- 経営チームの変革
これからのCHROの役割とは
デジタル化の進展が進み、経営のスピードがより求められ、人・組織の在り方が大きく変わろうとしている中、企業経営においてCHROが果たす役割の重要性は増していくでしょう。日本においてCHROを設置している企業はまだ3割ほどにとどまりますが(※)、今後増えていくことが予想されます。
最後に、これからのCHROの役割について考えます。
経営者としてのCHROの役割
CHROに求められる役割は、大きく3つあると考えています。
1つ目は、CHROに限らずどのCXOにも共通する「経営者のビジネスパートナー」であることです。経営陣の中でCHROは、経営目標に対して人事戦略を策定し、リスクとその対処法を洗い出してCEOに働きかけていく役割が期待されます。経営戦略をどう実行に落としていくか、あるいは会社をどのように変革していくかをリードし、人を通じて経営を成していくのです。
2つ目は「事業戦略と組織能力をフィットさせる」役割が挙げられます。具体的には、
- 事業戦略の実行者としてガバナンスを構築する
- 人材ポートフォリオの現状(As Is)と目指す組織像(To Be)のギャップを見出し、タレントマネジメントを進める
- 経営戦略の実現に向け、採用・配置・育成・評価の各施策を推進する
といったことが期待されます。さらに組織カルチャーをつくる責任者もCHROだと考えます。企業の価値観、リーダーの行動、社員のスキルを自社が目指す姿、戦略に合わせてシフトさせる役割を担うのです。
3つ目は、「人事部門の専門性を高める」ことです。人事としてのビジョンを作成し、メンバーの専門性を強化すべく能力開発を行い、強い人事部門を作る役割です。これまでの人事部長は、この3つ目の役割に注力してきた方が多いのではないでしょうか。
これらの役割を踏まえると、CHROとは、人事領域を通じて経営を担うという意味において、一経営者であると言えます。
人的資本と企業価値を連動させていく
上記でご紹介した3つの役割に加え、今後、CHROには非財務目標への説明責任も生まれてくると思われます。前回のコラムで述べたように、人的資本と企業価値の関連性が見えてくると非財務目標の達成度も明らかになるので、CHROがIR説明の場に同席し、株主に対して投資対効果を報告する場面も出てくると思います。こうした未来に備え、経営観点で説明できるCHROが増えていかなければなりません。
企業の社会的責任の観点からも、CHROの存在は重要になります。ESG経営に注目が集まる中、多くの企業は、経営目標に社会問題の解決を掲げるでしょう。そのためにビジネスモデルを既存のものから変えようとすると、多様な視点を取り入れるために外部の人を巻き込んだり、現社員とは異なる能力を持った人を採用したりして、組織のダイバーシティを高めていく必要が生じます。その際、ダイバーシティがなぜ重要なのかの意味づけをし、ストーリーとして語ることがCHROに求められます。「社会問題の解決を目指す」「女性比率を何%まで高める」といった目標だけ掲げても、社員には必要性が伝わらず、納得感も醸成されません。CHROがストーリーを語れる力は、今後ますます重要になります。
経営のスピード向上、そのための事業部経営や組織のダイバーシティ向上など、これからの企業経営に求められる要件を実現させる上で、CHROが果たす役割は非常に大きいと言えます。
どんなに環境変化が起きても、デジタル化が進展しても、組織創りがなくなることはありません。これからの時代は、人・組織の在り方によって経営の成果が左右されるといっても過言ではありません。
経営のスピードを高め、変化対応力がある組織を作るためには、事業管理から事業経営へ、そしてそれを創っていくためのHRBPの育成、全社としてそれを動かしていくCHROの強化、やるべきことは多くあります。ポジティブに捉えれば、日本企業は成長する余地が大いにあるということだと思います。ぜひ、グローバルで勝てる組織を一緒に創っていきましょう。
<参考>
- (※)日本の人事部「人事白書2022」より引用