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第4回:経営に必要な能力・知識を測定する
~グロービスのテスト「GMAP」~

執筆:斎藤 友彦

前回は特にテストの形式についてマークシート(選択)式と論述式のテストの2つを比較しました。
今回でこのコラム「見えないものを測る~人材アセスメントと育成について」は最後になりますので、最後に弊社グロービスのテスト「GMAP」についてご紹介したいと思います。

[GMAP-BF]ビジネス基礎知識の理解度を測定するテスト

開発の背景・テストの目的

GMAP-BF(ビジネス・フレームワーク)編は、マーケティング、経営戦略、人的資源管理、組織行動学、企業会計、ファイナンスの6科目で構成されています。ビジネスの基礎スキルとしてのフレームワーク、ヒト・モノ・カネの基礎的理解度を測定しよう、というのがこのテストのねらいです。

GMAP-BFはビジネス・フレームワークの理解度を測定するテストですので、ビジネススクール(MBA)で習う基礎知識、経営のフレームワークについて出題されます。しかし単純に知識があるかどうかを問うだけではありません。フレームワークの知識を活用し、実際の判断力や意思決定力を問う、ケース問題も多数出題されます。

例えば、ヤマト運輸の宅配便に関する文書(ミニケース)を読んでいだだき、次のような問題を考えます。

【例題】

後発企業が宅配便のシステムや組織体制を模倣して事業に参入してきても、
ヤマト運輸が依然として競争優位を維持できたのはなぜだと考えられるか。
(解答は4つの選択肢から1つを選ぶ)

これは単純にフレームワークに何かを当てはめれば解ける問題ではありません。ケースの状況を理解して、情報を解釈して初めて解答が導けるのです。もちろん、これ以外にもシンプルに知識を問う問題も出題されています。

このように問題の種類をミックスさせた問題構成にすることで、全体の難易度を調整し、受験者の正しい能力を測定するように工夫しています。

GMAP-BFの概要

GMAP-BFでは、ヒト・モノ・カネの3領域でそれぞれ2科目ずつのテストを受験できます。

・マーケティング(30問、20分)
・経営戦略(30問、20分)
・人的資源管理(30問、20分)
・組織行動学(30問、20分)
・企業会計(20問、20分)
・ファイナンス(20問、20分)

この6科目をまとめて行うと、全6科目の総合スコアが算出されます。これを総合版(全160問、120分)として提供しています。

他方、全6科目は必要ない、科目を選択しても実施したい、というニーズもあります。このニーズにも応える形で、必要な科目のみを受験できる科目選択版も提供しています。1科目から自由に組み合わせて受験できますが、この場合には複数科目を受験した場合でもその得点を合算した総合スコアは算出されません。あくまで単科目毎の結果報告となります。

※GMAP-BFのサンプル問題はこちら

[GMAP-CT]論理思考を測定するテスト

開発の背景・テストの目的

GMAP-CT(クリティカル・シンキング)編のねらいは2つあります。

1つには、ビジネス・パーソンとしての基礎的能力を測定しよう、ということです。
これは、特定の職務のみに必要とされる専門知識や業務知識ではなく、より一般的で汎用的な能力、と位置づけられます。グロービスのスクールや研修で人気科目、クリティカル・シンキングと同じ領域の力を開発しようということで開発されています。したがって、テストの結果と研修内容をつなげることで、受験者の能力開発計画に役立てることができます。

もう1つは、会社に入ってからの活躍度合いを予見しよう、ということです。
これは上述の「論理思考力」を測定する、ということと重なりますが、論理思考力が高い人は、新しい知識や技能の学習能力も高いだろう、という前提に立っています。このことは、新しい職務への適応性が高い、特に知的能力面での適応性が高いだろう、という予測が成り立ちます。

このように、業種、職種、職務、役職を問わず、全てのビジネス・パーソンに共通する必須の基礎能力が「論理思考」であると言えます。

論理思考力があるかどうかは、面接やグループワークの場面で推し量ることもできますが、その能力がどの程度なのか、また他の人と比べ違いは大きいのか小さいのか、と言った点までは、なかなか定量的に分かりにくいです。

そこで、企業の採用試験として、特に新卒学生や中途採用での選抜試験の一つとしてGMAP-CTのような能力検査が利用されるのは、受験者の能力の差異を数字で分かりやすく表現するためですし、また、テストの内容が業種や職種に偏らず汎用的に使えるためでもあります。

GMAP-CTの構成とバリエーション

GMAP-CTでは、クリティカル・シンキングを
・理解力(データ理解、文書理解、論理構造把握)
・論理的思考力/判断力(数学的判断推理、論証1、論証2)
という構造に分けて測定しています。

これは、クリティカル・シンキングで教える論理思考の3つのプロセス「1.理解→2.整理判断→3.解釈」のうち、最初の2つのステップ(1.理解→2.整理判断)に該当します。最初の2つのステップの能力を測定することで、アウトプット(=解釈)につながる思考力を把握しようというのがねらいです。

問題のバリエーションにも2種類あり、
・実施時間が110分で問題数が48問の「通常版」
・実施時間が60分で問題数が30問の「ライト版」
を選択できます。

結果は構成要素ごとに正答数と全体の総合スコアが算出されます。

※GMAP-CTのサンプル問題はこちら

よいテストを使いこなすために

テストそのものの品質向上は、我々テスト事業者がずっと追いかけていくべきテーマでありますが、他方、ユーザーである企業の人事部や教育担当の皆様が、正しいツールの使い方を知っておくことも非常に大切なことです。

それでは、正しくツールを使いこなす為の鍵は何でしょうか?
もっとも大事なことは、第2回のコラムでも少し触れましたが、「何の為にアセスメントをしたいのか?」という目的を押さえることでしょう。

ここでは、能力開発の場面でテストやアセスメントツールを利用する場合の典型的な目的をご紹介します。

1つは「学習効果の測定」ということです。
研修やeラーニングなどで学んだビジネスの基本知識の定着度合いをみたい、また、管理職の昇格要件として設けた経営のフレームワーク知識やその応用力を測定したい、といったニーズに応えます。具体的には、昇進昇格試験や、研修後の確認テストとして実施されるパターンです。

もう1つの目的は、「学習意欲の喚起」という点にあります。
これはテストを受験するだけでなく、その結果を受験者にフィードバックすることでその「もっと頑張って勉強しないと!」という意欲を持ってもらおうとします。受験時点での受験者の知識レベル、理解度レベルを、客観的指標データとして本人にフィードバックすることで、自分の強み弱みを自覚させ、具体的な学習目標の設定につなげていくこと、ここに意義を持たせるものです。この場合、フィードバックされたスコアの高低よりも、自分の結果を客観視して、どこを伸ばすべきか、また強みはどこか、といったことを自覚してもらうことに重点を置きます。

このように、「何のためにアセスメントをしたいのか?」という目的を具体化すればするほど、アセスメントツールの正しい使い方やその良し悪しの判断は自然と身に付くものと考えます。

おわりに

今回取り上げたようなテストやアセスメントツールだけで、人間の能力を全て測定できる訳ではありません。しかし、このようなツール類を活用することで、可視化しにくい人間の能力というものをできるだけ分かりやすく正確に表現していくことができます。

日本の人事システムは、年功・経験主義から能力主義や成果主義へと、時代と環境によって変遷してきました。グローバル化が進む現在では、海外での事業展開がますます加速し、日本人以外の社員を雇用することが、ますます日常の風景となっていくことでしょう。それに伴って、人事システムもグローバルな考え方に変わっていくでしょうが、どんな人事システムになろうとも、ベースになるのは、一人ひとりの能力や個性を正しく公正に評価することです。

個々人の実力に基づく公正な評価が日常的に行われ、その結果が組織や社会で尊重されてこそ、健全な民主社会が実現するのだと思います。