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第3回:正しく能力を測定する方法
~論述式テストと選択式テストの違い~

執筆:斎藤 友彦

前回は、アセスメント手法の一つ「テスト」(ペーパーテスト)について、特に「よいテスト」とはどのようなものか、また「よいテスト」を個人の人材育成と結びつけるには何を考えておくべきか、といったことについて整理しました。

そもそも、人間の能力をまとめて全て一回で測定出来るような手法は存在しません。したがって、「測りたい目的に応じてその測定方法を使い分ける事」、そして「よいテストを見極める視点」を持つことが重要です。

今回は特にテストの形式について述べてみたいと思います。

テストは大きく分けて口述試験(面接など)と筆記試験に大別されます。また筆記試験にもさまざまな形式が存在しますが、最もメジャーな形式としてマークシート(選択)式と論述式のテスト(例:小論文)の2つが代表的なものとして存在します。

マークシート(選択)式と論述式を比較する

我々グロービスが提供しているGMAPはマークシート(選択)式テストですが、このマークシート=選択式のテストに関しては、次のような意見を聞く事があります。(一部マスコミの論調でもよく見られます)

「マークシートのテストで測定できる能力はごくわずかでしかない。」
「もっとちゃんと人間の能力や知識を見るには、総合的な考える力を見ないといけない。」
「例えば作文や論文を書かせることが必要なんだ。」

こういった意見の背景には、「選択式の問題=知識詰め込みで暗記すれば出来る=暗記力しか分からない」という前提があると思われます。

では論述式の問題を出題すれば、暗記力以外の総合的な能力の測定はできるのでしょうか。

論述式の設問は「・・・・について論ぜよ」といった問題文で出題され、解答を自由記述させるのが一般的な出題形式です。こういった形式の問題では、受験者に十分な知識が無ければ課題に答えられませんし、また知識があってもそれを構造的に整理して、適切に表現できなければ質の高い解答にはたどり着きません。したがって、論述式の問題の解答を見る事で、受験者の知識も分かるし、文書の表現力や創造性を見る事も出来るし、誤字脱字や文法の正確さも見る事が出来る、いわば受験者の総合的な力を見る事が出来る、という考え方もできます。

こう考えると論述式のテストは良いことずくめで、暗記力しかわからないマークシート(選択)式をやっても意味がない、最初から論述式の方が優れている、という意見は正しいように思えます。

さて、この意見は本当に正しいのでしょうか。

論述式テストのジレンマ

実はこういったテスト形式を検討する際に、留意しておかなければならない点があります。

第一は、実際のテスト実施には時間に制約があるという事です。一般的にはテスト時間は30~60分で設定されることが多いと思いますが、その時間内に全ての受験者が自分の最高答案を仕上げられるとは限りません。

第二は、どのような問題が出されるかによって、結果が左右されるという事です。論述式テストは書かせることを前提にしているため、多くの問題を出題するのが不可能になります。制限時間内に解答できる問題数を20や30に増やすことは現実的ではありません。従い、問題の出題範囲は多くを網羅できず、偏りが生じてしまうのです。

第三は、評価ポイントと採点システムをどうするかで、評点が全く変わってしまうという事です。これは論述式のテストを採点する人間の評価のバラつきが大きいため生じる問題です。同じ採点者が同じ解答を採点しても、全く同じ結果にならないことも起こっています。

他方、受験者の立場に立って考えてみましょう。

受験者からすると、論述試験を制限時間内で解く場合、思考に時間を取られると筆記の時間が減り、少ない文章しか書けない、という事になりかねません。受験者は一般的に字数が多い方が相対的に点は良くなる、と何となく感じています。そうすると、たくさん書こうと言う意識が先行して、解答内容を十分練り上げることができない=思考が浅くなる、というジレンマに陥ります。

このような状態で、制限時間内にいきなりテーマや課題を与えられ、問題を解いていくと一般的・平均的な解答に落ち着く(いわゆる無難な解答になる)する可能性が高いです。こうなると、突出した出来のいい答案や独創的な答案は出にくくなります。中には短時間でも突出したレベルの解答を仕上げることができる人材はいると思いますが、そのような一部のトップレベル人材を選ぶ以外に、同じような平均レベルの受験者の能力を比較し判断しようようとするのは相当に困難です。

これらのような実務上の問題を考慮に入れると、論述式のテストは、時間がたっぷりあって、あらかじめテーマが示されている、という出題にすれば、受験者の能力を総合的・包括的に測定するには適しているといえます。

例えば、参考書籍や辞書など全てを持ち込み可にし、時間を無制限にしたテストとする、ということも考えられます。これは受験者にとっては、時間制限のあるテストよりも相当辛い試験になるはずです。時間制限のある中では実力差がはっきりしなかったものが、時間無制限になると白日の下になる可能性もあるでしょう。

現実の制約条件の中で何を選択するか

しかし現実的には時間制限(40~60分程度)のある中で、テストを実施せざるを得ません。そうすると、受験者の能力を正しく測定する方法としては、論述式よりも選択式のテストの方が使い勝手が良い場合もあるのです。

選択式テストの場合には、「解答を書く」という行為がありませんので、短時間に大量の問題を出題することが出来ます。また、論述式のように一つの問題で総合的・包括的に能力を測定するのではなく、測りたい目的別・要素別に個別に問題を設定し、それを積み上げていって全体を評価するというアプローチで問題全体が設計されます。いわば、建物を建てるときに必要な部材を、一つずつ個別に取り上げて評価して、それを積み上げていくイメージです。

ここで重要なのは、できるだけ問題数が多い、という事です。測定しようとする範囲を出来るだけ幅広くカバーして、その中の能力を公平に評価しよう、という事になると、出題範囲による有利不利は避けねばなりません。問題数が少ないと、問題の版によってたまたま出来た、出来なかったというケースが生じてしまいます。逆に問題数が多いと測定しようとする範囲を幅広くカバーすることができます。そうするとテストの版による有利・不利というのが働きにくく、同じ人が何度テストを受けてもほぼ同じ得点に落ち着く可能性が高まります。

このように、何度受けても同じ得点が出るようなテストを使う事は、テストの信頼性を高め、結果の解釈を安定的に行う事ができます。いわば、安心してテストを利用することが出来るのです。

GMAP(アセスメント・テスト)の目的

グロービスでは、
「現実のビジネスに活用可能な形で、ビジネススクールで学ぶMBAのエッセンスを世の中に提供する」 という目的で、書籍のMBAマネジメントブックの出版、ビジネススクールや集合研修でのビジネス基礎クラスを展開しています。グロービスのテスト「GMAP」も、このような書籍やトレーニングプログラムで提供している内容に準じた能力測定を行っています。

したがって、受験対象は一部の経営エリート層ではなく、幅広い階層のビジネスパーソン、さらにはこれからビジネスを行っていこうという方も対象になります。これは一般社会人層と近しい母集団でありますので、能力分布は中間層の厚い平均的な正規分布となります。このような中間層に対して、能力をできるだけ正確に分かりやすく測定するテストという目的に資するために、GMAPもマークシート(選択)式を選択しております。

加えて、時間制限の中で大量の問題に取り組んでいただくことで、単純な知識の有無だけではなく、情報を構造化して整理する力や、分析力や判断力といった点も合わせて測定されることになります。

例えば、論理思考力の測定に特化したGMAP-CTでは平均で1問2分のペースで問題を解かなければなりません。それぞれの設問は、ゆっくり解けば結論に導けるものばかりですが、時間というプレッシャーの中で論理思考の速さ、地頭の強さ、といった事を測定します。これはつまり、新しい環境において必要な情報を正しく解釈する力があるか?といった新しい職場での適応性の予測につながるため、採用試験でよく利用されます。

まとめ

このように、論述式テストとマークシート(選択)式テストを比較した場合、試験時間が限られているのであれば、その時間内できるだけ大量の問題を解いていくマークシート式の出題は能力測定に大変有効な手段であるといえます。

一部マスコミや世間で言われている、選択式テストでは能力は分からない、という事は必ずしも正しくはなく、テストの目的や狙いを絞れば受験者の能力を十分に測定できる、むしろ選択式テストの方が実用的で安定性が高い、という事が言えるかと思います。

人事アセスメントの世界で、テストの結果だけで全ての決定や判断が行われる事は少ないと思います。しかし結果として出てくるテストの数字には、提供者の想定以上の影響力を持つことも往々にしてあります。利用者として正しい知識を持ち、目的を持ったうえで適切なテストを選択することができるユーザーが増えていくことを願っております。