DXは経営改革――。 DXの課題と解決の方向性、求められる組織開発とは? (1/6)

2021.01.20

KADOKAWAは、出版業界に先駆けてDXに取り組んでいることをご存知でしょうか?そしてKADOKAWAのグループ会社ドワンゴでは、年間50億円を費やしていたインフラコストを約20億円下げて、かつ、ニコニコ動画など映像サービスの高画質化を実現するというインフラ改革が行われました。この改革を率いたのが各務茂雄氏です。

 

現在、各務氏はKADOKAWA執行役員、ドワンゴ本部長も兼務しながら、ICTツールの提供や働き方改革の支援を行う戦略的グループ会社「KADOKAWA Connected」の代表取締役として、KADOKAWAグループのDX推進を先導されています。昨年、各務氏が『世界一わかりやすいDX入門 GAFAな働き方を普通の日本の会社でやってみた。』を上梓されたことを受け、グロービス ・コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター西恵一郎、マネージャー望月洋平と、デジタル技術とマネジメントの在り方、DXの課題と求められる組織開発について語りました。(全6回連載)

1.DXには「攻め」と「守り」の両面が欠かせない

望月:
初めに、各務さんの考えるDXとは何かを教えていただけますか?

各務:
最近は「DX」という言葉がバズワードとなっていますが、ベースの考えは「デジタル技術(ICT)を使って、世の中を良くすること」です。これ自体は新しいことではないのに、今になって大きく騒がれています。

DXには、「守りのDX」と「攻めのDX」の2つの側面があります。守りのDXとは、既存の業務プロセスを改善、効率化するもの。一方、攻めのDXは、ビジネスモデルや顧客接点を改革し、付加価値の高い製品やサービスを提供して、売上のトップラインを高めること。DXで最大の成果を得るためには、守りのDXを固めつつ、攻めのDXとしての挑戦を行うことが必要になってきます。

いずれにしても、「DXは何のためにやるのか?」という趣旨が大事です。私は、いろいろ考えた結果、企業が保有する「価値あるアナログの有形無形資産をどう活かすか」を原点にすべきだと思っています。それぞれの企業が持つアナログ資産を活かすために、デジタルを使って爆速経営を行うことがDXの重要なポイントです。

西:
なるほど。いま、世間で声高に言われている「デジタルトランスフォーメーション」は、各務さんのいう「攻めのDX」であるトップラインを高めるフロントエンドの改革が注目を浴びていますが、各務さんは、「守りのDX」であるバックエンド改革を伴ってこそ、フロントエンドの改革がなされる、というお考えなのですね。

各務:
はい、バックエンド改革が企業のOSを刷新する経営改革であるのに対し、フロントエンド改革がCRMやAIというデジタル技術をビジネスに活用して行うもので、DXには両側面が必要だと考えています。

また少しデジタルの本質に踏み込んでいうと、デジタル技術を使うDXとは、定性・定量ともにすべてを白黒はっきりさせることが根底にあります。デジタルを使った爆速経営のためには、「組織」「人材」「コミュニケーション」「成果」などすべての面において、白黒はっきりさせ、アナログを軸とした有形無形の固定資産を活かして、経営をリボーンさせることが重要です。

株式会社 KADOKAWA Connected 代表取締役社長 各務 茂雄氏

2.DXの一丁目一番地は「コミュニケーション改革」

望月:
白黒の話は、例えば会話や雰囲気などの定性的なものが、数字や文字で可視化されることで測定評価がしやすくなり、PDCAが回しやすくなるというイメージでしょうか?

各務:
数字で定量情報として可視化できるのも一つの先行指標となりますが、それ以上に重要なのは、「コミュニケーション改革」です。業務にデジタルツールを導入することで、すべてのコミュニケーションが可視化されます。情報を透明化することで、組織はフラット化します。

例えば、あるプロジェクトに複数のチームから、複数の人が関わって進めることを想像すると、情報を可視化しないと回らなくなりますよね。編集された議事録だけでなく、すべてが文字化されることで、誰が何をどのようなクオリティで進めているかのエビデンスが残る。これからは、可視化された仕事の進め方ができる組織体や個人じゃないと、生き残れないというメカニズムになってくると思います。

望月:
透明化すると隠し事ができず、ポジションパワーも利かなくなり、ヒエラルキー組織が崩れて、必然的にフラットなる、と。

西:
そのレベルで仕事を行い、その世界観で勝負している日本企業はまだ少ないのではないでしょうか?

各務:
日本企業だと少ないでしょう。GAFAやマイクロソフトは、すでにそのやり方です。だから、彼らは強いのでしょう。私はKADOKAWAでDX・コミュニケーション改革に取り組んでいて、ハレーションはありますが、会社は劇的に変わりました。

西:
どのような業務内容に対してハレーションが生じ、ネガティブな変化を強いているのでしょうか?一方で、変化によって活躍しやすくなった層はどのあたりでしょうか?

各務:
ハレーションはあるものの、ネガティブな意見はそこまでなく、ほぼ全員が活躍しやすくなっています。コロナ禍によって、KADOKAWAではリモートワークが9割となり、そこで全員がDXに開眼しました。「デジタルも使える。でもアナログも大事だ。」という両方の世界があることに目覚め、今となっては全社一丸となってDXに向かっています。

西:
なるほど。コロナ禍によってDXという変革に全員が向き合えたということですね。ちょっと話は戻るかもしれませんが、「デジタルによって企業を変えていく」ことについて、これまでと、今の違いについてお話しさせてください。DXがバズワードになる前までは、「現場をデジタルによって変える」ということは、業務の仕組みを変えていくことがメインテーマで、IT部門やSIerの人などバックエンドの一部が頑張ることでよかったのかもしれません。それに対して最近は、フロントエンドにおいても、デジタルでビジネスモデルを変えないといけなくなっている。しかし、デジタルがわかっていても、ビジネスの現場をわかっていないと、デジタルを使ってどうビジネスを変えるべきかがわからないし、その反対も然りです。

加えて、上位層の理解度も問われます。現場をわかっていない、またはデジタルによってビジネスが加速することがイメージできない上位層が戦略を語っても正しく現場に落ちない。デジタルをキーワードで語るだけでは、戦略は実行されず、現場も機能しないということですよね。つまり、今では「権限が現場に落ちた」という状態になっていると思います。

各務:
おっしゃる通りです。ただ「現場をわかっていない人」と一言でいっても、いろんな場合があるかと思います。例えば、KADOKAWAでいうと、まずコンテンツを生み出すという領域でいうと出版の現場を支える編集という仕事があります。その仕事に直接関わっていないことや、階層が上位すぎることによって、「同じ企業にいても、お互いの現場について知らないことがある」ということがDXの阻害要因の一つとなり、DXすることで、「従来なら現場から近くない人でも、現場のことがわかる」状態になるように、「ブリッジする仕組み」が大事だと思います。

西:
ブリッジする仕組み、本当に大切ですね。最近のDXは、従来のバックエンド改革に加えて、フロントエンドの改革が伴っている。だからこそ、攻めと守りの両方を、やれる/やれない企業に差がでますよね。

各務:
あと、フロントエンドでDXを実行する場合は、現場でデジタル技術をうまく使える人がいないことが多いですよね。そうなると、「現場に、どうやってデジタル技術をインストールしたらいいのか?」が課題となる。そして「エンジニアをフロントエンドの現場に送り込むのか」「ビジネスの現場にいる人を開発に持ってくるのか」みたいな話になります。どの企業もそこの塩梅が難しくて、デジタル技術を使ったビジネスの創出ができない、取り廻せないとういうことが起きるのではないでしょうか。

西:
わかります。当社も100名ほどエンジニアがいます。例えば、エンジニアがイメージする教育サービスと、私たちが思っている教育サービスにはギャップがある。モックをみて、「え?そこそうしちゃったの?」など起きます。そこはお互いの目線で「こうしたほうがいいと思う」という意見交換を通じて、ブラッシュアップされるので、良い悪いや、どうすれば確実に機能するかという問題ではなく、お互いがコミュニケーションを真摯にやらないと、デジタルサービスは作り上げられないと感じますね。

各務:
ですよね、私は、「コミュニケーションGAPをどう埋めるか」をずっと研究しています。私が社長を務めるKADOKAWA Connectedでは、社内のカスタマーサクセスを行う特別チームをつくって、外資系IT企業などで活躍していたコンサルタントを採用しています。なぜなら、そういう方は、発散と収束という2つの思考のバランスで、そのGAPをブリッジさせることができるからです。既存の事業にいるビジネスの人材、ITの人材だけでも難しくて、結局そういう人じゃないとコミュニケーションGAPを埋めることはできないのではないかと。

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執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。