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エグゼクティブ育成の最前線 ~女性役員を含む多様な経営人材をどう育てるか~
不確実な時代を勝ち抜く経営者には、判断力、統合力、そして変革力が不可欠です。こうした能力を組織として発揮し、イノベーションを起こし続けるためには、従来の「同質性」から脱却し、多様な視点を取り入れなければなりません。しかし、日本企業においては経営層の多様化、特に女性役員の登用・育成が依然として大きな課題となっています。こうした背景を踏まえ、2026年2月12日に、知命社中 特別セミナーとして「経営者・経営者候補をどう育て、どのように成長を促すのか」をテーマに、エグゼクティブ育成の第一人者と現役経営者をお迎えし、最新潮流と実践から学ぶセミナーが開催されました。
本レポートは、株式会社people first 代表取締役(元株式会社LIXILグループ執行役副社長)八木洋介氏の基調講演をお伝えします。
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多様な経営人材を育てる
日本企業の衰退と、同質性が招いた弱点
人材の多様性について語る前提として、八木氏はまず1990年代頃から始まる日本企業の衰退から説き起こした。「IDMの国別の競争力ランキングで1992年に1位だった日本は、2024年には38位にまで後退しました。 1989年の企業の時価総額ランキングトップ50社のうち32社を占めていた日本企業は、2024年にはトヨタ1社のみになりました」。また、競争力を支える質の問題も看過できない。時間当たりの労働生産性は、アメリカ97.7ドル、ドイツ96.5ドルに対し、日本は56.8ドルと半分に近い状態だ。ギャラップの調査によればエンゲージメントの高い社員の比率は123カ国中118位である。
人材の多様性でも、日本企業は女性活躍の少なさが際立っている。「現在、日本の総労働人口は6700万人でそのうち女性は3000万人で約45%を占めています。しかし、ジェンダーギャップ指数(男性を1としたときの数値)は148カ国中118位。日本よりランキングの低い国はありますが、イスラム圏の国が多く、そこでは宗教的価値観の影響が大きい。ですから、そうした影響の薄い先進国の中では日本は最低レベルと言ってよいでしょう」。
八木氏はこうした事態に至った要因を、経路依存性(過去の選択や経緯が現在を強く規定し、脱却が困難なこと)から解説した。「かつては、1ドル=360円という日本に有利な為替レートとモノ不足の時代で、標準化、大量生産が有効でした。そのため、組織も『同質性』や『協調性』が強い競争力につながっていました。だから、企業の人事制度は年功序列・終身雇用という形が定着していたのです」。
ところがこの数十年で経営環境は大きく変化した。同質、標準、管理が有利だった時代から、差異や多様性を活かさなければ勝ち残れない時代になったのだ。「つまり、標準化されたモノを大量に提供することから、多様な個に意味を売る時代へと変わったのです」。
そうした時代には人材の多様性がまず欠かせない。現代の産業の発展には絶え間ないイノベーションが必要だが、これは多様な人材の出会いから生まれるためだ。同質的な集団では、議論があっても、似たような仮説、判断、結論になりやすい。さらには、想定外の状況に弱いという弱点もある。逆に多様性のある組織は活性化され、意思決定の質を高めることができる。「特に私が強調したい点は、同質的な集団では視点が内向きになり、世界で勝負する意識が希薄になることです。国内の他社は意識しても、世界中の会社と競争し、勝ち抜こうという姿勢に乏しくなります」と八木氏は警鐘を鳴らした。
なぜ多様性が育たないのか── 制度の歪みと「本気の欠如」
こうした課題は、以前から表現の違いはあっても指摘されることがあった。にもかかわらず、なぜ日本企業では未だに多様性が育たないのだろうか。
まず、日本企業には、同質性を促進する人事制度が根強く残っている。例えば、新卒一括採用、年功序列、ローテーション配属によるゼネラリスト育成などだ。キャリアパスも画一的で、同質的なキャリア(評価軸、成功体験)で昇進していくやり方が温存されている。「そのすべてが悪いとは言いませんが、誰もが評価する人だけを昇進させたら、経営層は同質性の高い集団になるでしょう」。
もともと日本の組織文化は、和、暗黙知、阿吽の呼吸、空気を読む、といった特徴があり、多様性から生じる摩擦や対立を嫌い、回避する傾向が強い。従って放っておくと同質性志向になりやすいのだ。
さらに「文化を変え、成果を出すには時間がかかりますが、日本企業にはその時間を待つ忍耐力が足りないと思います」と八木氏は指摘する。第二次安倍政権が女性活躍推進政策を掲げたのは2012年、14年も前である。が、状況はほとんど変わっていない。これは施策や制度を整えれば、すぐに女性が成果を出せるだろうという短絡的な思考にも原因があると言う。「制度だけでなく、育成に必要な時間を惜しみ、活躍できる『挑戦の場』の提供が必要です。それがまったくなかったら女性が辞めていくのは当然だと思います」。
こうした停滞を打ち破るために必要なのは、経営層の「本気」にほかならないと八木氏は語る。「そもそも日本企業には『本気の欠如』があるのではないでしょうか。ここで言う『本気』とは単なるスローガンではなく、『行動』が伴うことを意味します。マネジメントや役員層は、自ら率先して多様性を導く行動を本当に実践しているでしょうか」。
女性活用の基本は当事者の視点になって考えること
こうした日本経営の特徴を踏まえたうえで、八木氏は女性人材の活用についてこう提言した。
「女性の身になって考え、必要な行動を取らなくてはなりません。まずは、『やりたいことができない』という女性の苦悩を真剣に理解することです。一般的に、男性は男性であるだけで得をしていることが多いのですが、これに気づいている男性は少ない。男性が成果を得られないときは『本人の努力不足』と評されます。しかし女性には、本人の努力以前に、目には見えないバリアが数多く存在しているのです。このバリアは、家庭にも社会にも企業にも存在します。そうした、女性の置かれた立場に共感を持つ必要があります」。
さらに、男性が女性に対して無意識に偏ったメッセージを発していることもある。これに男性が敏感になることも必要だ。例えば「女性が家事や育児をすることを当然だ」と考えるといった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が自分にあることに気づき、それを排除することが挙げられる。このほか、自由で柔軟性のある働き方の促進、異なる考え方の受容、心理的安全性の確保、女性社員へのチャンスの提供、女性社員を時間をかけて見守り、支援することなどが、ポイントとして挙げられた。
そして、組織として多様性を推進するには、数値目標を掲げることも重要だと言う。「組織が戦略を立てるとき、数値目標を設定します。多様性の実現とは戦略の一つでもあるから、何人の女性役員を何年後までに育てる、といった数値目標やコミットメントが欠かせません」。この数値目標は、単なる「数合わせ」や外聞を整えるためのものではない。女性たちが持つ「異なる視点」や「多様な背景」を経営の中枢に取り込むことこそが、正解のない時代を勝ち抜くための経営能力そのもののアップデートに直結するのである。
経営幹部に必要な能力と資質
多様な経営者をいかに育成するか。八木氏はこの論点に入る前提として、これからの経営幹部に求められる能力と資質を整理した。
[マインド] 経営理念、企業価値の定義への理解。経営幹部の役割とは企業価値の向上であり、持続可能性への貢献なども問われる。オーナーシップとコミットメント、結果へのこだわり、責任者としての自覚、そして世界を相手に戦う意志が必要だ。
[可能な範囲で未来を予測し、仮説として描く力] 仮説を立て、変化や想定外の事態に柔軟に対応する力。
[正しく問いを立て、不確実な状況の中で判断し、行動する力] 世界は多様な要素が絡み合い、関係しあっている。その関係やパターンを理解し、業種や業界、地域、時間を超えた判断ができること。
[多様な人の潜在力、活力を発揮させる力] 同質的な集団では勝てない時代になった今、多様な人材を惹きつけ活力を発揮させる力。
[異なる考えを統合する力] 長期と短期、成長と持続可能性など、さまざまな対立軸が経営には存在する。これらは二項対立ではなく、両立をめざすことが重要である。
[変革力] 人間は本能的に変化を恐れるが、今の世界は常に変化しているから、何が正しいのかを考え、それに対応して自らを変える力。
[継続的学習]常に学び続ける力。経営者としてトップに立っても学び続けなくてはならない。時代の変化に取り残されないためには、継続的な学習が求められる。
経営者としてのビジョンを描く
このような資質をもつ、多様な経営者を育てるにはどのようなポイントがあるのだろうか。
第一は自身の「経営哲学」を養うことである。「勤勉さだけでは経営者にはなれません。経営者、または経営幹部として実現したいことが明確でなくてはなりません。経営哲学とは、『志』(何をめざしているのか)と、『価値観』(何を大切にしているのか)からなりますが、ここがぶれないことが極めて大切です」。
「経営戦略、マーケティング、財務といった基本的な知識は研修、セミナー、書籍などから学ぶことができる。さらには、大局観、構想力、問題・課題設定力を育てる必要があるでしょう。世界は多種多様な要素が関係しあって構築され、動いていくもの。経営者には全体を俯瞰的・総合的に見て判断する力、多様な要素間の関係を見抜き、組織が進むべき方向を示す力が求められます」と八木氏は語る。
正解がない時代には、組織マネジメントの中で自分の考えを形にし、伝えることも重要なポイントだ。「皆さんは、組織のメンバーにビジョン、つまり、いつまでに、どのような未来を実現したいか、を語っていますか。それをしないリーダーは、真のリーダーとは言えません。ビジョンを語ればその組織の課題が見えてきます。それをどう解決し、克服するかがその組織ならではの戦略になります。気をつけてほしいのは、ビジョンからいきなり戦略へ飛ばないこと。ビジョンと現状のギャップが『課題』であり、その課題を解決するための具体的な道筋が『戦略』であるので、まずは課題を明らかにすることが重要です」。
リーダーがビジョンを掲げ、戦略を立て、経営を進めるなら、「人事」という仕事もまた人事部任せにはできなくなる。「人事を自分事としてとらえ、どのようなチームを組織し、どう動かすのか。ビジョンを実現するなら、最高の人を集め、最高水準の評価をしようと考えるのが自然です。ですから、人事権は人事部に委ねきりにするのではなく、現場も主体的に関与すべきものだと思います」。
さらに、人事の具体的な運用においてもビジョンが軸となる。「ビジョンなき人を重要なポジションに就けてはいけません。魅力的なポストを巡って志望者が切磋琢磨し、ビジョンをより高いレベルで体現しようとする競争環境を整えることも、リーダーの重要な役割です」。
多様性を力に変える「組織づくり」
加えて、多様な人材が活躍できる組織についても八木氏は言及した。「最も仕事ができる人材とは、経験豊富な男性社員とは限らず、女性、若手、外国人、シニアなどさまざまです。しかし、そうした人々をただ集めるだけでは多様性は生まれません。多様な人々が自由に意見を述べることができて初めて多様性は実現します。だからこそ心理的安全性の確保が大切なのです」。
経営者のタイプも一様ではない。実行力型、戦略型、管理型、変革型など多様であり、いずれのタイプも必要になる。「今の組織にはどのタイプがどの割合で必要か、を考えてみてほしいです。もし、企業に変革型経営者が2割必要だと考えたなら、枠を設定してでも変革型の経営者を外から入れるような工夫も必要です。そうしたことも多様性の促進につながります」。
八木氏はこのように同質性を回避し、多様性を活かした組織をつくるための考え方を示した。しかし、既に述べたように、行動なくして現状は変わらない。最後に「あとは皆さんが実践するのみです」と、八木氏は激励の言葉を贈った。
【エグゼクティブ育成の最前線 ~女性役員を含む多様な経営人材をどう育てるか~】
■開催日:2026年2月12日(木) オンラインにて開催
■登壇者:
・八木 洋介 氏(株式会社people first 代表取締役 / 株式会社 TBSホールディングス 社外取締役 / GEヘルスケア・ジャパン株式会社 監査役 / 株式会社IWNC取締役)
・寺本 博之 氏(味の素冷凍食品株式会社 代表取締役社長)
・中谷 弥生 氏(株式会社TBSホールディングス 取締役CGO(成長戦略担当))