- 経営チームの変革
ポートフォリオ経営は人と組織で進化する ~事例に学ぶ実践のポイントとは~

近年、ビジネス環境はますます不確実性を増し、市場の変化も加速しています。これまで安定していた事業が競争力を失い、新規参入企業が市場を席巻する──そのような状況に直面したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。デジタル化の進行やグローバル競争の激化により、従来の戦略の考え方だけでは生き残ることが難しくなっています。
そこで求められるのが「ポートフォリオ経営」です。
ポートフォリオ経営では、複数の事業を戦略的に管理し、成長市場への投資や不採算事業からの撤退を適切に判断することで、企業価値の最大化を目指します。既に欧米企業では一般的な経営手法ですが、日本企業でも「PBR1問題」やコーポレートガバナンス改革の流れの中で、その必要性が高まっています。
本コラムでは、ポートフォリオ経営の重要性をファイナンス、戦略、人・組織の観点から解説し、成功事例を交えながら、どのように実践すべきかを探ります。変化の激しい環境において、企業が持続的に成長するためのヒントとなれば幸いです。
目次
第1章 なぜ、いまポートフォリオ経営なのか?
近年のビジネス環境は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity: 複雑性、Ambiguity:曖昧性)という傾向を更に強めています。このような不安定な環境下では、事業ライフサイクルが短期化し、新たな市場の登場や既存市場の縮小が急速に進む傾向にあります。
たとえば、デジタル化やテクノロジーの進化により、特定の製品やサービスが急速に普及する一方で、同時に旧来の事業が淘汰される事例が増えています。外国勢や新興企業との競争に敗れ、事業縮小を余儀なくされたケースは、こうした変化を象徴しています。
このような状況において、事業ポートフォリオを適切に管理し、成長市場への迅速な投資や収益性の低い事業からの撤退を実現することが、企業の持続可能な成長にとってますます重要になっています。
【ファイナンス面】PBR1問題とポートフォリオ経営
まずは財務の面からポートフォリオ経営の必要性を考えてみましょう。日本企業では、株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回る「PBR1問題」が話題になっています。これは、企業が保有する資産や事業価値が市場から十分に評価されていないことを意味しています。PBRが1倍を下回る状態は、投資家にとってその企業が「魅力的でない」と判断される要因となり、資本市場での競争力を失うリスクをはらんでいます。
この背景には、日本企業が事業ポートフォリオの見直しを十分に行わず、不採算事業を抱えたままでいる傾向が挙げられます。数年前のデータですが、日本企業は欧米企業と比較して、複数事業を展開するほど収益性が低下しやすいという構造的な課題を示した調査結果があります(※1)。たとえば、大手総合電機メーカーの多くは、赤字部門の整理が遅れたことで全体の利益率が悪化し、競争力を失うケースが見られます。
一方、欧米企業は、事業ごとの収益性を徹底的に分析し、低収益の事業を迅速に売却、あるいは撤退する戦略をとっている例が多くあります。この「選択と集中」のアプローチが、資本効率を高め、株主価値を向上させるための鍵となっています。日本企業がPBR1問題を克服するには、ポートフォリオ経営を通じて事業構造を根本的に見直す必要があります。
【戦略面】コーポレートガバナンスとポートフォリオ経営
昨今、日本企業でも本格的に取り組みが進んでいるコーポレートガバナンス改革とポートフォリオ経営の関係も確認しておきましょう。
結論からいうと、ポートフォリオ経営は、コーポレートガバナンス改革と密接に結びついています。その理由は、ポートフォリオ経営を推進するためには企業全体の透明性の向上や戦略的な意思決定が求められ、健全なコーポレートガバナンスが、合理的な事業評価と方向性の意思決定を支える基盤となるためです。
具体的に、ポートフォリオ経営では、取締役会などの「経営チーム」が事業ごとの収益性や成長性、戦略適合性などを評価し、事業参入や撤退、資本配分や判断する重要な役割を果たします。たとえば、外部取締役を含めた独立性の高い取締役会では、企業全体の利益を最大化するために、感情的な判断を排し、データに基づいた意思決定が行われます。
また、ポートフォリオ経営がコーポレートガバナンス改革と結びつくもう一つの理由は、ステークホルダーとの信頼関係を構築する必要があるためです。透明性のある事業ポートフォリオの開示や、株主に対する説明責任を果たすことは、企業価値向上に寄与します。一部の先進的な日本企業では、事業ごとの収益性や戦略的意義を詳細に開示することで、投資家からの信頼を獲得している事例もあります。
【人・組織面】日本企業の新たな組織能力としてのポートフォリオ経営
ポートフォリオ経営は単なる企業戦略の方法論ではなく、これからの時代を生き抜くための組織能力そのものとして位置づけられるべき概念です。
その効用は、事業の入れ替えのマネジメントに留まりません。従来の日本企業では、縦割り型の組織構造が主流であり、部門間の連携が乏しいことが課題とされてきました。この結果、事業間のシナジーを発揮することが難しく、リソースの最適配分にも限界がありました。
しかし、ポートフォリオ経営の導入をきっかけに経営システムをアップデート(2章で一部を解説)することにより、企業は部門間の壁を越えた横断的な取り組みを推進できるようになります。たとえば、研究開発部門と事業部門が連携して新規事業を立ち上げたり、異なる事業領域での連携を行うなど、企業全体の機動性と競争力が向上します。
また、ポートフォリオ経営では、コアとなる経営資本(人的資本、知的資本など)の特定と活用が鍵となります。ある製薬会社では、既存の研究ノウハウを活用して新しい治療領域に進出し、収益基盤を多角化することに成功しました。このような経営資本の活用は、従来の物的資本のみに依存した経営とは一線を画すものであり、新たな競争力を構築する上で不可欠となります。
このようにポートフォリオ経営を行うための組織能力の獲得は、日本企業が新たな成長を実現し、グローバル競争においても持続可能な競争力を持つための、ひとつの重要な要素となるのです。
ポートフォリオ経営の論点は、戦略面、ファイナンス面、人・組織面と広範にわたります。次のパートではポートフォリオの意思決定におけるポイントについて確認していきます。
第2章 ポートフォリオの意思決定における3つのポイント
先ほど、ポートフォリオ経営は「事業の入れ替えのマネジメントに留まりません」と書きました。その意思決定を適切に行うために押さえておかなければいけない3つのポイントである、事業の見える化(業績評価システム)、自社の経営資本に裏打ちされた事業ポートフォリオの検討、意思決定を行う場とリーダーシップ、についてみていきます。
1.事業の見える化(業績評価システム)
ポートフォリオ経営の成功には、事業ごとのパフォーマンスを正確に見える化することが不可欠です。これにより、経営チームは現状を把握し、適切な戦略を立案できます。
事業の見える化の具体的な手法として、ROIC(投下資本利益率)が挙げられます。この指標は、事業ごとの資本効率を測定し、どの事業が価値を生み出しているかを明確化するために用いられます。また、ポートフォリオを評価する軸として、以下の要素が重要です。
- 収益性:各事業がどれだけ利益を生み出しているか
- 成長性:将来的な市場拡大の可能性
- 競争力:他社と比較した際の優位性
- 戦略的意義:企業全体の戦略におけるその事業の役割
たとえば、富士フイルムでは、写真フィルム事業の衰退に直面した際、全事業の詳細な収益分析を実施し、医療や化粧品といった成長が見込める新規分野への投資が決定されました。また、事業ごとの収益性や市場性を評価するための独自の指標を開発し、意思決定の質を向上させました。
戦略的意義には、パーパスなど企業目的との適合性も含まれます。ある事業をポートフォリオに組み込むことが自社の企業目的の実現につながっているのか、という判断も、これからの経営のあり方を考える上では重要な要素となります。
2.自社の経営資本に裏打ちされた事業ポートフォリオの検討
ポートフォリオ経営では、自社の経営資本を踏まえた戦略が重要です。経営資本とは、企業が価値を生み出すために活用するリソースのことであり、国際統合報告評議会(IIRC)が提唱する6つの資本が参考になります。
- 財務資本: 資金や財務リソース
- 製造資本: 工場や設備などの物理的資源
- 知的資本: 特許や技術、ブランド
- 人的資本: 社員のスキルや経験
- 社会・関係資本: 顧客やパートナーとの関係性
- 自然資本: 環境資源や持続可能性への取り組み
これらの経営資本を踏まえた戦略を構築する理由は、以下の3点に集約されます。
①経営資本の特性を活用して競争優位を確立する
各企業が保有する経営資本には固有の特性があります。たとえば、高度な技術力を持つ企業は、その知的資本を活かした商品やサービスで市場を差別化できます。また、強力なブランド力を持つ企業は、プレミアム価格帯の製品展開を通じて高い収益性を確保できます。このように、自社の経営資本を正確に理解し、それを最大限に活用する戦略は、他社との競争において大きな優位性をもたらします。
②資本の制約を把握し、リソースを最適に配分する
経営資本には限りがあります。たとえば、財務資本が限られている企業では、成長性の高い事業や市場への投資を優先させる必要があります。同時に、人的資本が不足している場合には、人材の採用や育成を強化することが戦略の中心となるべきです。このように、資本の制約を正確に把握し、リソースを最適に配分することで、効率的かつ効果的なポートフォリオ経営が可能になります。
③経営資本間のシナジーを引き出し、新たな価値を創造する
異なる資本を結びつけることで、個別の資本では生み出せない新たな価値を創造することができます。たとえば、ソニーの平井一夫前社長は、同社が保有する知的資本(エンタメコンテンツ)と人的資本(技術者)を活用し、ゲーム事業を収益の柱に成長させました。この事例は、経営資本間のシナジーを引き出すことで、事業間の連携を強化し、企業全体の競争力を向上させる成功例といえます。
その他にも、AGCでは、製造資本(高品質なガラス製造技術)を基盤に、電子材料やライフサイエンス分野に進出し、更に、社会・関係資本(長年の顧客ネットワーク)を活用して、新規市場での迅速な展開を実現しました。このように、複数の資本を統合的に活用することで、既存事業の効率化と新規事業の成長を同時に達成しています。
3.意思決定を行う場づくりと経営トップのリーダーシップ
ポートフォリオ経営における意思決定は、迅速かつ客観的であることが求められます。これを実現するためには、適切な会議体と経営トップのリーダーシップが重要です。
たとえば、定期的なポートフォリオレビュー会議を開催し、経営陣が事業ごとのパフォーマンスや市場状況、今後の可能性を評価します。この際、外部取締役や専門家の意見を取り入れることで、より客観的な判断が可能になります。また、ポートフォリオの意思決定には複雑な利害が絡んでくるため、最終的な意思決定はトップダウン型で迅速に行われるべきです。
富士フイルムやソニーの事例では、経営トップがリーダーシップを発揮し、迅速に意思決定を行いました。たとえば、富士フイルムでは、古森社長が新規事業への投資を迅速に決定し、医療分野への転換を成功させました。一方、ソニーの平井前社長は、不採算部門の売却を断行し、リソースを成長分野に集中させました。これらの事例は、トップダウン型のリーダーシップが変革の鍵であることを示しています。
第3章 ポートフォリオ経営の実行を支える人・組織に求められること
ここまでポートフォリオ経営を行う必要性や、意思決定におけるポイントを説明してきました。最後に、その実行を支える人・組織の論点について、「両利きの経営」の例として取り上げられることも多い、AGCの事例も参考にしながら、その要点を確認していきます。
【経営者】ポートフォリオ経営のビジョンを描くリーダーシップと意思決定力を持つ
経営者は、企業全体の方向性を示し、ポートフォリオ経営の核となるビジョンを構築する役割を担います。日本企業においては、変革を恐れる傾向や既存事業への執着が課題となりやすいですが、経営者のリーダーシップがこれを克服する鍵となります。
AGCでは、経営トップが主導し、ガラス事業における長年の成功体験に固執せず、ライフサイエンスや電子材料といった新規事業への大胆なシフトを進めました。これにより、既存事業の効率化を維持しつつ、新たな成長分野での収益拡大を実現しました。
経営者は、短期的な利益追求だけでなく、長期的な市場環境の変化を見据えたビジョンを構築する必要があります。また、ファイナンスや各種データに基づく客観的な判断、外部専門家や取締役の意見を積極的に取り入れるオープンな姿勢、また論理だけでは決めきれないときでも判断できる意思決定力が求められます。
【経営チーム】部門間連携と全体最適を実現する
経営チームは、個別の事業戦略を全社的なビジョンに統合し、各部門の役割を最適化する責任を持ちます。しかし、日本企業では、縦割り組織が強固であることが、事業間の連携を阻害する大きな障壁となっています。
AGCでは、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)の経営チームを「One team」と呼び、密に連携する経営体制を構築し、高頻度での擦り合わせをしながら事業ポートフォリオの意思決定と、実行、仕組みづくりを行い大変革の舵取りを行ってきました。この成功の背景には、経営チームが部門間の壁を越えた議論を行い、企業全体の最適化を追求した点があります。
経営チームの成功には、適切なメンバー選任が不可欠です。事業代表や機能代表といった狭い視点ではなく、全社目線で議論し、意思決定ができるメンバーを選ぶことが必要です。具体的には、以下の要素を考慮して人選を行います:
① 全社的な視点の保持
メンバーは、自身の部門や事業の利益だけでなく、全体最適を追求する意識を持つことが求められます。このため、既存の部門リーダーだけではなく、企業全体の成長戦略に貢献できる人材を選出する必要があります。
② 多様性の確保
経営チームには、さまざまなバックグラウンドやスキルを持つ人材を含めることが重要です。たとえば、事業部門出身者に加え、財務やマーケティング、テクノロジーといった専門知識を持つメンバーを加えることで、多角的な視点から意思決定が可能となります。
③ 協働とコミュニケーション能力
経営チームの議論は、意見がぶつかり合う場面が多くあります。このため、協働を促進し、他者の視点を尊重しながら建設的な議論を進められるコミュニケーション能力が不可欠です。
④ 柔軟性と適応力
経営環境が急激に変化する中で、経営チームのメンバーには、変化に迅速に適応し、新たな状況に応じた戦略を立案する柔軟性が求められます。
更に、適切なメンバーを選定した後は、経営チームが効率的に機能するための仕組みを整備することが重要です。たとえば:
- 定期的な戦略レビューの実施: 毎月または四半期ごとに、全事業の状況を見直し、必要に応じて方針を調整する。
- データに基づく意思決定: 事業ポートフォリオに関する意思決定を行う際、定量的なデータと定性的な情報を組み合わせて分析する。
- 外部の視点を取り入れる: 必要に応じて、外部取締役や専門家を会議に招き、客観的な視点を取り入れる。
加えて、仕組みを創るのみならず、経営チームを一枚岩にするための仕掛けも重要です。昭和電工と日立化成が統合して発足したレゾナックでは、CEO、CHROが中心になり、強い経営チームをつくるための営みを行い、ポートフォリオ改革を支える経営チームを作り上げました。
※関連記事:CEO・CHROが二人三脚で挑む、レゾナックの企業変革〜差別化要因としての共創型人材の育成〜
経営チームがこれらのポイントを意識して運営されることで、企業全体の目標を共有し、持続可能な成長を実現するための強力な基盤を築くことが可能になります。
【組織設計】コーポレートと事業部の役割を明確化した柔軟な組織の仕組みをつくる
ポートフォリオ経営を支える組織設計では、ポートフォリオの組み替えを前提とした組織構造としておくが必要があります。しかし、日本企業では、伝統的なヒエラルキー型の組織が、ポートフォリオの実現に向けた取り組みを阻害する場合が少なくありません。既存事業の効率化と新規事業の探索という「両利きの経営」を成功させるためには、コーポレートと事業部の役割を明確に設計し、それぞれの責任と権限を適切に分けることが重要です。
AGCでは、既存事業の効率化を推進する一方で、新規事業として電子材料やライフサイエンス分野への進出を実現しました。この成功の背景には、コーポレート部門が全社的なポートフォリオ管理や資源配分、戦略策定を担当し、事業部がそれぞれの事業運営に専念できる体制を整備したことがあります。
具体的には、コーポレート部門は以下の役割を担いました:
① ポートフォリオ全体の戦略策定
コーポレート部門は、全社的な観点から事業ポートフォリオを見直し、資源配分を調整しました。これにより、成長分野への投資が迅速に行えるようになりました。
② 新規事業専用チームの設置と支援
コーポレート部門は、新規事業専用のチームやユニットを編成し、必要なリソースと独立した意思決定権を提供しました。この体制が、新規事業の迅速な立ち上げと柔軟な運営を可能にしました。
③ KPIの独立設計と成果管理
各事業におけるKPIをコーポレートが設計し、事業部門が目標達成に向けて集中できる環境を整備しました。特に、新規事業では既存事業とは異なる評価指標を導入することで、適切な成果管理が行われました。
日本企業は、ポートフォリオ経営を実現するために、コーポレートと事業部の役割を以下のように明確に再設計していく必要があります:
- コーポレート部門の役割: 戦略策定、資源配分、ポートフォリオ管理、新規事業支援
- 事業部門の役割: 既存事業の収益性向上と現場レベルでの戦略実行
また、コーポレート部門が全社的な視点を持つために、外部の専門家や社外取締役を活用し、戦略の客観性を高める取り組みも効果的です。
このように、コーポレートと事業部がそれぞれの役割を果たしつつ連携することで、柔軟かつ持続可能なポートフォリオ経営を実現することができます。
【組織文化】柔軟な事業の組み替えを大前提とする
柔軟な事業の組み替えを大前提とする文化の形成は、持続可能なポートフォリオ経営を支える基盤となります。そうした組織文化の上で、社員一人ひとりが変化に対応し、主体的に提案するとともに、経営陣がデータと多様な視点を基に迅速な意思決定を行うことが必要です。しかし、多くの日本企業では、既存事業への固執や変化への抵抗が強く、柔軟な事業転換やイノベーションを阻害するケースが少なくありません。
AGCでは、ガラス製造のノウハウを活用して電子材料やライフサイエンスといった新規分野に進出しましたが、この取り組みの背景には、社員一人ひとりが変化を受け入れ、新たな市場に挑戦する文化が根付いていた点が挙げられます。また、経営陣が変化を前提とした戦略を描き、社員の提案を積極的に取り入れることで、企業全体としての柔軟性が向上しました。
AGCの事例から学べるように、変化を前提とした組織文化を醸成することは、企業全体の成長と競争力強化につながります。経営陣と社員が一体となり、変化を受け入れる組織文化を築くことが、ポートフォリオ経営の実現に不可欠な要素となります。そのためにも、経営リーダーが組織文化の重要性を認識し、適切な組織文化への変革を主導していく必要があります。
※関連記事:ポートフォリオ経営を支える経営システムと組織――AGC CFO宮地氏に聞く
最後に
ポートフォリオ経営において、リーダーは、複雑な事業環境下で全体最適を見据えた意思決定を行い、組織を牽引する役割を果たします。そのため、以下の経営の能力が求められます。
- 長期的視点とビジョン構築能力: 短期的な利益だけでなく、将来の市場動向や経営資本の活用を見据え、未来を描く力
- 意思決定力: 定量的・定性的な分析に基づき、ポートフォリオ全体のバランスを考慮して戦略の意思決定を行う力
- 柔軟性と適応力: 急速に変化する市場や経営環境に対応し、新たな機会を迅速に捉える力
これらの能力を育成するためには、リーダー候補者にはポートフォリオ経営を担うことを前提とした経営力を獲得するために、トレーニング機会の付与や、多様な事業経験を積ませ、異なる視点から経営を理解する機会を提供することが重要です。
また、ポートフォリオ経営は、組織全体が動くことによって実現されます。リーダー人材だけでなく、全社員が変化を受け入れ、主体的に行動するマインドセットを持つことが重要です。これらを実現するために、トレーニングのみならず、インセンティブ制度の再設計や組織文化の刷新などが求められます。
ここからもわかる通り、ポートフォリオ経営と人・組織は切り離すことができません。本コラムをポートフォリオ経営の実現へのきっかけとしていただければ幸いです。
<参考文献>
(※1)経済産業省「第4回 サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 事務局説明資料②」、2025年2月確認