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未来を切り拓くリーダーにとって、求められる資質やスキルとは

2024.09.09


不確実性の高い現代において、企業は変革を強いられている。そのような組織を率いるリーダーには、どのような資質やスキルが必要となるのだろうか。
この度、企業の中核を担うマネジメント層向けに開発した経営幹部養成プログラム「グロービス・エグゼクティブ・スクール(以下、GES))が20周年を迎え、受講者数が年間4,000名を突破した。それを記念して、2024年6月7日(金)に第1回アルムナイイベントを開催。本レポートでは、ソニーグループ株式会社 シニアアドバイザー (講演当時)/ 一般社団法人プロジェクト希望 代表理事 平井一夫氏をお招きして行われた「未来を切り拓くリーダーシップ」の講演内容を紹介する。

強いリーダーは「正しい人間であること」

ビジネス環境が急速に変化する中、製品やサービスも短サイクル化している。それに伴い事業や組織の変革が求められ、リーダーのマネジメントや経営判断も年々難易度が高まってきている。

リーダーには、社内で素晴らしい実績を上げてきた人材が選ばれる。もちろん、それはプロモーションさせる企業にとっては当然の考えであり、今後も変わらないだろう。しかし、マネジメントされる社員の側に立つと、リーダーに期待していることは全く異なっていると、平井氏は指摘する。

「いかに仕事ができるか、いかに優秀であるかという観点ではなく、『相手の気持ちをくみとる力』、心の知能指数といわれる『EQ』が求められています」
これは、スポーツの世界でも全く同じことが言える。『名選手は名監督に必ずしもならず』という言葉があるように、 素晴らしいプレイヤーだからといって監督になれば、よいパフォーマンスを出せるとは限らない。
この時代、強いリーダーに求められるのは『正しい人間である』ことだと、平井氏は言及する。
「この『正しい』というのは、基本的な人間性をしっかりと兼ね備えているという意味です。『社長だから』『部長だから』正しい(あるいは偉い)というのではなく、まずはひとりの人間として、この人のことを尊敬できる人間力があるかどうかが、リーダーとして重要になってきます」

例えば、自分の意見に固執するのではなく、周りの意見や異言に耳を傾け、ベストなアイデアなら、メンバーの意見でも採用するという公平な判断ができること。そういうリーダーのもとには優秀な部下が集まってくると言えるだろう。

弱みを強みに変えていく、3つの「勇気と自信」

さらに強いリーダー像に求められることは、「自身の弱みをオープンにして、強みに変えていく行動」であるという。平井氏は、それをリーダーとしての3つの「勇気と自信」として、具体的な行動が示された。

その1つが、部下に対しても、分からないことを素直に認めて、教えを乞える「勇気と自信」である。
「社員はリーダーを見ています。『知ったかぶり』をしていると思われた瞬間に、そこにリスペクトは生まれません。それどころか、正確な情報がないにもかかわらず経営判断をするのは、やめてほしいと思うでしょう。 『分からないから説明してほしい(教えてほしい)』と言われるほうが、現場のことを知って正しく判断しようとする姿勢を感じられ、部下からの信頼が得られます」と、平井氏は言う。

また、部下にとってもリーダーに説明することで、頭の整理にもなり、自分自身も理解できていないことに気づくなど、学びの効果もあるようだ。平井氏も社員時代に何度もそういう経験をしてきたという。

2つ目は、部下からの良いアイデアは積極的に採用し、うまくいけば部下の手柄にし、失敗したらリーダーが責任を取ることができる「勇気と自信」である。
ソニーの場合、事業についての決裁権は各グループ企業や各事業部に委ねている。「各グループ企業(事業会社)のトップたちが現場に裁量権を持たせて、マネジメントしビジネスを動かしているので、社員たちが思考停止になることはありません。もちろんグループ全体の決裁事項は、当然私レベルの話になりますが、day-to-dayのほとんどが現場でできるように最初からセットアップしています」

このような姿を見せることで、部下もリーダーのために頑張ろうと思うようになると、平井氏は語る。「現在ソニーグループの代表執行役を務める吉田も十時も、私が社長を務めていた頃から事あるごとに自分の意見を発言してくれました。良い意見であれば積極的に採用して、そうした機会を通じて彼ら自身がさまざまな実績を築いてきたからこそ、彼らを後継者として自信を持って指名することができたのです。私とは経営戦略が全く違いますが、私が退任した後のソニーの飛躍ぶりを見ていると、素晴らしい経営者だと思いますし、彼らを推薦して本当に良かったなと、今は思っています」

3つ目は、自分の間違えを素直に認め、次のアクションにつなげられる「勇気と自信」。平井氏は、常に決断を求められるリーダーにとって「この行動が一番難しく、かつ一番大事なことである」と、語る。

「例えば、散々議論した後に、これが最適だと決断したことであっても、経営環境が変わるなかで成果に結びつかないことがあります。そんなとき迅速に軌道修正するために、リーダーが『すまないが手伝ってほしい』と、素直に言えるかどうかが肝です」と、平井氏は明言する。現場で動く社員は、施策がうまくいっていないことをリーダーよりも早く察知していることが多い。軌道修正も遅くなればなるほど手間がかかるため、社員は、再検討するなら早く決断してほしいと思っている。「そこにいち早く手を打てるリーダーが、間違いなくみんなから信頼されるようになります。」
リーダー自身が自分のプライドを捨て、最良のアイデアを選択できる勇気は、決して弱みではなく、むしろ強みになる。

最後に講演の締めくくりとして、平井氏は次のように語った。
「今回お話したことに少しでも共感するところがあれば、ご自身のリーダーシップだけではなく、次世代リーダーになる方に共有してもらえればと思います。若い人たちの中には、現場ではパフォーマンスを発揮して自信に満ち溢れていたのに、人の上に立った瞬間にダメになってしまう人が少なくありません。優秀な人材が活躍できないのは悲しいことです。自社のため、そして日本のためにも、多くのリーダーを輩出してもらえればと思います」





リーダーは「ハート」で語る、ネガティブなことから逃げずにしっかり説明する

セミナーの後半は、グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター 花崎 徳之と平井氏との対談、ならびに参加者からの質疑応答が行われた。

花崎:

ほとんどの経営者は資料を用いて講演されますが、平井さんは資料を使わずに、ご自身の頭の中にあることを整理して、参加者一人ひとりに語りかけるように、ご講演してくださいました。人に大切なことを伝える時、どのようなことを心がけているのでしょうか。

平井:

私の場合、2つあります。特に社員の前でプレゼンする時は、「何を話すか」はメモしておきますが、原稿は用意しません。大事なのは、パッションで語ることです。今、なぜこの施策をやらなければいけないのか、その理由と、社長としてそこにかける想いをメッセージとして伝えます。実際、社員もそのことが一番聞きたいはずです。にもかかわらず、社長が原稿だけを見て、ぼそぼそと話していたら、社員たちはどう思うでしょうか。 内容と気持ちが伝わるなら、たとえ話の途中で噛んだとしてもかまいません。社員の目を見て、情熱を持って語りかけることです。私が唯一原稿を読むのは、株主総会ぐらいです(笑)。

花崎:

平井さんは、ハートで語るわけですね。

平井:

そうです。そしてもう1つは、ネガティブなことに対する説明をしっかり行うことです。事業変革などを進めていくと、そのやり方に反対する社員や不安を抱く社員が出てきます。
私が株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントの社長時代、『PlayStation 3』でゲームディスクからネットワークによるゲームソフトのダウンロードにビジネスモデルをシフトした際には、タウンホールミーティングを開いて、社員たちと対話をする機会を数多く設けました。
そこで社員が知りたかったのは、ビジネスモデルの移行によるメリットではなく、ネガティブな部分だったのです。ゲームディスクの製造工場をどうするのか。ディスクを販売してくれているゲームショップへの営業対応はどう変えるのか。それらの疑問に対して、会社としてどう対処するのか。もしくはいつまでに答えを出すのか、自分の言葉で語ること。
さらに、ライブで質疑応答する時間をしっかりと設け、社員が心に抱いているモヤモヤを解消するようにしました。事前に質問を提出してもらってそれに答えるという方式では、当たり障りのない質問をピックアップし、準備した原稿を読むことになりかねません。ライブで、どんな質問が来ても答える、またはわからない場合には後ほど調べて答えると言って対応することで、このやり方に反対している社員や不安を抱いている社員の愚問を解消したのです。対話しないと、彼らも前へ進めません。

花崎:

これだけ変化が激しい中で、現場からのいろんな情報をもとに経営判断していくのは、優れた経営者であっても難しいと思います。現場から上がってくる情報が正しいか、そうではないかの見極めは、どうしているのでしょうか?

平井:

不確実性の高いこの時代、 100%正しい判断を行うのは、どんなに優れた経営者でもなかなかできません。不可能に近いと思います。だから、自分の決断が「間違った」と思った時には勇気を持って謝罪して、みんなと一緒に軌道修正していく。一番まずいのは、リーダーが何も決めないで、判断を先延ばしにすることです。結局、決断を先送りしていても、部下の士気が低下するだけで、何も解決しません。最初から100%の正解を出すことは、もはや今の時代にはできなくなってきたので、これからは、軌道修正する力がリーダーには求められるのだと思います。





「経営者にしかできない仕事」を意識する

次に会場の参加者との質疑応答が行われた。その一部を抜粋して紹介する。

Q 会社の変革を進めるために、経営者は具体的にどんなアクションを起こすべきでしょうか。

平井:

変革において一番大事になのは、周りの意見や異見に真摯に耳を傾けること。そして、変革につながるアイデアがあれば、アクションにつなげていくことです。さらに、うまく成果につながれば、アイデアの発案者をしっかりと評価し、反対にうまくいかない時には発案者を責めるのではなく、次につながるようにみんなで課題を抽出して、改善していく。こうしたPDCAを回すことで、社員一人ひとりが「この状況を本当に変えられるんだ」と認識するようになり、対話が生まれてきます。相手を変えていくためには、経営者自らがアクションを起こしていくことが大事だと思います。

Q 平井さんが考える、経営者にとって「価値のある仕事」とは何ですか。

平井:

私が常に意識しているのは、私にしかできない仕事です。それが私にとっての「価値ある仕事」だと思っています。
では、私にしかできない仕事とは何なのか。例えば、ソニーグループの戦略を考えるのは私だけではありません。各事業の社長や、経営戦略のスタッフもいる。別に社長がすべてを決める必要はありません。
一方で、私にしかできないのは、現場に行ってソニーとして進むべき方向を示し、対話をして、社員のモチベーションを上げること。ソニーの進むべき方向をしっかりと語ることです。私は、社長として6年の任期を務めましたが、その期間、世界中のソニーの拠点へ出向き、タウンホールミーティングを70回行いました。これは副社長などが代わりに行っても、社員が納得できる説明をするのは難しかったと思います。最高経営責任者である社長(CEO)だからこそできることだと思い、続けてきました。





Mission・Vision・Valueを社員に語り続け、自社の文化につなげていく

最後に、平井氏から会場にいる約100名以上の経営リーダーへメッセージが発せられた。

「今、経営環境は非常に厳しくなってきています。超競争時代の中で、会社をより良い方向に導くためには、社員1人ひとりが持っている力を120%引き出して、組織として同じミッションやゴールに向かって取り組んでいけるか。それが、リーダーには求められています。

そういう意味では、会社の「Mission・Vision・Value」(以下、MVV)を定義し、しっかりと会社の文化につなげていくことも非常に重要です。特に事業変革や組織変革では、MVVがベースにあれば、職場環境やビジネスモデルが一変しても、社員は腹落ちして、前に進んでいくことができます。ソニーの場合は、「感動」をキーワードとして、MVVを社内外に伝えてきました。まさにリーダーは、社員に対してMVVをそらんじるくらい語り続けなければいけません。リーダーの言動が、いかに社員のモチベーションに影響を与えるか。そのことを認識して、自分たちの部下をより良い方向へけん引できることに使っていただきたいと思います。

2023年の日本の出生率は1.20人と過去最低を記録しました。日本では9人のうち1人が相対的貧困に苦しんでいる、ひとり親であれば年収270万円以下の家庭の子供たちです。それでも日本はもっといい国にできると私は思っています。そのためにも、皆さんのようなリーダーが強いリーダーシップを発揮して、そのバトンを次世代につないでもらえればと思います。今日は本当にありがとうございました。」



【経営幹部養成プログラム グロービス・エグゼクティブ・スクール20周年記念 アルムナイイベント開催概要】

■開催日:2024年6月7日
■会場: グロービス経営大学院 東京校
■対象者:グロービス・エグゼクティブ・スクールにおける以下いずれかのプログラムを2013年1月期以降に修了された方
エグゼクティブ・マネジメント・プログラム
ミドル・マネジメント・プログラム

グロービス・エグゼクティブ・スクール(GES)では、グロービス経営大学院で培った知見を結集、最新のビジネス事例を豊富に盛り込こんだ実践的なプログラムを提供しています。さまざまなビジネス経験を持つ参加者同士の議論は、質の高い他流試合の場を生み出し、普段の業務では得られない新たな視点の獲得や視野の広がりなどが期待できます。組織と個人にとって最適な育成ができるよう、目的・課題・受講者の役職・キャリアに合わせて、全6プログラムを用意しています。

※本記事に掲載のご所属・お役職はご登壇当時のものです

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