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企業の持続的成長の鍵となる「エンゲージメント経営」

2024.03.27

近年、企業経営において組織のエンゲージメントを高めることが注目されています。これは、ただ会社の居心地を良くするということだけではなく、社員の士気が高く、組織への自発的な貢献意欲に満ちている状態をいかにつくるか?というテーマです。

エンゲージメントが高い組織の例として具体的に挙げられるのは、例えば昨年のWBC(World Baseball Classic)で世界一に輝いたサムライ・ジャパン。一流の選手たちが、チームの勝利のためなら何でもするという意欲と行動に満ちていました。ここ数年の躍進が目覚ましいラグビー日本代表チームでも、生まれた国や言語も違う多様なメンバーが互いを強く信頼し合い、高度なチームワークを体現していました。漫画「キングダム」を読んでいる方にとっては、「飛信隊」のメンバーが自分たちが所属する隊への愛着や誇りを強く抱いている様子も、エンゲージメントが高い例としてイメージしやすいかもしれません。
では、ビジネスにおいてはどのような組織が挙げられるのか?というと、一般的には各種機関が実施している「社員の士気が高い企業ランキング」等の調査で上位にランクインしている企業等が該当するものと考えられます。一方で、現経営層の方々の中には、かつて高度経済成長期にJapan as No.1を謳歌していた日本企業の姿を想像する方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。皆が会社のために必死に働き、それによって給料が上がり地位も得られる等、自分自身も報われました。戦後からの復興を遂げる過程で生活の便利さや豊かさも上がっていったため、世の中への貢献実感ややりがいも高かったと想像できます。まさにエンゲージメントが高い組織であったと考えられます。

エンゲージメントにまつわる、押さえておきたい変化

実際に、私たちがクライアントの経営層とお話をさせていただく中でも、「昔はもっと社員の士気が高かった」、「あの頃のような活力を取り戻したい」、「社員には当時のようなロマンを持ってほしいんだ」といったお話を伺うことがあります。確かに、当時の日本企業の強さの源泉の一つは社員のエンゲージメントの高さにあったと考えられますし、そうした組織をつくるためのヒントがその時代にはたくさんあったように思います。
一方、当時と今とでは前提が違うことを認識した上で向き合うべき点もいくつかあると考えられます。

1つ目は、当時は目指すところが比較的明確(例:欧米諸国に追いつけ追い越せ、経済的に豊かになろう)でしたが、今はそれが一律ではありません。良く言えば目標設定の自由度が高く、言い方を変えれば設定の難易度が上がってきているということです。精神的な豊かさや地球環境への貢献等、その事業を営むことの社会にとっての意味は何か?ということから考え、組織の目的やビジョンを共感度高く設定することの重要性が高まっています。

2つ目は、働く社員の動機の源泉が変わってきていることです。先に述べたような給料や地位ももちろん大事なことですが、他にも、仕事のやりがいや面白さ、自分自身の成長や自己実現、自社事業や顧客への提供価値に誇りを感じられるか?等、様々な動機のウエイトが高まってきています。このような人間心理への洞察や、それに基づく組織運営をしていくことが極めて重要になっています。

3つ目は、組織への帰属意識や就職観の変化です。最初に就職した会社に長く居続けることが当たり前ではなくなり、より自分に合った組織を求めて離職・転職をするケースが増えてきています。つまり、自社が働く場所として社員から選ばれ続けるためにも、魅力的な組織・職場をつくるための努力が一層必要になっています。実際に、日本企業で若手社員の離職が急増しているという問題意識を伺う機会がこの5年程で急増したと実感しますし、シリコンバレーの各社でも技術競争と同様に人材獲得競争が激化していると伺ったこともあります。

これら3点以外にも、仕事内容により自律性やクリエイティビティが求められるようになってきたという質的な変化などもあります。

エンゲージメント向上の起点は、リーダーの言動のアップデート

エンゲージメントを中心に据えた経営が日本企業の持続的成長の大きな鍵になるという点については、今後も不変ではないかと感じています。その一方で、エンゲージメントを高めるための方法論としては、ここまで確認してきたような昔と今との違いを念頭に置いたアップデートが重要になってきます。つまり、共感度高いビジョンを掲げ社員の心に火を付けること、働く動機の変遷を踏まえた組織運営の在り方を追求すること、社員から選ばれ続ける組織・職場をつくる努力をし続けること、です。

こうしたアップデートを行うには、経営の在り方や人事の仕組み等、あらゆることを変えなければならないという途方もない感覚に襲われるかもしれません。しかしシンプルに捉えると、「現場のリーダーポジションを担うメンバーを良い人材で満たしていく」ということができれば、組織は確実に変わっていきます。極端に言えば、多少制度や仕組みが追い付いていなくとも、周囲から信頼を集め、仕事の目的を押さえ、一人ひとりに真摯に関わることができる方々が現場でリーダーシップを発揮する状態さえつくることができれば、組織のエンゲージメントは高まっていくと私は実感しています。

例えば、社員の方々に「会社が好きですか?」、「毎日生き生きと働いていますか?」と質問した際に、彼ら・彼女らが想起するのは主に自分自身が所属している職場(チーム)になります。そこで感じている仕事の面白さや貢献実感、自由度や裁量の大きさ、上司も含む周囲の仲間との関係性…等が大きく影響してくるものです。
では職場において最も影響力があるのは誰か?職場の文化を創っているのは誰か?というと、それはとりもなおさず職場のリーダーです。そのリーダーが自組織の仕事の意味や目指すところを明確に語り、メンバー一人ひとりと丁寧に寄り添い、力を引き出すような関わりができているかどうかは、メンバーの士気に極めて大きな影響を及ぼします。
現場のリーダー陣の日々の言動こそが、組織のエンゲージメントを高めるセンターピンであると考えます。

もちろん、いくら現場に良いリーダーがたくさんいても、トップをはじめとする経営陣がそれらの言動を阻害するような働きかけをしてしまってはいけません。経営陣は自分たちの存在意義や目指す方向性を打ち出しながらも、実行局面においては現場リーダーたちを信頼して任せる姿勢があることが前提になります。

エンゲージメントが高い組織をつくるために着手すべきことは多岐に渡りますが、まずはそのど真ん中にある「リーダーの言動を変え、現場のリーダーポジションを担うメンバーを良い人材で満たしていく」ということを優先的に進めることが出発点になります。
その後、あるいは並行して人事や組織の仕組みも変えていきますが、拠り所になるのは「どんな言動をする人たちを評価する仕組みにしたいのか?」、「そのような言動ができる人たちが適切にリーダーに抜擢されるための仕組みをいかに整備するか?」といった考え方ではないでしょうか。制度設計を考える際には様々な変数があり専門的な議論に入り込みがちですが、良いリーダーを育て、抜擢し、その方々が遺憾なくリーダーシップを発揮できる状況をつくっていく、ということを中心に据えて、シンプルに考えていくと効果的な組織づくりが実現していきます。

現場のリーダーシップを起点として、士気が高い組織をつくっていくことで、日本企業は更に躍進できると考えます。是非、皆さんも自社(自組織)での取り組みを推進し、「人や組織が競争優位となる経営」を追求していきましょう。

グロービス・コーポレート・エデュケーションディレクター 大矢 雄亮

グロービス・コーポレート・エデュケーション
ディレクター

大矢 雄亮 / Yusuke OYA

トヨタ自動車に入社し、人事部にて、労務管理、要員管理、採用活動、社内コミュニケーション促進等、人事業務全般に携わる。その後グロービスに入社し、法人部門にて様々な業界・企業の人材育成や組織開発を支援。大阪拠点のリーダーとして組織のマネジメントにも従事した後、現在はディレクターとして部門全体の経営企画を担当。
講師としては、思考系、リーダーシップ、経営戦略や、企業の個社文脈を踏まえたカスタマイズ型セッションを担当する。

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