- 新規事業創造
新規事業における多産多死モデルをいかに乗り越えるか -ステージゲートの運用から考える-
これまで、「新規事業を生み出す組織文化の醸成のポイント」や、「新規事業を生み出す組織をつくる際のポイント」をご紹介してきました。
今回は、多くの企業で新規事業を生み出す「仕組み」として採用されている『ステージゲート』について、実際の企画・運用の経験を踏まえポイントをご紹介します。
ステージごとに新規事業案を評価し、育てる手法「ステージゲート」とは
ステージゲートとは、その名の通りステージとゲートを複数設けて、各ステージで新規事業案を評価し育てていくという、新規事業を創造するための1つの手法です。
企業によってステージゲート数は様々ですが、一般的には、以下のようにステージ0~3までの4段階を設けて評価し育てていくケースが多く見られます。
- ステージ0:一定の方向性に沿ったアイデアかどうかを募集し判断する
- ステージ1:一定の顧客のニーズが確認できる、そしてニーズとソリューションやプロダクトがフィットしている
- ステージ2:魅力的な市場性が見える、そして実現性がある、競争優位性がある
- ステージ3:量産化をしてからの投資回収の確実性が予見できる
一般的に、メーカーではステージ1までを研究開発部門が担い、ステージ2以降を事業部門が担うケースが多いようです。
新規事業創造では、投資対効果を考えると、ベースとして多くのアイデアが必要です。いわゆる多産多死モデルを前提に、ステージゲートの運用を考えることが大切です。
ステージゲート運用の基本を押さえる
多産多死モデルである新規事業の成功確率は250分の1 (※) ともいわれています。入口のビジネスアイデアが多く出てこないことには成功に辿り着けないため、初期段階で社内のアイデアコンテストのほか、アクセラレータープログラム、CVCなど様々なルートを通じてアイデア量を確保しておくことは大前提となります。
次に、各ステージ、ゲートで基準を設け、次に審議し、前に進めるものと却下するものを決めます。具体的には、各ステージ、ゲートごとに、ビジネスの基本である「市場性」「実現性」「競争優位性」を共通項目として見ていく必要があります。これら共通項目で基準を作る際のポイントは、ステージが進むごとに厳しく、大きな利益をもたらすものなのかを、問うように設計することです。温情により本来落とすべきテーマが前に進んでしまったり、本来進めるべきテーマが感情的に却下されてしまったりしないよう、留意しなければなりません。
加えて、提案者はビジネスの基本を押さえていること、評価者は評価できる視点を持っていることが肝になります。(参考事例:事業開発の「共通言語」をつくり、社内ビジネスコンテストをアップデートする)
一方、基準は決めても「当落線上」のビジネスアイデアというものも存在します。実際、点数が総合的に数点足りない理由で落とすべきかについて悩むシーンに必ず遭遇します。その際は、提案者の本気度や状況を打開しようとする行動力など、マインド面にも目を向け、救済していくプロセスを持たせることが大切です。
サポーターの存在がステージゲートの運用を加速させる
何らかの業務と兼務で新規事業を担う場合、圧倒的に足りないのは“リソース”です。具体的には、時間、スキル、情報、お金です。
多くの企業ではステージ内の提案は、提案者が本気で進めるべきとの判断でサポーターをつけ忘れてしまい、気が付くと提案者がトーンダウンしているケースが多く見られます。
一方、うまくいっているケースは、社内のリソースパーソンや事務局がサポーターとして着き、スキルの補完やペースメークをしたり、社外へのアクセスポイントを紹介するなどして進めています。ここからの示唆は、「人間1人では、熱い志も持続しない」ということです。
もう1つは、組織をまたがるゲートでサポート体制を作ることです。一般的に、ステージ1までは研究開発部門が、ステージ2からは事業部門がインキュベートするよう分かれていますが、陥りがちなこととして以下のようなケースが見受けられます。
- ・研究開発部門から事業部門に引き継がれたものの、事業部門側の意欲や市場を見通すスキルが弱くトーンダウンしてしまう
- ・事業部門では目の前の早い成功を急いでしまい、当初想定していたビジネスモデルとは異なるビジネスモデルになり、終焉を迎えてしまう
- ・値付けを誤り安売りをしてしまい、利益の出ないビジネスとなり、次のステージ基準「収益性」で引っ掛かり、終焉を迎えてしまう
こうした事態を回避するためにも、組織をまたいだ後も、アイデアの出し手の想いとスキルを持った人たちが受け手側に回り、一定の期間まで進めていくなど、出し手側のサポートを確保しておくことも大切です。
モチベーションを継続的に担保する
最後にマインド面についてです。実はこれがとても重要です。繰り返しになりますが、ステージゲートは多産多死モデルが前提です。
本来ならば、研究開発員として10年間1つのテーマに携われたかもしれないのに、本制度が導入されたばかりに、1~2年でそのテーマに携われなくなる可能性が、そこかしこで出てきています。結果、モチベーションダウンしてしまい、組織を離れる人材が多くなると組織の力が減退します。更には次のアイデア量も減っていく傾向もあります。
こうした事態を回避するためには、ステージゲートで落ちたアイデアを持ってきたメンバーを称え、評価する仕組みと、正しいコミュニケーションがされることが大切です。また、落ちた後でも「また大きな目的のために再度チャレンジしよう」という意欲を新たに湧き立たせるよう、組織として常に発信し続けることも非常に重要です。
今回は、新規事業を生み出す仕組みとしての「ステージゲート」のポイントをご紹介しました。
多くのアイデアが生まれ、一つでも多くの有望な事業を継続的に生み出すための参考になれば幸いです。
<参考文献>
- (※)『The Invincible Company』 Alexander Osterwalder (著), Yves Pigneur (著), Alan Smith (著), Frederic Etiemble (著)