DXは経営改革――。 DX組織になるための人事制度とマネジメントはどうあるべきか? (5/6)

2021.02.02

「DXは経営改革。 DXの課題と解決の方向性、求められる組織開発とは?」の全6回連載です。第5回目として「 DX組織になるための人事制度とマネジメントはどうあるべきか? をお届けします。

【第1回目】DXで成果を出すための「攻め・守り」の両側面」

【第2回目】戦略とDXの実現においては“現場の実行力”が鍵

【第3回目】DXの実現に必要なのは、コミュニケーションと当事者意識、設計の思想

【第4回目】「DXごっこ」にならないために、何が必要なのか?

10.DX組織のために、人事制度は変えるべきなのか?

望月:
ロールを定義して人事制度を変えようとすると、特定の人に痛みが生じやすく、ウェットな日本企業だとやりづらいのではないか?と思います。特に重厚長大な企業で制度など完成されている組織でこの改革は難しく、進まない理由に含まれると感じます。

各務:
いきなり人事制度変更は難しいですよね。まずは現場でサービスチームを回して、サービスチームが定着することで、自分のやっている仕事をちゃんと認識をもってもらうといいと思います。あと、給料を強制的に下げることはやめたほうがいいです。本人が認識して、「自分は、この仕事だな」と思えるように促していくことが大事でしょう。

望月:
人事部からの強権発動ではなく、各人が気づきを促すための仕組みを運用することが肝ですね。「全社一律こうしますよ」ではなく、小さい単位でサービスチームを組成して、スモールサクセスを作る。そして、複数の現場で行って、全社施策にしていく。あと、ロール定義すると、これまで何をやっているわからない人の存在が可視化されてしまうなどありますよね。それはどうしたらいいでしょうか?

各務:
それでよしとします。いきなり、役職や給与などを強制的に下げることはぜず、本人が気づくように促す。もちろん部長以上だと降格にせざるを得ないですが、一般社員にそれを押し付けたら絶対にだめですね。

望月:
本人が自分のパフォーマンスの低さに気が付いて、ロールを下げてほしいと申し出る迄には結構、時間はかかるものですか?

各務:
時間かかりますよね。ただ、前提として設計すべきことは、上に行くほど仕事がキツイ状態にすることです

望月:
なるほど、そのロール設計もきちんとやっていかないといけないわけですね。

各務:
組織をフラット化すると、上にいくほどマトリックス組織のマネジメントが必要になり、仕事もきつくなる。これが上にいく人に覚悟を促し、健全なモチベーションが生まれる梃になっています。

望月:
年俸は、自分の人生の価値観とのバランス。仕事がきつくなっても上の立場を望むなら、自分で給料を選べばいいということですね。この人事制度は、日本のトラディショナルな旧態依然の会社でも時間かければ実現できると思いますか?

各務:
はい、重要なのは自分で選択することです。あと、トラディショナルな企業でも時間をかけてやれば大丈夫でしょう。

西:
つまり選択肢を出すというイメージです。最後は自分の人生だから、自分で選んでほしいということになりますよね。ただ、そこに至るまでは数年かかるかもしれないので、お互いに相手を信じて見守る姿勢のある組織であってほしいと思います。

ただ、トラディショナルな企業の場合は、現在の給与制度の前提は考慮すべきですね。職務給は、ポジションに払っているので、ポジションが外れれば給与を下げることができる。それに対して、職能給は年齢とともに上がるので、ポジションの有無ではなくなる。

各務:
KADOKAWA Connectedは実力主義にしています。能力主義でも、成果主義でもなく、実力主義。能力主義は、能力が落ちないという前提なので積み上げ式、実力主義は実行しているかどうかです。能力があって実行していない人もダメ、能力が不足していても努力して実行して前進している人は前進した分だけ評価されます。実行に焦点をあてる。実行して成果に繋がるかについては問わないのが給料です。成果が出たら、成果は運と言っていて、ボーナスとして評価をします。

西:
すごいですね。上の立場の方もそうなんですか?

各務:
はい、基本的に部長もすべて同じです。成果だけで評価すると、人は時に粉飾することがあります。だから、「実行しているかどうか」を給与で評価し、成果はボーナスで評価すると、粉飾をしなくなります。

11.DXには、既存事業の「受け皿」となる「サービスチーム」を機能させることが重要

望月:
他にもDXを進めるために必要な視点、施策があれば教えてください。

各務:
DXには「受け皿」として「サービスチーム」をつくることも欠かせません。経営共創基盤の冨山さんが『両利きの経営』で、深化と探索について話をされていますが、深化のためには既存事業を継続させる受け皿が必要です。しかもその受け皿は、超低コストでかつ相当なスピードで実行できるチームであることが求められます。
サービスチームの具体例をお話しすると、KADOKAWAの総務局が戦略的に動ける総務チームになった瞬間を2020年の夏に感じました。既存の総務チームと、KADOKAWA Connectedの約20人の人材を軸にチームを組んで、KADOKAWAの「ところざわサクラタウン」の引っ越し、1,000人規模の席があるビルの返却プロジェクトを実行しました。このチームはABW(アクティビティベースドワーキング)チームと言い、総務、人事、ICT、経営企画が、それぞれ「サービスチーム」として、所属する組織とは関係なくABWチームとして業務遂行しています。つまり、旧態依然とした総務ではないのです。

西:
総務ではない?その動き方だと、会社も変わりますね。

各務:
人が所属する総務局はありますが、総務局として仕事をするのではなく、ABWチームというサービスチームで仕事をします。サービスチームには、総務、経営企画、DX、働き方改革、人事などからも人が入って、各チームで業務を動かしている。イメージわきますか?

望月:
バーチャルチームという形態ですか?

各務:
昔はバーチャルチームと呼んでいたけれど、今はサービスチームです。バーチャルチームはプロジェクトが終了したら解散しますが、サービスチームは提供するサービスメニューがあり業務として回すことが決まっている、恒久的なチームです。

西:
社内向けのサービスですよね。

各務:
はい、ABWは社内向けのサービスです。ただ、対外向けサービスであっても同様にしています。例えば、サクラタウンのイベント施設運営や、リテールビジネス等も、施設やITのファシリティや、経営企画、事業企画など少なくとも4つの役割がお互いに関わりあっていかないといけないですよね。なので、サクラタウンチームとして、サービスチームになっています。

西:
なるほど。サービスに対して、機能に加えて責任と競争原理とフィードバックがあるようにして、たとえバックエンドのサービスであっても、対外的なお客様に接するようにして機能しているということですよね。

各務:
はい、私たちは社内・社外問わず、常にサービスメニューを自分たちの利用者に対して作っています。所属する組織はあるけれど、業務は、サービスチームにでて行うということです。所属の箱と、業務が一体化しないことがポイントです。

西:
面白いですね。ただ、マネジメントが大変ですよね。力量もいるし、質的な大変さが伴うと感じました。

各務:
はい、働く時間よりもその人の能力が問われますね。だから、マネジメントの立場になることに覚悟が問われるメカニズムです。

12.DX時代の組織マネジメントのあり方

西:
私は、日本企業がDXだけでなく、改革や変化に対応できないのは、マネージャーの質が伴っていないからに尽きると思っています。高次にマネージできていく人が増えていかないと各務さんのいう世界は作りにくいですよね。

各務:
そう思います。業務能力向上に加えて、ピープルマネジメントの能力を伸ばすことも欠かせないと思って、マネージャー育成に取り組んでいます。そして、自社の存在価値は、ある意味で教育機関的コミュニティだと思っています。その一つの証として、派遣社員や業務委託の方でも、正社員と同じ教育プログラムを受けられるようにして、ポジションなどは関係なく一緒に成長できる環境を整えています。そして、ロールにあった役割を果たして給与をもらい、役職や立場を上げたいなら新しい学びを得て成長するという、個人と組織がお互いに成長できる仕組みが重要だと思います。

望月:
マネージャーの重要性についてお話しいただきましたが、他には?

各務:
言わずもがなですが、トップつまり社長がDXすることを決めることです。その次には、役員層がデジタルに対して自ら詳しくなってアライメントするか、現場に完全に権限移譲をして現場の支援に徹するかです。もし権限移譲できないなら自らが退くぐらいをしないとDXは難しいでしょう。

西:
結局は、トップが本気で変わる気がない企業は変わらない。あとは、次のレイヤーである役員層が変化に対してポジティブかつ本気であることが重要ですよね。

各務:
もし、役員層がポジティブでない場合は、ポジションパワーのバランスを変えないと、経営改革は難しい。そして、変えるための作戦は、やはり「コミュニケーション改革」だと思います。

望月:
すべて可視化して、情報の非対称性で生じていたポジションパワーを消滅させて、組織のフラット化を目指すべきだと。

西:
言い方を変えると、「現場が付加価値を生んでいる状態」を作ることが前提ですよね。ただ、そこに抵抗を感じる方も一定数いるでしょうね。

望月:
本人への働きかけだけではなく、コミュニケーション改革で仕組みから変えることが鍵になるということですね。

西:
あとは、コーポレートガバナンスですね。権力を持ち続けられないように、ガバナンスが正しく効く仕組みを作っておくことが企業の健全な継続には本当に大切だと思います。

各務:
はい、同感です。私がDX/ITチームなのにKADOKAWAの経営企画チームにいるのはそれが理由だと理解しています。ガバナンスは本当に重要です。なお、反対に今まで厳しくしすぎていたガバナンスは全部取り払っています。一方で、丸投げ体質であった外部コンサルや外注の契約を、ドワンゴのインフラ改革の肝の1つであった購買確認会という会議で全てチェックするなど、契約・購買系のところは結構厳しくしました。でも、最後は全員Win-winになる。

あと、性善説の人材投資も重要です。先ほどお話ししました、「ギバー」が組織の生命線です。ギバーがやる気になるためには、ポイントが3つあります。1つ目は、「あなたが大切ですよ」と伝えること。2つ目は、その人の能力が発揮される適材適所なアサイメントをすること。3つ目が、いい教育を行うこと。この3つが揃うと絶対に生産性が上がります。

【最終回はこちらです】

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
グロービス コーポレート ソリューション | GCS

グロービスではクライアント企業とともに、世の中の変化に対応できる経営人材を数多く育成し、社会の創造と変革を実現することを目指しています。

多くのクライアント企業との協働を通じて、新しいサービスを創り出し、品質の向上に努め、経営人材育成の課題を共に解決するパートナーとして最適なサービスをご提供してまいります。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。