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海外で結果を出す人材とは? ~異文化を言い訳にしない~
海外で生き生きと活躍し、結果を出している人とは、どんなイメージでしょうか?業界、役職、そして、活動する国や地域によっても様々かもしれません。しかし、私が見ていてこれだけは共通しているなと感じるのは、「海外で結果を出す人は、『異文化』を言い訳にしない」ということです。困難にぶつかった時に、ついつい「ここは海外だから・・・」といった言葉が出がちです。では、こうした「言い訳」をせずに結果を出すには、何が大事になるかを探ってみたいと思います。
「異文化」以外にも、壁があることを知る
「海外でビジネスを成功させるには、あるいは、外国人とうまく仕事を進めるには、何が大事だと思いますか?」とクライアントの人事部の方や実際に海外と取引している方にお聞きすると、ほとんどの方が「異文化理解力」「異文化コミュニケーション力」が大事だと答えます。もちろん、海外でビジネスをする上でその国や地域の文化を理解することは非常に大事ですし、全くその通りです。しかし、私はここに大きな落とし穴があると考えています。なぜならば、異文化に目が行き過ぎて、他にもある様々なビジネス上の壁を見落としているのではないかと思うことが散見されるからです。更には、実際は異文化以外の問題でビジネス上の困難が生じているにも関わらず、その困難が異文化の問題から生じていると思い込んでしまっているケースも多いのです。つまり「ビジネス上の問題を異文化の問題と取り違えてしまっている」と言えます。これでは、真の課題に向き合う骨太なビジネスパーソンにはなれません。
「4つの壁」とその特性を知る
実際に海外で直面する典型的なビジネス上の課題として、4つの壁をご紹介します。
1. 経済やビジネスの「発展段階」の違いによる壁
日本は経済的には成熟期です。従い、多くの産業やビジネスも成熟期、場合によっては、衰退期に入っているものもあるでしょう。成熟期における企業戦略、マーケティング、お金の使い方、リスクの取り方など、仕事のやり方は、経済や産業が成長期にある国とはかなりの違いがあります。成熟期の日本で仕事をしてきた人がいきなり黎明期や成長期のマーケットに行くと、それに相応しいビジネスのやり方が肌感覚としてなく、どう動いていいか分からない・・・そして、その困難を文化の違いと錯覚してしまうこともあります。
2. 自身がカバーする「ビジネス領域」の違いによる壁
特に大企業の場合、日本では限られた製品、限られた役割を担っている場合がほとんどです。一方、海外拠点に行くと、自分が担当したことがない製品やサービスもカバーしたり、営業しかやっていなかった人が、マーケティングやロジスティクスなどもカバーするといったことが求められる場合も多いでしょう。そうするとこれまで経験したことがない業務をいきなり海外でやることになるため、すぐにうまくいかないのは当然のことです。
3.「組織での役割」の違いによる壁
この壁は特に駐在員の方には「あるある」です。海外拠点に出向すると、日本にいた時より高いポジションを任せられることが多いです。実際、私が初めて部下を持ったのはイランに駐在した時で、しかもイラン人だったのです。日本で部下を持ったことがないのに、いきなり海外でイラン人の部下をきちんとマネージするのは相当ハードルが高い経験でした。自分の不出来を棚に上げて「イラン人だから・・・」と思ってしまうことも多かったですが、これは本質ではありません。まずは、私自身のマネジメント能力を見直すのが筋でしょう。
4. 持っている「文化」の違いによる壁
当然ながら、国や地域、宗教などによる文化の違いが、様々なビジネス上のやり方、組織でのコミュニケーション上のハードルになっていることも、多くあります。
ここでぜひ、皆さんがこれまで海外で直面してきた課題を振り返ってみてください。異文化の問題だと思い込んでいたことが、実は別の問題だったことに気づくのではないでしょうか?私は問題の本質を捉えて、解決策を考え、実行することにより、海外で結果を出す確度が高まっていくと考えています。また、問題の本質と解決策が明らかになれば、外国人スタッフの方との協業、共創もより前向きなものとなるでしょう。
自分がどの壁にぶつかっているのかを知る
最後に、「異文化を言い訳にしない」考え方をどう培うか?について、話をしたいと思います。もちろん、様々なスキルやマインドの獲得、そして、ある程度の時間や経験が必要です。その前提で、まずは4つの壁のどこにぶつかっているのかを判断する能力を身に着けることが大切です。
どの壁にぶつかっているかを理解するには、例えば1つ目の壁については、外部環境を理解する力、加えて、発展段階の違いによる戦略のオプションなどを知っていた方がいいでしょう。2つ目の壁は、ビジネスのバリューチェーンやビジネスモデルの知識などが必要です。3つ目は、部下のマネジメントやリーダーシップ、組織論などの知識がないと、なぜ自分は部下とうまくいかないのかといったことが判断できません。このように、ビジネスや組織を捉えるための最低限のビジネス知識の獲得は必須です。
まだ経験の浅いビジネスパーソンは、これらの知識を全部持って自己判断することは難しいかと思います。従い、こうした判断ができる上司やメンターをおいて、何が課題なのか?をきちんと特定した上で、その課題解決に必要なスキルを身に着け、実際に現地で仕事をしてみることです。何も分からずに現地で奮闘するのではなく、ビジネス上の課題解決の仮説、自己成長課題の仮説を持って、日々を過ごしていただきたいと思います。
<関連書籍>
- 海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない(英治出版)