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海外ローカル人材育成の課題とポイント

2025.12.18


近年、多くの日本企業が海外進出を加速させる中、現地法人の運営では「ローカル人材の活用・育成」がますます重要なテーマとなっています。かつては日本人駐在員がトップとして経営を担うケースが一般的でしたが、競争環境の変化に伴い、より柔軟かつスピーディな意思決定が求められるようになり、ローカル社員を現地法人のリーダーに登用したいというニーズが高まっています。一方で、その実現には人材の能力開発に関する3つの課題が存在します。

1. 課題を能動的に設定できない

まず、多くのローカル人材に「課題を能動的に設定できない」という課題がみられます。特にアジア諸国においては、コスト競争力の観点から現地法人を置いている日系企業が多く、日本本社の言ったことを低いコストで実現することが評価の基準とされてきました。その結果、ローカルリーダーが若手・中堅時代に、「あるべき姿を考える」や「問いを立てる」といった経営視点や全体最適を考える経験を積まないまま、リーダー候補となるケースが少なくありません。「この拠点の課題は何?」と問われても、答えに窮してしまうことが多いのが実情です。
さらに、タイやインドネシアなどでは、年上や上位の立場にある人を敬う文化が根強く、上からの指示には忠実に従う一方で、自ら考え提案するという行動には心理的なハードルがあります。こうした文化圏では、能動的な姿勢の重要性を頭では理解していても、実際に行動に移すことが難しいのです。

2. 論理的思考力が不足している

次に、「論理的思考力が不足している」という課題があります。例えば、報告やプレゼンテーションといった場面で、情報を整理するだけで何を伝えたいのかが明確でないケース(=主張の欠如)や、自分の考えを述べても、なぜそう言えるのかという根拠が示されていないケース(=根拠の欠如)がよく見られます。自らの主張や判断の根拠を言語化する習慣が十分に根づいていないため、相手に正しく伝わらず、議論がかみ合わない事態に陥ります。結果として、本社とのコミュニケーションが円滑に進まず、意思決定や実行のスピードが低下してしまう要因となっています。

3. 異文化への理解が不足している

最後に「異文化への理解が不足している」という課題があります。近年は、ローカル社員が他国の拠点に異動するケースも増えており、例えばタイ人社員がインドネシアに赴任するような場面も見られるようになってきました。このような場合、文化や価値観の違いに戸惑い、異動先での立ち上がりに時間がかかることも少なくありません。異文化への理解や適応力は、今後のローカルのグローバル人材に求められる不可欠な要素となっています。

自ら考え・動くリーダーへの育成

こうした課題に対して、現地法人が今求めているのは、単なる業務遂行能力の開発ではなく、「自ら考え、自ら動くことができるリーダー」の育成です。ここからは、その実現に向けてどのような人材開発の取り組みが行われているのかをご紹介します。

1. 主体的に動けるリーダーシップを育てる

一つ目の「課題を能動的に設定できない」という課題に対しては、「リーダーシップ開発」施策の導入が有効です。特にマネージャー以上の層には、単に業務を管理するだけではなく、不確実な中でも方向性を示し、周囲を巻き込んでいく力が求められます。ローカル人材が「指示を待つ」状態から抜け出すには、「自分の考えで周囲を動かす」経験を積むことが重要です。その実現のためには、自身の内発的な動機づけを高め、変化に対応する柔軟性と判断力を養う機会を意図的に作ることが効果的です。ケーススタディやディスカッションを通じて自ら考え学ぶ機会が、理解と定着に大きく寄与します。

2. 論理的に考え、伝える力を育てる

二つ目の「論理的思考力が不足している」という課題に対しては、自分の考えを構造的に整理し、事実と意見を切り分け、筋道を立てて説明する力を磨くことが欠かせません。そのためには、単に論理の型を学ぶだけでなく、日常業務の中で思考プロセスを意識化する実践的なトレーニングが重要です。グローバル拠点では、言語や文化の違いを超えて議論を前に進めるうえで、論理的な思考と表現のスキルが“共通言語”として機能します。こうした力を育むことで、上位の日本人マネジメントとの信頼関係が深まり、意思疎通の齟齬が減るとともに、業務遂行の効率化にもつながります。

3. 異文化を尊重し、協働できる力を育てる

三つ目の「異文化への理解が不足している」という課題に対しては、異なる文化や価値観の背景を理解し、相手の立場から物事をとらえる視点を持つことが求められます。さらには、異文化への理解にとどまらず、多様な価値観を持つ相手と協働しながら成果を生み出すマインドを育てることが重要です。そのためには、一般的な「異文化理解」の研修だけではなく、自らの価値観と異動先の価値観がどのように異なるのかをケースを通じて疑似体験し、相対的な視点から自文化を見つめ直す学びが効果的です。こうした学びを通じて、多様な価値観を包摂しながら協働するリーダーシップを身につけることができます。

日本本社と現地法人が一体となった人材育成へ

グローバルな環境下で、日本企業が継続的に成果を上げていくためには、単に「現地任せ」にするのではなく、本社と現地法人が一体となって、戦略的に人材を育成していくことが欠かせません。現地での意思決定スピードや市場対応力を高めるには、ローカルリーダーが自律的に動ける体制を整えると同時に、彼らの成長を本社が長期的な視点で支援していくことが求められます。その地域の文化的背景を理解しながら継続的に取り組みを進めることで、真に現地に根づくリーダーの育成が実現すると考えます。

グロービス・アジア・キャンパスシニア・コンサルタント 植島 夕紀子

グロービス・アジア・キャンパス
シニア・コンサルタント

植島 夕紀子 / Yukiko UEJIMA

同志社大学経済学部卒業。グロービス経営大学院修了(MBA)。 大学卒業後、株式会社三井住友銀行に入行。神戸と丸ノ内で中小・大企業法人営業に従事。グロービス入社後、東京を中心に企業の人材育成のコンサルティングに従事。 また、茨城水戸で地方創生プロジェクトに関わりながら、グロービス経営大学院の特設キャンパス運営や新規事業立ち上げも行う。 現在は、グロービスのシンガポール拠点にて、APACのクライアントに対し、人材育成コンサルティング(ローカルスタッフ育成、選抜リーダー育成、海外拠点リーダー育成等)に携わる。

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