- 新規事業創造
新規事業を生み出す組織に向けて必要なこと -風土醸成を阻む4つのポイントから考える-
大企業において新規事業を創出するうえで、まず「ベースとしての組織風土」が重要だと以前のコラム「イノベーションの旅は、風土づくりから」でご紹介しました。
今回は組織風土が醸成されている企業とそうでない企業を紹介しつつ、具体的な風土醸成において大切なポイントについて考えます。
組織風土が醸成されているとは
組織風土が醸成されている企業では、まず新規事業創造のための専門部署があり、既存事業とは異なる指標をもとに運営をされています。基本はこの新規事業創造の専門部署が社内外に働きかけ、事業を創造していきますが、もう一つの特徴は社内の新規事業提案制度が整備され、公募に対して毎年のように多くの応募があるのが特徴です。
一方で、風土が醸成されていない企業では、新規事業創造の専門部署がない、またはあったとしても既存事業と同様の経営指標で評価をされていることが特徴です。
さらには新規事業提案制度もないか、あっても応募者が集まらない事も特徴として挙げられます。
ではこの風土醸成をするための分水嶺は何なのか、公募提案制度に絞り、実際の事例をもとにご紹介していきます。
1. 経営トップのメッセージが十分か
とある企業A社では、経営トップが日ごろ、自組織のミッションやビジョンとセットで、新規事業を生み出すことの必要性を発信しています。A社ではその思いに呼応するように、毎年数10件の提案がなされ、その動きは途絶えることがありません。
一方、企業B社では、経営トップが「今の収益」に関するメッセージばかりを発信するため、公募提案制度があるにもかかわらず、応募は数件あるかないかという状態が続いています。このようにまず経営トップのメッセージが発信されているかどうかはとても重要です。
2. 新規事業の方向性が定まっているか
意外と見落としがちになるポイントについてお伝えします。
前述のA社では経営トップのメッセージに加え、新規事業を生み出す方向性が定まっています。具体的には企業のパーパスに基づき、社会課題の解決に資する5つほどのテーマ領域を定め、その範囲で提案を募集しています。(かつ既存事業で実施している範囲以外で提案を受け付けています。)
一方B社では、提案の方向性を交通整理することなく、なんとなく公募をしており結果は前述の通りとなってしまっています。
ともすると、「公募提案制度は参加者の意欲を組むべき」と考え、方向性を示さないことが多くなりますが、これは返って提案数を減らす結果になってしまいます。さらに、提案数が少ないことは社内に周知されますので、「誰も応募しないあの提案制度ね」と噂が広まり、さらに提案者が少なくなるというバッドループに陥ります。
3. 視界を広げられているか
提案が多く上がる組織では、前提としてマインド(意欲)が高いことが挙げられます。「自社の行く末に危機感がある」「新規事業を純粋に作りたい」など様々な動機から提案がなされます。 では、このマインドの高さはどうして生まれるのかというと、多くの場合は「視界の広さ」と比例するようです。
A社では、社外のビジネススクールなどに行き他流試合の機会があることや、自社の中長期の行く末についてワークショップで考える機会があることなど、視界を「外」や「先」に向ける機会が多くあります。人は「外」や「先」に触れると多くの場合、「外」と「内」、「先」と「今」を比較します。その比較の中で「危機感」や「純粋な想い」が育まれ、提案へとつながっていきます。
B社の社員は、就業時間のほぼ100%を「自分の仕事」に充てています。社外派遣も整備されておらず、ワークショップもありません。結果、比較する「外」や「先」が認識に入ってこないので、当然提案したいとは思わないようです。
4. 上司の口癖が阻んでいないか
最後に、提案をしたくても上司に阻まれてしまうケースをご紹介します。
B社では公募提案制度の説明会を開催すると10人ほどの参加者がいますが、結果その半分以下の数人しか応募をしてきません。
この説明会から実際の応募の間に何があったのかヒアリングをしたところ、多くの方は上司から止められたことで応募をしなかったようです。
「本業が優先である」「まずは今の仕事で成長してほしい」など上司が考えていることは頷ける側面もありますが、若い人材の意欲を、もしその一言で潰していたとしたらもったいないと感じます。
今回は、新規事業を生み出す組織風土、特に公募提案制度に焦点を当て、風土醸成の(醸成を阻む)ポイントについて4つご紹介しました。
皆さんの会社では、この4つに対して十分な備えができていますか。本コラムをきっかけに、自社を振り返る機会になれば幸いです。