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なぜ日本企業はグローバル競争力に欠けるのか ~グローバルで戦う上で押さえるべき、日本的経営の特徴と人・組織課題~

2024.06.10

「2030 年8月末までに、グローバルでの全管理職に占める日本国籍以外の従業員比率80%(うち執行役員40%)の達成を目指す」――これは、ファーストリテイリングが発表したGlobal One Teamに関する方針です(※1)。
多くの日本企業がグローバル進出を目指す中、グローバル競争に対応でき、海外事業をより一層拡大するための人・組織づくりは進んでいるでしょうか?どのような取り組みが成功に繋がるのか、模索しながら進めている企業も多いのが実情でしょう。上述のファーストリテイリングの発表からは、海外事業の更なる拡大に向けて、全社をあげてグローバルリーダーの輩出や競争力の強化に取り組むという経営層の覚悟を感じます。

これから 3 回シリーズでお届けするコラムでは、グローバルで戦う上で前提として押さえるべき日本企業の人・組織の課題と、解決に向けた道筋を示したいと思います。

日本企業が直面するグローバル競争力の低下

多くの日本企業において、事業のグローバル化に伴い、性別や年齢だけでなく、国籍、言語、文化等バックグラウンドが異なる多様な人材の採用が増えています。また、日本国内で実績を上げてきた日本人が海外のマネジメント人材として赴任する、現地での人材登用が進むなど、国を超えた人材配置、人材の流動化も進みつつあります。
しかしながら、国際経営開発研究所(IMD)の「世界競争力年鑑」2023年度版によると、企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」の順位は 64 か国中 62 位と、日本の世界競争力は依然低位に留まっています(※2)。この結果は、グローバルで戦う上での人・組織に課題があるという実態を突きつけられていると言っても過言ではありません。

過去の日本的経営モデルの特徴と現代にもたらした課題

IGPIグループ会長 冨山和彦氏の書籍(※3)でも述べられているように、日本が強かった「低コストで高品質」が求められていた時代は、当時の欧米諸国よりは安い賃金で、勤勉かつ協力的に働き、「連続的な改善・改良」を重ねる日本的経営モデルがうまく適合していました。しかし、今なおこのモデルを踏襲しているが故に、苦境に立たされている企業が多く見られます。例えば、とある製造を営む日本企業では、投資余力の面からも古くからある製造設備で改善・改良を重ねて作り続けていたものの、中国企業が最新製造設備を導入し、これまで日本企業が積み上げてきた改善・改良を超えるレベルの品質をあっという間に実現。元々その中国企業が持っていた「安さ」も相まって、とても競争できないレベルの状況が突然生まれてしまいました。

また、この日本的経営モデルは、海外市場の捉え方や進出においても悪影響を及ぼしかねません。例えば、日本で成功したビジネスモデルを海外に輸出し、盲目的にビジネスを展開しようとするケースです。改善・改良を重ねてきたビジネスモデルだけにそれを海外市場でも当てはめてしまいがちですが、日本と異なる市場環境においては、現地にビジネスモデルを適合させていく必要があります。もちろん、現地のマネジメント人材はその問題に気が付き、国や地域独自で市場を開拓すべく当てはめられた日本的経営モデルからの脱却を図ろうともがくのですが、本社サイドとの調整に難航しなかなか進まない、という課題に筆者もこれまで多く向き合ってきました。

これまでの日本的経営を支えてきたのは、終身雇用や年功序列など、日本特有の人事制度です。特に国内においては、最近でこそ人材の流動性が高まってきており、組織形態も変わってきているとは言え、解雇に関する法的な規制もあり、抜本的な構造改革を行い難いのが現状です。また、日本企業は日本の人種構成からも同質性の高い集団になりがちです。同質性の高い組織は、グループ・シンク(集団浅慮)に陥るリスクを孕み、ともすれば事業の成功を妨げかねません。
加えて、「連続的な改善・改良」を元々得意としてきただけに、「そもそもどうあるべきか」といった非連続な姿を描くことに慣れておらず、適切な問題解決が難しいことが多いです。例えば、筆者がアジア圏で見てきた経営者やリーダーの中でも、適切な課題設定ができる人は驚くほど少数でした。もちろん経営者やリーダーとして何かしらの課題設定をしているのですが、新しいビジネスを創るというレベルで考えられている人は一握りといっても過言ではありませんでした。彼らも新たな次元での適切な課題設定が求められていることは頭では理解しているものの、「具体的にどうやって考えたらいいかわからないし、求められても困る」というのを実際に聞いたことがあります。
なお、これは日本人に限ったことではありません。こうした限定的な問題解決をする日本人の下で現地人材が仕事をしてきた場合、課題設定ができなくなるように“教育”されてしまっていることがあります。特に東南アジアにおいては、新興国ということもあるためか日本企業がどこか“教えてあげている”感が否めません。その結果、悪い意味で従順な、自ら提案しない人材へと育ってしまうという悩みを抱えています。

グローバルで勝つための人・組織に、今こそ覚悟をもってアップグレードすべき

このように、長年培われてきた日本的経営の特徴がもたらす人・組織の根深い課題は、グローバル競争力を高める上での足枷になっていると言わざるを得ません。日本企業は今こそ、“シン・日本企業”へとアップグレードしていくことに本質的に取り組むべきであり、チャレンジだと考えます。具体的には、日本人・外国人問わず

➢ グローバル視野(環境変化とその構造的理解)を持ち、
➢ 自社の特徴(日本企業や、事業特性を踏まえた強みと弱み)を理解した上で、
➢ グローバル・各地域/国でビジネスをけん引できる

人材を多く輩出し、彼らが活躍しグローバルで勝つことのできるビジネスモデルと組織をつくることです。これは、日本的経営の特徴が密接に絡んだ、複雑かつ難易度の高いチャレンジです。言わずもがな、このチャレンジにおける鍵は、アップグレードをけん引していくリーダーです。だからといって、単に人事がグローバルリーダー研修を企画・実施すればよいという話ではなく、経営者自らがその輩出に覚悟をもって取り組まなければなりません。それが、グローバルで戦う企業の競争力、そして、アウトプットを左右することを肝に銘じるべきだと考えます。

次回は、こうした状況において、経営層がグローバルで勝つ人・組織を創る上で果たすべき役割について考えたいと思います。

<参考>
(※1)株式会社ファーストリテイリング「多様性の尊重」、2024年5月確認
(※2)International Institute for Management Development (IMD)「World Competitiveness Ranking」、2024年5月確認
(※3)冨山和彦(2020)『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』 文藝春秋

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー 谷口 学

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー

谷口 学 / Manabu TANIGUCHI

株式会社NTT データに入社し、SE としてシステム開発に従事。その後、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社にて IT コンサルタントとして大手製造企業の CRM プロジェクトに携わり、システム構築や業務プロセス改善などのコンサルティング活動を行う。 グロービス入社後は、名古屋校にてスクール運営部門の統括、そして法人部門にてチームのマネジメントと企業の人材育成に関わるコンサルティング活動に従事。その後、グロービス・アジア・キャンパスにて東南アジア全域をカバーする法人部門を統括、現在は日本に戻り、日本企業のグローバルリーダー育成支援を行っている。

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