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第5回:働き方の変化によって生じた人材採用の悩みと解決の糸口とは

執筆:御代 貴子

ここ数年、リモートワークやフレックス制度などを導入し、社員の働き方を変える企業が増えています。また、業務委託などの外部人材を積極活用する動きも見られます。これらの流れと連動するように、弊社がお客様から伺う人材採用の悩みにも変化が生じてきました。

今回は、働き方の変化によって新たに浮かび上がった採用における悩みと解決の方向性について、主に新卒採用に焦点を当てて考えます。企業で採用・育成を担当する皆さまの参考になれば幸いです。

期待して採用した人材が、思ったように活躍しない

企業の人事担当者様から弊社に寄せられるご相談で、「採用時の評価と、入社後のパフォーマンスが一致しない」という内容がここ1〜2年で増えました。多くの企業が以前から抱えている、労働力人口の減少によって自社への応募数が減っている悩みに加えて、新たな悩みが生じているようです。採用担当者としては、応募数が減っても採用数は減らせませんし、妥協して採用するわけにもいきません。入社後に活躍できる人材を採用すべく、採用選考プロセスの見直しをしたいものの、どの点から検討を始めればいいかお悩みの企業様も多くいらっしゃいます。

採用した人材が期待したように活躍しない理由として、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をはじめとする事業内容の変化があると思われがちですが、日常業務を担うことが多い新入社員に絞って考えると、事業内容による影響は薄そうです。むしろデジタル化が進む世の中においては、デジタルネイティブ世代が心強い戦力になるでしょう。

日々の業務に焦点を当てて考えると、近年は多くの企業でリモートワークを取り入れたり、業務委託などの外部人材と協働したりしています。このように働き方や一緒に働く相手が変わったにもかかわらず、採用時に求める人材要件を変えていないことに原因があるのではないでしょうか。働き方が変われば、必要となる能力も変わってくると考えます。

ところが、HR総研が2021年9月に発表した「2022年&2023年新卒採用活動動向調査」の結果では、新卒採用のターゲット層を変えたと回答した企業は少なく、特に従業員数300名以下の企業でその傾向が強いことが分かりました。従業員数1,001名以上の大企業でも、ターゲット層が「大きく変化している」「やや変化している」と回答した企業は約3割に留まりました(※1)。
多くの企業が、採用におけるターゲット層は変えていないことが伺えます。

【ターゲット層となる学生に関する条件の変化】

グラフ

(HR総研「2022年&2023年新卒採用活動動向調査」よりグロービス作成)

新卒採用で企業が最も重視するのは、コミュニケーション能力です。経団連「新卒採用に関するアンケート調査」で、学生に求める能力として10年以上に渡り不動の1位にランクインし続けています(※2)。コミュニケーション能力は、今後も変わらず必要とされるのでしょうか。詳しく考えたいと思います。

コミュニケーション能力をいくつかの要素に分解すると、
・立ち居振る舞い
・場や相手の状況を読む力
・伝える内容を構築する力
・相手に伝える力(話す、書く)
といった要素に分けられます。

各要素を日々の働き方に当てはめて考えると、リモートワークでの会話はZoomなどのオンラインツールを通して行われるため、立ち居振る舞いの影響は少なくなり、その場の空気もお互い感じにくくなります。逆に、チャットツールやメールでやり取りをすることが増えるので、伝える内容を整理し、文章を通したコニュニケーションができることの重要性が高まっているといえます。

このようにコミュニケーションの例を見ても、働き方を変えた企業では、採用選考でも重視する能力の捉え方を変えるべきではないでしょうか。

求める人材要件を具体化し、確実に見極める採用を

多くの企業が働き方を変えている今こそ、採用活動において、求める人材要件から見直すタイミングだと考えます。自社の今の組織や働き方にフィットする人材要件を定めたいものです。人材要件の検討にあたっては、先ほど挙げたコミュニケーション能力を例にすると、話す内容を構築する力にフォーカスするなど、要件を要素分解して具体的に捉えてみることをおすすめします。

グラフ2

さて、働き方を変えている企業は新卒採用した社員へどのような能力を求めているのでしょうか。リモートワークやフレックス制度を導入し、先進的に働き方を変えている大企業が多い経団連会員企業への調査によると、特に期待する能力として最も回答が多かったのが「課題設定・解決能力」、次いで「論理思考力」との結果が出ています(※3)。弊社としても、優秀な人材が能力を発揮し、成果を上げてもらうために働きやすい環境を整える企業が増えていく流れをふまえると、課題を自ら設定して解決する力や、分かりやすく自分の考えを組み立てて説明するための論理思考力はより一層重要になると考えます。また、これらの能力は、多くの企業が重視する「コミュニケーション力」の一要素でもあると捉えています。

【企業が大卒者に特に期待する能力】

グラフ3

(経団連「採用と大学改革への期待に関するアンケート調査」よりグロービス作成)

新卒採用において、大手企業と同じように課題設定・解決力や論理思考力を重視する企業では、これらの力に長けている学生を応募者の中から確実に見つけることが欠かせません。この採用選考プロセスの質こそが、入社後に活躍する人材を採用するポイントになると考えます。新卒学生はいまだに大手志向が強いため、就職活動では大手企業と中小企業を併願することが多いからです。各企業は、貴重な応募者の中から、自社が求める要件を持つ人材を見落とさずに採用につなげたいところです。

しかしながら、思考力の見極めは大変難しいものです。資格取得の合否のように分かりやすい基準が設けにくく、面接で見極めようとすると面接官に候補者以上の思考力が求められます。面接は主観的な評価であるがゆえに、誰が面接するかによって評価がぶれる可能性も高いでしょう。そのため、思考力のような能力の見極めには、客観的に見極めができる適性検査や採用テストを活用することをおすすめします。

【面接選考で気をつけるべきポイント】

指摘事項 詳細
質問展開における誤り ・面接官が話をしすぎる
・質問が場当たり的で一貫性に欠ける
・被面接者の緊張を解きほぐせず本音が引き出せない など
判断における誤り ・最初の数分で判断してしまう
・自分の判断を過信する(決めつけがち)
・言語外の要素に左右されやすい
・面接官による評価のブレ
・ハロー効果
・自分と似た人物を高く評価する
・個人的な好き嫌いによる判断 など

(「人事アセスメント論―個と組織を生かす心理学の知恵」二村英幸著、ミネルヴァ書房 よりグロービス作成)

適性検査で、何を測りたいのか

ここからは、採用選考における適性検査の活用について考えます。面接での見極めが難しい能力を適性検査で測る際、どの検査を使うかは慎重に考えたいものです。測りたい能力・資質と適性検査で測る内容が一致していなければ、検査を使う意味が薄れてしまいます。採用時の適性検査で高成績だった人材が入社後パフォーマンスしないことに悩む場合は、適性検査の見直しが必要かもしれません。

適性検査はデータを蓄積できるメリットがあるがゆえに、経年変化を見ようとすると一度導入した検査を変えにくいものですが、改めて以下の点を考えていただきたいと思います。

  • 1. 自社が求める人材要件は何か(細分化し、具体的に設定する)
  • 2. 人材要件のうち、適性検査で何を見極め、その他のプロセス(面接など)では何を見極めるのか。現在の選考方法で欲しい人材を見極められているか
  • 3. 採用時の評価と入社後のパフォーマンスは一致しているか

なお、3. の採用時の評価と入社後のパフォーマンスの相関は、事実を元に基準を決めて検証している企業は少ないように思います。「あの社員はまあまあ活躍していると思う」といった感覚論ではなく、採用時の評価、職務経験、実績、人事評価といったデータを蓄積して中長期に渡って検証することで、採用活動の質も年々上がっていくでしょう。

これらを考えた上で、自社に最も適した適性検査を選定するプロセスに入ります。適性検査といっても、測定する領域は様々なものがあり、対策本のような書籍で対策できるか否かの違いもあります。例えば弊社が提供しているアセスメント・テスト「GMAP-CT編」は、知的能力の中でも論理思考力に特化して測定するものです。また、出題される問題は非公開なので事前対策ができない特徴もあります。

測定目的・対象 測定手法(代表的な例を記載) 採用試験でよく用いられるもの
職務特性 職務要件/人材要件 職務適性検査/リーダー適正  
個人特性 能力特性 知的能力 能力適性検査
実践的能力 多面的観察(例:360度評価)
アセスメントセンター方式
性格特性 性格 性格適性検査
指向特性 興味・指向(態度)適性検査
精神分析検査
意欲 レポート(論文)
アチーブメント(成果・功績) 知識 レポート(論文)/面接
業績 人事評価
実技 実技試験

(「人事アセスメント論―個と組織を生かす心理学の知恵」二村英幸著、ミネルヴァ書房 よりグロービス作成)

数々ある適性検査や採用テストから自社に適したものを選ぶには、検査で何を見極めたいのかを明らかにしてから、検査ツールを選定することが重要です。自社が本当に必要とする人材を採用するために、適性検査の見直しもこの機会に行ってはいかがでしょうか。

まとめ

日本の人口動態をふまえると、労働力人口は減り続ける一方です。企業経営にとっては、採用難の時代は続くことが宿命づけられており、その中でも自社が成長し続けるためには採用活動の重要性が高まっているといえます。

働き方が変化している今、求める人材要件、選考方法、入社後パフォーマンスの測定まで一連の採用プロセスを棚卸しし、再考すべきタイミングが来ているのではないでしょうか。