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イノベーションの旅は、風土づくりから

2022.02.10

新規事業は、多産多死と言われるように多くがうまくいかないものです。特にビジネスアイデアの探索・検証から事業モデルの検討といった事業開発の序盤は、行きつ戻りつしながら試行錯誤を繰り返します。新規事業を進める上で、ありがちな課題や事業開発・組織開発の考え方をお伝えしていきます。今回は、組織風土づくりについてです。

2010年頃TED Globalで、起業家であるデレク・シヴァーズが「How to start a movement(社会運動はどうやって起こすか)」をテーマにプレゼンした動画があります。3分くらいの動画なので見ていただきたいですが、そのプレゼンの中でこんなシーンが紹介されています。とある公園で1人の少年が上半身裸で踊り始めます。それを見た周囲の人たちは、最初は無視、あるいは冷めた目で見ていたのですが、別の1人が近寄って一緒に踊りだし、さらに周囲の人に声をかけ始めます。すると状況が変わります。1人また1人とこれまで様子見していた人たちも加わり、気がつけば周囲の多くの人も一緒に踊り出す・・・という、1人の変人(イノベーター)が、公園に佇む人々を巻き込み、その場全体が熱狂に包まれる変化を生み出したという動画です。この動画を引用しながらデレク・シヴァーズは、リーダーもさることながら、次に続くフォロワーの重要性を伝えています。

イノベーターの活躍を阻害する組織の圧力

一方で、大企業の新規事業を担う“イノベーター”の活動は、なかなか組織に波及しません。専門部署が立ち上がり、新規事業プロジェクトを走らせ、VCへのLP出資などを行っても、持続性の点で頓挫してしまうことが多いとよくお聞きします。新規事業やイノベーション部門のトップの方に、その理由を聞くと、「受け身のマインド」「これまで新規事業に取り組んだことがなく事業開発にやり方が分かっていない」「異動や組織変更で位置付けが変わってしまう」「周囲が協力的でない」などの答えが返ってきます。特に、歴史ある大企業、かつ単一の強い既存事業がある組織には、上意下達で失敗が許されない、新しい提案や試みに冷たい、それでどれほど儲かるのか?といった価値観が、組織風土に根強く浸透しています。それが組織の圧力として、新規事業を担うリーダーに重くのしかかってきます。このような組織の状態で、新規事業の創出活動をはじめても、例え良いアイデアでも内向きの議論に終始してしまい、新規事業に重要なタイミングを逸してしまいます。トラップやハードルだらけの事業開発は、稀有なイノベーターでしか組織を動かすことはできません。また、仮に動きはじめたとしても尖ったコンセプトが丸められたり、既存事業の補完サービスになってしまったりと、小粒の事業開発になってしまいがちです。運動不足のまま慣れないスポーツをすると怪我をするのと同様、既存事業に最適化された組織には、柔軟体操が必要です。

「知る・触れる・やってみる」を創り出す

では、どのようにして、凝り固まった組織をほぐしていけばよいのでしょうか。まず、トップのメッセージや対話などは実施しておきたいところです。ただ、それだけでは影響の範囲と深さの面で限定的になります。そこで、新規事業の活動が身近になることを目標に、組織のあちらこちらで、新規事業とはどういうものかを知っている、現在進行形の新規事業に身近に触れている、取り組んでみたことのある人が周囲に多くいる状態を作り、組織を耕していくことが大切です。サッカーでも野球でも一度経験したことのあるスポーツは、ルールが分かり好きな選手がいると、スポーツ観戦では熱心に応援したくなるものです。また、熱心なファンがいるチームは強くなる相互作用も生まれます。『知る、触れる、やってみる(体験する)』が、社内の新規事業のファンづくりの運動論の第一歩になると考えています。大企業においてイノベーションを生み出すには、一見遠回りのようですが、組織風土づくりから取り組まれることをお勧めします。

グロービス・コーポレート・エデュケーションビジネス・パートナー 大牧 信介

グロービス・コーポレート・エデュケーション
ビジネス・パートナー

大牧 信介 / Shinsuke OMAKI

大学卒業後、大手リース会社にて法人営業、企画部を経て、2001年よりグロービス。企業研修部門にて、大手企業の経営人材育成、事業課題解決、新規事業開発、製品マーケティング戦略などの支援を行う数多くのプログラムを実施。ディレクターとして部門マネジメント、事業開発を推進した。
現在は、株式会社松尾研究所にてAI教育事業をリード。AI領域から産業界のDXを推進するビジネスパーソンの育成に取り組んでいる。
また、グロービス・コーポレート・エデュケーションのビジネスパートナーとして企業研修講師を中心に、経営人材育成、新規事業開発に関するアドバイザリー業務に携わっている。
立命館大学経済学部卒業。東京理科大学大学院イノベーション研究科修了(技術経営修士)

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