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企業変革は戦略、組織、そして組織カルチャーの変革である

2022.02.17

経営学者アルフレッド・チャンドラー著の「組織は戦略に従う」を読まれたことのある方も多いと思います。この考え方は今も真理であると思う一方で、私は「組織能力に戦略は規定される」とも考えています。特に、急速に変転を続ける環境においては、戦略以上に、戦略変更に柔軟にアジャストできる組織能力を備えていることが企業変革の鍵であり、真の競争優位の源泉であると考えます。

大企業こそ新たな組織能力の獲得が求められる

今、多くの大企業が既存事業(領域A)を守りながら、次なる挑戦、つまり新規事業(領域C)や新製品投入(領域D)で新たな成長を創ることが求められているといえます。しかしながら、高度な効率性で事業進化(領域A)を拡大し、同質性の高い市場で事業展開(領域B)を開拓することで、これまでの成長を創り続けてきた多くの日本の大企業にとって、既存の延長にはない新たな事業やサービス(領域C・D)の創出は、非常に高いハードルがあると言えます。

戦略の方向性と求められる組織能力(両利きの経営)の関係

実際、中期経営計画では、企業変革に向けた新たなビジョンが明示されることが多いですが、中計最終年度を迎えた段階で、ビジョン達成に向けて大きな飛躍が求められる状態にとどまっていたり、掲げた施策や計画が思うように進まず未達に終わってしまうケースも少なくありません。こうした企業は、新たな事業や製品・サービス(領域C・D)における成長を計画通りに創れていない状態であると思います。

領域C・Dで次の成長を創ることができない要因は、新たな戦略に対応し得る組織を創ることができていないからだと考えます。

変革とは、企業のカルチャーを根本から変えること

新たな戦略に対応する柔軟な組織を創るには、これまでの企業のカルチャーを変える必要があります。
企業のカルチャーを変えるとは、組織で働く人の行動の変化(例えば、これまでXが常識であったのが、Yが常識になる)を創り出すことです。そのためには、いわゆるハード面とされる戦略や組織構造を変えるのみならず、社員の考え方や認識の変化を促し、行動や能力の変化を作り出すことが求められます。ただ、こうしたソフト面の変革は、短期間で目立った成果を可視化しづらいこともあり、具体的施策として現場に落とし込まれていなかったり、落とし込まれていたとしても単発の取り組みで終わってしまいがちです。例えば、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の共有を全社にワークショップ等で推進されることが多いですが、最終的に現場のMVVを体現するマネジメントスタイルがアップデートされない限り、組織のカルチャーは変わりません。

日々のマネジメントスタイルをいかに変えていくか

企業変革とは、組織が大事にしている考え方が共有され、推進されていくことです。そのためには、組織のマネジメントスタイルを変えていくことが必要です。過去の経営環境や既存の業務プロセスに基づいたマネジメントスタイルから、新たな環境・戦略の実現に適応したマネジメントスタイルへのシフトです。マネジメントのスタイルとは、日々の意思決定の判断軸やスピードを指します。日々の業務やコミュニケーションを通じて、上司が何を大事にしているか、どんな人材を評価しているのかが、メンバーに伝わることで、個人の認識の変化を創り出し、これまでの常識の認識をアップデートさせていきます。個人の認識の変化とは、社員の意識や能力の変化です。これら個々人の変化のベクトルが企業のパーパスや戦略へと向かうことで、組織の変化を創り出すことが可能なのです。

グロービス・コーポレート・エデュケーションフェロー 西 恵一郎

グロービス・コーポレート・エデュケーション
フェロー

西 恵一郎 / Keiichiro NISHI

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築や商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。その後、グロービスの企業研修部門にて組織開発、リーダー育成を通じた多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を経て、コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクターとして事業責任者を務める。
現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーションのフェローとして、グローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングの講師を担当する。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。また、富士通株式会社のCEO室Co-Headとして、全社経営戦略を担う。

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