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日本企業のグローバル競争力向上に向けて ~グローバルリーダー輩出における経営者のミッションとは~

2024.07.08

前回のコラムでも述べた通り、グローバルリーダーの輩出が企業経営の競争力、そしてアウトプットを左右するといっても過言ではなくなっています。言い換えると、グローバルリーダーの輩出は経営の最重要イシューであり、人事部門に丸投げするのではなく、経営者自らがグローバルで活躍できるリーダー候補の発掘・育成に関与し、一定の時間を投入していくことが必要だということです。本コラムでは、経営者に求められる関わり方やマインドセットについて考えます。

経営者自らがグローバルリーダー輩出に対してオーナーシップを持つ

ある企業では、CEOを含む経営陣数名で手分けして日本を含む世界の拠点を巡る「タウンホールミーティング(経営者と従業員との対話の場)」を実施しています。この営みを通じて各地の従業員と接点を持ち、リーダー候補となる人材の発掘や育成に繋げているということです。
グローバルリーダーの輩出にはこのように相応の時間や労力を費やす必要がありますが、経営者の時間は有限であるという現実を踏まえると、外部採用は有効な手段ではありますが、同時に自社でグローバルリーダーを効率的に輩出する仕組みを構築することも不可欠です。

グローバル人事の仕組み構築を支援し、トップダウンでリーダー輩出を推進する

一般的に、グローバルリーダーの輩出を支えるグローバル人事の仕組みを構築するには、グローバル全体の事業戦略を踏まえた「ポジションと人材の特定と可視化」「流動性担保のためのグレーディング」「給与システムなどの人事制度の整備」など、様々な論点を紐解き、紡いでいく必要があります。そのため、あちらを立てればこちらが立たずとなってしまい、議論や意思決定が遅々として進まないこともしばしばあります。また、仮に人事制度は構築できたとしても、運用段階で行き詰まるケースも少なくありません。
このような難しさに加えて、そもそも諸々の制度が絡む人事の仕組みの構築には膨大な時間がかかるものです。故に、グローバル人材の輩出に向けた制度や仕組みの完成を単に待っているだけでは、人材輩出の機会を逸することにもなりかねません。こうした機会逸失を回避するためには、例え仕組みが不完全でも、「グローバルレベルで活躍できるポテンシャルのある人材に対する育成施策の実施」など、“進められるところから動かしていく”という指示をトップダウンで出していくことが必要でしょう。これは経営者にしか成し得ない重要な役割です。

例えば、ある企業ではグローバル人材の育成施策をまず先に動かし、それと並行、もしくは後追いで「コアポジションと人材の特定と可視化」「流動性担保のためのグレーディング」「給与システムの整備」を進めています。不整合が起きた場合は、都度修正しながら、数年かけて、グローバル人事とグローバル人材輩出の仕組みを作り上げています。

このように、経営者がグローバル人材の輩出に向けてオーナーシップを発揮するというのは、具体的には、

➢ 自身の時間の一定程度をグローバルリーダー人材の発掘に向けて投下すること
➢ グローバル人事の仕組みを構築するという極めて難易度の高い取り組みに対して、人事部のサポーターとなること
➢ 人事制度面などの仕組みが未完成でも、トップダウンで指示を出して動かせるところから動かし、リーダー輩出の機会逸失を防ぐこと

だといえるでしょう。



リーダー輩出における自社の現状・ポテンシャルについての肌感覚をもつ

前述したタウンホールミーティングを実施している企業では、経営陣同士での会話における多くの時間を「人材の認識合わせ」に割いています。また、人材の発掘・育成に有効な施策として「グローバルリーダー候補をターゲットにした研修の場」があります。例えば、日本を創業の地とし、日本にコーポレート機能を有する場合は、日本国内の拠点で実施されるモジュールが必ず設定されています。この場に、10名から30名程度、それぞれの担当領域で成果を上げ、かつこれからを期待されるリーダー候補を、日本を含む世界各地から選抜して集結させるのです。
とある企業の経営者は、グローバルリーダー育成研修にトップである自身と参加者との対話セッションを複数回組み込み、懇親会にも参加し、更には終了後、研修でのアセスメント結果を踏まえて人材評価の場にもコミットするなど、グローバルでの事業を加速することができる人材の発掘・育成にかなりの時間を投入しています。当然ながら、研修への経営者の深い関与は、参加者の動機付けや会社へのコミットメントを高めることに大きく寄与しています。

“リーダー輩出企業”として名を馳せていた時代の米電機大手ゼネラル・エレクトリック(GE)を率いたジャック・ウェルチ氏は、著書『わが経営』(※1)の中で、人材の発掘・育成にかなりの時間を投入していることを打ち明けています。強固なタレントマネジメントの仕組みはありつつ、そこに依存するのではなく、グローバルで様々な領域に広がる事業を経営できる人材は誰なのか、自社の人材の現状について誰よりも肌感覚をもつ努力を惜しまなかったジャック・ウェルチ氏の姿勢には学ぶべきことが多くあります。人的資本の重要性がクローズアップされる昨今において、経営者がどれだけの時間を人材の発掘・育成に割いているか、はこれからの経営状況を見る上での重要指標のと一つとなるはずです。

大事なのは、人事部門が作り上げる仕組みによるグローバルリーダー輩出の効果性は追求しつつ、一方で、経営者自身がグローバルリーダーの輩出にコミットし、自社の人材の現状とポテンシャルについての肌感覚をしっかりと持ち続けていくことです。

経営者自身がグローバル人材となり、グローバルリーダーの輩出を加速させる

経営トップを国外から招聘し、経営と組織のグローバル化を加速させる企業もあります。例えば、武田薬品工業のクリストフ・ウェバー氏、亀田製菓のジュネジャ・レカ・ラジュ氏などです。また、経営トップとまではいかずとも、経営チームに外国籍のエグゼクティブを招聘することは、今や多くの企業で見られるようになっています。実際、取締役に外国人を選任している企業は年々増加しており、諸外国と比較すると日本はまだ低い水準であるものの、日経225社では29%、TOPIX100社では44%(※2)となっています。

2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したスキル・マトリックスの開示が規定されました。今後は海外でのビジネス経験について厳格に問われるようになる可能性は大いにあると思います。いずれにせよ、経営層に至るキャリアの中で、海外でのマネジメント経験を計画的に積んでいくことは必須の要件とし、グローバルリーダーとしての資質を確実に獲得させていく必要があります。

例年1月半ば頃にスイスで開催される世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(通称ダボス会議)に参加する日本人の数は圧倒的に少なく、残念ながら日本のプレゼンスは低いという情報を毎年のように耳にします。民間企業としても、世界の潮流づくりを行うような国際フォーラムに経営トップが積極的に参画、発言し、日本のプレゼンスを高めていくことが引き続き期待されているといえます。

次回は、グローバルリーダーの輩出に向けた取り組みについて、具体的なトレーニングの事例をご紹介していきます。

<参考>
(※1)ジャック・ウェルチ(2001)『わが経営(上)(下)』日本経済新聞出版
(※2)Spencer Stuart「2023 Japan Spencer Stuart Board Index 」、2024年6月確認

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネジング・ディレクター 板倉 義彦

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネジング・ディレクター

板倉 義彦 / Yoshihiko ITAKURA

アグリビジネスの大手企業で商品企画、および生産企画での経験を積んだ後、IT業界に転じて製造業向けソフトウェアの営業・導入コンサルティング、および不採算営業部門の組織改革にリーダーとして携わる。その後、グロービスの法人部門(グロービス・コーポレート・エデュケーション)にて、自動車業界を中心に様々な業種・業界のクライアントに対して、人材育成・組織開発の側面からのコンサルティング活動を行う。また組織開発の新サービスの立ち上げにも従事し、現在は同部門の経営企画を担う。
経営戦略ファカルティにも所属し、経営戦略領域のコンテンツ開発、エグゼクティブスクールでの経営戦略領域を統括する。 国立東京農工大学 農学部卒業。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA)

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