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経営会議をアップデートし、企業競争力を高める

2021.10.12

グロービスの井上佳です。グロービスでは、人材育成・組織開発の観点から、お客さまの事業開発や組織変革支援に携わっています。様々なお客さまとの議論や共創体験を通じて、私自身が感じた問題意識や組織開発への思いを発信していきます。今回は、「経営会議のあり方について」です。

経営会議に、その企業の特徴が映し出される

法的な規定のある取締役会よりも、頻度高く行われる経営会議(任意で開催される役員会議)は、その企業の特徴や経営の実体が表れやすいと考えます。組織の意思決定のあり方、大事にしている価値観、そして組織文化そのものが会議の様々な場面に映し出されるように思います。

このことを初めて感じたのは、10年以上前に同席したお客さま企業の経営会議です。当時、私がお客さま企業の新たな人事制度構築に伴う組織文化の調査を担っていた関係で同席することになりました。会議に参加していた経営陣は、業界における専門性はもちろん、誰もが認める経歴をもつ方々でした。しかしながら、その経営会議の場の空気感や議論の内容・展開は、想像していた経営会議とは大きく異なりました。当時、同社の現場で生じていた優秀な人材の退職、リコール問題、成長事業の停滞要因は、すべて経営会議のあり方が起点となっているのではないか、と強い問題意識を抱いたのです。

多くの日本企業は、高度経済成長期に規模拡大し、経営の合理化・効率化に有効な事業担当制を導入しました。事業担当制は、担当役員の管轄事業やミッションの範囲・責任を明確にする一方、管轄外事業への経営コミットが薄まるリスクもあります。不確実な時代環境や新たな全社経営アジェンダにおいて、経営陣が一枚岩にならなければ、事業間の連携も生まれ難く、企業競争力の低下を招く可能性があります。

貴社の経営において、下記の観点で7つ以上「Yes」に該当したら、現在の経営会議のあり方を見直すタイミングかもしれません。

<ご参考>
経営会議の見直しを図るチェックリスト

4つの視点で経営会議をアップデートする

百戦錬磨の上級役員にとっても、未経験なDX推進、社会課題への対応など不確実性や創造性に向き合う時代において、多くの企業で、経営会議のあり方をアップデートする必要性が高まっています。アップデートとは、経営会議の意思決定の質とその後の推進における実効性を高めるために、会議を構成する要素と、経営陣の思考モードを見直すことです(下図参照)。

経営会議をアップデートする視点
(図:グロービス作成)

経営会議を構成するコンテンツとプロセスをアップデートする

経営会議を構成する要素として、「コンテンツ」と「プロセス」があります。
「コンテンツ」とは、経営として向き合うべき主要アジェンダ(議題)であり、それに必要な資料や議論の内容を指します。最近よく見られる課題は、本来は部長をはじめとするミドル層で意思決定されるべきアジェンダが経営会議に取り上げられるケースです。この場合、ミドル層の能力開発とセットで問題解決していくことも必要です。また、新規事業のスタートや撤退を議論するケースでは、設定された定量的な基準(ex.市場テスト結果や予測される正味現在価値、収益化や累積損失解消の時期、市場ポジションなどの指標)が今の時代と合わなかったり、自社に都合良い基準に偏ったりしていることも見受けられます。アジェンダに応じて、議論や意思決定の判断軸をアップデートすることが必要です。

経営会議を構成するもう1つの要素は、意思決定に至るまでの「プロセス」です。主に、会議の進め方、経営陣や事業部間の心理的・政治的関係性、各々の当事者意識、納得感やトーンも含めた場の雰囲気などを指します。例えば、一見、和やかに進む会議でも、実は同調圧力が働き、異議を唱えることが難しい場合があります。また、活発な議論が進んでいるように見えても、発言の裏に自事業部優先、あるいは他事業部批判になっているだけのケースもあります。どのようなプロセスで決定・承認に至ったのかが、その後の実効性にも大きな影響を与えるため、適切なタイミングを見極め、プロセスへの介入を図る必要があります。

このように、複雑に絡み合うコンテンツとプロセスを解きほぐし、それぞれをアップデートすることで、経営会議の質を高めることができます

思考モードを使い分け、最善の意思決定を導く

経営陣の「思考モード」も経営会議の意思決定やその後の推進における実効性に影響を与えます。思考モードには、直感的で自動的な思考(直感モード)と、熟慮的で合理的な思考(熟慮モード)があります(※1)。一般的に、私たちは、直感・熟慮の両思考モードを無意識、かつ異なるスピードで操り、日常の意思決定を行っています。どちらの思考モードも途切れることなく働いていますが、直感モードは素早く、力強く、瞬間的に機能します。一方、熟慮モードは、複雑な計算や判断など知的活動で機能するため、直感モードよりも多少の労力を要します。

経営会議では、企業が置かれている環境や議論すべき経営アジェンダに応じて、直感・熟慮の両思考モードを高度に使いこなすことが求められていると考えます。しかしながら、この2つの思考モードの操り方は、企業によって“癖”がでます。なぜなら、業界の規制や商習慣、慣行、過去の成功失敗体験などがその企業の経営陣の思考モードの稼働に強く影響を与えるからです。さらに、業界が断続的に変化する現代において、経営会議で、直感モードで何を議題に取り上げるべきかを捉え、熟慮モードで議論を重ねるべきことを峻別・判断することは、極めて難しくなっています。

有名な例として、ノキアは、当時携帯電話業界で急成長し、競合であるエリクソン、サムスン、モトローラの動向を徹底的に分析し議論もしていました(=熟慮モード)。しかし、iPhone発売後もアップルの話題が、取締役会に登場したのは、わずか2,3分だったと言われます(=直感モード)(※2)。業界の前提や認識にがんじがらめで、新しいプレイヤーがどこまでルールを破ってくるかを感知できていませんでした。まさに適切な場面で、経営陣が、熟慮モードを発動させられなかった一例です。

世の中には、戦略策定プロセス、新規事業推進の進め方、リーダーシップなどに関する書籍や方法論は数多く紹介されています。しかし、組織の最上位に位置づけられる経営会議での意思決定やコミュニケーションデザイン、経営チームの関係性改善の実践的な方法論は、経験談を除き、ほとんど体系化されていません。また、社内ではその介入策を検討することは、時に難しく、限界があるように感じています。ここに、私たちグロービスの存在価値があると思っています。

<参考文献>

  • (※1) ダニエル・カーネマン(2012)『ファスト&スロー(上)』(村井章子翻訳)早川書房。
  • (※2) Siilasmaa, R. (2018). Transforming NOKIA: The Power of Paranoid Optimism to Lead Through Colossal Change: The Power of Paranoid Optimism to Lead Through Colossal Change. McGraw Hill Professional.
グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー 井上 佳

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー

井上 佳 / Kei INOUE

国内コンサルティングファームにて、上場企業から中小企業、官公庁の組織開発、人事制度設計、営業拠点再生プロジェクトに従事。中四国支社責任者、東京本社所長、新支社の立ち上げを経験後、グロービスに参画。現在は、通信、メーカー、商社、食品、素材、航空など様々なクライアント企業の新規事業支援、経営体制支援、人材・組織開発の企画・実行に携わっている。
英イーストロンドン大学応用ポジティブ心理学修士(MAPPCP)、英ケンブリッジ大学Sustainability Leadership Program修了、国際ポジティブ心理学会(IPPA)会員。

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