ブログ:コンサルタントの視点(2014.12.5)
ASTD 国際カンファレンス&エキスポに見るオンライン学習システムの活用

執筆:鳥潟 幸志

米国の育成トレンドを見る第二弾は、オンライン教育システムにフォーカスします。日本でも今年大きな注目を集めるこのトピックについて、自身の担当案件でもLMSを活用する鳥潟幸志がご案内します。

企業研修にオンライン学習を導入する3つのメリット

2014年の米国ASTD国際カンファレンス&エキスポのテーマのなかでもとりわけ注目したいのがオンライン学習システムである。「E-learning」のプロダクト紹介だった2005年の時代から、2010年には「ソーシャルラーニング」、2014年には「ラーニングテクノロジー」と射程を広げてきた。日本でも関心の高いオンライン学習について、カンファレンスで紹介された内容に触れつつその展望を考えてみたい。

本題に入る前に、オンライン学習システム(以下LMS=Learning Management System)とは何か、なぜ日本企業で注目されているのかを押さえておきたい。まずLMSとは、研修の前後から実施後まで全体をつなぐデジタルなプラットフォームと定義する。LMSが期待される背景は以下のように考えられる。まず昨今の日本企業では、グローバル拠点の人材育成なども始まり、育成の規模とエリアが拡大している。内容も育成効果の最大化のために複雑なプログラムを設計する傾向が強まっている。一方で、人事部のリソースは経営の合理化により慢性的に不足している。このようななかで、LMSは効率よく効果的な研修を実施する手段として期待されている。

オンライン学習システムのメリットは3つ挙げられる。
一つ目は直接コスト削減。たとえば教材を紙媒体の配布からLMSを通じてのデジタル配布に移行することで、印刷・配布のコストが削減できる。
二つ目は間接コストの削減。学習進捗の管理などがシステムで一括管理できれば、人事部の間接コストが低減できる。
三つ目は学習効果の向上である。この後、特に三つ目のメリットを中心にお伝えしたい。

 

研修プロジェクトの全体像とその「穴」

torigata1

 

 

 

研修プロジェクトの全体像をバリューチェーンで整理してみよう(図)。
まず、(1)受講者の現状と期待値を把握する。次に(2)受講前の状態を整える(事前学習も含む)。そして(3)研修を実施し、(4)研修終了後に理解を深める支援やコーチングを行い、最後に(5)研修の場を評価する。この流れでおおむねの要素が押さえられると思う。

多くの研修プロジェクトでは、(2)(3)(4)が中心で、(1)や(5)までは手が回らないというのが実情ではないか。実際、筆者もメールで事前の参加者のアンケートや事後のトレースなどを行ったことがあるが、非常に意義があるもののとても工数がかかり、継続を断念した。同様に、やりたくてもできない人事部も多いのではないかと思う。

ITを活用することで、これらの「穴」の領域についてさほどの手間をかけずにできることが増える。それが今回お伝えしたい最大のメリットだ。

 

LMS活用で研修プロジェクトのバリューチェーンをカバーする

 鳥潟さん3

 ASTDでは、研修プロジェクトのバリューチェーンにおいてこれまで「穴」となっていた部分にアプローチできるさまざまなデジタルツールが紹介され、その可能性に筆者は強い感銘を受けた。上記のバリューチェーン(1)(3)(4)(5)に関連して興味をひかれたツールをいくつかご紹介しよう。

(1)事前学習の段階で「場を温める」方法
研修前に、FacebookやLMS上でコミュニケーションをとり、自己紹介やたがいの関心事、期待値の意見交換を行う。あるいは講師が事前にYouTubeで挨拶動画を送る方法もある。実際に、筆者が参加したASTDのセッションでは事前に講師のメッセージが見られるセッションもあったので、講師の特性および受講イメージをつかむことができ期待感が高まった。
http://www.youtube.com/watch?v=YOHueOVaEao

(3)研修の場をさらに活性化する方法
―リアルタイム投票というアプリケーションを使うと、大規模な人数でもインタラクションが可能になる。グロービスの堀が毎年参加しているダボス会議では、アジェンダを複数提示し、優先順位をリアル投票で決めるセッションもあるという。
http://www.youtube.com/watch?v=RIgT2kzvPU8

―研修インターバルにグループワークを課しても、参加者同士の共同作業が進まないことが多い。ブレインストーミングツールは一緒に何かを作り上げるのを支援するツールである。
http://www.youtube.com/watch?v=egCKZHsICm8

(4)事後の学びの理解を深める方法
―「マインドメーカー」というプラットフォームでは、研修で学んだ内容の小テストを定期的に配信することができる。テストの結果は上司にもシェアされるので、皆必死に復習してテストに臨むのだ。
https://www.mindmarker.com/
―上司が、学んできたことを使うようにコーチングすることも学びの定着では重要であるが、なかなかトレースが難しい。自分が担当するあるリーダー研修では、上司の方にコメントをご自身でLMSにアップいただくことで事務局がコーチングの状況を把握できるようにした。

(5)評価
―ASTDでは事後アンケートシステムを作成した事例が紹介された。3ヶ月後に受講者・上司・スポンサーにアンケートを送り、受講者には、行動が変わったかどうか、ビジネスへのインパクトはあったかを聞く。上司には部下の変化をレポートいただく。スポンサーには期待に対する効果を聞く。それにより、研修後の行動変容を踏まえた評価を明らかにすることができる。

 

研修のオンライン化にむけて

実際に筆者自身が担当するプロジェクトで、お客様の人事部様とともにLMSを導入するなかで実感しているのは、これまで手間がかかるとあきらめていたことが驚くほど簡易に実現できるという喜びである。受講生個々人の受講状況把握、研修に関連する配布資料のデジタル化、さらには受講者の研修に対する要望をリアルタイムで把握することが可能になっている。今後、LMSの活用方法をお客様と共に向上させていきたいと考えている。

その際のポイントは、ツールすべてに言えることだが、目的を明らかにすること、育成のフェーズに沿ってツールを使い分けること、そしてかならず効果を検証しPDCAを回すという三点である。技術の進化を味方につけ、さらに力強いリーダー育成の方法論を編み出していきたい。

執筆者プロフィール
鳥潟 幸志 | Koji  Torigata
鳥潟 幸志

埼玉大学教育学部卒業、神戸大学大学院 ベンチャーファイナンス実践Program終了。
サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタントとして、金融・旅行・サービス業のネットマーケティングを支援。
その後、友人3名とデジタル・マーケティング会社を創業。デジタルマーケティング部門(約50名)のリーダーとして、アパレル・飲料・家電・製薬・メーカー等のクライアントを担当。2011年には上海、シンガポールの支社立上げに携わる。
10年間経営経験の後、グロービスに参画。小売・グローバルチームに所属し、コンサルタントとして研修設計支援を行っている。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


東京
大阪
WEB


コラム/レポート