DXは経営改革――。 「DXごっこ」にならないために、何が必要なのか? (4/6)

2021.01.28

「DXは経営改革。 DXの課題と解決の方向性、求められる組織開発とは?」の全6回連載です。第4回目として「DXごっこにならないための視点と仕組み」をお届けします。

【第1回目】DXで成果を出すための「攻め・守り」の両側面」

【第2回目】戦略とDXの実現においては“現場の実行力”が鍵

【第3回目】DXの実現に必要なのは、コミュニケーションと当事者意識、設計の思想

8.「DXごっこ」にならないためには、フロントエンドとバックエンドの両面をデジタルへ変えること

望月:
「デジタルビジネスをしている=DXが推進されている」というわけではない、別物として考えたほうが良いのでしょうか?

各務:
難しいですね。推進の定義もありますが、DXの一部にデジタルビジネスがあると考えています。「DXは、デジタルを使って組織をトランスフォーメーションすること」なので、会社が変わるということはどういうことか?という視点で考えないといけない。どの会社も日本型GAFAになりたいと思っている。例えばメルカリとかLINEは、そもそもデジタルネイティブ企業なので、デジタル型のサービスを提供していて、サービスも社内の仕事の進め方もデジタル。一方で、ドワンゴもデジタルネイティブ企業です。ただ、サービスはデジタルでも社内の仕事の進め方がデジタルではない部分があり赤字になって経営が厳しい状況だったため、ニコニコ事業のインフラ改革を行う必要があった。デジタルネイティブ企業でも、社内のOSがアナログだと厳しいと思っています。

望月:
そうなると、DXが進まないもう一つの理由「経営基盤」。つまり経営のOSをデジタルの活用で変えることが難しいということだと思いますが、そのボトルネックはどこにあると考えていますか?

各務:
経営基盤改革が難しい理由の一つとしては、やっても褒められにくいんですよ(笑)バックエンドの業務改革ってやって当たり前って思われがちです。そうなると、外からいい人を採用できない。でも、経営から「やりなさい」と指示があるから、外部のコンサルティングに依頼して、現状分析をしてもらい戦略の絵を書いてもらう。でも、実行できない。つまり実行者がいないので滞っている。極端に言うと、いっそ会社が無くなった場合はゼロから作り直せばいい。でも、日本企業の場合はいい意味で長く続いているので、バックエンドの過去の技術負債を従業員が直さないといけないということが残っていることも難しい理由だと思います。

西:
会社によるレベル感もありますよね。例えば、メルカリさんみたいに、サービスもバックエンドもデジタルネイティブな会社はやりやすい。次に、昔のドワンゴさんみたいに、バッグエンドはアナログな企業の場合は、そこをどう変えていくかになる。ただ、私たちが対面している顧客は両方アナログなことが多いです。

両方アナログなのに、「デジタル」というキーワードで、フロントだけを変えようとしている。でも、バックエンドが従来型のアナログのままで、フロントだけを変えようとして無理が生じるし、時間もかかる。フロントを変えるために新しいことにトライして、四苦八苦しているけれど、カルチャーも仕事の仕方も変わっていないまま、表面的に「デジタルマーケティング取り入れました」のレベルだと、本質的には会社が変わらない。いわゆる「DXごっこ」になってしまうということかな、とイメージしています。

各務:
そうですね。変革のロジックがわかっていても、現場のエンジニア含めたドロドロしたところがわかっていないと、バックエンドのOS改革は難しい。ただDXって会社を設計しなおすことなので、エンジニアリング思考の人材が複数必要になります。それはアプリケーションのコードを書くということで鍛えられる素養ですが、コードを書ける書けないではなく、物事をエンジニアリングできるかどうかという事を意味しています。そこを無視してのDXは難しい。そこが課題かと思います。

9.目的を定めて可視化を行い、評価とマネジメントを最適化することが重要

西:
私、今の話の流れで各務さんの意見を聞いてみたいことがあります。最近、タクシーに乗ると様々なテックサービスの広告を見かけますよね。これまで見えなかったことが可視化されるという意味では便利なサービスで、価値のあることだと思います。ただ、それらのサービスを導入するときは、「何をしたいか」が重要なのに、なんとなく可視化することが目的になって、テック系サービスを導入している方も多いのではないか、と。例えば、HR系のサービスを導入する場合は、「デジタルで可視化した結果、人事をどう変えるのか」という絵姿が先にあって、その上でシステムが入ってこないと、経営は変わらない。

各務:
システムにも詳しい人が総合的な視点で、各サービスの導入の在り方などを教えてくれないのかもしれません。KADOKAWA Connectedは、HR-Techにコミットをしようと考えていて、大学の研究室とHR-Techについて共同研究を開始する計画があります。決まりましたら共有します。ちなみに、当社はGoogleに勝つのは無理だとしても、負けないくらいの知見がある会社になると決めており、データ人材を育成しています。

また、当社のHR-Techのカバー領域は、人の評価に加えて、「HP(Hit Point) MP(Magic Point)」を大事にしています。つまり、HP=フィジカルコンディション、MP=メンタルコンディションを可視化してマネジメントを適切に行っています。

西:
HP・MPと聞くと、ドラクエを想像しますね(笑)

各務:
あ、ドラクエです!ドラクエも寝るとHP・MPが回復するし、つまりメンタルとフィジカル両面のコンディションをいかに整えていくかを重視しています。それも含めて、すべてを可視化するという営みを通じて、「広義のHR-Tech」として取り組んでいます。AIに任せる部分は、エビデンスとしてデータを取得しますが、その人がどういう給料であるべきかは主観でいれています。主観でいれた部分のエビデンスを取るという意味で、SaaSツールを使って可視化するとか、パフォーマンスが落ちている状態に、マネージャーが支援するなど、本人が気付かない部分もリカバリするところまで取り組みたいと考えています。

西:
いいですね!私、ドラゴンボールで出てきた戦闘能力を測る「スカウター」がビジネスで実現できると良いなと思っているんですよ(笑) マーケットバリュー、どの業界・企業に属しても、その人の価値を評価する指標とデータ登録されれば、だいたいの年収がわかるというか。業務の経験値がちゃんと可視化できる状態、つまり日本全体が履歴書を書いてくれれば、スカウターができるのではないか?とか思っています。

各務:
実はその部分も少しずつ着手しています。私は、iU(情報経営イノベーション専門職大学)において准教授という立場もあるのですが、大学の学生のアウトプットはすべてGoogleドライブに保管を必須にしています。将来、学生がインターンを行うときに、彼らがアウトプットしたものをエントリーシートとバンドルして企業に出せるようにできたらと考えています。

西:
個人の戦闘力が正しく可視化されていくと、人材は最適配置されると思います。もし、本当は給料が高くないといけない人が安いと、他にいく。逆もしかり。戦闘力が正しく可視化されることで、日本の労働市場が最適化されていく世界が来てほしいと考えています。

各務:
KADOKAWAConnectedの戦闘力の可視化という意味では、そのレベルに近づいています。具体的には、SlackとConfluence (コンフルエンス:社内wiki)を使って、どの社員がどのアウトプットをしているかを、全部、人間が見ればわかる状態になっています。また、経営会議レポートは全社員に公開していて、経営に関わる各部長の報告を全社員が知っている。現場も同じフォーマットを使って、週報を書いているので、お互いに誰がどんな仕事をしているかがわかります。今は、それを自動化するかしないかの段階です。

西:
裏側では自然言語処理はしているのですか?

各務:
今は人間が見ています。人間が感覚でつけている部分を、今後はデータで支える仕組みを作りたいと考えています。

西:
主観の集合が客観であるということですね。

各務:
そうです、それが成り立つのは、ロール型だからです。約20名いる部長クラスの人材は、複数のサービスチームを統括しています。メンバーも複数のサービスで複数のロールを担うので、一人の社員の仕事ぶりについては、複数の部長クラスの人材が多面的な視点で評価を行えます。そして、給与決定の時は、1~200番という順位付けて、ロールのアラインメントをとって、半年に一度給与調整を行います。ドワンゴの時はエンジニア400名規模で、人間の客観で評価できていましたが、社員規模が2,000人程度になると、自動化による仕組みが必要でしょうね。

【続き(5/6)はこちらです】

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
グロービス コーポレート ソリューション | GCS

グロービスではクライアント企業とともに、世の中の変化に対応できる経営人材を数多く育成し、社会の創造と変革を実現することを目指しています。

多くのクライアント企業との協働を通じて、新しいサービスを創り出し、品質の向上に努め、経営人材育成の課題を共に解決するパートナーとして最適なサービスをご提供してまいります。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。