- 新規事業創造
新規事業を生み出す組織づくりで必要なこと -組織(部署)新設のパターンから考える-
以前のコラム「新規事業を生み出す組織に向けて必要なこと -風土醸成を阻む4つのポイントから考える-」で、新規事業を創出するには風土醸成が大切になるため、風土醸成を阻むポイントについてお伝えしました。
本コラムでは、新規事業創造のための組織づくりのポイントを見ていきたいと思います。
新規事業創造のための組織は私が見てきた中では大きく以下の3つのパターンがあります。
- 1. 企業内に新規事業を生み出す組織(部署)を新設する
- 2. 企業の既存事業部内で新規事業を生み出す
- 3. 企業の外に別会社を立てて新規事業を生み出す
今回は、最近多くの企業が取り入れている「1. 企業内に新規事業を生み出す組織(部署)を新設する」場合について考えたいと思います。
既存事業に最適化されていることを新規事業向けに見直す
多くの企業ではその企業のミッション(使命)やビジョン(ありたい姿)、バリュー(大切にしたい価値観)が文言化されていますが、基本的には既存事業に最適化されて解釈されているケースがほとんどです。そのため、新規事業を生み出そうとすると、これらのミッション・ビジョン・バリューが障壁となり、新規事業創出を阻むことがあります。
新規事業を創出する部署を自社内に作る場合は、まず新規事業として生み出す方向性を踏まえた、ミッション・ビジョン・バリューを設定すること、もしくは新規事業に寄せて再定義・解釈し、組織内に周知をすることが大切です。この作業がないと、後々、新規事業の活動が組織内で浮いてしまい、様々な軋轢を生み出すことになってしまいます。
また、既存事業では、売上や利益の額や成長率などの指標をKPIとして運営されていますが、新規事業創造においては、すぐに売上や利益が出るものばかりではありません。そこで、別の指標で判断をして運営を行う必要があります。例えば、新規事業のアイデアの件数、アイデアを事業化に向けて進めるためのプロセスごとの進捗度合い、既存の事業部に引き渡したアイデアの数などを指標に入れるケースもあります。また、経営指標ではないものの、会議体のあり方とそこでの論点や討議内容の設定にも巧拙が出ます。
既存事業の場合は、年度方針で出した事業の定量目標に対しての達成度合い、課題、改善策を淡々と発表し、その際には社長、財務担当役員と事業部長だけの会話で終わることなどが常です。
しかし、新規事業の場合には、ほぼうまく進まないことが前提のため、うまくいかない理由と次にどのような方向へ進むかについて、早く、且つ徹底的に議論することが必要になります。その際、なぜうまくいかないのかを一緒に考えるマインドで、経営陣や関係者と徹底的に深掘り、対話を行う場を設定することが重要です。間違っても数カ月に1度、無機質な対話しかしないようなシステムにはしないようにしたいものです。
新規事業を推進する方向性を設定し最適な人材を確保する
新規事業創造というと「これまでにないイノベーティブな事業を生み出すのだ」と意気込むケースが多くありますが、現実的には自社のリソースから離れたところでは失敗確率が相当高くなります。見事に事業構造の転換を成し遂げた富士フイルムも、過去に遡ると様々な新事業創造に取り組んできましたが、結局成功したのは、顧客基盤があったり、要素技術を既に持っていた分野の事業でした。
有名なアンゾフのマトリクスで言うと、新製品開発か新市場開拓を新規事業創造の領域と定め、関係者に周知をすることが大切です。決して、多角化を標榜してはいけないというわけではないものの、全体として新規事業の割合が増えると、失敗確率が相当上がるため、結果的に組織が疲弊したり、既存事業サイドからの介入が増えたりなど、良いことにつながりません。
また、既存事業では、組織従順性や協調性などが高い人材が活躍する傾向がありますが、新規事業では逆に、主張性や独立性が高いなど、はっきりと自身の意見を持ち自ら動く要素が高い人材の方が適任でもあります。
このように、新規事業を進める際には新規事業を推進する際に最適な人材要件を定め、フィットする人材に参画してもらう必要があります。
一方、既存事業の人材と共通でなくてはならないのは「社内の信頼」です。たとえ人材要件はフィットしたとしても、社内の信頼がなければ、周囲を巻き込むことはできません。ぜひ信頼のある人材を選抜したいものです。
生み出したビジネスアイデアを頓挫させないために
新規事業創造部署で生み出したビジネスアイデアはどこかのタイミングで事業部に渡すこととなります。一方で、渡した瞬間に「全く関与しない」となると、受け手である事業部が背景を理解していないことや意欲が高まらないなどの原因で、アイデアが頓挫するケースが多くあります。
事業部に渡した後も、新事業創造部署のメンバーが異動し関与し続けることで一定の成功に導くまで進めることが望ましい体制です。
今回は、新規事業を生み出す組織、特に専門部署を新設する際のポイントをご紹介しました。 組織づくりは大掛かりで大変な仕事になりますが、皆さんの会社で新規事業を創出する部署をつくる際に、ぜひ参考にしていただければ幸いです。