- 経営人材
経営人材の自律的・主体的な成長を支援するために(後編) ~大人の学習モデル「スパイラルアップモデル」を実装する~
前回のコラムでは、経営人材の自律的・主体的な成長を支援する「ラーニングジャーニー」の考え方をご紹介しました。
ラーニングジャーニーの考え方を経営人材・次世代リーダー人材育成プログラムの設計に落とし込んでいくと、これまで陥りがちだった設計上の課題に対して、アップデートすべき7つの視点が見えてきます。これらを整理し、個人の主体性を原動力としながら、企業が提供する人材育成プログラムを機会として活用し学習・成長していくモデルが、「スパイラルアップモデル」とお伝えしました。
今回のコラムでは、実際の研修プログラムにおいて「スパイラルアップモデル」をどのように実装しているのか、事例を交えてご紹介します。なお、実際の事例では複数の要素が相互に影響し合って効果をもたらしているのですが、ここではメインとなっている要素にフォーカスしてご説明します。
事例① エンターテインメントA社:選ぶ・やってみる・刻む
まずは部長・課長層を対象に、目先の業務に追われ、中長期目線でのバックキャスティングの行動に転換しきれていない対象者が、本来の役割発揮へアップデートしていくことを目的としたプログラムをご紹介します。学習者の主体性を尊重しながら、実践の中で学習者の認識・行動変容を促すことを目的として設計しました。
フェーズ1の初日に、マネジメントの道もスペシャリストの道も、公平に選択の余地があることを社長自ら語っていただき、途中のフェーズで研修を降りても全く問題ない、参加者自らの意思で研修プログラムに関わることを「選ぶ」のだという明確なメッセージを打ち出しました。
「今期の成果創出」のために為すべきことではなく、バックキャスティングで「中期ビジョン達成」に向けた重要課題は何なのかを検討し、その解決策を活動計画まで落とし込むことに取り組みました。さらに、計画にとどめずに研修期間を通じて、自ら実践し続けることを促しました。
フェーズ1の最終日にはリーダースピーチを実施し、各自が「リーダーとして本気で取り組みたいこと」を宣言しました。その後に続くフェーズでは、都度メンバー間で実践状況を共有しました。全フェーズの最終日には、期間中に各自が試行錯誤を続けてきた結果を改めてスピーチしました。単なる仕事の範疇を超え、今後本気で取り組む「人生の使命」と捉え直した宣言を行う参加者が多く見られました。
事例② 製造業(製薬)B社:自身と向き合う・知る・分かち合う
次に選抜課長を対象に、自己認識、世界認識、ビジネス認識を変えることを目的としたプログラムをご紹介します。参加者の半数は中途入社社員で、従来は経営リーダー層は外部からの採用が主流でしたが、内部育成にも注力していくべく本プログラムが立ち上げられました。自己認識の変容を促すために、自己や他者との対話の機会が多く取り入れられている点が特徴です。
「自社を率いるリーダーとして、自身は何を大切にしていくのか」「世界のリーダーと比較した際に、自身には何が足りないのか」といった問いに向き合うため、社長講話、社史の振り返り、自社の薬を服用するユーザーとの対話、グローバルリーダーを目指してグロービス経営大学院で学ぶ外国人学生との対話等、さまざまな刺激を受けながら、自分自身と向き合う機会を組み込みました。
研修の初日では、各自の行動指針「クレド」カードを作成。その内容を以降毎回のセッションで確認し、お互いにどうすれば実践できるのか?相互にアドバイスを仕合い、励まし合いました。「私たちならできる」「この会社を変革していける」という肯定感や、リーダーとしてのアイデンティティを醸成しました。
最終回では、これまでの研修期間切磋琢磨してきたメンバー同士、「CEOになるには、あなたはここが足りない」という点をフィードバックし合いました。一人ずつが全員から忌憚ないコメントを貰い、インパクトの大きな場となりました。
社員と企業双方にとって望ましい成長機会をつくる
私たちは、学びを「研修の中」「個人の中」に限定せず、実務での実践や、他社との関わりも重要な要素と捉え、学習者の「ラーニングジャーニーをデザインする」ことにこだわっています。
社員(個人)と企業、双方にとって望ましい成長機会を一つでも多くつくり、経営人材の自律的・主体的な成長を支援していきたい――それが、私たちグロービスの思いです。