人材育成お悩み相談室
機械が分析してくれるビッグデータの時代に、数字力は必要?

2017.12.15

【お悩み】
ビッグデータの時代では、AI(人工知能)がビッグデータを解析し、業務に活用できるようデータを整えてくれるみたいです。AIを活用すれば誰でも的確な意思決定・判断ができる時代において、現場のビジネスパーソンが数字力を磨く必要はあるのでしょうか? (製造業)

 

【お答え】
データを武器に戦う時代だからこそ、データを「正しく」活用するための「考える力」が必要です。いくらAIがビッグデータを解析するといっても、数字に踊らされないための基本作法を知らない場合、逆にミスリードされてしまいます。

執筆者プロフィール
池田 阿佐子 | Ikeda Asako
池田 阿佐子

京都大学農学部卒。スペインIESE Business School:PLD(Program for Leadership Development)修了。
大学卒業後、食品メーカーの商品開発部門にて、商品提案、開発、製造の各工程を経験し、多くの新商品の開発業務に携わる。また、全社業務改革PJにリーダとして参画し、業務プロセス改革、組織デザインを担当する。
グロービス入社後、名古屋オフィスにて製造業を中心とした企業の人材育成・組織開発の業務に従事。現在は法人営業部門のマネジャーを務める。
その他、クリティカル・シンキング、ビジネス・プレゼンテーションといった思考系の講師、及びコンテンツの開発に携わる。
「改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング」共著


データを扱う際の3つの課題

グロービスの人材育成部門で法人営業を担当している池田です。私はこれまで多くの企業やビジネスパーソンとの議論を重ねてきましたが、ビッグデータ、機械学習、AIなどが身近になってきた現在、数値データに関して以下の3つの課題に直面している方が多いように感じます。

  1. 1. データに振り回される
  2. 2. データに溺れる
  3. 3. データに引っ張られる

数字は強力な武器です。数字を有効活用することで、「将来に向けた予測の精度が高まる」、「数字を根拠に話すことで説得力が高まり、多くの人を巻き込むことができる」といった大きなメリットを得ることができます。

しかしながら、剣道や弓道と同様に、良い武器を持っていても、ルールを理解し、その武器を使いこなす技術がないと意味がありません。ただ「数字」という武器を振り回しているだけでは、ビジネスでは勝てないのです。

そこで、事例を紹介しながら、3つの課題をどのように克服すれば良いのか、これからの時代、ビジネスパーソンに必要な数字力とは何かを考えてみたいと思います。

課題1:データに振り回される

あるネット通販会社で、50代のネット通販の利用率を調べようと、データを収集しました。リサーチ方法はインターネットによるアンケート。果たして意味のあるデータを収集することはできたのでしょうか? 

アンケートに回答した方の多くは、インターネットを日頃から活用している方。逆にいうと、インターネットをあまり使わない方の声は反映されないため、「実際よりもネット通販の利用率が高い」という結果になったのです。この結果を踏まえてアクションをとると、マーケットの状態を正しく反映していないため、想定していた売り上げが見込めない、という状況に陥ってしまいます。

データは適切な方法で集めなければ、実状を正しく表しません。世にいわれる「Garbage In Garbage Out(ゴミのデータからはゴミしか出ない)」という状態になってしまうのです。日々、触れているデータや手元にあるデータが、分析に値する信ぴょう性を持っているかどうかを見極める力も、ビジネスパーソンには必要です。

課題2:データに溺れる

ある製造業の企業がデータ活用をしようと、システム構築を検討していましたが、導入段階で頓挫してしまいました。収集したデータから何を実現したいのかが具体的に明らかになっていなかったためです。

例えば、生産性を上げたいのであれば、必要なデータは何でしょうか。製造工程の時間、気温、材料の調達先、はたまた作業員の身長が関係するかもしれません。データは何でも収集すれば良いというわけではなく、生産性向上にはどのようなデータが必要か事前に考えておかなければ、次のアクションにはつながらないのです。

小売りの現場でも、製造工程でも、コールセンター業務でも、以前よりデータが取りやすく、蓄積しやすくなっています。しかし、それをサービス向上、生産性向上につなげられない例も増えています。データを収集することが目的となってしまうと、必要のないデータを収集するという無駄な作業が増えてしまう上に、あふれるデータを活用できず(解析のフェーズに移行できず)に宝の持ち腐れにもなります。ビジネスの構造を捉え、どのようなデータが必要となるのか、仮説を持ってデータを分析することが重要です。

課題3:データに引っ張られる

グロービスのビジネス定量分析といったプログラムでは、データをもとに議論していきます。その中で、受講生の多くがデータのギャップにだけ着目してしまう、という傾向が見受けられます。もちろん、ギャップに着目することは大事なのですが、ギャップがないのはなぜか、変化がないのはなぜか、といった違った視点から考え、解釈することも忘れてはいけないポイントです。

収集された大量のデータを整理する、グラフ化などの加工をするといった解析の場面はこれまで以上に増えていますが、データの整理・加工をすること自体に満足してしまってはいないでしょうか。データを加工し、きれいなグラフにまとめても、様々な視点から解釈し、意味合いを考えなければ、結果としてデータのインパクトに引っ張られて、次への活用につながりません。どの切り口から解釈して意思決定するかを考えるのが、ビジネスパーソンの大切な役割です。

このような課題は、まだ人事担当者は問題意識の対象となっていないかもしれませんが、現場ではすでに発生している問題です。早めにこうしたビッグデータを解析・分析し、活用するといった数字力を持った人材を増やしていくことが必要です。

▼お問い合わせフォーム▼
人材育成資料ダウンロード

人材育成セミナー・資料ダウンロードはこちら

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。