人事ポリシーは経営理念や経営ビジョンとの連動性をもたせてつくられるため、本社人事で検討することが多いでしょう。一方で、経営や本社人事の一存で決めてしまうと、各拠点人事の腹落ち感は得にくいものです。各拠点で共通的に大事にされている価値観や現場の声も拾い、トップダウンとボトムアップを融合させながら策定していくことが重要です。また、人事ポリシーを策定しても、「絵に描いた餅」では意味がありません。人事組織内においてポリシーへの共感点や各施策のつながりなどについて意見交換をするなど、具体施策に通底する指針として、地道に人事ポリシーを根付かせていきましょう。
視点3:役割分担の明確化
本社、リージョン、各拠点人事、さらにはHRBPなどの事業付きの人事機能もあるなかで、誰がどこまで主導・支援・実行を担うのか、不明確なままでは連携は進みません。責任範囲と権限を明示し、同じ熱量・認識をもって、主体的に動ける状態を整えることが求められます。
そのためには、人事部門そのものをモチベートし、強化することも有用でしょう。
まずは「接点づくり」から
こうした認識合わせを実際に進めていく際には、いきなり全体を整えようとするのではなく、「接点をもつ」という機会づくりからはじめていくことが現実的です。半年に一度のグローバルでの人事カンファレンスや、リージョンごとの定期ミーティングを開催するなど、小さくても継続的な対話の場を設け、人事間での接点を増やしていくこと。それにより、お互いが顔の見える関係になり、共通言語が育まれ、徐々に目線をそろえていくことが可能になるのです。
グローバルタレントマネジメントというと大掛かりな仕組みをイメージしがちですが、その基盤となる第一歩は、国や地域を越え、人事の間で目指す方向や価値観を共有することです。今、皆さんの人事組織は「同じ景色を見ている」と胸を張って言えるでしょうか?
まずはこの問いに向き合うことからはじめていきましょう。
