GLOBIS(グロービス)の人材育成・企業・社員研修サービス

導入事例
  • HRBP

人事戦略の立案力を磨き、経営層と対等な議論ができるHRBPへと成長する

富士通株式会社 2022.06.02

事業部門のビジネスパートナーとして、人事戦略を立案して実行する役割のHRBPを各事業部門へ配置している富士通株式会社様。HRBPがより高い価値を発揮することを目指して実施した人事担当者向けHRBP Project(以下、本プロジェクト)に参加した、同社のビジネスマネジメント本部人事部 シニアマネージャー 堀江康弘様にお話を伺いました。さらにHRBP配置後の組織変化について、理事 ソーシャルデザイン事業本部長 有山俊朗様にお話を伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)

はじめに:本プロジェクトの概要

富士通株式会社様では2020年4月にジョブ型の人事制度が導入され、人事部門の体制と役割も大きく変わりました。各事業部門のビジネスグループ長や本部長に人材リソースマネジメントの権限移譲が進められ、事業部門起点でこれまで以上にスピーディな人材マネジメントを行うことになったため、共に人事戦略を考え実行するHRBPの役割が重要性を増したのです。
ジョブ型への移行を機に発足した本プロジェクトは、人事担当者がHRBPとしての価値を発揮するための「型(視点・考え方・手順)」を習得することをゴールとしました。

約6ヶ月間を要した本プロジェクトの前半では、経営の基礎知識や視点、HRイシューについての考え方等を習得します。後半は実践として担当事業部向けの組織レポートに取り組みました。作成するレポートの内容は、前半に培った知識や視点を活かし、全社戦略や事業戦略を踏まえて人事戦略と施策を検討するものです。レポートを元に、HRBPとしてビジネスグループ長・本部長と人事戦略の議論ができることを目指しました。

HRBP 育成支援プロジェクトのセッション構成
※インプットとアウトプットを効果的に組み合わせながら、実務的かつ実践的な育成方法を選択

参加前の課題と期待

プロジェクト参加前に抱えていた課題感

堀江さん:

私は、デジタルソフトウェア&ソリューションビジネスグループ(以下、DSSBG)という、富士通のDX企業への変革に向けて新規ビジネスをつくる組織の担当人事をしています。2020年4月にHRBPの役割が生まれてから、事業をつくることに人事としてどう貢献できるのかを考えていました。ちょうどその頃、DSSBG内で外部企業と事業提携して新組織を立ち上げることになったため、本部長と社内ポスティングやキャリア採用で一から人材採用を進めていました。今後は、経営層とこうして伴走することが増えていくのだと感じた1つの出来事でした。

HRBPは、経営戦略や事業戦略と人事戦略を結びつけて考え、ビジネスに直接貢献していくことが求められます。戦略を知らなければ、経営層と同じ土俵に立てません。私も含めて人事の皆が変わっていかなければならない一方、個人の努力だけでは足りないとも感じており、理論的なことから学べる場が欲しいと思っていました。

以前から、人事はビジネスにもっと貢献していくべき役割だと考えていました。その原体験は、もともと所属していたグループ会社での経験にあります。今よりもずっと小さな組織で、経営がとても近いところにあり個人の裁量も大きく、当時担当していた採用業務では採用計画・予算の承認を得れば、あとのプロセスはほぼ任せてもらえていました。その時の状況に近づくと感じ、個人的には本プロジェクトに対してウェルカムな気持ちでした。

ビジネスマネジメント本部人事部 シニアマネージャー 堀江康弘様

参加した感想

プロジェクトで印象深かった点

堀江さん:

理論をしっかり学んだ後、担当本部へのレポートを自分で作成するプロセスそのものが印象に残りました。

参加前から課題感があった経営戦略やマッキンゼーの7Sといった基本的な知識については、理論と企業事例を組み合わせて学んだことでしっかり理解できました。人事の仕事をしているだけでは理論に触れる機会はなかなかありませんでしたが、基礎知識は今後も軸となる考え方だと思いました。人事戦略を考える上で、立ち戻れるものを得られたと感じています。

レポーティングでは、中期計画などの経営資料をもとに市場環境や戦略を分析するにあたり、そもそもビジネスを理解していることが求められます。さらに足りない情報を社内外で探したり、本部長からの話を参考にしたりして考えを深掘っていくプロセスも難しく感じました。他のメンバーのレポートも参考にさせてもらって刺激を受け、グロービスさんのレビューにも助けられ、なんとか本部長と会話できるレベルのものに仕上げられたと思います。最後の本部長とのディスカッションで、もう一段ブラッシュアップできました。

プロジェクトで苦労した点

堀江さん:

プロジェクト期間中に全社の人事制度が急速に変わっていったので、取り組んでいるレポート内容の実行とのバランスを取ることが大変でした。この制度見直しは、社内でもジョブ型人材マネジメントへのフルモデルチェンジという言い方をしているほどドラスティックなものです。

この様々な人事制度のフルモデルチェンジの対応を進めることで精一杯になってしまい、結果として、プロジェクト期間中に人事戦略を体系立てて実行計画に落とし込み、年度の中でその実行状況をトラッキングしていくというレベルまで到達できなかったのは心残りです。これはプロジェクト終了後の今後の課題と捉えています。

自身の変化と今後の展望

プロジェクト終了後、ご自身で感じる変化

堀江さん:

現場での新規事業立ち上げと並行して人材育成を進めることに、自分自身が関われた実感を持っています。レポートを元にして本部長と同じ目線で議論し、本質的な組織課題を特定していきました。その議論を通して、絶え間なく事業創出できる組織にするために、人材ポートフォリオの転換が必要との課題認識に至り、グロービス西さんのお力も借りて、新規事業創出と社内人材の育成も兼ねた戦略策定ワークショップを実施しました。

社内で新規事業創出がなかなか進まないという課題意識を本部長から聞いていましたが、実際にワークショップに同席してみると「なるほど、こういうことか」と背景や当社の社員の考え方の傾向などが良く見えてきました。このような取り組みは、人事の私たちだけで全てやろうとしなくとも、場をセッティングすることで価値が発揮できるのだと分かりました。場があれば情報も入ってきて、そこからHRBPとしてビジネスに貢献できる場面も自ずと増えてくると実感できたのも大きな収穫でした。

これまでは、組織を検討するにしても現場の本部長が決め、私たちは決定したものを提出してもらうという流れでした。ところが最近では、私からビジネスグループ長と本部長に声をかけて組織や人材配置の検討の場をセットしています。議論のファシリテーションも私が行い、意見を求められるケースも出てきました。周囲でもそういう場面が増えてきたと思います。

他の本部を担当するHRBPメンバーとの会話内容も、だいぶ変化しました。組織のミッションとして掲げている「人・組織のプロフェッショナルとして、事業の発展に貢献する」ことを目指した意見交換をしています。

今後の展望

堀江さん:

マインドは自分も他のHRBPメンバーも変わってきていますので、これから具体的な成果を出していかなければなりません。

私が担当する本部のビジネスグループ長が、2021年6月に新たに着任しました。人事をはじめとするコーポレート部門のメンバーは、常々、新たなビジネスグループ長より「数字をとりまとめるだけでは何の意味もない」との指摘を受けています。経営層が期待しているのは単なる結果の集約・集計だけでなく、そこからのインサイトを踏まえて、どうすべきかの提案まで行うことです。HRBPとして価値を発揮できているだろうかという危機感を常に持って、業務をしています。

チームメンバーとも、事実から何が読み取れて何をした方が良いと伝えるべきかを話し合うようになりました。事実をもう一段掘り下げてみると、見えてくることがあります。数字や結果だけでなく、仮説まで考えて持っていくとビジネスグループ長も腹落ちしてくれて、その先の議論もスムーズに進みます。

今後は組織がまた変わるので、改めて人事戦略を練り上げてレポーティングしたいと考えています。私が担当しているビジネスグループは社員が3,800人ほどいます。規模を考えると、富士通の1部門というより1つの会社という意識を持って、経営として目指す姿や打つべき手を考えて、実行に移していきたいと思います。自身がCHROくらいの気持ちと視点が必要ですね。

DX企業への変革に向けて、本部長は今大変な苦労をしています。新規事業をどう創っていくのか手探りの中、経営層と現場との間で、リーダーシップの点でも悩まれることがあるだろうと推察します。その一方で本部長は組織内に相談できる人がなかなかいませんから、HRBPがもう少しサポートしたいと考えているところです。私たちHRBPがもっと人を知り、主要なポジションの管理職やタレント人材を把握しておき、処遇や配置先について相談された際に、HRBPとして的確な案を提示できたり、さらには自分発信で課題を指摘し施策を提案できるのが理想だと思っています。

自分自身のブラッシュアップとしては、グローバル化への対応力がテーマです。当社は世界各地に社員がいますから、グローバルを前提とした経営の基礎知識を学び、人事の最新トピックもアンテナを張って入手していかなければなりません。そうして初めて、経営層に対して価値あるインサイトを提供できると思うのです。

外部企業の皆さんとも人脈を広げて情報交換をしていきたいですね。当社だけがジョブ型の人材マネジメントを入れていても、日本全体が変わるわけではありません。人材の流動性も高まらないでしょう。ジョブ型をはじめ、当社の取り組みが他社さんの参考になるのであれば取り入れてもらって、世の中がどんどん変わっていってほしいと思っています。

HRBP配置後の組織変化

本部長インタビュー

有山さん:

私が本部長を務めるソーシャルデザイン事業本部は、生活者の視点から社会や産業をより良くすることがミッションですが、そのスキルセットと経験値の蓄積、強化が課題でした。どのように解決すればよいのかを考えるにあたり、HRBPの堀江さんの存在は大きかったです。ビジネスグループや本部のミッションを理解してもらった上で、人材採用を一緒に進めました。

これまではビジネスで人事と連携することはあまりありませんでしたから、大きな変化です。堀江さんからも提案をもらえるので、コミュニケーションのスピードもビジネスのスピードも上がりました。高度人材の報酬体系の検討も、堀江さんが先頭に立って進めてくれています。このようにしてHRBPとの連携が深まれば、人事の皆さんの新しいキャリアパスも生まれますよね。

人事のみならず、法務、知財、財務などは経営に欠かせません。大企業だからこそコーポレート機能の専門家が既にいるので、今後はもっと密に連携したいと考えています。もし起業したら、バックオフィスのメンバーを新たに雇用しないといけないのですから。連携しないと新規事業部門はいつまでも「出島」のままです。本部が新しい事業構造に変えていこうとする際、コーポレート機能も一緒に変わっていく必要があると考えています。

各コーポレート部門とは、もっと未来を見据えた連携もしていきたいと思います。人事であれば、事業が目指す姿を踏まえた人材ポートフォリオの検討、それに伴うコストシミュレーションなどですね。複数のシナリオを描いて、そこから施策を決めるようなディスカッションを多くしていきたいと思っています。

左:理事 ソーシャルデザイン事業本部長 有山俊朗様  右:ビジネスマネジメント本部人事部 シニアマネージャー 堀江康弘様

※本インタビュー記事の部署・役職は2022年3月取材時点のものです
担当コンサルタントの声
篠田 泉

本プロジェクトはHRBPの役割を立ち上げることから始まったため、当初はHRBPの目指すべき活動が見えにくい中で走って頂きました。このような状況でも堀江様は「人事としていかにビジネスに貢献するか」を強く意識し、フロントランナーとして力強く邁進して頂きました。

プロジェクトにおいてはHRBPの基本的な考え方・視座や視点の獲得だけではなく、担当組織の組織・人材に関する見解・示唆出しまでを支援しています。一方で、その示唆をより精緻なものにしていくためにはプロアクティブに現場に働きかけていく行動力が大変重要になります。堀江様におかれては、自ら現場との接点を設定される等、大変精力的に活動頂きましたが、今回お話を伺う中で、その行動力の背景にある堀江様の想いに触れ、情熱を持って組織に向き合うことが重要だということを改めて感じました。

富士通様同様昨今の経営環境変化の中で事業変革期にある企業様は非常に多いと思います。こうした事業変革を推進していく上で鍵になるのは、組織・人材をスピーディーに戦略とアラインさせていくことです。そして、まさにその中核を担うのがHRBPであり、その役割は戦略実現に直結する極めて重要なものだと感じます。HRBPの活躍を通じて戦略実現に一歩近づく組織作りが、富士通様はもちろん、今後多くの企業様において実現されることを願っています。

鶴谷 未恵

堀江様は、本プロジェクト開始時より強い当事者意識をもって取り組んでいただきましたが、特に事業部長との直接のやりとり以降、アウトプットがより具体的になり、かつビジネスサイドとの関係性も強くなられたと感じました。

やはりビジネスの現場で起こっていることに直に触れることで、HRBPとしての役割や責任感が一層高まり、何をすればビジネスに貢献できるかという積極的な行動に繋げられたのだと思います。私も人事経験があるためよくわかりますが、日本企業の人事は、意外とビジネスサイドとの接点が少なかったり、仕事上接点があったとしても事業戦略に踏み込んだ議論を持ち込むことに躊躇してしまう方が多いように思います。

ビジネスを理解するための知識は学べば身につきます。その上で、ビジネスパートナーとしての役割を強く意識し、自ら一歩踏み出せるかどうかが、HRBPの方が活躍し、HRBPという仕組みが機能するポイントだと本プロジェクトへの伴走を通じて、改めて感じました。引き続き、HRBPの皆さんが一歩踏み出す際に、背中を押す存在でありたいと思いますし、個々の変化を通じて組織の変革を着実に進める支援に取り組んでまいります。

関連記事

2021.12.01 KDDI株式会社
オペレーション重視の視座から脱却し、経営の参謀役としての役割を担うビジネスパートナーへ
  • HRBP