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事業部長を支えるHRBPの役割と育成

2022.05.09

前回 までの話にもあるように、事業部長などの各事業の責任者が機能するには、HR、財務、法務といったコーポレートが事業経営を支える様々なBP(ビジネスパートナー)となる必要があります。事業責任者がバックオフィス機能までを担うのは現実的ではなく、BPが戦略の実行をフォローしていく体制作りが求められます。

しかしながら、多くの日本企業ではHRがHRBPの役割を果たしきれないのが現状です。その背景には、本社と事業部の役割分担やスキル面での課題が存在しています。本コラムでは、事業部経営においてHRBPには何が期待されるのか、そしてHRBPの実現に向けて何をすれば良いのかを考えます。

経営の視点で人・組織の課題を捉え提言するHRBPが必要

事業部経営において、HRBPは事業部戦略の合意形成を行う場づくりをし、戦略に応じた組織の 7S(企業戦略における、幾つかの要素の相互関係を表したもの。組織づくりの際によく用いられる)を整合させることが期待されます。経営視点で人と組織の課題を捉え、人事戦略を考える役割です。

企業によっては、全社戦略はあるものの、事業部の戦略が決まっていない場合も少なくありません。そのような時には、HRBPが戦略を決めるための“場づくり” ――関係者を集めて議論をする場をセットし、アウトプットを作るまでのプロセス設計をすると、事業部長は大いに助かるのです。

戦略を落とし込んでいく組織づくりにおいても、HRBPが事業部長と二人三脚で進め、戦略に応じた組織ができてくると、事業部の経営スピードも柔軟性も上がります。社員の採用でも、自分達の事業部にフィットする人材を採用できるようになるでしょう。

そして何よりの大きなメリットは、事業部長が組織づくりや人材育成で悩んだ時の壁打ち、相談相手が事業部内にいることです。事業部長は組織づくりのプロではない自覚があるので、専門家のアドバイスが欲しいものです。まさに、HRBPは、事業部長の右腕となることが期待されています。

現状のHRに不足しているのは、事業戦略への理解

HRBPが事業部経営において重要な存在である一方、現在の日本企業はHRがHRBPとして価値を発揮する体制が作りにくいと考えています。これには大きく2つの理由があります。

まず、多くの企業では採用や育成を人事が一括で担い、組織づくりは事業部が担う、という役割分担になっていることが挙げられます。この分担では、人事のメンバーであるHRBPが事業部の組織づくりに関与しにくいといえます。

2つ目は、前回のコラムで述べたように、HR業務の運営中心になっていることです。ミシガン大学のデイビット・ウルリッチ教授が提唱した「人事の4つの役割」で考えると、人事業務の大半は図の左下にある「管理エキスパート」の内容であり、一部、右下の「従業員チャンピオン」も担っている場合が多いのが実情です。

(図:デイビッド・ウルリッチ著、梅津祐良訳 ”MBAの人材戦略(日本語)”
日本能率協会マネジメントセンター、1997年、P.34を参考に作成)

HRBPに求められる役割は、戦略に応じた人事戦略と施策を計画し、実行をリードすることです。しかしながら、HRのメンバーは決められた施策を実行して組織貢献してきたがゆえに、具体的な施策やオペレーション構築については考えられるものの、戦略レベルの議論ができない課題があります。戦略の理解が追いつかず、社内外の環境を分析して事業部長と意見交換することも難しいのです。本社と事業部の橋渡し役も担いきれません。

この現状を踏まえると、全社でHRBPの育成を組織的かつ中長期的に取り組む必要があると考えます。これはすなわち、HRメンバーのキャリアを広げる取り組みでもあるのです。

HRBPの育成を通して、事業部長との信頼関係も築く

では、HRBPの育成はどのように取り組むのが良いのでしょうか。私としては、経営を考えるための基礎スキルをつけた上で、まず事業部長向けのレポートを作ってもらうことをお勧めしています。レポート内容は、社内外の環境分析をし、自社の方針とそれに紐づく人・組織領域の戦略を7Sの観点から考えるものです。

レポート作成というアプローチには、さまざまなメリットがあります。個々人ができるところから取り組める、レビューを受けながら仕上げられる、事業部長と議論する材料になる、といったことです。そして、レポートの内容をアクションに落とし込み、その過程で事業部長との信頼関係を築くのです。

事業部長も、これまではHRに社員の採用しか期待していなかったとしても、環境分析や戦略、組織づくりに関する提言が出てくれば感謝するでしょう。さらに、HRのメンバーが事業部長と組織づくりの議論をできるようになると好循環です。この一連のプロセスを通して、HRBPになるための小さな成功体験を積み重ね、時間をかけて自信をつけていってもらうと良いと考えます。

ここで気をつけたいのは、HRは「提案したことは、全て自分達で実行までやらなければならない」と思ってしまいがちなことです。決められた仕事を担うことが多かったがゆえに、自分達で完結させようとする発想になるのでしょう。そうではなく、施策を企画したら事業部長を巻き込み、事業部からリソースを出してもらうよう働きかければ良いのです。HRBPが関係者同士のハブになる動きができると、さらに高いレベルの役割を果たせるようになっていきます。

グロービス・コーポレート・エデュケーションフェロー 西 恵一郎

グロービス・コーポレート・エデュケーション
フェロー

西 恵一郎 / Keiichiro NISHI

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築や商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。その後、グロービスの企業研修部門にて組織開発、リーダー育成を通じた多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を経て、コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクターとして事業責任者を務める。
現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーションのフェローとして、グローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングの講師を担当する。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。また、富士通株式会社のCEO室Co-Headとして、全社経営戦略を担う。

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