見えないものを測る~人材アセスメントと育成について(2012.10.28)
第1回:アセスメントとテストの世界観

執筆:齊藤 友彦

「測定できないものは管理できない」
またこれを言い換えて
「測定できないものは改善できない」という有名なフレーズがあります。

これまで経営の世界で発明された、最も貢献度の高い測定ツールは「複式簿記」だそうです。この「複式簿記」は、中世ヴェネツィアの商人が完成させたとのことですが、これが完成するまでは、企業の会計(商売の勘定)はいわゆるどんぶり勘定でした。複式簿記が完成して、複雑な企業経営システムを管理コントロールできるようになり、それが現在の巨大な企業の発展につながったといえます。

帳簿上の数字を見ることで、経営者が適切な意思決定を出来るようになったのですね。

この例のように「測定する」ことが、企業経営にとって非常に重要な行為であることは間違いありません。この「測定する」という行為は、企業のHRシステムの中では「評価」ということと密接に関係しています。

この「評価」を適切に行うための手段として、さまざまなアセスメントの手段が存在するのですが、こと「人」の評価となると、それは合理的で信頼のおけるやり方でなければなりません。採用や昇進昇格、配置異動など、その評価を参考に何らかの人事上の意思決定がされるのだとしたら、アセスメントの評価結果は、被評価者の人生を少なからず左右するものだといっても過言ではないからです。

また、その評価結果は正しく個人の能力や組織の能力を表しているものであり、それが評価者の主観だけに基づいたものではなく、他者でも客観的に比較できるものでなければなりません。そうでなければ、評価結果を根拠とした正しい意思決定は成り立たないからです。

人材育成とアセスメントは切っても切れない関係にあります。弊社も10年前より「GMAP」というアセスメント・テストを提供していますが、前述した通り、「アセスメントとは、人の人生や組織の意思決定を左右するツール」だとすれば、それに関わる全ての人にとって、少なくとも、「そもそもアセスメントとはどうあるべきものなのか?」「人材育成においてどのように活用すべきなのか?」等について理解を深める必要があるのです。

そのような思いをベースに、今回のコラムでは、3回にわたり、人材アセスメントとテストの世界観、また能力開発や人材育成への活用のポイントなどについて述べていきます。

人材アセスメント

世の中は不平等です。
裕福な家に生まれたがゆえに留学できたり、親のコネで就職できたり、能力や努力だけで全ての願いや夢がかなうわけではありません。
 
会社に入ってからも同じです。
たまたま力のある上司の下に配属されてトントン拍子に出世できたと思えば、不祥事のとばっちりを受けて左遷させられたり。
 
・こんな不確実で曖昧な世の中に、一本筋を通せないか。
・世の中の常識に流されないで、自分自身の強みや能力や適性を見極める(判断できる)方法はないだろうか。
・会社の中で、コネや学歴、家柄、派閥などに左右されない、公平公正な人事評価や採用活動はできないだろうか。
 
そんな思いから人事領域のいろいろなアセスメントツールの開発はスタートしています。
 
残念ながら、会計の世界の「複式簿記」のような万国共通で、完成度の高い測定ツールは出現しておりませんが、それでも、適性検査、能力試験、アセスメント研修、多面観察評価、キャリア診断等々、人材をアセスメントする様々なツールが、誕生しています。これらツールは、測定しにくい個々の人間の能力や行動特性を、できるだけ分かりやすく客観的に表現しよう、という様々なチャレンジの成果であるといえます。
 
当たり前ですが、これらアセスメントツールは、それぞれの目的と特長を正しく認識し、場面ごとに上手く使い分けることが大変重要になります。

職務と職場のアセスメント

人材マネジメント(HRM)の世界では、「人材」以外をアセスメントすることも行います。
 
一つは「職務」のアセスメントです。
職務分析、とも言われますが、職務の定義、範囲を明確にしていく目的で行います。どんな場面で使われるかというと、職務に基づく給与を決めるケースが多いです。いわゆる職務給の設計です。職務給以外にも活用の場面はあります。それは、新しい人材を外部から調達する際に、その採用要件を明確にするためです。
 
しかしながら、一般的に日本では「職務」のアセスメントはあまり進んでいません。実際の職場では、各部署の仕事の範囲があいまいだからです。「職務」に人をアサインするのではなく、「人」に職務をアサインする、いわゆる「役割」を中心にした業務設計をしている企業の方が多いのです。また、従業員側もそれを当然のこととして受け入れています。
 
もう一つのアセスメントは「職場」をアセスメントすることです。組織診断、ともいわれます。具体的な手法としては、従業員満足度調査(ES調査)などが該当します。また、組織の活性度やストレス度を診断したり、コミュニケーションの状態などを可視化するなどいろいろな手法で、「職場の状態」を知るために行います。

アセスメントにおける「テスト」の世界

これまで、アセスメントの「対象」について触れてきましたが、アセスメントの「手法」としてはどのようなものがあるでしょうか?
 
アセスメントの手法としては、前述したように、適性検査や能力検査などのペーパーテスト(以下「テスト」)、研修の中で評価をするアセスメント研修、日常の職務行動を評価するMBOなどの面談や多面評価システムなど、様々な手法が存在します。
 
グロービスが提供しているGMAPとういアセスメントツールは、このうちの「テスト」という手段を用いたものなのですが、「テスト」(ペーパーテスト)には他のアセスメントツールにはない特徴があります。具体的には、
 
・一度に大量の人たちを公平に評価することが出来る
・定量化することで科学的・客観的にその人物の能力や性格を知ることが出来る
・真面目にテストをやる集団(日本人)に対しては正しい結果が得やすい
 
などが挙げられます。
 
みなさんはこれまで何回くらい「テスト」を受けてきましたか?小学生(人によってはそれ以前)から大学生までの学生の間に何十回(何百回?)と受けてこられたのではないでしょうか。また、社会人になってからも、就職試験や資格試験などを受け続けている方もいらっしゃるでしょう。こう考えてみると、世の中はテストを受ける機会が数多いことに気がつきます。
 
テストが出来たとか出来なかったとか、100点だったとか40点だったとか、(私も含め)多かれ少なかれ「テスト」結果に一喜一憂する方は多いでしょう。テスト結果が自分の感情を刺激したり、その後の行動に影響を与えたり、または人生の大切な選択を迫ってきたりします。実は、人間の行動を変えるのに、このテストという手段は、かなりレバレッジが効く手段ではないか、と思います。
 
このようにテスト結果については多くの方が気にするものの、その「テスト」の問題そのものがよかったのかどうか、ということについてはほとんどの方があまり気にしていません。テストを受けた受験生はもちろんそうですが、それを使って何かを決めようという立場の方(例えば人事部)も意外と単純にその結果を鵜呑みにしてしまうようです。
 
テストを扱う全ての人たちは、ぜひこのテストの善し悪し、にも大いなる関心を持って取り扱っていただきたいのです。では、よいテストとはどのようなものか、テストの品質とは何か、について次回は触れていきたいと思います。
執筆者プロフィール
齊藤 友彦 | SAITO TOMOHIKO
齊藤 友彦

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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