- 経営チームの変革
OFF-JTの限界を超える
人の能力やスキルは、短期間で大きく伸びることはありません。しかし、短期間で人の生産性を2倍にすることは可能です。なぜなら、人の生産性は、意識やモチベーションに大きく影響するからです。本気で「会社を変えたい。そのためにこういうことをしていこう」と、自分で考えて動くようになると、人の生産性は2倍にも3倍にもなると言われています。
意欲の度合いによる社員の生産性 出所:ペイン/EIU 合同調査(N=308)
グローバル、日本企業の社員の意欲水準比較 出所:ペイン/EIU 合同調査(N=462)、ペイン/EIU 合同調査(N=308)
難所をどう克服するか
人の意識を変えるには、手法があります。まずは現在の状態と、あるべき状態を把握します。次に、あるべき状態にもっていくまでのプロセスの中で、どこにその人が変わることを阻害するポイントがあるのかを見つけます。これを私たちは難所と呼んでいます。
実際にどんな難所が隠れているのか。例えば、戦略を立てたとき、「本人は口には出さないが、本気で実現できるとは思っていない」ことなどがよくあります。こういう場合は、「この会社で育ったこの世代はこういうマインドセット、思考特性になるだろう」ということを踏まえて、難所を克服できるよう育成プロジェクト全体を設計していきます。
新しい知識を得たり、物事の認識の仕方が変わったり、新しい行動を続ける中で自信がついていく中で、意識は変わっていきます。私は、これまで何度も人の目の色が変わる、スイッチが入る瞬間を見てきました。スイッチが入ったら、彼らに自走してもらえばいいのです。あとは変革に必要な考え方や行動をインプットしていけば、どんどん吸収し、さらなる行動が生まれます。
もちろん全員が一度に変わるわけではありません。2:6:2の先頭の2をつくるイメージです。この先頭の2の人たちを私たちは、エバンジェリストと呼びます。彼らを各現場でつくっていくことが、戦略を実現する強い組織へとつながります。
研修プログラムではなく、実践から学ぶ
戦略を創り、遂行できる人材の育成には相応の時間がかかります。一方で、あまり悠長にもしていられません。戦略の実行力を高め、かつ成果を出さなければならない局面もあります。
こうしたとき、従来のOJTとOFF-JTだけでは限界があります。そこでつくったのが実務のプロジェクトを通じて育成する手法です。On the Jobには伴走できなくても、一定期間、特定の目的のために立ち上げたプロジェクトであれば伴走できます。私たちはこれをプロジェクト型育成“On the Project Training”(以下、OnPT)と呼んでいます。
メンバーには、実際にプロジェクトを立ち上げ、取り組んでもらいます。これは、トレーニングのためのプロジェクトではなく、事業に組み込まれたプロジェクトです。私たちは伴走役として、プロジェクトメンバーが行き詰まったら必要なインプットをし、成果を出すためにはどういう考え方をしたらいいかを伴走しながら一緒に考えてアドバイスをします。
成果を出しながら、人を育てる
OJTとOFF-JT、これにOnPTを組み合せることで、企業が求めるスピード感をもって、成果を出しながら人を育成することが可能と考えています。このため、OnPTは人事部主幹の中長期的な人材育成を目指す全社プロジェクトより、育成と同時に成果も求める事業部主幹のプロジェクトに向く方法と言えるかもしれません。
実はこの手法は、グロービスが中国で事業展開する中で生まれたものです。日本から派遣されている現地法人のトップの方々は、日本本社の人たちより時間軸が短い。なぜなら自身の駐在期間中に成果を出したいと考えているからです。OnPTは、彼らの「成果を出すことを最優先しながら、人も育てたい」という“無理難題”から編み出した策なのです。
OnPTを実施する際に重要なポイントとなるのは、より成果を出せる可能性が高いメンバーをそろえることです。そのためには、日頃からメンバーを把握し、最適なメンバーをトップ自身が選抜できる事業部のほうが適していると言えます。
<参考>
- 図1・2)PRESIDENT Online「”3人に1人”の不満社員を奮起させるには」(https://president.jp/articles/-/23480)2021年9月24日