グロービス流「リーンスタートアップ」 ~企業内研修を通じたイノベーション創出の新・方法論~
リーンスタートアップの5つのつまずきポイント

執筆:川上 慎市郎

2015.12.18

新規事業創造の成功確率を飛躍的に高める方法論として注目される「リーンスタートアップ」。連載2回目の今回は、スタートアップの5つのステップを概観しながら、つまずきやすいポイントとその乗り越え方を解説します。

日本企業が「組み合わせの新パターン」という意味でのイノベーションを苦手としていること、それを克服するための組織能力向上の方策としてリーンスタートアップの考え方が有効であることを前回見てきた。

では、どうすればリーンスタートアップ的な考え方を修得することができるだろうか。大企業において、企業内研修という形態でリーンスタートアップを学ばせたいという企業が増えている。「研修で学ぶ」メリットについては次回以降で考えていきたいが、まず具体的なイメージを持っていただきたいので、研修という形でリーンスタートアップを学ぶ場合のポイントを、つまずきやすい5つのポイントとその乗り越え方を中心に考えてみたい。

 

段階別・リーンスタートアップの5つのステップ

リーンスタートアップはもともと起業におけるスピードと無駄を排するために開発されたプロセスで、大学でもコースとして教えられているので、それを企業研修に取り入れること自体はもちろん可能だ。リーンスタートアップの大きな流れは以下の通り。

 フロー図(川上さん3)

Step1のチームビルディングは、実際に起業を志す人が個人としてリーンスタートアップを行う場合にはもちろん必要ない。しかし企業で、研修ないしは実務で新規事業を行う時にはチームで取り組む場合が多く、したがってチーム組成が必要となる。

Step2は、いわゆるアイデア出しのフェーズで、顧客のどんな問題を解決したいのか、そのための解決策のアイデアを考える。英語では“Problem/Solution Fit”という。

Step3はアイデアを試作品に落とし込み、消費者からのフィードバックを得る。製品と市場のフィット感を見るという意味で、英語では“Product/Market Fit”という。Step2のProblem/Solution FitおよびStep3のProduct/Market Fit、この2つのFitを繰り返し検証するのがリーンスタートアップの中核である。

Step4では、収益構造や規模といったビジネスとしての絵姿を描き、その次のStep5では立案したビジネスモデルに対する資金調達のためのストーリー創りとなる。具体的には起業なら投資家、社内提案なら社長へのプレゼンテーションに向けて、事業の目的や価値をどう語るかを明確化していく。

この5つのステップそれぞれにおいて、以下のようなつまずきやすいポイントが存在する。では、一歩ずつ、つまずきポイントとその乗り越え方を見ていこう。

 

Step1  チームビルディング

プロジェクトが始まってしばらくした段階でよく目にするのは、チームのなかで違う視点や発想が存在し、まとまらないという事態である。議論が停滞し、絞りぬくべき点、磨きあげるべき点を欠いた総花的な提案になることが多い。こうなってしまう原因はどこにあって、どう乗り越えればよいのだろうか。

よくこのような状況に陥った時に「議論の流儀、すなわち論理ができていないのが原因だ」と捉える人事部の方もいらっしゃる。それもあるかもしれないが、筆者はより大きな問題は「ビジョンセッティング」にあると考える。

揉めるのは、お互いの「こうしたい」というアイデアが食い違うことに意見をぶつけあうから衝突するのだ。それよりも、「社会のため」「お客さんのため」などという一段高い切り口を設定し、「あるべき姿」について合意形成して、皆でそれに向かって議論していけるようなチームづくりをしないといけない。さらにいえば、メンバー組成の段階で「やりたいこと」よりも「目指すこと」が同じ人々でチームを創ることが重要だ。さまざまな壁のなかで「やりたいこと」がそのままできなくなることも多い。手段へのこだわりをさほど持たず、「目指すこと」のために何とか方法を考えようというチームの方が機能するであろうことは想像に難くない。

ちなみに、起業チームは同僚とチームを組む時が、一番成功確率が高いのだそうだ。個人的なしがらみがなく、しかしビジネスの進め方などの業務的なケミストリーについてはお互いよく分かっている。こういう関係性のメンバーを集め、ビジョンセッティングを通じて同じ方向を向く。

ビジョンセッティングは、チームの将来ビジョンなどをある程度固めることを目指した、皆で意見交換するワークショップスタイルがお勧めだ。ちなみに研修で同一企業のメンバーでチームを組む場合、チームのビジョンを企業のビジョンに紐付けておくと良い。これは、後段のストーリーテリングの時に「そもそもこのイノベーションは当社で手がけるべきものなのか」という疑問が出てきた時の対応のカギにもなってくる。

ビジョンを明確にした上で、それを実現するために必要なことは何かを考える土台に立てば、少なくとも議論を進めていくにつれてコンセプトが崩れるような「まとまらなさ」は回避できるだろう。

 では、次回はStep2~5のつまずきポイントと乗り越え方を見ていこう。

執筆者プロフィール
川上 慎市郎 | Kawakami Shinichiro
川上 慎市郎

早稲田大学政治経済学部卒業
学位:経済学士
 
その他プログラム:IESEビジネススクール(スペイン)IFDP修了

日経BP「日経ビジネス」誌記者として流通・自動車・家電・IT業界等の企業取材、(社)日本経済研究センター研究員等を経て、複数のネット媒体のマーケティングやシステム開発等に従事。その後グロービスに入社し、グロービス経営大学院のマーケティング領域リード・ファカルティを務める。同領域のプログラムやケースの開発、経営大学院や企業研修での講師を務める傍ら、ケースメソッドによる経営教育の方法論の研究に従事する。共著書に『プラットフォームブランディング』(ソフトバンククリエイティブ)、『MBAマーケティング 改訂3版』(ダイヤモンド社)、『メディア・イノベーションの衝撃』(日本評論社)、『WEB2.0キーワードブック』(翔泳社)など。電子コンテンツサイト「Cakes(ケイクス)」にて、コラムを連載中。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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